季語|蛤(はまぐり・うむき・はま)

三春の季語 

蛤「ハマグリ」は、マルスダレガイ上科マルスダレガイ科ハマグリ属の二枚貝で、近縁種にチョウセンハマグリやシナハマグリもあり、見た目で区別することは難しい。中国産のシナハマグリに対し、チョウセンハマグリは「汀線蛤」と書き、在来種である。チョウセンハマグリはハマグリよりも深いところに生息し、殻に厚みがある。
日本における生息地は、北海道から九州沿岸の砂泥の中で、縄文時代から重要な食材になっていた。食材としては2月から4月の春が旬で、桑名の焼蛤は名物になっている。
二枚の貝殻がぴったりと重なり合うことから、夫婦和合の縁起物であり、結婚式には蛤のお吸物が出る。また、三月三日の雛祭に食べると、良縁を招くとされる。
「貝合わせ」という重なり合う貝殻を探し出す遊びがあるが、この貝合わせには蛤が使用された。

古くは二枚貝の総称として「はまぐり」が使用されていたと言われ、「浜の栗」が語源になっているとされる。
古事記には「大国主の神」の項に蛤貝比売(うむがいひめ)が登場し、赤貝を神格化したキサ比売(きさがいひめ)とともに、大火傷を負った大国主を蘇らせている。ここでは、赤貝の汁を絞って薬としたものを、蛤の貝殻に入れるかのような描き方がされている。

不良少年らを指して「ぐれる」と言うことがあるが、これは「はまぐり」がもとになった「ぐりはま」から来ている。「ぐりはま」とは、殻がぴったりと合わないことを指したもので、食い違いを意味する。そこから「ぐれはま」に転訛し、いつしか不良少年らを指して「ぐれる」と言うようになった。

【蛤の俳句】

蛤のぶつかり合つて沈みけり  石田勝彦

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季語|宝貝(たからがい)

三春の季語 宝貝

子安貝(こやすがい)

宝貝タカラガイ科の巻貝の総称で、熱帯から亜熱帯の海域に分布する。日本近海では約100種が知られている。子安貝と呼ぶこともあり、その場合は、大型のハチジョウダカラを指すことが多い。ハチジョウダカラの貝殻は、妊婦が持つと安産になるとされてきた。
古代中国の殷王朝をはじめ、その貝殻は、世界中で貨幣として用いられてきた。そのため、金銭に関する漢字の部首には「貝」が用いられることが多い。日本では、縄文時代に既に装身具として使用され、「竹取物語」(平安時代前期)にも、燕が産むという珍宝「燕の子安貝」として登場する。現在でも高値で取引されることがある。
俳句に詠まれるのは主にその貝殻であり、春の季語となるのは、同じく春の季語となる「貝寄風」に関連し、春は浜辺に貝殻を探す季節だからである。また、「竹取物語」に関連して、春に営巣するが生むからだという説もある。

【宝貝の俳句】

貝張りの中にまぜばや宝貝  小栗旨原

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季語|はこべ

三春の季語 はこべ

はこべら・繁縷(はこべら)・ひよこぐさ

はこべナデシコ科ハコベ属の植物で、日本には20種弱が知られているが、「はこべ」と言うと、主に「コハコベ」と「ミドリハコベ」を指す。茎が暗紫色を帯びて全体に小さいのがコハコベで、全体が緑で大きいのがミドリハコベである。「はこべら」として春の七草のひとつにもなっている。因みに「ひよこぐさ」はミドリハコベである。
花は10弁に見えるが、切れ込みが深いために正式には5弁である。道端や畑などに自生し、若い茎葉をお浸しにしたり、小鳥の餌にする。また、乾燥したものは繁縷(はんろう)という生薬にもなり、歯磨き粉などに利用した。

「はこべ」の文献上の初出は「本草和名」(918年)に「波久倍良(はくべら)」と載るもので、語源は「蔓延芽叢(はびこりめむら)」であるという説などがある。
石田波郷は「第二の故郷」と呼んだ東京都江東区に「はこべらや焦土のいろの雀ども」の俳句を詠んだ。その縁で、江東区文化コミュニティー財団が「はこべら俳句大会」を主催してきた。

