俳句

季語|狸(たぬき)

三冬の季語 

狸哺乳綱食肉目イヌ科タヌキ属タヌキ。極東にのみ生息していたが、毛皮目的で旧ソビエト連邦に持ち込まれ、それがヨーロッパなどに広がり、生態系を乱すとして問題になっている。
夜行性で、雑食。主に湿地や森林で生活するが、都市部で見られることもある。複数の個体が糞をする場所を「ため糞(ためふん)」と呼ぶ。個体同士の情報交換を行っていると考えられている。
積雪の多い地方を除き、狸に冬眠の習性はなく、冬場の個体は脂肪を蓄え、毛も長くなるため、丸々としている。冬場の狩猟対象となるために、冬の季語となっている。

狸は驚くと擬死状態になるため、「たぬき寝入り」という慣用句が生まれた。また、悪賢い者同士のたとえに「狐と狸」、当てにならないことを計算に組み込む「とらぬ狸の皮算用」などの言葉も生まれている。
ちなみに「たぬき」の語源は、「たぬき寝入り」を「魂抜き(たまぬき)」と見たことによるものとの説がある。

【狸の俳句】

戸を叩く狸と秋を惜しみけり  与謝蕪村

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季語|熊(くま)

三冬の季語 

北極熊(ほっきょくぐま)・白熊(しろくま)・羆(ひぐま)・赤熊(あかぐま)・月輪熊(つきのわぐま)・黒熊(くろくま)

熊哺乳綱食肉目クマ科に属する動物の総称がクマであるが、これにはジャイアントパンダも含め、8種が属する。その内、日本に生息するのはツキノワグマとヒグマ(エゾヒグマ)であり、ツキノワグマは本州と四国に、ヒグマは北海道に生息する。最大のものは白熊と呼ばれるホッキョクグマで、日本では動物園で観察される。
初冬の季語に「熊穴に入る」があるように、ツキノワグマもヒグマも、秋にドングリなどをたくさん食べて、12月から3月頃にかけて巣穴に籠る。この間に出産も行われる。よって、通常は秋の活動が活発で、冬の間には熊の姿は見られないものであるが、暖冬の影響や餌の減少の影響で、冬眠しない熊も増えている。それらが狂暴化して人に被害を与えるニュースが増えており、それらの熊を近年では「穴持たず」と呼ぶ。

【熊の俳句】

穴に入る熊になりたく思ひをり  高木晴子

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季語|このわた

三冬の季語 このわた

このわた漢字では「海鼠腸」と書くとおり、海鼠の腸などの内臓の塩辛。雲丹や唐墨と並んで日本三大珍味の一つとなっており、酒の肴としてよく登場する。海鼠のことを古くは「こ」と呼んでいたため、「このわた」は海鼠の内臓という意味である。
延喜式(927年)では、能登国の貢納物として挙げられている。伊勢湾や三河湾も産地として知られ、瀬戸内でもつくられる。

【このわたの俳句】

このわたが好きで勝気で病身で  森田愛子

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季語|鮫(さめ)

三冬の季語 

鱶(ふか)

鮫軟骨魚綱板鰓亜綱に属する魚類のうち、鰓裂が体の側面にあるもの。鰓裂が下面にあるものはエイである。世界では553種、日本近海では約130種が確認されている。アオザメ(青鮫)・シュモクザメ(撞木鮫)などの、人喰鮫と呼ばれる獰猛な種類もある。また、大きなものは鱶(ふか)とも呼ばれ、古代には鰐(わに)とも呼ばれていた。
鮫は、一般的な魚とは異なり、交尾を行い、卵生のほか胎生の種類も存在する。生きた化石と呼ばれることもあるなど、古い形態を残した魚類である。

「ジョーズ」などの映画の影響で、海水浴シーズンにクローズアップされることが多い鮫であるが、フカヒレを取るための鮫漁は、大型鮫類の水揚げが多くなる冬場が好まれたために、「鮫」は冬の季語になったものと考えられる。
日本神話の「因幡の白兎」に登場する鰐(わに)は、鮫のことだと考えられている。また、皇孫を生んだ豊玉姫は八尋鮫(やひろわに)の姿をしていたとされる。

