季語|河鹿(かじか)

三夏の季語 河鹿

河鹿笛(かじかぶえ)

河鹿の季語と俳句「蛙」の仲間である河鹿は、アオガエル科カジカガエル属に分類され、夏の季語となる。本州から九州の渓流に棲み、4月から8月頃までの繁殖期、オスは美しい声で鳴く。そのため、美しい声で鳴く雄鹿に擬せられ、河の鹿の意の「河鹿」の名がついた。
山口県岩国市の錦川中流域と、岡山県真庭市の湯原地区に、カジカガエル生息地として国の天然記念物に指定された場所がある。

「蛙」は「かわず」とも読むが、古くは「かわず」と言えば河鹿のことを指した。万葉集には「かはづ」の和歌が20首が登場するが、ここに歌われるのは河鹿のことで、アマガエルとの混同が見られ始めたのは、平安時代になってからである。
俳諧歳時記栞草には秋八月の部に分類され、「夏の季より秋に至りて鳴」とある。万葉集に「かはづ」で歌われたものに

神奈備の山下響み行く水に かはづ鳴くなり秋と言はむとや

があるように、河鹿は、秋の季語である「鹿」に比せられたがゆえに、古くは秋を想起させるものであった。

因みに「鰍」と書いて「かじか」と読ませる魚が存在し、秋の季語となる。古くは鳴く魚だと信じられ、俳諧歳時記栞草にも「水底にありて鳴魚なり」とあるが、鳴くことはない。生息域が重なる河鹿との混同から名付けられたという。

【河鹿の俳句】

耿々と河鹿の笛に渓の天  秋元不死男

【河鹿の鳴き声】
オスは約4センチ、メスは約6センチ。渓流の岩場での保護色となる、灰から茶の体色を持つ。特に5月から6月にかけて、夜間を中心によく鳴く。(YouTube 動画)

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に

季語|雨蛙(あまがえる・あまかわず)

三夏の季語 雨蛙

青蛙(あおがえる)枝蛙(えだかわず)

雨蛙の季語と俳句「蛙」とすれば春の季語になるが、「雨蛙」は夏の季語である。俳諧歳時記栞草では四月に分類されており、「枝蛙」「土鴨(どあう)」の名も出てくる。

雨蛙とは、ニホンアマガエルのことを指し、モリアオガエルを指す「青蛙」とは別種である。しかし、両種はよく似ている。やや小型で、目から耳にかけて黒い帯模様があるのが、ニホンアマガエルである。
両種ともに樹上で生活することから、「枝蛙」の異名を持つ。特にモリアオガエルは、木の枝に泡で包まれた卵塊を産みつけるという特色がある。
鳴くのは繁殖活動の一環であり、オスのみが合唱する。ただニホンアマガエルは、「雨蛙」の名の通り、雨が降りそうになると繁殖期でなくても鳴く。これを「雨鳴き」「レインコール」という。

【雨蛙の俳句】

雨蛙芭蕉にのりてそよぎけり  宝井其角
枝蛙泣くせはしさに踏みまよふ  水原秋桜子

【雨蛙の鳴き声】
ニホンアマガエルは、北海道から九州に生息している。3月頃に冬眠から覚めたニホンアマガエルは、暖かくなると水田や池などで繁殖活動をする。繁殖活動は8月頃まで続く。通常は緑色だが、土や枯葉が多い場所では茶色になる。(YouTube 動画)

【青蛙の鳴き声】
モリアオガエルは、日本の固有種で本州と佐渡島に分布。通常は森の中に棲んでいるが、繁殖期である4月から7月には、池や沼に現れる。水面にせり出した木の枝に産み付けられた卵塊でオタマジャクシとなり、雨の日に水面に落ちる。(YouTube 動画)

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に

季語|ソーダ水(そーだすい)

三夏の季語 ソーダ水

サイダー(さいだー)ラムネ(らむね)

ソーダ水の俳句と季語炭酸ガスを含む水のことを炭酸水、あるいはソーダ水という。これを清涼飲料水として味付けしたものは炭酸飲料とも呼ばれ、その涼感から夏の季語となる。元は重曹とレモン果汁のクエン酸が化学反応して生まれたもので、ナトリウム化合物を指す「ソーダ」と呼ばれる。
「サイダー」は、リンゴ酒を指す英語である。リンゴ風味の炭酸飲料にも使われるようになり、現在では無色透明の炭酸飲料の総称として用いられている。
「ラムネ」は、レモネードが転訛したもので、「玉詰びん(ラムネ瓶)」という容器に入れられたものである。現在では、内容物にサイダーとの違いはなく、玉詰びんに入っているかどうかでサイダーとラムネに分かれる。玉詰びんのラムネ玉は、炭酸の圧力によって内容物を密封する。

