カテゴリー: 晩春
季語|松の花(まつのはな)
晩春の季語 松の花
十返りの花(とかえりのはな)
松は、マツ科マツ属の裸子植物の総称。尋常葉の束によって、二葉松や五葉松などがあり、日本では二葉松としてアカマツ・クロマツなど、五葉松としてゴヨウマツ・ハイマツなどが自生する。海辺によく見られるのはクロマツである。
アカマツやクロマツは4月から5月頃、ゴヨウマツは5月から6月頃、ハイマツは6月から7月頃に開花する。よって、春の季語として詠まれる「松の花」は、主にアカマツ・クロマツの花である。
花は雌雄同株で、雌花は枝の先端に、雄花は根元の方に多数寄り固まってつく。風媒花である。
松の花のことを祝賀の意を込めて「十返りの花」ともいうが、千年に一度、あるいは百年に一度花をつけて10回咲くと考えられたことに因る。「新後拾遺和歌集」慶賀に次の和歌がある。
十返りの花を今日より松が枝に ちぎるも久しよろづ代の春
【松の花の俳句】
是からも未だ幾かへりまつの花 小林一茶
季語|李の花(すもものはな)
晩春の季語 李の花
バラ科サクラ属スモモは、中国原産の落葉小高木で、日本には弥生時代に渡来したと考えられており、万葉集にも大伴家持の和歌が一首ある。
吾が園の李の花か庭に散る はだれのいまだ残りたるかも
桃に似て、桃よりも酸味が強い果実が生ることから、「酸っぱい桃」の意で「すもも」と呼ばれる。6月から8月頃に生る果実は「李(すもも)」として夏の季語になるが、3月から4月頃に咲く花は「李の花」として春の季語になる。
プラム(プルーン)として出回るものは、そのほとんどがセイヨウスモモの実である。セイヨウスモモの花も3月から4月頃に咲き、形も似ている。
【李の花の俳句】
花李昨日が見えて明日が見ゆ 森澄雄
季語|山吹(やまぶき)
晩春の季語 山吹
白山吹(しろやまぶき)・八重山吹(やえやまぶき)・濃山吹(こやまぶき)・葉山吹(はやまぶき)
バラ科ヤマブキ属ヤマブキは、日本原産の落葉低木で、里山の渓谷など湿気が多いところに育つ。4月から5月頃に山吹色とも呼ばれる、鮮やかな黄色の花をつける。
白花のシロバナヤマブキもあり、「白山吹」として春の季語となる。近縁種にバラ科シロヤマブキ属シロヤマブキもあるが、これも春の季語「白山吹」として差し支えない。
「山吹」の名は、風に揺れる様を「山振(やまぶり)」と呼び、それが転訛したとの説や、春に山を彩る様を「山春黄(やまはるき)」と呼び、それが転訛したとの説などがある。
山吹は万葉集にも多く歌われ、厚見王には
蛙鳴く甘南備川に影見えて 今か咲くらむ山吹の花
がある。和歌では、「蛙(かわず)」とともに歌われることが多い。
後拾遺和歌集に兼明親王の和歌で
七重八重花は咲けども山吹の 実のひとつだになきぞあやしき
があり、後に太田道灌の説話「山吹の娘」に、「七重八重花は咲けども山吹の 実のひとつだになきぞ悲しき」として登場する。雨に遭った道灌は、地元の娘に蓑を請うたが、娘は山吹の一枝を差し出すのみ。道灌は怒りを覚えたが、後に古歌を引用して「蓑(実の)」がないことを言っていったのだと知って恥じ入り、和歌を勉強したという。
この和歌により、山吹は実をつけないと考えられることがあるが、秋に実を結ぶ。ただし、ヤエヤマブキなどの八重咲品種は実をつけない。
イギリスでは「ジャパニーズ・ローズ」と呼ばれることがある。「山吹」は、大判小判の金貨や黄金を指す俗語でもある。
【山吹の俳句】
ほろほろと山吹散るか滝の音 松尾芭蕉
山吹や昼をあざむく夜半の月 前田普羅
季語|山査子の花(さんざしのはな)
季語|林檎の花(りんごのはな)
晩春の季語 林檎の花
林檎は、バラ科リンゴ属の落葉高木の総称で、現在では主にセイヨウリンゴ(西洋林檎)を指す。西洋林檎は、アジア西部が原産で、江戸時代には伝来していたが、1871年にアメリカから導入したものが全国に配布され、普及のきっかけとなった。平安時代には、中国から鑑賞目的で林檎が持ち込まれたが、これは、西洋林檎の普及とともにワリンゴ(和林檎)と呼ばれるようになった。
西洋林檎は多くの品種が開発され、「ふじ」「紅玉」などがある。4月から5月頃に花が咲く。花は桜に似ているが、葉の方が先に出る。林檎の花は、確実に受粉させるために、人工授粉やマメコバチによる受粉が行われている。
【林檎の花の俳句】
人親し林檎の花は枝低く 山口青邨
季語|小粉団の花(こでまりのはな)
季語|木苺の花(きいちごのはな)
季語|満天星の花(どうだんのはな)
晩春の季語 満天星の花
満天星躑躅(どうだんつつじ)
ツツジ科ドウダンツツジ属ドウダンツツジは、西日本の岩山に自生する落葉広葉樹で、4月頃に釣鐘型の白い花をつける。現在では庭木としても親しまれている。
同属には10種が知られており、ドウダンツツジやサラサドウダンなど、その内の4種が日本に自生している。しかし、サラサドウダンの花期は6月頃であり、夏の花となる。花のつき方が、宮中で用いられた結び灯台の脚部の枝分かれに似ていることから「とうだいつつじ」と呼ばれ、「どうだんつつじ」に転訛したと言われている。11月頃に見られる紅葉も美しい。
【満天星の花の俳句】
満天星の花より蜂の大きけれ 阿部みどり女
季語|海棠(かいどう)
晩春の季語 海棠
花海棠(はなかいどう)・垂糸海棠(すいしかいどう)・眠れる花(ねむれるはな)・睡花(すいか)
海棠は、バラ科リンゴ属ハナカイドウのことで、4月頃に桜に似た花を下向きにつける。中国原産で、江戸時代初期に渡来。室町時代に渡来した同属のミカイドウ(実海棠)に対して、花を愛でるために「花海棠」とも呼ばれる。
「海棠」は中国名で、日本ではこれを音読みして「かいどう」と呼んでいる。「棠」は山梨を表す漢字で、「海棠」は海辺に生る山梨の意を持つ。
俳諧歳時記栞草(1851年)では春之部三月に分類し、唐の明皇(玄宗皇帝)が楊貴妃を呼んだ時、酒に酔って眠たげな姿を見て「海棠の睡り未だ足らずのみ」と評したことが記されている。このことにより、「眠れる花」とも呼ばれる。
久米三汀の忌日(3月1日)は、その風格を偲び、石塚友二が「海棠忌」とした。
【海棠の俳句】
海棠のしたたる雨となりしはや 福永耕二