季語|楓の花(かえでのはな)

晩春の季語 楓の花

花楓(はなかえで)

楓の花一般には、葉の切れ込みが深いものを「もみじ」、浅いものを「かえで」と呼んでいるが、植物学上はモミジとカエデは同属であり、明確な区分はなく、ムクロジ科カエデ属の植物の総称として「楓」を使う。日本には約30種が自生し、代表的なものにイロハモミジがある。
秋に紅葉する植物の代表でもあるイロハモミジは、4月から5月頃に花をつけるが、若葉の勢いに押されて目立たない。雄花と両性花を持つ風媒花である。

「かえで」は、蛙の手に似た葉をもつことから「かえるで」が転訛したものだとの説がある。

【楓の花の俳句】

苔の雨かへるでの花いづこゆか  芝不器男

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季語|松の花(まつのはな)

晩春の季語 松の花

十返りの花(とかえりのはな)

松の花松は、マツ科マツ属の裸子植物の総称。尋常葉の束によって、二葉松や五葉松などがあり、日本では二葉松としてアカマツ・クロマツなど、五葉松としてゴヨウマツ・ハイマツなどが自生する。海辺によく見られるのはクロマツである。
アカマツやクロマツは4月から5月頃、ゴヨウマツは5月から6月頃、ハイマツは6月から7月頃に開花する。よって、春の季語として詠まれる「松の花」は、主にアカマツ・クロマツの花である。
花は雌雄同株で、雌花は枝の先端に、雄花は根元の方に多数寄り固まってつく。風媒花である。

松の花のことを祝賀の意を込めて「十返りの花」ともいうが、千年に一度、あるいは百年に一度花をつけて10回咲くと考えられたことに因る。「新後拾遺和歌集」慶賀に次の和歌がある。

十返りの花を今日より松が枝に ちぎるも久しよろづ代の春

【松の花の俳句】

是からも未だ幾かへりまつの花  小林一茶

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季語|李の花(すもものはな)

晩春の季語 李の花

花李(はなすもも)李花(りか)

李の花バラ科サクラ属スモモは、中国原産の落葉小高木で、日本には弥生時代に渡来したと考えられており、万葉集にも大伴家持の和歌が一首ある。

吾が園の李の花か庭に散る はだれのいまだ残りたるかも

桃に似て、桃よりも酸味が強い果実が生ることから、「酸っぱい桃」の意で「すもも」と呼ばれる。6月から8月頃に生る果実は「李(すもも)」として夏の季語になるが、3月から4月頃に咲く花は「李の花」として春の季語になる。
プラム(プルーン)として出回るものは、そのほとんどがセイヨウスモモの実である。セイヨウスモモの花も3月から4月頃に咲き、形も似ている。

【李の花の俳句】

花李昨日が見えて明日が見ゆ  森澄雄

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季語|山吹(やまぶき)

晩春の季語 山吹

白山吹(しろやまぶき)・八重山吹(やえやまぶき)・濃山吹(こやまぶき)・葉山吹(はやまぶき)

山吹バラ科ヤマブキ属ヤマブキは、日本原産の落葉低木で、里山の渓谷など湿気が多いところに育つ。4月から5月頃に山吹色とも呼ばれる、鮮やかな黄色の花をつける。
白花のシロバナヤマブキもあり、「白山吹」として春の季語となる。近縁種にバラ科シロヤマブキ属シロヤマブキもあるが、これも春の季語「白山吹」として差し支えない。
「山吹」の名は、風に揺れる様を「山振(やまぶり)」と呼び、それが転訛したとの説や、春に山を彩る様を「山春黄(やまはるき)」と呼び、それが転訛したとの説などがある。

山吹は万葉集にも多く歌われ、厚見王には

蛙鳴く甘南備川に影見えて 今か咲くらむ山吹の花

がある。和歌では、「蛙(かわず)」とともに歌われることが多い。
後拾遺和歌集に兼明親王の和歌で

七重八重花は咲けども山吹の 実のひとつだになきぞあやしき

があり、後に太田道灌の説話「山吹の娘」に、「七重八重花は咲けども山吹の 実のひとつだになきぞ悲しき」として登場する。雨に遭った道灌は、地元の娘に蓑を請うたが、娘は山吹の一枝を差し出すのみ。道灌は怒りを覚えたが、後に古歌を引用して「蓑(実の)」がないことを言っていったのだと知って恥じ入り、和歌を勉強したという。
この和歌により、山吹は実をつけないと考えられることがあるが、秋に実を結ぶ。ただし、ヤエヤマブキなどの八重咲品種は実をつけない。

イギリスでは「ジャパニーズ・ローズ」と呼ばれることがある。「山吹」は、大判小判の金貨や黄金を指す俗語でもある。

【山吹の俳句】

ほろほろと山吹散るか滝の音  松尾芭蕉
山吹や昼をあざむく夜半の月  前田普羅

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季語|山査子の花(さんざしのはな)

