カテゴリー: 初春
季語|末黒(すぐろ)
季語|絵踏(えぶみ・えふみ)
初春の季語 絵踏
江戸幕府がキリシタンを発見するために用いた絵を「踏絵」といい、それを踏ませることを「絵踏」と言う。18世紀中頃の長崎奉行所では、絵踏は正月四日から八日に行われ、正月行事の1つとなっていた。このため春の季語に分類される。踏絵には、イエス・キリストや聖母マリアが描かれた紙や板を利用していたが、損傷が激しいために真鍮踏絵が用いられるようになった。
俳諧歳時記栞草(1851年)には春之部正月に「絵踏」があり、吾山遺稿の引用で「肥前長崎、五島、大村、平戸、此処にて、男女に限らず、絵ぶみす。是は邪宗を禁ぜしめ給ふによれり」とある。
徳川家康は1612年に禁教令を出し、徳川家光の時代の1629年に絵踏を導入した。九州では制度化され、その他の地方では疑いがある時に随時実施された。拒んだ者は「キリスト教徒」として処罰された。1856年に長崎や下田などの開港地で廃止され、1858年の日米修好通商条約締結により廃止された。
現在では、反対する者などを燻り出すために用いる手段を「踏絵」と呼ぶ。
【絵踏の俳句】
そのかみの絵踏の寺の太柱 富安風生
季語|春寒(はるさむ・しゅんかん)
初春の季語 春寒
春寒し(はるさむし)・春の寒さ(はるのさむさ)・料峭(りょうしょう)
立春以後の寒さのこと。春の寒さを指す季語に「余寒」もあるが、「余寒」は立春を過ぎても冬の寒さを引きずっている感があるのに対し、「春寒」には、春の温もりに一度覆われたあとの寒さといった感がある。
「料峭」とは、春風が寒く感じられるさまを言う。
季語|白魚(しらうお)
初春の季語 白魚
しらお・しろお・銀魚(ぎんぎょ)
キュウリウオ目シラウオ科シラウオは、全国の汽水域に生息する半透明の小魚で、水揚げすると白色になる。成長すると8センチほどの大きさになり、2月から5月頃に産卵し、1年で寿命を迎える。生食にしたり天婦羅にしたり佃煮にしたり、様々に調理して食される。春の季語になっており、旬は産卵前の立春の頃である。
スズキ目ハゼ科シロウオ(素魚)とよく混同される。素魚は、春に踊り食いすることで知られる小魚であるが、季語として詠まれることはない。
細くて白い女性の指を、この魚の姿に譬えて「白魚のような指」という。
【白魚の俳句】
あけぼのやしら魚しろきこと一寸 松尾芭蕉
季語|ミモザ
初春の季語 ミモザ
銀葉アカシア(ぎんようあかしあ)
ミモザは、オーストラリア原産のマメ科アカシア属の植物の俗称で、主にフサアカシアを指す。本来は、マメ科オジギソウ属の植物の総称で、葉の形がよく似ていることから、フランスで誤用されて「ミモザ」の名が定着した。オジギソウの葉は、刺激によって閉じていくことから、身ぶりを主体とする劇「mimos」に因んで「ミモザ」と呼ばれていたが、アカシア属の植物にはそのような特徴はない。
夏の季語にアカシアの花があるが、これはマメ科ハリエンジュ属ニセアカシアである。本来は「ミモザ」と呼ばれるアカシア属のフサアカシアなどを「アカシア」と呼ぶべきであるが、日本では定着していない。
なお、ミモザとして華道で使われるのは、ハナアカシアとも呼ばれる「ギンヨウアカシア」であることが多い。葉が銀色を帯びている。
フサアカシアは、明治時代初期に渡来した。2月から4月頃に、香りのよい黄色い花をつける。
イタリアには「ミモザの日」があり、女性の日として、男性が女性に感謝の気持ちを込めてミモザをプレゼントすることになっている。
【ミモザの俳句】
ミモザ咲くベスビオの山曇る日は 有働亨
季語|クロッカス
初春の季語 クロッカス
アヤメ科クロッカス属の総称で、俳句の世界では「クロッカス」として春の季語、「サフラン」として秋の季語になる。つまり、クロッカスは秋に植えて2月から4月に花を咲かせる春咲き品種の「春咲サフラン」である。ただし、秋に咲く「サフラン」という品種がスパイスに用いられるのに対し、「春咲サフラン」は観賞用のみに栽培される。
原産地は地中海沿岸から小アジアで、明治時代初期に渡来した。
語源はギリシア神話にあり、ニンフに恋して死んだ美青年クロコスが花になったものとも、カウカソス山に縛られたプロメテウスの血から生じたとも言われている。バレンタインの頃に咲くため、イギリスでは「バレンタインの花」ともされている。
【クロッカスの俳句】
クロッカス光を貯めて咲けりけり 草間時彦
季語|山茱萸の花(さんしゅゆのはな)
季語|蕗の薹(ふきのとう)
初春の季語 蕗の薹
キク科フキ属フキは、「蕗」や「蕗の葉」として夏の季語になるが、1月から3月頃に見られる若い花茎は、「蕗の薹」として春の季語になる。フキは食用として栽培されるが、全国の湿り気の多い場所に自生する植物でもある。
フキは雌雄異株であるため、蕗の薹にも雌雄がある。雌株はややまばらに蕾が集まり、糸くずのような雌しべが白く見えるのに対し、雄株は黄みを帯びた花が密集しているように見える。通常、「蕗の薹」は蕾の状態で収穫され、山菜として供される。食味は、雄株の方が苦みが強く、より蕗の薹らしさを感じられる。
植物学者の伊藤篤太郎博士は、1904年の時事新報に「冬の七艸」のひとつとして蕗の薹を挙げている。他の6つは、「福寿草」「節分草」「雪割草」「寒葵」「寒菊」「水仙」である。
俳諧歳時記栞草(1851年)に「貞享式」の引用で、「中古の式目には、蕗のたふも蕗の花も同く春に用ひたれど、此名は例の賞玩より、むら消の雪にむすぶとも、蕗のたふは冬と定むべし。しかれども蕗花は、漢には賈島が春雪の詩より、春とはいはんも宜なれど、その名はさして俳諧の用なし。但し蕗の芽は春にして、一物二用の例といふべき也」とある。
【蕗の薹の俳句】
埋火や野辺なつかしき蕗の薹 早野巴人