【鮫の俳句】

本の山くづれて遠き海に鮫  小澤實

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季語|乾鮭(からざけ)

三冬の季語 乾鮭

塩鮭(しおざけ)干鮭(ほしざけ)

乾鮭北海道や東北地方で作られる、を用いた保存食を「乾鮭」という。内臓を取り除き塩漬けにした雄鮭を塩抜きし、軒先などで1週間ほど寒風にさらして作る。
塩漬けにした鮭は「塩鮭」と呼び、水揚げしたばかりの鮭を甘塩漬けにしたものが荒巻鮭である。塩を強くしたものは塩引鮭という。

「乾鮭」は、とるに足らない人や老婆を指したり、首を吊ることの隠語としても使用される。橙色がかった桃色のことを「乾鮭色」ともいう。

【乾鮭の俳句】

塩鮭を女抱きゆく田の日暮  皆川盤水

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季語|氷魚(ひうお・ひお)

三冬の季語 氷魚

氷魚の稚魚。タラ科の海水魚にも氷魚と呼ばれるものがいて、こちらも氷魚と呼ばれるが、通常は「氷下魚(こまい)」として冬の季語にする。
鮎は晩秋に河川の下流域で産卵するが、2週間ほどして孵化する。数カ月経過して3センチほどになった半透明の稚魚は河口付近で生活する。ただし、琵琶湖に生息する鮎は海に下らず、ずっと琵琶湖で生活する。増水する冬には瀬田川や宇治川へ入り、捕獲された稚鮎は朝廷に献上された。陰暦九月から十二月晦日まで、宇治と田上の両地から氷魚が奉られたが、これを受け取るために朝廷が派遣した使者のことを「氷魚の使」と呼び、現在でも冬の季語として用いられる。

【氷魚の俳句】

赤彦の歌の諏訪湖の氷魚を得ぬ  青木敏彦

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季語|鰰(はたはた)

三冬の季語 

雷魚(かみなりうお)

鰰「鱩」「燭魚」とも書く。スズキ目ハタハタ科の魚で、約20センチメートル。主に日本海側の深海で生活し、産卵に寄ってくる冬場に漁獲量が多くなる。この頃は、雷がよく鳴るので、雷魚の別名もある。
食材としては、東北地方で特に馴染みが深く、塩焼きや干物など、様々に調理して食されるほか、塩漬けにして発酵させた魚醤「しょっつる」にもなる。旬は、卵を持った冬場とされるが、身は春の方が脂がのって旨い。ちなみに鰰の卵はブリコと呼ぶ。

なお、秋の季語に「はたはた」があるが、こちらは「ばった」のことである。

【鰰の俳句】

鰰に映りてゐたる炎かな  石田勝彦

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季語|鎌鼬(かまいたち)

三冬の季語 鎌鼬

鎌風(かまかぜ)

鎌鼬(国会図書館蔵鳥山石燕「画図百鬼夜行」)つむじ風に乗って現われて人を切りつけるという妖怪。雪国を中心に、全国に伝承があり、鎌のような爪を持ったイタチの姿で描かれることが多い。つむじ風自体を「鎌鼬」と呼ぶこともある。
鎌鼬は、人の皮膚を刃物で切ったように裂くと言われ、その傷は痛みがなく、血も出ないと言われることがある。寒い日に突然皮膚が裂ける現象は、実際に生じるものであるが、現在では、気化熱によって急激に冷やされ皮膚表面の組織が変性して裂けると言われている。

【鎌鼬の俳句】

三人の一人こけたり鎌鼬  池内たけし

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季語|鯨突(くじらつき)

三冬の季語 鯨突

捕鯨船(ほげいせん)