【はこべの俳句】

はこべらや焦土のいろの雀ども  石田波郷

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季語|雲雀(ひばり)

三春の季語 雲雀

雲雀野(ひばりの)・告天子(こうてんし・ひばり)・叫天子(きょうてんし)・天雀(てんじゃく)

雲雀スズメ目ヒバリ科ヒバリ属ヒバリは、留鳥として全国の草原などに生息する雑食性の小鳥である。繁殖期の春になると、雄は囀りながら空高く舞い上がる。これは縄張りを主張するものであり、「揚雲雀」と呼ぶ。舞い上がった雲雀は、上空でしばらく囀った後、囀りをやめて真っすぐ降下する。これを「落雲雀」という。
万葉集には大伴家持の和歌で

うらうらに照れる春日に雲雀あがり 心悲しも独りし思へば

とあり、春愁の情を雲雀の囀りに託している。
語源には、晴れた日に上空で囀る様子を「日晴(ひはる)」と呼んだなどの説がある。「雲雀が高く昇ると晴れ」とよく言われる。「雲雀野」は、雲雀の飛び回る野原のことである。
「雲雀の口に鳴子」という諺があるが、やかましいおしゃべりがいつまでも終わらないことをいう。

【雲雀の俳句】

雨の日は雨の雲雀のあがるなり  安住敦

【雲雀の鳴き声】
鳴き声は「ピーチク、ピーチク」と聞きなすことが多い。頭に見られる冠羽が特徴的な鳥であるが、普段は寝かせており、囀る時や興奮した時に立てる。(YouTube 動画)

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季語|百千鳥(ももちどり)

三春の季語 百千鳥

囀(さえずり)

百千鳥「呼子鳥」「稲負鳥」「百千鳥」は、「古今集の三鳥」と呼び、古今伝授のもと秘伝とされた。「百千鳥」はを指すとの説もあるが、今日では、春の野山で小鳥が囀り合っていることをいう。春の野山で囀る鳥には、鶯・雲雀などがいる。小鳥の囀りは、多くの場合は繁殖活動に伴うものであり、雄の恋歌ととらえることができる。
万葉集には詠み人知らずで

わが門の榎の実もり食む百千鳥 千鳥は来れど君ぞ来まさぬ

の秋の和歌がある他、古今和歌集には詠み人知らずで

もゝ千鳥囀る春はものごとに あらたまれども我ぞ古りゆく

の和歌がある。

「囀る」は元々、外国人などが耳慣れない言葉でしゃべることを言った。

▶ 関連季語 千鳥(冬)

【百千鳥の俳句】

百千鳥鳥居立たせる山路かな  阿波野青畝

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季語|沈丁花(じんちょうげ)

三春の季語 沈丁花

沈丁(じんちょう)丁字(ちょうじ)

沈丁花ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属ジンチョウゲは、中国南部原産の常緑低木で、梔子金木犀とともに、日本の三大香木の一つに挙げられている。2月から4月頃に咲く花は、丁子と沈香に似た芳香を持つことから、「沈丁花」と名付けられた。中国では「瑞香(ずいこう)」という。
丁字や沈香と呼ばれることもあるが、「丁字」はフトモモ科フトモモ属、「沈香」はジンチョウゲ科ジンコウ属の植物を指すことが普通である。
雌雄異株で、日本で見られるもののほとんどは雄株である。花のように見えるのは萼で、花弁は持たない。

「尺素往来」(一条兼良15世紀末)に「沈丁華」とあり、室町時代までには中国から渡来していたと考えられている。現在では多くの栽培品種があり、庭木としてよく植えられている。
千利休の秘伝書とされる南方録に「花入れに入れざる花は沈丁花 太山しきみに鶏頭の花 女郎花 柘榴 河骨 金盞花 せんれい花をも嫌い事すれ」とあり、茶道では禁花の筆頭に挙げられる。その香りの強さのためである。

【沈丁花の俳句】

一歩ゆき一歩もどりて丁字の香  星野立子

▶ 春の季語になった花 見頃と名所

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季語|春塵(しゅんじん)

三春の季語 春塵

春の塵(はるのちり)春埃(はるぼこり)黄塵(こうじん)

