俳句

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加藤楸邨 

鰯雲ひとに告ぐべきことならず  (寒雷)
しずかなる力満ちゆきばったとぶ 
青き踏む左右の手左右の子にあたへ 
恋猫の皿舐めてすぐ鳴きにゆく 
のぼり鮎すぎてまた来る蕗の雨 
だまされてをればたのしき木瓜の花 
白地着てこの郷愁の何処よりぞ 
すれちがふ水着少女に樹の匂ひ 
汗の子のつひに詫びざりし眉太く 
火取虫翅音重きは落ちやすし 
蜘蛛の子の湧くがごとくに親を棄つ 
秋の風鶏の見るもの我に見えぬ 
木曾谷の刈田をわたるひざしかな 
迎へ火や海のあなたの幾柱 
かなしめば鵙金色の日を負ひ来 
柿色の日本の日暮柿食へば 
月明やカンナは土をつとはなれ 
カフカ去れ一茶は来れおでん酒 
つぎつぎに子等家を去り鏡餅 
今は亡き子よ嚙めば数の子音のして 
春夕焼へ遠き鶴嘴そろひ落つ 
落葉松はいつめざめても雪降りをり 
木の葉ふりやまずいそぐないそぐなよ 
寒木瓜のほとりにつもる月日かな 
草の穂の埃やあれもこれも過ぎ 
わが咳がたたしめし冬の蝶は舞ふ 
鯉幟わが声やいつわれに湧く 
夏の風邪半月傾ぎゐたりけり 
金蠅のごとくに生きて何をいふ 
遺書封ず南風の雲のしかかり 
黴の中言葉となればもう古し 
炎昼の女体のふかさはかられず 
秋暑く水中の腹脂ぎり 
露に目ひらく積捨案山子の怒り眉 
駈けくるごと霧の電線びゆんびゆんと 
白桃の曇るがごとく泣きにけり 
猫と生れ人間と生れ露に歩す 
桑の実をつみゐてうたふこともなし 
葱切つて潑刺たる香悪の中 
だまり食ふひとりの夕餉牡蠣をあまさず 
外套の襟立てて世に容れられず 
鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる 
隠岐や今木の芽をかこむ怒濤かな 
霾るや江口の遊女探ねゐて 
田に押入り八郎潟の春氷 
青きものはるかなるものいや遠き 
梟となり天の川渡りけり 
峠くだる子胸にくるくる風車 
行く鴨にまことさびしき昼の雨 
竹秋の風立ちさわぐ壺の内 
遅き月蕗にさしゐる河鹿かな 
翅ふりて灯蛾産卵す灯のいろに 
流星やかくれ岩より波の音 
ころがされ蹴られ何見る鰤の目は 
厚氷びしりと軋みたちあがる 
吹越に大きな耳の兎かな 
伊勢海老の月にふる髭煮らるると 
うまづらかははぎ長き泣顔いかにせん 
隠岐やいま木の芽をかこむ怒濤かな 
黒南風や高炉火の舌恍惚と 
夾竹桃しんかんたるに人をにくむ 
一つづつ花の夜明けの花みづき 
馬鈴薯の花に曇りし二三日 
をだまきの花もしじまのひとつにて 
かぎりなき灯蛾のかなたの滋賀の湖 
つゆじもの烏がありく流離かな 
櫨紅葉ただうとうととねむりたし 
午過ぎて初霰せり爆音下 
除雪車に沖の鷗がたち騒ぐ 
買ひためて信濃の子等へ胼薬 
冬帽を脱ぐや蒼茫たる夜空 
武蔵野の林の朝は鶲より 
春霰打つてまぶしき牛の貌 
耕牛やどこかかならず日本海 
春の鵙濡れたる石が曇りけり 
雞の目には雞の世あらん母子草 
駒鳥や崖をしたたる露の色 
つまだちて見るふるさとは喜雨の中 
ふなびとら鮫など雪にかき下ろす 

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