カテゴリー: 晩春
季語|行春(ゆくはる)
季語|春蝉(はるぜみ・しゅんせん)
晩春の季語 春蝉
日本で知られる春蝉は、ハルゼミとエゾハルゼミであるが、俳句に詠まれてきたのは主にハルゼミの方で、こちらは松林に生息するため、松蝉の異名もある。そのハルゼミは、4月末から6月にかけて「ジーッ・ジーッ」と、波が押し寄せるように集団で鳴く。
【春蝉の俳句】
春蝉の声引き潮の音もなく 臼田亞浪
【ハルゼミの鳴き声】本州・四国・九州に分布する。4月末から6月にかけて、松林の比較的高いところにとまってオスが合唱する。(YouTube 動画)
【エゾハルゼミの鳴き声】北海道から九州まで生息するが、西に行くほど高山に分布する。5月から7月にかけて、ブナ林などで鳴いている。(YouTube 動画)
季語|花筏(はないかだ)
季語|桜(さくら)
晩春の季語 桜
花(はな)・花見(はなみ)・桜狩(さくらがり)・花盛り(はなざかり)・花吹雪(はなふぶき)・夕桜(ゆうざくら)
バラ科サクラ属の落葉高木。現在では「花」と言えば、一般的には「桜」を指す。エドヒガンやヤマザクラは、古くから日本に自生していた。桜から派生した季語も非常に多く、桜の散り際に見られる「花吹雪」「花筏」、桜の咲くころの空を表現した「花曇」「養花天」、花見衣装の「花衣」など、枚挙に遑がない。
また、古くから歌にうたわれ、万葉集にも約40首の歌が載せられているが、梅の119首に比べると少ないことから、古代人が愛でた花は主に梅だったと言われる。紀貫之が古今集で「安積山の歌」とともに歌の父母とした王仁の
難波津に咲くやこの花冬ごもり今は春べと咲くやこの花
の「この花」は、その季節感から梅とされるが、これは「此の花」であり、高所に花をつける「木の花」とは異なるという考えもある。
皇祖の母神コノハナサクヤビメは、「サクヤ」から「サクラ」の語源にもなったとされる神で、富士山を祀る浅間大社に鎮座する。太宰治の「富嶽百景」で、「富士には月見草がよく似合う」と謳われるが、これは、富士でかぐや姫の遺した不死の薬を焼いたとされる竹取物語を参考にしたもので、本来の富士の姿は桜である。
また、太古より日本にはサガミ信仰という、稲の神霊「サガミ」が桜の木に宿るという信仰があり、山に入って花見を行いその年の豊穣を祈っていたという説がある。これを基に、「サ神」が宿る神座(クラ)を「サクラ」とする語源説もある。いずれにせよ、桜は太古より特別な花だったことから、多くの名歌が生まれている。
世の中にたえてさくらのなかりせば春の心はのどけからまし 在原業平「古今和歌集」
ひさかたの光のどけき春の日に静心なく花の散るらむ 紀友則「古今和歌集」
花の色はうつりにけりないたづらに我が身世にふるながめせしまに 小野小町「古今和歌集」
願はくは花の下にて春死なんそのきさらぎの望月のころ 西行法師「続古今和歌集」
なお、弘仁2年(811年)に地主神社を訪れた嵯峨天皇は、「御車返しの桜」とも呼ばれるようになった桜に惚れ、これを機に、「梅」と「桜」の地位が逆転し、梅よりも桜が愛でられるようになったともいう。
▶ 関連季語 八重桜(春)
▶ 関連季語 枝垂桜(春)
▶ 関連季語 山桜(春)
▶ 関連季語 初桜(春)
▶ 関連季語 寒桜(冬)
季語|菜の花(なのはな)
季語|躑躅(つつじ)
晩春の季語 躑躅
白躑躅(しろつつじ)・山躑躅(やまつつじ)・曙躑躅(あけぼのつつじ)・平戸躑躅(ヒラドツツジ)
常緑低木。古くから園芸品種として交配され、品種が多い。山野に自生するものもあるが、ヒラドツツジは街路樹として数多く栽培され、晩春に色鮮やかな花をつける。古くからの伝統色に躑躅色(つつじいろ)があるが、これは、赤い躑躅の花のような鮮やかな赤紫色のことである。見る人の足を引き止める美しさから、躑躅を「てきちょく」と読み、躊躇の意にも用いる。
次々に咲くことから、「続き咲き木」と呼ばれたことが語源になっているという説がある。ネパールでは国花となっている。
【躑躅の俳句】
近道へ出てうれし野の躑躅哉 与謝蕪村
死ぬものは死にゆく躑躅燃えてをり 臼田亞浪