春塵穏やかなイメージが強い春ではあるが、実際には風が強い日が多く、埃っぽい日が多い。この、春にたつ埃を「春塵」と言う。春の季語である「」は、植物の成長や春雨などによる空気中の水分の上昇のために発生するとされることが多いが、この「春塵」も重要な発生要因となっている。

なお春塵は、冬場の乾燥と春の強風が2大発生要因である。
つまり、春になると南北の温度差から、強風が吹きやすくなる。冬場に乾燥していた地域では、その強風に伴って砂埃が舞い上がりやすい。また、偏西風が強くなる春には黄沙も飛来して、埃っぽくなるのである。

空が黄色くなるほどの激しい春塵は「黄塵」とも言うが、「黄塵」はまた、世間の煩わしさのことをも指す。

【春塵の俳句】

春塵やいつひろごりし生活の輪  久保田万太郎
縦のもの横に机上の春の塵  稲畑汀子

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季語|芹(せり)

三春の季語 

芹の水(せりのみず)水芹(みずぜり)根芹(ねぜり)

芹の季語と俳句春の七草の一つで、セリ科の多年草で、「白根草(しろねぐさ)」の別名も持つ。日本原産で湿地を好み、畦などに自生する芹を「山ぜり」「野ぜり」、水田で栽培されているものを「田ぜり」、畑で栽培されているものを「畑ぜり」という。強い芳香を持つ。8月頃に、白い小さな花をたくさんつける。
旬は1月から3月で、春の七草として七草粥に使われるほか、鍋や炒め物、和え物などにも用いられる緑黄色野菜である。
同じセリ科植物に日本三大有毒植物のドクゼリがあり、形状がよく似ているので注意が必要である。

「俳諧歳時記栞草」(1851年)では、正月兼三春物に分類し、「水旱及び赤白の二種有。水芹は水中に生じて根多く、旱芹は平地に生じて根少し。赤芹は味悪くして用ひず、白芹は味美にして常用す」とある。
古くから和歌にも詠まれ、万葉集には葛城王と薛妙観命婦の間に贈答歌がある。

あかねさす昼はたたびてぬばたまの 夜の暇に摘める芹こそ  葛城王
丈夫と思へるものを太刀佩きて かにはの田居に芹ぞ摘みける  薛妙観命婦

競り合うように群生して伸びることから、語源は「競り」にあると言われている。

【芹の俳句】

我がためか鶴はみのこす芹の飯  松尾芭蕉
我事と鯲のにげし根芹かな  内藤丈草

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季語|さより

三春の季語 さより

さよりの俳句と季語ダツ目サヨリ科に属する海水魚である。漢字では「鱵」「細魚」「針魚」「水針魚」「竹魚」などと書き、「長鰯(ながいわし)」ともいう。トビウオと近縁で、下顎が長く突き出しているのが特徴である。日本全国の沿岸の海面近くに、群れて生息している。
春から秋を中心に、年中水揚げされるが、産卵直前の3月から5月にかけて獲られるものが美味い。白身の高級魚である。

細いことを表す「狭(さ)」に、群れを表す「寄り」がくっついたものが語源になったとの説がある。
「さよりのように腹黒い」という言葉があるが、さよりの腹膜が黒いために、見かけによらず腹黒い人を指す。

【さよりの俳句】

夕風にそよりともせぬさよりかな  赤尾兜子

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季語|赤貝(あかがい)

三春の季語 赤貝

赤貝の俳句と季語フネガイ目フネガイ科に属するアカガイ。血液が赤く身が赤いことから、赤貝の名がついた。「蚶」とも書く。
浅海の砂泥に潜って生活しており、比較的簡単に採取できるため、潮干狩の盛んな春の季語となる。旬は、身が太くなる冬から春。夏の産卵期になると、貝毒を発生し、身がやせて不味くなる。

古語では蚶貝(きさがい)といい、古事記の「大国主の神」の項に出てくる。大火傷を負った大国主を、蚶貝比売(きさがいひめ)と蛤貝比売(うむがいひめ)が協力して治療している。
また、貝は女陰の隠語として用いられることがあり、成長に合わせて蜆⇒蛤⇒赤貝と呼ばれることがある。

【赤貝の俳句】

赤貝のひもに終りし夜の鮓  森澄雄

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