季語|坂鳥(さかどり)

晩秋の季語 坂鳥

坂鳥朝早く山を越えていく小鳥の群をいう。「軽皇子宿于安騎野時柿本朝臣人麻呂作歌」と題された万葉集にある柿本人麻呂の長歌に「坂鳥の朝越えまして」とあり、「坂鳥の」は「朝越ゆ」に掛かる枕詞となっている。

【坂鳥の俳句】

坂鳥の胸をうたるる笞かな  久村暁台

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季語|鴫(しぎ)

三秋の季語 

鴫チドリ目シギ科に属する鳥の総称で、シギ科もヤマシギ属など16属に分かれ、約100種が知られている。代表種はヤマシギで、北海道では夏鳥、西日本では冬鳥となる。田圃でよく見られるタシギは、渡りの途中に飛来する旅鳥であり、春と秋によく見かける。
万葉集では大伴家持が

春まけてもの悲しきにさ夜ふけて 羽振き鳴く鴫誰が田にか棲む

と春に歌っているが、新古今和歌集に歌われ三夕の和歌としても知られる西行の

心なき身にもあはれは知られけり 鴫立つ沢の秋の夕暮れ

により、秋の景物との色合いが濃くなり、「連珠合璧集」(室町時代:一条兼良)では秋季に分類された。
西行法師ゆかりの地である湘南の大磯鴫立沢には、日本三大俳諧道場の一つに数え上げられる「鴫立庵」がある。1664年に崇雪が西行の旧跡に結んだ草庵で、後に大淀三千風が入り、第一世庵主となっている。

鴫には、熟慮しているように見えることをいう「鴫の看経」、回数が多いことをたとえる「鴫の羽掻き」といった慣用句がある。
「鴫」の字は国字であり、奈良時代には、田に来る鳥の代表種と見られていたことが分かる。シギの語源には諸説あるが「繁き」からきているとも言われている。

【鴫の俳句】

鴫たってなきものを何よぶことり  大淀三千風

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季語|時化(しけ)

三秋の季語 時化

時化悪天候のために海上が荒れることを「時化」と呼び、「湿気る(しける)」が語源になっていると考えられている。漁との関連で使用されることが多く、かつては、天候の悪化を予想しながら使われていたと言われる。
現在では気象用語にもなっており、波高が4mを超えると「しける」と言う。さらに、6mから9mまでの波高では「大しけ」、9mを超えると「猛烈にしける」と言う。
台風接近時に耳にすることが多く、最近になって秋の季語として使われ始めた。

【時化の俳句】

時化波の運河に魂を送りけり  加藤三七子

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季語|やんま

三秋の季語 やんま

蜻蜓(やんま)・鬼やんま(おにやんま)

やんま(ネアカヨシヤンマ)トンボ目不均翅亜目ヤンマ科の蜻蛉の総称であるが、オニヤンマ科やミナミヤンマ科、ムカシヤンマ科の蜻蛉、エゾトンボ科やサナエトンボ科に属する蜻蛉の大型のものもヤンマと称することがある。
通常は「蜻蛉」の子季語として秋の季語に分類されるが、種類によって活動時期は異なる。概ね、活動のピークは7月頃となるが、ヤンマの代表格であるギンヤンマの成虫は4月頃から11月頃まで見られ、オニヤンマは5月から10月頃まで見られる。

ヤンマ科に属するヤブヤンマやマルタンヤンマ、カトリヤンマなどは、黄昏時に捕食のために大群で飛び回る黄昏飛翔を行うことが知られている。オニヤンマは全長10センチを超える日本最大の蜻蛉であるが、黒地に黄色の紋を持つ大型のヤマトンボ科の蜻蛉は、誤認されて「鬼やんま」と呼ばれることが多い。

古くは、その飛翔力を称えて「ヱンバ(笑羽)」などと呼ばれていた。山に多く見られることから「ヤマ」と「ヱンバ」が絡まって、「ヤンマ」と呼ばれるようになったとの説がある。ちなみに「鬼やんま」の名は、いわゆる鬼のパンツの柄をもつところからきている。

【やんまの俳句】

鬼やんま鋭く通る不破の関  田川飛旅子

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季語|阿波踊(あわおどり)

初秋の季語 阿波踊

阿波踊阿波国(徳島県)発祥の盆踊りで、日本三大盆踊りの一つ。現在では全国的な広がりを見せ、高円寺阿波おどりは本場に迫る規模を持つ。会場によって開催日は異なるが、本場徳島市の阿波踊は、8月12日から8月15日の間に開催され、「連(れん)」と呼ぶ踊りの集団が全国から集結し、桟敷席に囲まれた会場や通りを練り歩く。また、「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らな損々」と歌われるように、飛び入り参加できる「にわか連」があったりなど、誰でも参加できるのが特徴である。
念仏踊りに起源をもつという考えがあるが、地元では、徳島藩藩祖の蜂須賀家政が無礼講として許可したことが起源だとされている。

▶ 関連季語 踊(秋)

