東京都の季語と俳句

東京都内 俳句の舞台となった旅館

ホテル椿山荘東京

山縣有朋の屋敷だった椿山荘は、東京都内とは思えないほどに緑豊かで、俳句関連のイベントもよく開催される。また、関口芭蕉庵も隣接しており、芭蕉はここに3年間住み、前方の神田上水の工事にも携わった。会津八一は、「椿山荘枯木の中の椿かな」の俳句を残している。

山の上ホテル<東京都>

「文化人のホテル」と呼ばれる山の上ホテル。川端康成・三島由紀夫・井上靖ら多くの文人が執筆活動の拠点とし、檀一雄の「火宅の人」の舞台になったホテルでもある。俳句とのつながりも深く、初代社長の姉は水原秋桜子。本館の406号室は、山本健吉がよく使用していた部屋でもある。角川春樹氏馴染みのホテルでもあり、氏に「山の上ホテルのバーに健吉忌」の俳句がある。

東京都の御当地季語

両大師詣(新春の季語)
1月3日に寛永寺にある両大師堂に参拝すること。両大師とは、慈慧大師と慈眼大師。

太占祭(新春の季語)
1月3日に御岳神社で行われている、牡鹿の肩甲骨を使った太古からの吉凶占い。

浅草寺牛王加持(新春の季語)
浅草寺では、1月5日に「牛玉札」の加持がなされ、授与される。

俎開(新春の季語)
1月12日に、報恩寺で行なわれる鯉料理の行事。

浅草寺の温座陀羅尼(新春の季語)
1月12日から18日まで、浅草寺全住職により勤修する年頭の法要。

亡者送り(新春の季語)
1月18日、浅草寺の温座陀羅尼のあとに続く行事。温座陀羅尼は非公開であるが、亡者送りは公開される。

初場所(新春の季語)
1月に国技館で開催される大相撲の本場所。

六阿弥陀詣(春の季語)
彼岸に、行基上人が彫り上げた阿弥陀像を祀る西福寺・延命院・無量寺・与楽寺・常楽院・常光寺の六箇寺を巡り歩く。

東をどり(春の季語)
京都の「都をどり」にならって始まった新橋芸者による踊り。5月頃開催。

品川寺鐘供養(春の季語)
数奇な運命をたどりパリ万博などに展示された品川寺の梵鐘は、1930年5月5日にスイスから戻ってきた。その時に高浜虚子が「座について供養の鐘を見上げけり」と詠み、季語として定着した。毎年5月5日に「鐘供養俳句の会」が開催される。

柳祭(春の季語)
5月5日に開催される「銀座柳まつり」。西銀座通りが東京都のシンボルロードに指定され、柳が植樹されたことを記念して行われている。

八丈草(春の季語)
明日葉のこと。八丈島は産地として有名で、八丈草とも呼ばれる。

夏場所(夏の季語)
5月に国技館で開催される大相撲の本場所。

くらやみ祭(夏の季語)
5月5日の例祭を中心に、4月30日から5月6日に行われる大国魂神社の祭礼。

神田祭(夏の季語)
5月15日の例大祭を中心として、5月中旬に行われる神田明神の祭礼。日本三大祭や江戸三大祭に数え上げられる。

三社祭(夏の季語)
5月の第3金土日に浅草神社で行われる、神輿渡御を主とした祭り。浅草祭とも呼ばれ、びんざさら舞も奉納される。

山王祭(夏の季語)
6月7日から16日にかけて行われる千代田区の日枝神社の祭り。江戸三大祭のひとつ。

駒込富士詣(夏の季語)
6月30日から7月2日にかけて行われる駒込富士神社の山開き。かつては土産の駒込茄子が名物で、周辺に鷹匠屋敷があった。「一富士二鷹三茄子」は、川柳「駒込は一富士二鷹三茄子」から広がっていったと言われている。

江戸浅間祭(夏の季語)
7月1日に、富士山の山開きに合わせて浅草浅間神社の例大祭が行われる。

朝顔市(夏の季語)
7月6日から8日まで、入谷鬼子母神で開催される「入谷朝顔まつり」のこと。江戸時代末期に、入谷の植木屋が朝顔をつくるようになって流行し、市が立つようになった。

鬼灯市(夏の季語)
四万六千日の縁日である7月10日とその前日に、浅草寺境内に鬼灯市が立つ。「ほおずきの実を水で鵜呑みすれば、大人は癪を切り、子供は虫気を去る」という民間信仰から、鬼灯が求められた。

両国の花火(夏の季語)
享保18年5月28日に、飢饉や疫病による死者供養を行った両国川開きに起源をもつ。現在では、7月最終土曜日に行われる隅田川花火大会になっている。

佃祭(夏の季語)
8月6日から7日に行われる中央区の住吉神社の例祭。獅子頭の宮出しが有名。

深川祭(秋の季語)
8月15日前後に行われる富岡八幡宮の祭礼。江戸三大祭のひとつ。「深川八幡祭」や「水掛祭」とも呼ばれる。

だらだら祭(秋の季語)
隔年で9月11日から20日まで開催される芝神明祭。十日間も続くことから「だらだら祭」と呼ばれる。大祭祭儀は9月16日。

靖国神社秋季大祭(秋の季語)
10月17日から10月20日に行われる靖国神社の例大祭。春秋に例大祭が催されているが、秋の方。

べつたら市(冬の季語)
10月19日から20日に、日本橋大伝馬町の寶田恵比寿神社の恵比寿講に市が立ち、べったら漬けがよく売れることから名がついた。

小松菜(冬の季語)
江戸時代初期に江戸川区小松川付近で、ククタチナを品種改良して栽培され始めた。

今川焼(冬の季語)
安永年間に、今川橋付近で「今川焼き」として発売されたことに起源をもつ和菓子。

王子の狐火(冬の季語)
大晦日の夜に関八州の狐が王子稲荷に参拝したという伝承。現在では、大晦日の夜に地元民による狐行列が催されている。

東京都を詠んだ俳句

花の雲鐘は上野か浅草か 松尾芭蕉
44歳の時に病に伏して、深川の芭蕉庵で詠まれた。鐘は「時の鐘」のことで、日没の暮六つ。上野は寛永寺、浅草は浅草寺。ともに桜の名所に近かった。

鐘一つ売れぬ日はなし江戸の春 宝井其角
芭蕉の一番弟子とも言われる其角の代表句。江戸の繁栄ぶりを詠んでいる。

神田川祭の中をながれけり 久保田万太郎
1925年に、島崎藤村の「生ひたちの記」から発想した俳句。神田祭を詠んだものと思われがちであるが、榊神社の祭礼を詠んだもの。

降る雪や明治は遠くなりにけり 中村草田男
「長子」(1936年)所収。昭和6年(1931年)の雪の日に、明治神宮にも近い母校・青南小学校を訪れた際に詠まれた。

水枕ガバリと寒い海がある 西東三鬼
「旗」(1940年)所収。三鬼の述懐に「昭和10年。海に近い大森の家。肺浸潤の熱にうなされていた。家人や友人の憂色により、病軽からぬことを知ると、死の影が寒々として海となって迫ってきた。」とある。

新宿ははるかなる墓碑鳥渡る 福永耕二
「踏歌」(1980年)所収の福永耕二の代表句。