星野立子 ●
しんしんと寒さがたのし歩みゆく 季鞦韆に腰かけて読む手紙かな 季囀りをこぼさじと抱く大樹かな 季芍薬の芽のほぐれたる明るさよ 季美しき緑走れり夏料理 季草笛の子や吾を見て又吹ける 季薔薇の香が今ゆき過ぎし人の香か 季新涼や起きてすぐ書く文一つ 季所望して小さきむすび夜食とる 季この先はいかなる処紅葉狩 季聞き伝へ語りつたへて震災忌 季門火焚き終へたる闇にまだ立てる 季暁は宵より淋し鉦叩 季銀杏を焼きてもてなすまだぬくし 季障子しめて四方の紅葉を感じをり 季子の摘める秋七草の茎短か 季女郎花少しはなれて男郎花 季日の温み障子いよいよましろなり 季息白く恐れげもなく答へたる 季かみしめて切山椒の香ぞあまき 季皆羽織ぬげば春着や並びけり 季初笑ひたしなめつつも祖母笑ふ 季繭玉の静かに高し炉の人に 季秋灯を明うせよ秋灯を明うせよ 季濃き秋日何かたのしくわからなく 季つんつんと遠ざかりけりみちをしえ 季いくたびも秋篠寺の春時雨 季ままごとの飯もおさいも土筆かな 季水澄むやとんぼうの影ゆくばかり 季雨又も降りきし花火つゞけ打つ 季残暑とはかかる日のこと庭を掃く 季落ちかかる葉先の露の大いさよ 季下萌えぬ人間それに従ひぬ 季車窓より瀬戸の島山春隣 季春眠のこの家つつみし驟雨かな 季紙とんでゐしにはあらず仔猫かな 季子の瞳遠くを眺め風車 季春寒し赤鉛筆は六角形 季 (露の世)●雛飾りつゝふと命惜しきかな 季大原女の荷なくて歩く春の風 季たはむれにハンカチ振つて別れけり 季摘草にくたびれし子の無理をいふ 季冷淡な頭の形氷水 季ばたばたと夕風強き日除巻く 季誰も来よ今日小正月よく晴れし 季若水にざぶと双手やはしけやし 季旅衣花衣ともなりながら 季梅雨の人コートをぬげば服白き 季鮓桶の塗美しき燈下かな 季帯しめて心きまりぬ汗もなし 季この門をくゞりし記憶春の雨 季秋風のどこにも吹けり竜飛崎 季梅雨冷や坐し静まりし身ほとりに 季夏の朝よく歩きしと戻り来し 季日もすがら卯の花腐し茶を淹るゝ 季滝見茶屋大鉄瓶のたぎりをり 季この窓に燕見しは今朝のこと 季水底にまがり立ちをり浮人形 季目高ゐるとのぞきゐる子にまだ見えず 季蛭のゐる処ときけど渉る 季見おぼえの山百合けふは風雨かな 季小説はかなしきものよ絹糸草 季先にゆく人すぐ小さき野路の秋 季庭に出て線香花火や雨あがり 季ふなべりに得し菱の実を並べつゝ 季紫の数かちゆきぬスヰートピー 季一歩ゆき一歩もどりて丁字の香 季一村は杏の花に眠るなり 季
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