日本に炭酸飲料がもたらされたのは幕末で、1865年には長崎で「ポン水」と呼ばれるラムネの生産が外国人の手によって行われていた。1868年にはノース&レー商会により、横浜でサイダーの生産も行われた。これは、パイナップルとリンゴの味をつけた「シャンペン・サイダー」だったが、後に横浜に開業した金線サイダーがリンゴ味だけにしたため、「サイダー」となった。

【ソーダ水の俳句】

ソーダ水方程式を濡らしけり  小川軽舟

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に

季語|海月(くらげ・かいげつ)

三夏の季語 海月

水母(くらげ・すいぼ)

海月の俳句と季語刺胞動物門に属し、ヒドロ虫綱・十文字クラゲ綱・箱虫綱・鉢虫綱に分かれる。淡水や海水中に生息し、浮遊生活をする。
ゼラチン質の体を持ち、傘の下面の中心部に口があり、動物性の餌を採る。多くの種類では傘の縁に触手がある。従来、肛門はないと考えられてきたが、近年、それを覆す研究結果が発表されている。
多くのクラゲでは、雌雄異体である。幼生はポリプとなり、そこから出芽してエフィラというプランクトンになる。ポリプは、無性生殖によって増殖するため、クラゲには無性世代、有性世代が存在する。

「くらげ」の語源は、目がないように見えることから「暗気」に由来するという説がある。「海月」「水月」と書くのは、水に浮んだ傘が、水中の月のように見えるからである。中国では、クラゲのことを「水母」と書く。
古事記に既に現れ、「天地のはじめ」で国の形がまだ定まっていない時に、「国わかく、浮かべる脂の如くして水母なす漂へる時に、葦牙のごと萌えあがる物によりて成りませる神の名は、ウマシアシカビヒコヂの神」とある。

俳諧歳時記栞草には、六月項に「海月取(くらげとる)」がある。「滑稽雑談」の引用で、「泥海に生ず、故に備前・筑前等より、多く此月取て、檞の葉を多く割て、海月の肉を包み、塩を用ひず、只葉を以て淹蔵する也」とある。
古来、骨のないものの代表として挙げられるクラゲは、「枕草子」にも出てくる。珍しい骨を手に入れた自慢する藤原隆家に対して、清少納言が海月の骨だと言って返すものである。あり得ない物事のたとえとして、「クラゲの骨」という語にもなっている。

盆過ぎの海ではクラゲに刺されると言い、盆過ぎにはクラゲが多く出現すると言われている。この盆過ぎに出現するクラゲは、主にアンドンクラゲである。
近年では、大きなエチゼンクラゲが漁業などに影響を及ぼしているとの報道も増えたが、肥料や飼料、食用にするなど有効利用する方法も考えられている。元々日本と中国には、食用にする文化もある。
1984年にアメリカのモントレー湾水族館がクラゲの展示を目玉にしたことから、日本でも水族館におけるクラゲの展示は人気を集めている。特に、山形県の加茂水族館のクラゲは、廃業の危機を救ったとしてテレビにも紹介され、ギネスに認定された世界一のクラゲ水族館としての魅力とも相まって有名である。

【海月の俳句】

水母また骨を探してただよへり  岩淵喜代子

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に

季語|蛞蝓(なめくじ・なめくじら・なめくじり)

三夏の季語 蛞蝓

なめくぢらなめくじり

蛞蝓陸に生息する巻貝(軟体動物門腹足綱)のうち、殻が退化しているものの総称で、殻を持つ種類はカタツムリである。
元はカタツムリのように殻を持っていたが、それを失う方向へと進化した結果、ナメクジとなった。このような貝殻の消失はウミウシなどにも起こっており、「ナメクジ化」と呼ばれる。

