カテゴリー: 晩秋
季語|花見酒(はなみざけ)
季語|すだち
晩秋の季語 すだち
漢字では「酢橘」と書き、代表的な「酢みかん」として、酢の代りに使用される「香酸柑橘類」に分類される。
原木は、徳島県鳴門市にあったとされ、現在でも徳島名産で、ほぼ100%を徳島県内で生産している。文献上は「大和本草」(1706年)に「リマン」として初出するが、太古からあったとの説もある。
徳島県では、「すだちくん」というイメージキャラクターを使って、全国にアピールしている。
実がなるのは8月から10月頃で、青いうちに出荷する。1980年代に全国に広く知られるようになり、現在ではハウス栽培もあり、年中入手することができる。
【すだちの俳句】
すだちしぼる手許や阿波の女なる 京極杞陽




季語|秋刀魚(さんま)
晩秋の季語 秋刀魚
ダツ目サンマ科に属する大衆魚。日本近海から北太平洋に広く分布し、群れをつくって回遊している。日本では、オホーツク海あたりを回遊していたものが、気温の低下とともに南下する。産卵前の秋は、脂が乗って非常に美味で、秋の味覚の代表的存在である。
かつては日本とロシアの一部でしか食されない魚であったが、近年では日本食ブームとともに、世界的に人気が出つつある。
語源は、細長い魚を意味する「狭真魚(さまな)」とする説がある。
漢字の「秋刀魚」は、旬の「秋」と「刀」に似た魚体を組み合わせてつくられた。「鰶」も「さんま」と読むが、「このしろ」も「鰶」の字を使うので、注意が必要。
落語で有名な「目黒のさんま」は、鷹狩に目黒に来た殿様を登場させた滑稽噺。目黒の庶民が無造作に調理した秋刀魚をいたく気に入り、後に所望したものの、城内で丁寧に調理されたものは風味が損なわれ、「さんまは目黒に限る」と断言するというもの。
【秋刀魚の俳句】
火だるまの秋刀魚を妻が食はせけり 秋元不死男
夕空の土星に秋刀魚焼く匂ひ 川端茅舎




季語|落鰻(おちうなぎ)
晩秋の季語 落鰻
ニホンウナギは、海で生まれて川を遡上し、5年から12年くらい留まる。そして成熟が進むと、川を下り海に出て、産卵場所であるマリアナ海嶺付近まで移動する。この、産卵のために川を下る鰻のことを「落鰻」といい、「下り鰻」ともいう。これが見られるのは10月下旬ころである。
落鰻の体長は1メートル近くになり、いぶし銀に光り、「銀うなぎ」とも呼ばれる。秋に捕れる鰻のうち、胸が黄色いもの(黄うなぎ)は、越年するものがほとんどである。落鰻は餌を食べないために釣ることができず、簗で捕まえる。それを「鰻簗」といって、秋の季語になっている。
落鰻は、夏の鰻よりも脂が乗っていて美味いとされる。
▶ 関連季語 鰻(夏)
【落鰻の俳句】
虫絶えて簗に雨ふる落鰻 水原秋桜子
籠のぞく夕日明りに落鰻 秋元不死男




季語|新米(しんまい)
晩秋の季語 新米
地域や品種によって新米の出回る時期には違いがあり、九州など7月ごろから出回るところもあるが、概ね10月頃に店頭に並ぶ。JAS法では、収穫年の年末までに精白や袋詰めがされた米を、「新米」という。
俳諧歳時記栞草では、新米は秋之部九月に分類される。
新人のことを「新米」と呼ぶが、新しい前掛けをして店頭に立っていた新人を「新前掛け」と呼び、それが「新前(しんまえ)」「しんまい」に転訛し、「新米」の文字があてられたという説がある。
食糧管理法における「新米」は、11月1日から翌年の10月31日までに収穫された米を言い、収穫した翌年の10月31日を過ぎると「古米」になる。
【新米の俳句】
新米のまだ艸の実の匂ひ哉 与謝蕪村




