高浜虚子 ●
由公の墓に参るや供連れて 季此墓に系図はじまるや拝みけり 季去来忌やその為人拝みけり 季去来忌や俳諧奉行今は無し 季摘草に浦戸を出でてつれ立ちぬ 季灯取虫這ひて書籍の文字乱れ 季金亀虫擲つ闇の深さかな 季緑台を重ね掃きをり葭簀茶屋 季一寸留守目白落しに行かれけん 季唐門の赤き壁見ゆ竹の春 季暫くは雑木紅葉の中を行く 季新米の其一粒の光かな 季老の頬に紅潮すや濁り酒 季霜降れば霜を楯とす法の城 季半四郎二十日正月しに来り 季焚火かなし消えんとすれば育てられ 季砂も亦美しきかな桜貝 季たとふれば独楽のはぢける如くなり 季一つ根に離れ浮く葉や春の水 季まだ焚かぬ花の篝や夕間暮 季目黒なる筍飯も昔かな 季蜘蛛に生れ網をかけねばならぬかな 季梅雨晴れの夕茜してすぐ消えし 季まっしぐら炉に飛び込みし如くなり 季盂蘭盆会遠きゆかりとふし拝む 季水打てば夏蝶そこに生れけり 季見失ひ又見失ふ秋の蝶 季送り火やかくて淋しき草の宿 季秋の蚊を手もて払へばなかりけり 季われの星燃えてをるなり星月夜 季落花生喰ひつゝ読むや罪と罰 季洗ひたる花烏賊墨をすこし吐き 季霧いかに深くとも嵐強くとも 季うらむ気は更にあらずよ冷たき手 季 (五百五十句)松虫に恋しき人の書斎かな 季 (五百句)橋をゆく人悉く息白し 季 (五百五十句)冬籠心を籠めて手紙書く 季山越えて来たり峠は雪なりし 季この後の一百年や国の春 季蚊遣火や縁に腰かけ話し去る 季寒燈にいつまで人の佇みぬ 季 (六百句)マスクして我と汝でありしかな 季 (五百五十句)水仙に春待つ心定まりぬ 季 (五百五十句)我心春潮にありいざ行かむ 季舟岸につけば柳に星一つ 季芽吹く木々おのおの韻を異にして 季 (六百句)手を上げて別るゝ時の春の月 季牡丹花の面影のこし崩れけり 季たゝみ来る浮葉の波のたえまなく 季 (五百五十句)座について供養の鐘を見上げけり 季唯一人船繋ぐ人や月見草 季 (五百句)ハンケチに雫をうけて枇杷すする 季 (六百句)熔岩に秋風の吹きわたりけり 季熔岩の上を跣足の島男 季白酒の紐の如くにつがれけり 季古草も妹が垣根に芳しや 季大根の花紫野大徳寺 季御胸に春の塵とや申すべき 季空梅雨の島々を見て船は航く 季頼政も鵺も昔の宿帳に 季慈雨到る絶えて久しき戸樋奏で 季柿の花石燈籠に落ちてとぶ 季或時は谷深く折る夏花かな 季中の間に蔵あり古き夏邸 季日蔭蝶追うて林間学校へ 季釣堀に一日を暮らす君子かな 季箱釣や頭の上の電気灯 季紅さして寝冷の顔をつくろひぬ 季君知るや薬草園に紫蘭あり 季茨の花狐の遊ぶ堤かな 季裸子に甚平著せよ紅藍の花 季秋天の下に野菊の花弁欠く 季稀にあふ逆の遍路や室戸道 季寿を守る槐の木あり花咲きぬ 季病状を聞いて苺の花を見る 季夕立の虹見下ろして欄に倚る 季満洲の野に咲く花のねぢあやめ 季アネモネはしをれ鞄は打重ね 季秋の螢霧に流れてあはれなり 季相逢うて相別るゝも男郎花 季葉がくりに現はれし実のさねかづら 季枯れ果てしものの中なる藤袴 季案内の宿に長居や菌狩 季御僧の足してやりぬ鎌鼬 季霜やけの手をかくしけり袖の中 季火燵してくれる山家や納豆汁 季鮟鱇鍋箸もぐらぐら煮ゆるなり 季遣羽子やかはりの羽子を額髪 季焼山の夕べ淋しや知らぬ鳥 季浅間晴れて豌豆の花真白なり 季蓴生ふる水の高さや山の池 季絵踏して生きのこりたる女かな 季老いて尚君を宗とす子規忌かな 季叱られし思ひ出もある子規忌かな 季獺祭忌鳴雪以下も祀りけり 季
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