日本には、在来種のナメクジ科のナメクジや大型のヤマナメクジ、ヨーロッパからの外来種であるチャコウラナメクジなどが生息している。一年をとおして見られる生物であるが、湿気を好むために、梅雨時に特に目につくため、夏の季語となる。
交尾をして増殖するが、メスでもオスでもあり、卵子と精子を両方持つ雌雄同体である。
落葉を主食とするが、農作物にも被害を与えるために害虫とされる。またその見た目や、這ったあとに残る粘液から、不快害虫としての側面も持つ。そのようなナメクジを溶かすといって塩を振りかけることがあるが、浸透圧によって水分が抜け、小さくなるだけである。
ナメクジの語源は、その作物を食す姿から、「舐める」と、えぐることを指す「くじる」にあると考えられている。

【蛞蝓の俳句】

なめくぢり這ひて光るや古具足  服部嵐雪

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に

季語|煮酒(にざけ)

三夏の季語 煮酒

酒煮る(さけにる)

煮酒の俳句と季語日本酒の多くは、流通のために火入れして殺菌する。現在の日本酒は、年間を通じて仕込みを行う四季醸造が主流となりつつあるが、寒造りと呼ばれる仕込み方法では、冬場に仕込みを行う。あるいは春造りといって、立春を過ぎた頃に仕込み始めるものがある。そのような日本酒は夏場に火入れを行うが、そのことを「煮酒」と言って夏の季語となった。
俳諧歳時記栞草では四月項に分類され、「東医宝鑑」(李氏朝鮮時代の医書)の引用で「煮酒は、味ひ殊に佳也。夏月のむに宜し、云々」とあり、続けて「是本邦の煮酒に似たる名目を挙ぐる也。本邦にては、夏日、酒の気味を失はざる為に、煮酒の法を用ふ。京師にて是を酒煮と称し、此日酒肆、親き疎きをえらばず、価をとらず、恣に酒をのましむ。是を酒煮の祝といふとぞ」とある。

現在の日本酒の多くは、発酵を停止し品質を一定にする目的と、腐敗防止の目的で火入れが行われる。火入れの季節性は焼失しつつあるが、貯蔵前と出荷前の2度火入れが行われることが普通である。
ただ、火入れを全く行わない日本酒もあり、これを生酒という。また、貯蔵前に1度だけ火入れを行った日本酒を「生詰」、出荷前に1度だけ火入れを行った日本酒を「生貯蔵」という。
因みに、秋に出荷される「ひやおろし」は、冬にしぼった日本酒を火入れして貯蔵し、夏のあいだ熟成させてそのまま出荷するもの。現在の日本酒には「夏酒」と呼ばれるものもあるが、これは夏場に美味しく飲める日本酒のことで、はっきりとした定義はない。

【煮酒の俳句】

四ツ辻に残月かゝる煮酒哉  与謝蕪村

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に

季語|甘酒(あまざけ)

三夏の季語 甘酒

一夜酒(ひとよざけ)

甘酒の俳句と季語米こうじと米を原料とし、粥としたものに米こうじを入れて速醸させたものを一夜酒と呼んで、古くは、夏に清酒を造れない酒造の副業とした。俳諧歳時記栞草にも「一夜酒」で「六月」に分類されており、甘酒と同事とある。
甘酒には、酒粕を原料とするものもあり、こちらは、湯に酒粕を溶いて砂糖などの甘味を加えて作る。どちらもアルコールはほとんど含まれず、現代ではソフトドリンクに分類される飲料である。

「日本書紀」には、甘酒の起源とされる天甜酒の記述がある。それによると、神吾田鹿葦津姫(コノハナサクヤヒメ)が、皇祖神を生んだ後に、卜定田の稲をもって、醸したという。おそらく口噛み酒だっただろう。
延喜式の醴酒(こさけ・れいしゅ)も一夜酒と呼ばれることがあったが、こちらは酒で醸した酒であるため、アルコール度はかなり高く、現在でいう貴醸酒のようなものだったのだろう。これを六月朔日に奉納するという。
万葉集にある山上憶良の貧窮問答歌には「糟湯酒」が登場し、これは酒粕を溶いた甘酒のようなものだと考えられている。歌の中で憶良は、「寒さの中で塩をなめながら糟湯酒をすすり、咳をしながら鼻をすする」とあるので、風邪に効くとの認識が当時からあったものと考えられる。

江戸時代に、夏の栄養ドリンクとしての地位を築いたことが今につながり、俳句では夏の季語となっている。現代では雛祭りの「白酒」にイメージを重ねることも多いが、こちらは焼酎やみりんなどを用いて時間をかけて作るもので、アルコール分も9%ほどある。

