季語|菊戴(きくいただき)

晩秋の季語 菊戴

菊戴スズメ目キクイタダキ科キクイタダキ属キクイタダキは、スズメよりも小さな鳥で、頭頂部の黄色い冠羽が菊を思わせることから「菊戴」と呼ばれる。本州中部以北では留鳥として、山地の針葉樹林で繁殖する。秋の季語になるのは、越冬するために暖かい平地や西日本に飛来し、目にする機会が増えるためである。
ヨーロッパの伝承では「鳥の王」とされるが、黄色い冠羽が王冠のように見えるためである。ルクセンブルクの国鳥である。
別名に「松むしり」があるが、こちらの呼び名では春の季語になる。

【菊戴の俳句】

まなこ澄む菊戴の鳴くたびに  きくちつねこ

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季語|花見酒(はなみざけ)

晩春の季語 花見酒

季語と俳句で花見酒花見の際に飲む酒を「花見酒」と言うが、特に桜を見ながら飲む酒を言う。「花見酒」の言葉自体は、酒を売って金儲けをしようとして向島に行き、結局酒を飲んだだけで終わってしまったという落語の噺から来ている。
桜の花を愛でることは平安時代から続く行事であるが、そこに酒宴が定着したのは、慶長3年3月15日(1598年4月20日)に豊臣秀吉が醍醐寺で開催した「醍醐の花見」だと言われている。

花札では、「菊に盃」と「桜に幔幕」の二枚の札が揃った時、「花見酒」という。

【花見酒の俳句】

むさし野やつよう出てきた花見酒  井原西鶴

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季語|すだち

晩秋の季語 すだち

糸瓜の季語と俳句漢字では「酢橘」と書き、代表的な「酢みかん」として、酢の代りに使用される「香酸柑橘類」に分類される。
原木は、徳島県鳴門市にあったとされ、現在でも徳島名産で、ほぼ100%を徳島県内で生産している。文献上は「大和本草」(1706年)に「リマン」として初出するが、太古からあったとの説もある。
徳島県では、「すだちくん」というイメージキャラクターを使って、全国にアピールしている。

実がなるのは8月から10月頃で、青いうちに出荷する。1980年代に全国に広く知られるようになり、現在ではハウス栽培もあり、年中入手することができる。

【すだちの俳句】

すだちしぼる手許や阿波の女なる  京極杞陽

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季語|秋刀魚(さんま)

晩秋の季語 秋刀魚

初秋刀魚(はつさんま)

秋刀魚の季語俳句ダツ目サンマ科に属する大衆魚。日本近海から北太平洋に広く分布し、群れをつくって回遊している。日本では、オホーツク海あたりを回遊していたものが、気温の低下とともに南下する。産卵前の秋は、脂が乗って非常に美味で、秋の味覚の代表的存在である。
かつては日本とロシアの一部でしか食されない魚であったが、近年では日本食ブームとともに、世界的に人気が出つつある。

語源は、細長い魚を意味する「狭真魚(さまな)」とする説がある。
漢字の「秋刀魚」は、旬の「秋」と「刀」に似た魚体を組み合わせてつくられた。「鰶」も「さんま」と読むが、「このしろ」も「鰶」の字を使うので、注意が必要。
落語で有名な「目黒のさんま」は、鷹狩に目黒に来た殿様を登場させた滑稽噺。目黒の庶民が無造作に調理した秋刀魚をいたく気に入り、後に所望したものの、城内で丁寧に調理されたものは風味が損なわれ、「さんまは目黒に限る」と断言するというもの。

【秋刀魚の俳句】

火だるまの秋刀魚を妻が食はせけり  秋元不死男
夕空の土星に秋刀魚焼く匂ひ  川端茅舎

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季語|落鰻(おちうなぎ)