【阿波踊の俳句】

手をあげて足をはこべば阿波踊  岸風三樓

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季語|不知火(しらぬい・しらぬひ)

仲秋の季語 不知火

不知火旧暦7月の晦日に、八代海(不知火海)や有明海に現れる怪火で、千灯籠(せんとうろう)・竜灯(りゅうとう)とも呼ばれる。現代では、蜃気楼の一種だと考えられており、その正体は漁火だとされる。
日本書紀の景行天皇十八年五月壬辰の朔に、人の火ではないものに導かれて、八代県の岸に着くことができたという話が出る。このことにより、現在の熊本県を「火の国」と名付けたという。ただし、肥後の國風土記には、日本書紀と同じ説話に触れるも、さかのぼる崇神天皇の時代、空から火が降って山に燃え広がったことをもとに、「火の国」と名付けたという話がある。
「不知火」はいつから使い始められた言葉であるのかは分かっていないが、万葉集には既に、筑紫にかかる枕詞として三首に歌われている。内の二首の長歌には「しらぬひ筑紫の国」と歌われ、本来は肥後の海の怪火を指したものではないのかもしれない。三巻の「沙彌満誓、綿を詠める歌一首」では、

しらぬひ筑紫の綿は身につけて いまだ著ねど暖かに見ゆ

と歌われ、縫物との関連付けが見られる。

【不知火の俳句】

不知火でないかもしれぬ眠たくて  正木ゆう子

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季語|牛膝(いのこづち・ごしつ)

三秋の季語 牛膝

ゐのこづち(いのこづち)・猪子槌(いのこづち)・ふしだか・こまのひざ

牛膝ヒユ科イノコヅチ属の多年草で、木陰などの日の当りにくい場所に生えるため、ヒカゲイノコヅチとも呼ばれる。同属に、日向を好むヒナタイノコヅチがあり、こちらも「牛膝」と詠んで差し支えない。
8月から9月頃、淡緑色の小花を穂状につけ、そのあとにできる籾殻のような果実は服にくっつきやすく、「ひっつきむし」などとも呼ぶ。根を乾燥させたものは漢方薬になり、牛膝(ごしつ)と呼ぶ。夏場の若芽は食用になる。
茎の節が、猪のかかとににているために、「イノコヅチ」と呼ばれる。

【牛膝の俳句】

ゐのこづちむかし野原でつきしまま  平井照敏

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季語|海猫(うみねこ)

三夏の季語 海猫

ごめ・夏鴎(なつかもめ)

海猫チドリ目カモメ科カモメ属ウミネコ。同属のカモメは冬鳥として日本に渡ってくるため、「冬鴎」として冬の季語になるが、海猫は、夏場に繁殖のために南下してくるものや、留鳥として一年中見られるものがいる。このため、近年までは他の季語とともに詠まれることが多かったが、最近では夏の季語として認識されることが多く、「夏鴎」とも呼ばれる。
「波にチャップチャップ浮かんでる」と歌われた「かもめの水兵さん」のイメージや、日本郵便の「カモメール」から、カモメに夏を連想する者も多いが、夏に見られるカモメは「海猫」である。

「海猫」の名は、鳴き声が猫ににているところから来ている。別称の「ごめ」は、オオセグロカモメとともに使われる名前であり、漁師の守り神としての「加護女(かごめ)」からの転訛だという説がある。

青森県八戸市の蕪島、岩手県陸前高田市の椿島、山形県酒田市の飛島、宮城県女川町の江島、島根県出雲市の経島が、ウミネコ繁殖地として国の天然記念物に指定されている。

【海猫の俳句】

海猫鳴くや鉄路の終は潮くさき  岡本眸

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季語|黄蜀葵(おうしょっき)

晩夏の季語 黄蜀葵

とろろあおい・花おくら(はなおくら)

黄蜀葵アオイ科トロロアオイ属トロロアオイ。原産地は中国で、7月から9月頃、同属のオクラに似た一日花をつける。ただし、花は掌サイズで、オクラに比べてかなり大きく、実も食用にはむかない。
蜀葵は立葵の別名で、黄色い立葵という意味であり、同じアオイ科の植物ではあるが、立葵はタチアオイ属になる。また、とろろあおいの名は、根からネリと呼ぶ粘液をとるところからきている。この粘液は、紙漉きの添加剤として使用する。
俳諧歳時記栞草(1851年)では、「黄蜀葵(とろゝ)」として秋之部八月に分類され「側金銭花(そくきんせんくわ)」の別名を載せる。

【黄蜀葵の俳句】

燈台の風くるとろろあふひかな  星野麥丘人

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季語|紅蜀葵(こうしょっき)

晩夏の季語 紅蜀葵

紅葉葵(もみじあおい)

紅蜀葵アオイ科フヨウ属の北米原産の宿根草。7月から8月頃に赤いモミジのような花をつける、ハイビスカスに近い植物である。日本へは、明治時代初期に渡来した。白い花を咲かせるものもある。

【紅蜀葵の俳句】

沖の帆にいつも日の照り紅蜀葵  中村汀女

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