季語|栗(くり)
晩秋の季語 栗
虚栗(みなしぐり)・栗の実(くりのみ)・丹波栗(たんばぐり)・落栗(おちぐり)
ブナ科クリ属の栗。自生する柴栗(山栗)に比べ、栽培品種(大栗)の果実は大粒。9月から10月頃に毬が割れ、中の茶色い実が現れる。通常、毬の中には3つの実が入っている。
「くり」の語源には諸説あるが、「石」を表す古語「くり」にあるとする説が有力か。
青森県の三内丸山遺跡から出土した栗のDNA分析から、縄文時代にはすでに栗の栽培が行われていたと考えられており、日本人には古くから食されてきたものである。日本書紀には、持統天皇7年に、桑や梨などとともに五穀を補助するために栽培が推奨されている。古事記には既に枕詞として「三栗」が出てくる。応神記の「蟹の歌」と「髪長比売」の項で、「中」に掛かる。
万葉集にも「栗」は3歌あるが、ひとつの長歌以外は、「三栗」として枕詞として使われている。
俳諧撰集に「虚栗」(其角1683年)があるが、これは宝井其角の「凩よ世に拾はれぬみなし栗」から来ている。虚栗を歌った土御門院の御製に、
うづもるる木の葉が下のみなしぐり かくて朽ちなん身をばをしまず
がある。
慣用句として知られるものに、「火中の栗を拾う」「桃栗三年柿八年」などがある。童謡に「大きな栗の木の下で」、昔話に「猿蟹合戦」がある。
季語|破芭蕉(やればしょう)
晩秋の季語 破芭蕉
破れ芭蕉(やぶればしょう)
芭蕉の大きな葉も、寒さで枯れ落ちる前、晩秋になると、風雨でぼろぼろになる。
松尾芭蕉 元禄5年8月「移芭蕉詞」に、名月の装いに芭蕉を移したことの記述がある。その破れた姿を「鳳鳥尾を痛ましめ」と表現し、「青扇破れて風を悲しむ」とある。そして、「ただそのかげに遊びて、風雨に破れやすきを愛するのみ」と。
▶ 関連季語 芭蕉(秋)
季語|雁(かり・がん)
晩秋の季語 雁
かりがね・初雁(はつかり)・雁渡る(かりわたる)・雁行(がんこう)
カモ目カモ科ガン亜科の水鳥の中でも、カモより大きくハクチョウよりも小さい一群をいう。マガン、カリガネ、コクガン、ハクガン、ヒシクイなどがこれに当たり、首が長く、雌雄同色の特徴を持つ。冬鳥として日本に渡ってくるが、渡りの季節に目立つため、秋の季語となる。
V字になったりなどの編隊飛行で10月頃に北方から渡って来て、沿岸部の湖沼などで生活し、3月頃まで留まる。千葉県の印旛沼などが飛来地として知られていたが、現在では温暖化や開発の影響で、太平洋側では宮城県がマガンの飛来の南限となっている。その宮城県には、国内の8割に当たる10万羽が飛来するという、ラムサール条約にも登録されている伊豆沼・内沼がある。
現在では漢語を元にした「がん」が正式名だが、室町時代以前は「かり」と呼ばれており、現代俳句でも「かり」として詠むのが一般的。なお「かり」の名は、その鳴き声を元にしていると言われる。
古くから狩猟の対象として生活に溶け込んでいた雁は、文学上にも多く登場する。漢書の蘇武伝には、捕らえられた蘇武が、手紙を雁の足に結びつけて放ったという故事があり、そこから「雁の使い」「雁の玉章」という言葉が生まれた。60首あまりの雁の歌が載る万葉集にも、遣新羅使の和歌
天飛ぶや雁を使に得てしかも 奈良の都に言告げ遣らむ
のように「雁の使い」が詠み込まれている。
また「かりがね」という種類の雁が存在するが、もとは「雁が音」で、雁の鳴き声を言い表す言葉だったことが知られており、それが次第に「雁」全般を指す言葉に変化していき、現在では特定種を指す言葉になった。万葉集にも
我が宿に鳴きし雁がね雲の上に 今夜鳴くなり国へかも行く
という詠み人知らずの和歌をはじめ、多数が歌いこまれている。
紛らわしい季語に「雁渡し」があるが、これは、雁が渡ってくる9月から10月頃に吹く北風のことである。
雁は遠くから渡ってくるため、「遠つ人」が枕詞となる。万葉集に大伴家持の和歌で、
今朝の朝明秋風寒し遠つ人 雁が来鳴かむ時近みかも
がある。
「雁字」は、雁が飛ぶ様子をいう言葉であり、「雁の使い」にも通じ「手紙」のことも指す。
【雁の俳句】
風の香の身につきそめし雁のころ 岸田稚魚
雲とへだつ友かや雁のいきわかれ 松尾芭蕉




季語|温め酒(あたためざけ・ぬくめざけ)
晩秋の季語 温め酒
中国では、重陽の日(陰暦9月9日・菊の節句)に酒を温めて飲むと病気にかからないと言われていた。日本にも、平安時代以前にそれが伝わっていたと見られ、酒を温める習慣がある。
正式には、菊の節句(陰暦9月9日)から桃の節句(陰暦3月3日)までが酒を温めて飲む期間とされ、「燗酒」で冬の季語になる。故に、「温め酒」と言った場合には、無病息災を祈って飲む、火を通した酒(湯割りではない)のことであって、限定的になる。
重陽の日に飲む酒として広く知られる「菊酒」にも通じるが、現在における「菊酒」のかたちは様々で、冷酒に菊の花を浮かべて飲むことが多い。
現在のおすすめのスタイルは、古くから「加賀の菊酒」として有名な名酒「菊姫」を燗にして頂くこと。菊理媛(くくりひめ)の座す白山から流れ出た水を使用し、伝統的な製法で醸し出した骨太な日本酒は、燗上がりして美味い。
なお、正式には「あたためざけ」と言うが、語呂が良い「ぬくめざけ」を使用することも多い。
▶ 関連季語 熱燗(冬)
【温め酒の俳句】
火美し酒美しやあたためむ 山口青邨