晩秋の季語 落鰻

落鰻の季語俳句ニホンウナギは、海で生まれて川を遡上し、5年から12年くらい留まる。そして成熟が進むと、川を下り海に出て、産卵場所であるマリアナ海嶺付近まで移動する。この、産卵のために川を下る鰻のことを「落鰻」といい、「下り鰻」ともいう。これが見られるのは10月下旬ころである。
落鰻の体長は1メートル近くになり、いぶし銀に光り、「銀うなぎ」とも呼ばれる。秋に捕れる鰻のうち、胸が黄色いもの(黄うなぎ)は、越年するものがほとんどである。落鰻は餌を食べないために釣ることができず、簗で捕まえる。それを「鰻簗」といって、秋の季語になっている。

落鰻は、夏の鰻よりも脂が乗っていて美味いとされる。

▶ 関連季語 鰻(夏)

【落鰻の俳句】

虫絶えて簗に雨ふる落鰻  水原秋桜子
籠のぞく夕日明りに落鰻  秋元不死男

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季語|新米(しんまい)

晩秋の季語 新米

今年米(ことしまい)

新米の俳句と季語地域や品種によって新米の出回る時期には違いがあり、九州など7月ごろから出回るところもあるが、概ね10月頃に店頭に並ぶ。JAS法では、収穫年の年末までに精白や袋詰めがされた米を、「新米」という。
俳諧歳時記栞草では、新米は秋之部九月に分類される。

新人のことを「新米」と呼ぶが、新しい前掛けをして店頭に立っていた新人を「新前掛け」と呼び、それが「新前(しんまえ)」「しんまい」に転訛し、「新米」の文字があてられたという説がある。
食糧管理法における「新米」は、11月1日から翌年の10月31日までに収穫された米を言い、収穫した翌年の10月31日を過ぎると「古米」になる。

【新米の俳句】

新米のまだ艸の実の匂ひ哉  与謝蕪村

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季語|栗(くり)

晩秋の季語 

虚栗(みなしぐり)栗の実(くりのみ)丹波栗(たんばぐり)落栗(おちぐり)

栗の季語と俳句ブナ科クリ属の栗。自生する柴栗(山栗)に比べ、栽培品種(大栗)の果実は大粒。9月から10月頃に毬が割れ、中の茶色い実が現れる。通常、毬の中には3つの実が入っている。
「くり」の語源には諸説あるが、「石」を表す古語「くり」にあるとする説が有力か。

青森県の三内丸山遺跡から出土した栗のDNA分析から、縄文時代にはすでに栗の栽培が行われていたと考えられており、日本人には古くから食されてきたものである。日本書紀には、持統天皇7年に、桑や梨などとともに五穀を補助するために栽培が推奨されている。古事記には既に枕詞として「三栗」が出てくる。応神記の「蟹の歌」と「髪長比売」の項で、「中」に掛かる。
万葉集にも「栗」は3歌あるが、ひとつの長歌以外は、「三栗」として枕詞として使われている。
俳諧撰集に「虚栗」(其角1683年)があるが、これは宝井其角の「凩よ世に拾はれぬみなし栗」から来ている。虚栗を歌った土御門院の御製に、

うづもるる木の葉が下のみなしぐり かくて朽ちなん身をばをしまず

がある。
慣用句として知られるものに、「火中の栗を拾う」「桃栗三年柿八年」などがある。童謡に「大きな栗の木の下で」、昔話に「猿蟹合戦」がある。

【栗の俳句】

いがながら栗くれる人の誠かな  正岡子規

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季語|破芭蕉(やればしょう)

晩秋の季語 破芭蕉

破れ芭蕉(やぶればしょう)

破芭蕉の俳句と季語芭蕉の大きな葉も、寒さで枯れ落ちる前、晩秋になると、風雨でぼろぼろになる。

松尾芭蕉 元禄5年8月「移芭蕉詞」に、名月の装いに芭蕉を移したことの記述がある。その破れた姿を「鳳鳥尾を痛ましめ」と表現し、「青扇破れて風を悲しむ」とある。そして、「ただそのかげに遊びて、風雨に破れやすきを愛するのみ」と。

▶ 関連季語 芭蕉(秋)

【破芭蕉の俳句】

芭蕉破れ女出でゆく風の中  伊達幹生

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季語|雁(かり・がん)