鯨突鯨突とは、鯨を銛で突いて捕えることである。江戸時代には「鯨組」が組織されて、全国で年間数百頭もの鯨が捕獲されていた。

日本における捕鯨の歴史は古く、すでに縄文時代には鯨食文化があったと考えられている。ただし、積極的な捕鯨があったかどうかは見解が分かれており、座礁鯨を食用にしたとの説もある。
万葉集には「鯨魚取り(いさなとり)」の和歌があることから、奈良時代には積極的な捕鯨が行われていたと考えられている。古くは簎や鉾などを用いて捕鯨していたと考えられるが、鎌倉時代には手銛によるセミクジラやコククジラの捕鯨が始まり、江戸時代のはじめに和歌山の太地で網をかけて銛で突く漁法が開発されたことにより、ナガスクジラの捕鯨も可能になった。明治時代には、捕鯨砲を用いるノルウェー式捕鯨が導入されて、それまでの漁法は一掃された。
世界的には、主に鯨油を得るために鯨の乱獲が行われ、20世紀には鯨類資源は枯渇した。そのため1948年に国際捕鯨委員会(IWC)が設立され、1982年には商業捕鯨モラトリアムが採択され、商業捕鯨は一時停止されることとなった。1951年にIWCに加盟した日本は、1985年に商業捕鯨の一時停止決議を受け入れて調査捕鯨のみを行っていたが、2019年に脱退した。
日本で捕獲された鯨は、食用にされるとともに、鯨骨や鯨ひげは様々な道具に加工し、鯨油は除虫材や灯火用などに利用された。

多くのクジラには回遊する習性があり、江戸時代には、地方によって捕獲シーズンは異なっていた。俳諧歳時記栞草(1851年)では「鯨突」が冬之部に分類されているが、捕鯨が盛んだった紀州熊野浦では、仲冬がシーズンだった。
日本の開国につながった黒船来航は、日本の港を捕鯨のための供給基地にする目的があったとされている。

▶ 関連季語 鯨(冬)

【鯨突の俳句】

一番は逃げて跡なし鯨突  炭太祇
捕鯨船嗄れたる汽笛をならしけり  山口誓子

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季語|鯨(くじら・いさ・いさな)

三冬の季語 

初鯨(はつくじら)・抹香鯨(まっこうくじら)・背美鯨(せみくじら)・座頭鯨(ざとうくじら)・長須鯨(ながすくじら)

鯨哺乳類クジラ目は、歯を持つハクジラと、歯を持たずヒゲを持つヒゲクジラに大別される。ハクジラ類には、マッコウクジラやイルカが含まれ、ヒゲクジラ類にはセミクジラやナガスクジラ、ザトウクジラが含まれる。日本周辺には、上記4種を含む約40種類が生息しており、太平洋側のホエールウォッチングでは主にマッコウクジラやザトウクジラが観察できる。
多くのクジラには回遊する習性があり、ザトウクジラは、冬は沖縄や小笠原の海、夏はとロシアやアラスカの海へと移動する。ホエールウォッチングは、北海道では夏場、沖縄では冬場がベストシーズンとされる。
俳諧歳時記栞草(1851年)では「鯨突」が冬之部に分類されており、紀州熊野浦では仲冬が盛りだとする。ここから「鯨」も冬の季語に分類される。

万葉集では「鯨魚(いさな)」と呼ばれ、長歌に多く歌われている。「鯨魚取り」で、「浜」「海」「灘」を導く枕詞になる。古事記では神武天皇条の長歌に「久治良(くぢら)」があるが、鯨を指すかどうかは不明。
「くじら」の語源は、背が黒くて腹が白いことから、「くらしら(黒白)」と呼ばれていたものが転訛したところからきたとの説が有力。

日本では古くから食されており、縄文時代の遺跡から鯨の骨が発掘される。座礁鯨を食材としたのが鯨食の始まりだと考えられている。鎌倉時代には手銛による捕鯨が始まり、江戸時代のはじめに和歌山の太地で、網をかけて銛で突く漁法が発見されたことで捕鯨が拡大した。
19世紀に始まった捕鯨砲を用いるノルウェー式捕鯨は、捕鯨を容易にし、おもに鯨油を得るための鯨の乱獲をまねいた。1948年には国際捕鯨委員会(IWC)が設立され、1982年には商業捕鯨モラトリアムが採択され、商業捕鯨は一時停止されることとなった。

【鯨の俳句】

鯨よる浜とよ人もたゞならず  尾崎紅葉

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