【甘酒の俳句】

甘酒にいま存命の一本箸  伊丹三樹彦
一夜酒隣の子迄来たりけり  小林一茶

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に

季語|夕立(ゆうだち・ゆだち・よだち)

三夏の季語 夕立

驟雨(しゅうう)白雨(はくう・しらさめ・ゆうだち)

夕立の季語(忠孝名誉奇人伝夕立や田をミめぐりの神ならば其角)夏の午後、強い日射により地面から上昇気流が生じ、積乱雲が生じて、時に雷・突風・雹を交えて、激しいにわか雨が降る。熱帯地方で発生するスコールと、同じようなものである。
梅雨明けから秋雨が降るまでの間の夕方の雨を、「夕立」と呼ぶことが普通であった。しかし、温暖化の影響からか、夕立の降る期間が長くなっているような印象を受ける。

「夕立つ」が名詞化して「夕立」になったとされ、夕方に風や雲が起こり立つことに誘発される雨である。
万葉集には、夕立の後の涼しさを歌った小鯛王の

夕立の雨うち降れば春日野の 尾花の末の白露思ほゆ

がある。また、新古今和歌集では、西行法師の

よられつる野もせの草のかげろひて すずしくくもる夕立の空

などが知られる。

夕立は涼を呼ぶとともに、降り始めに立ちのぼる香りにも趣きがある。この、雨の匂いの元は、雷によって発生するオゾンや、土壌微生物が産出する揮発物質だと言われている。近年では、「ペトリコール」という、石のエッセンスを意味する造語で呼ばれている。

【夕立の俳句】

夕立や田を見めぐりの神ならば  宝井其角
桑海や大夕立あとなほけぶる  高浜年尾

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に

季語|甲虫(かぶとむし)

三夏の季語 甲虫

兜虫(かぶとむし)

甲虫「こうちゅう」と読めば、ホタルやテントウムシをも含むコウチュウ目の昆虫であるが、俳句では、「甲虫」と書いて「かぶとむし」と読ませる。

一般にカブトムシと呼ばれる日本産のものは、コウチュウ目コガネムシ科カブトムシ亜科真性カブトムシ族のヤマトカブトムシである。沖縄に生息するヤンバルテナガコガネを除けば、日本最大の昆虫で、「昆虫の王様」とも呼ばれる。
成虫は6月から9月頃に見られ、夜間、クヌギやコナラなどの樹液に集まる。夏休みに行う昆虫採集では、最も人気の高い昆虫であり、夏の季語となる。走光性があり、街灯などにも飛来する。
カブトムシは鳴くと言われることもあるが、興奮した時に上翅と腹部をこすり合わせて出す、摩擦音である。
兜の前立てのような角をオスが持つことが、カブトムシの名前の由来である。この角を用いて、餌場や雌を求めて争う。因みに、兜の前立て自体は鍬形(くわがた)という。

江戸時代の「大和本草」に取り上げられるが、俳諧歳時記栞草に名は見られない。夜行性であるためか、江戸時代にはそれほど馴染みのある昆虫ではなかったと見られる。カブトムシが人気になったのは、懐中電灯が庶民のものとなり、昆虫の飼い方の教材が人気を集めた1960年代になってから。

【甲虫の俳句】

死してなほ兜のおもき兜虫  土生重次

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に

季語|南風(なんぷう・はえ・みなみかぜ・みなみ・まぜ・まじ)

三夏の季語 南風

海南風(かいなんぷう)

南風の俳句と季語南風は夏の季語。夏に南風が吹くと、太平洋高気圧の影響で日本列島は晴れることが多い。

梅雨時の強い南風を荒南風(あらはえ)、梅雨時に黒雲の下を吹く南風を黒南風(くろはえ)、梅雨が明けた後の晴天下での南風を白南風(しろはえ・しらはえ)と言う。
台風の予兆として南風が吹くこともあり、漁師は南風を警戒する。「南風(まじ)が吹いたら魚は釣れない」などと言う。

気象学では、36方位を数字に置き換えて表現するが、南風には「18」が割り振られている。
JRには特急南風号があり、岡山と高知を結んでいる。

【南風の俳句】

恋過ぎて南風に浜雀乗る  秋元不死男
耳もとに波のわきたつ南風かな  久保田万太郎

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に