晩秋の季語 

かりがね・初雁(はつかり)雁渡る(かりわたる)雁行(がんこう)

雁の俳句と季語カモ目カモ科ガン亜科の水鳥の中でも、カモより大きくハクチョウよりも小さい一群をいう。マガン、カリガネ、コクガン、ハクガン、ヒシクイなどがこれに当たり、首が長く、雌雄同色の特徴を持つ。冬鳥として日本に渡ってくるが、渡りの季節に目立つため、秋の季語となる。
V字になったりなどの編隊飛行で10月頃に北方から渡って来て、沿岸部の湖沼などで生活し、3月頃まで留まる。千葉県の印旛沼などが飛来地として知られていたが、現在では温暖化や開発の影響で、太平洋側では宮城県がマガンの飛来の南限となっている。その宮城県には、国内の8割に当たる10万羽が飛来するという、ラムサール条約にも登録されている伊豆沼・内沼がある。

現在では漢語を元にした「がん」が正式名だが、室町時代以前は「かり」と呼ばれており、現代俳句でも「かり」として詠むのが一般的。なお「かり」の名は、その鳴き声を元にしていると言われる。
古くから狩猟の対象として生活に溶け込んでいた雁は、文学上にも多く登場する。漢書の蘇武伝には、捕らえられた蘇武が、手紙を雁の足に結びつけて放ったという故事があり、そこから「雁の使い」「雁の玉章」という言葉が生まれた。60首あまりの雁の歌が載る万葉集にも、遣新羅使の和歌

天飛ぶや雁を使に得てしかも 奈良の都に言告げ遣らむ

のように「雁の使い」が詠み込まれている。
また「かりがね」という種類の雁が存在するが、もとは「雁が音」で、雁の鳴き声を言い表す言葉だったことが知られており、それが次第に「雁」全般を指す言葉に変化していき、現在では特定種を指す言葉になった。万葉集にも

我が宿に鳴きし雁がね雲の上に 今夜鳴くなり国へかも行く

という詠み人知らずの和歌をはじめ、多数が歌いこまれている。
紛らわしい季語に「雁渡し」があるが、これは、雁が渡ってくる9月から10月頃に吹く北風のことである。
雁は遠くから渡ってくるため、「遠つ人」が枕詞となる。万葉集に大伴家持の和歌で、

今朝の朝明秋風寒し遠つ人 雁が来鳴かむ時近みかも

がある。
「雁字」は、雁が飛ぶ様子をいう言葉であり、「雁の使い」にも通じ「手紙」のことも指す。

【雁の俳句】

風の香の身につきそめし雁のころ  岸田稚魚
雲とへだつ友かや雁のいきわかれ  松尾芭蕉

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季語|温め酒(あたためざけ・ぬくめざけ)

晩秋の季語 温め酒

温め酒の俳句と季語(豊国酒好:国会図書館)中国では、重陽の日(陰暦9月9日・菊の節句)に酒を温めて飲むと病気にかからないと言われていた。日本にも、平安時代以前にそれが伝わっていたと見られ、酒を温める習慣がある。
正式には、菊の節句(陰暦9月9日)から桃の節句(陰暦3月3日)までが酒を温めて飲む期間とされ、「燗酒」で冬の季語になる。故に、「温め酒」と言った場合には、無病息災を祈って飲む、火を通した酒(湯割りではない)のことであって、限定的になる。
重陽の日に飲む酒として広く知られる「菊酒」にも通じるが、現在における「菊酒」のかたちは様々で、冷酒に菊の花を浮かべて飲むことが多い。
現在のおすすめのスタイルは、古くから「加賀の菊酒」として有名な名酒「菊姫」を燗にして頂くこと。菊理媛(くくりひめ)の座す白山から流れ出た水を使用し、伝統的な製法で醸し出した骨太な日本酒は、燗上がりして美味い。

なお、正式には「あたためざけ」と言うが、語呂が良い「ぬくめざけ」を使用することも多い。

▶ 関連季語 熱燗(冬)

【温め酒の俳句】

火美し酒美しやあたためむ  山口青邨

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