晩春の季語 山査子の花

山査子の花山査子は、バラ科サンザシ属の落葉低木。1734年に中国から小石川御薬園に持ち込まれ、果実を消化系の生薬として用いたが、庭木や盆栽としても栽培されるようになった。刺を持つ植物で、4月から5月頃に芳香のある白い花をつける。
漢名の「野山査」が、日本では「山査」となり、果実を表す「子」をつけて「山査子(さんざし)」と呼ばれるようになった。

【山査子の花の俳句】

さんざしの花に来てゐる鳥の午後  稲畑汀子

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季語|林檎の花(りんごのはな)

晩春の季語 林檎の花

花林檎(はなりんご)

林檎の花林檎は、バラ科リンゴ属の落葉高木の総称で、現在では主にセイヨウリンゴ(西洋林檎)を指す。西洋林檎は、アジア西部が原産で、江戸時代には伝来していたが、1871年にアメリカから導入したものが全国に配布され、普及のきっかけとなった。平安時代には、中国から鑑賞目的で林檎が持ち込まれたが、これは、西洋林檎の普及とともにワリンゴ(和林檎)と呼ばれるようになった。
西洋林檎は多くの品種が開発され、「ふじ」「紅玉」などがある。4月から5月頃に花が咲く。花はに似ているが、葉の方が先に出る。林檎の花は、確実に受粉させるために、人工授粉やマメコバチによる受粉が行われている。

【林檎の花の俳句】

人親し林檎の花は枝低く  山口青邨

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季語|小粉団の花(こでまりのはな)

晩春の季語 小粉団の花

団子花(だんごばな)

小粉団の花バラ科シモツケ属コデマリは、中国原産の落葉低木で、古くに渡来していたが、江戸時代に「こでまり」と名付けられて、観賞用として親しまれるようになった。4月から5月頃に見られる小さな鞠状の花が、「こでまり」の語源になっている。花が団子状になることから「団子花」の別名もあるが、新年の季語となる繭玉も「団子花」と呼ぶので注意を要する。
俳諧歳時記栞草(1851年)では春之部三月に分類され、「小粉団花(こでまり)」とある。

【小粉団の花の俳句】

池に降る雨こでまりを濡らす雨  岸風三樓

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季語|木苺の花(きいちごのはな)

晩春の季語 木苺の花

木苺の花ラズベリーやブラックベリーなどの、バラ科キイチゴ属の花のこと。低木であるが、木質化した茎を持つために「木苺」という。日本ではモミジイチゴ(紅葉苺)や、カジイチゴ(構苺)などが自生する。
東日本に分布するモミジイチゴは、西日本に分布するナガバモミジイチゴの変種で、3月から4月頃に花をつける。日当たりの良い山地の斜面に多く、棘がある。5月頃に生る実は食べられる。モミジイチゴの名は、葉がイロハモミジに似ているところから来ている。

【木苺の花の俳句】

木苺の花の日ぐれを持てあます  飯島晴子

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季語|満天星の花(どうだんのはな)

晩春の季語 満天星の花

満天星躑躅(どうだんつつじ)

満天星の花ツツジ科ドウダンツツジ属ドウダンツツジは、西日本の岩山に自生する落葉広葉樹で、4月頃に釣鐘型の白い花をつける。現在では庭木としても親しまれている。
同属には10種が知られており、ドウダンツツジやサラサドウダンなど、その内の4種が日本に自生している。しかし、サラサドウダンの花期は6月頃であり、夏の花となる。
花のつき方が、宮中で用いられた結び灯台の脚部の枝分かれに似ていることから「とうだいつつじ」と呼ばれ、「どうだんつつじ」に転訛したと言われている。11月頃に見られる紅葉も美しい。

【満天星の花の俳句】

満天星の花より蜂の大きけれ  阿部みどり女

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季語|海棠(かいどう)

晩春の季語 海棠

花海棠(はなかいどう)・垂糸海棠(すいしかいどう)・眠れる花(ねむれるはな)・睡花(すいか)

海棠海棠は、バラ科リンゴ属ハナカイドウのことで、4月頃に桜に似た花を下向きにつける。中国原産で、江戸時代初期に渡来。室町時代に渡来した同属のミカイドウ(実海棠)に対して、花を愛でるために「花海棠」とも呼ばれる。
「海棠」は中国名で、日本ではこれを音読みして「かいどう」と呼んでいる。「棠」は山梨を表す漢字で、「海棠」は海辺に生る山梨の意を持つ。
俳諧歳時記栞草(1851年)では春之部三月に分類し、唐の明皇(玄宗皇帝)が楊貴妃を呼んだ時、酒に酔って眠たげな姿を見て「海棠の睡り未だ足らずのみ」と評したことが記されている。このことにより、「眠れる花」とも呼ばれる。
久米三汀の忌日(3月1日)は、その風格を偲び、石塚友二が「海棠忌」とした。

【海棠の俳句】

海棠のしたたる雨となりしはや  福永耕二

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