俳句

季語|夏痩(なつやせ)

三夏の季語 夏痩

夏負け(なつまけ)夏負(なつまけ)

夏痩夏の暑さは、体力を奪う。その結果、食欲がなくなって痩せることを「夏痩」という。
直接的な原因には、脱水や、冷たいものを食すことによる消化不良などが挙げられている。反対に、暑さのために空調の効いた部屋で動かなかったり、冷たいものを食べすぎたりするために「夏太り」する者も多いと言われている。

万葉集には、大友家持の和歌で、「痩せたる人を咲へる歌」として

石麻呂に我もの申す夏痩せに よしというものぞ鰻とり食せ

があり、古くから夏バテ対策にが食されていたことが窺える。

【夏痩の俳句】

夏痩や雷嫌ひの乱れ髪  小林一茶

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季語|夜鷹(よたか)

三夏の季語 夜鷹

蚊吸鳥(かすいどり)

夜鷹ヨタカ目ヨタカ科ヨタカ属の鳥。日本には、インドネシアなどで越冬していたものが夏鳥として飛来し、繁殖活動を行う。
夜行性で、昼間は木に擬態して休む。大きな口を開けて飛翔し、主に昆虫を食す。
夜に活動し、鷹のような羽毛を持つところから、「夜鷹」と名付けられたと考えられる。宮沢賢治の童話に「よだかの星」があるが、醜い鳥として描かれている。

江戸時代に、辻に立って商売をした最下層の遊女も、「夜鷹」と呼ばれた。これは、夜行性のヨタカに掛けてつけられた呼び名である。また、夜間に屋台で商売をした蕎麦屋は、「夜鷹蕎麦」と呼ばれた。夜鷹蕎麦は冬の季語になっている。

【夜鷹の俳句】

夜鷹鳴き月またくらしやぶれがさ  水原秋桜子

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季語|ハンカチ

三夏の季語 ハンカチ

ハンケチ汗拭(あせぬぐい)

ハンカチ英語の「handkerchief」のことで、日本ではハンカチーフ、それを略してハンカチ、ハンケチという。
紀元前3000年頃の古代エジプトには、既にハンカチは存在していたと考えられている。ハンカチが正方形になったのは、マリー・アントワネットの提言によると言われている。

刺繍が施された四角いハンカチが日本で普及したのは、明治時代に入ってからである。それまでは、汗拭という小さな手拭が、ハンカチの役目を担っていた。
ハンカチはファッション的要素も大きい生活グッズであるが、俳句の世界では、汗を拭くための道具と見なし、夏の季語になる。

近年では、ハンカチを取り上げた芸術作品も多く、映画「幸福の黄色いハンカチ」や1976年のヒット曲「木綿のハンカチーフ」は特によく知られている。

【ハンカチの俳句】

たはむれにハンカチ振つて別れけり  星野立子

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季語|鳧(けり)

三夏の季語 

水札(けり)

鳧チドリ目チドリ科タゲリ属ケリ。日本で春夏に繁殖する。中部以西には留鳥として生息するものが多いが、東北や関東のものは夏鳥として東南アジアなどから渡ってくるものが多い。水田や湿地などで、昆虫や魚、動物などを捕食して生活する。警戒心が強く、カラスなどの外敵が近付くと、鳴きながら威嚇する。この時の鳴き声が「ケリッ」と聞こえることから、「ケリ」の名がついた。
俳諧歳時記栞草(1851年)には夏之部五月に「鳧羹(けりのあつもの)・鳧炙(けりのあぶりもの)」があるが、今日の歳時記にある「梟の羹(ふくろうのあつもの)」である。古代中国では端午の節句に、これを悪鳥として、羹や炙にして百官に下して食べたという。

同属にタゲリという冠羽を持った「田鳧」があるが、こちらは冬鳥として飛来し、冬の季語になる。
「けりをつける」の「けり」は、助動詞から来ているが、「鳧を付ける」と書くこともある。

【鳧の俳句】

水札の子の浅田に渡る夕かな  久村暁台

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季語|萬緑(ばんりょく)

三夏の季語 萬緑

萬緑一面のみどりを指す言葉で、1939年(昭和14年)に詠まれた中村草田男の代表的な俳句「萬緑の中や吾子の歯生え初むる」から生まれた夏の季語。元になっているのは、北宋の王安石の詠柘榴詩にある「万緑叢中紅一点」である。現在では、多くの男性の中に一人だけ女性がいることをいい、一つだけ目立つものがまじっていることをいう慣用句になっている。
草田男は、1946年10月に創刊した俳誌にも「萬緑」の名をつけた(2017年廃刊)。

【萬緑の俳句】

萬緑の中や吾子の歯生え初むる  中村草田男

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季語|駒鳥(こまどり・こま)

三夏の季語 駒鳥

駒鳥駒鳥は、鳥綱スズメ目ヒタキ科コマドリ属に分類される。夏鳥として中華人民共和国南部から4月頃に飛来してくるコマドリと、伊豆諸島や種子島・屋久島に生息するタネコマドリがいる。亜高山帯の渓谷の針葉樹林などで、昆虫などを捕食しながら生活し、春から初夏にかけて繁殖活動を行う。
ヨーロッパには「ヨーロッパコマドリ」がおり、最も親しまれている鳥の一種となっている。
ウグイスやオオルリとともに、日本三鳴鳥に挙げられる。鳴き声が馬のいななきに似ているところから「駒鳥」と命名された。

俳諧歳時記栞草(1851年)では、春之部「兼三春物」に分類する。現代でも、歳時記によっては春に分類したり夏に分類したりする。

【駒鳥の俳句】

駒鳥の声ころびけり岩の上  斯波園女

【駒鳥の鳴き声】
笹が下草として茂った亜高山帯の森林などに生息しており、目にする機会は少ない。美しい声で鳴き、日本三鳴鳥に挙げられている。(YouTube 動画)

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季語|鳰浮巣(におうきす)

三夏の季語 鳰浮巣

鳰の巣(におのす)

鳰浮巣カイツブリ目カイツブリ科カイツブリ属カイツブリは、日本では4月から7月頃が繁殖期となり、水辺に水生植物の葉や茎などで巣を作る。水生植物などに絡めて漂わないようにしてあるが、水上に浮いているように見えることから、「鳰浮巣」と呼ぶ。そこに、5個前後の卵を産み、約3週間、雌雄交代で抱卵する。雛は、孵化後約1週間で、巣から出て泳ぐようになる。

和歌では、寄る辺ない不安定なものとして歌われ、新千載和歌集(1359年)には式子内親王の和歌で

はかなしや風にたゞよふ波の上に 鳰の浮巣のさても世をふる

がある。

▶ 関連季語 鳰(冬)

【鳰浮巣の俳句】

鳰の巣の一本草をたのみ哉  小林一茶

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季語|蛾(が)

三夏の季語 

蛾鱗翅目に分類される昆虫の内、(アゲハチョウ上科・セセリチョウ上科・シャクガモドキ上科)を除いた分類群の総称であり、蝶と蛾の間には明確な区分はない。
日本では、「蛾」とよばれるものは約6000種が知られ、樹木害虫のイラガ、繭から絹を採るカイコ、幼虫は尺取虫と呼ばれるシャクガ、大きく美しい紋様を持つヤママユ、飛んで火に入る夏の虫の代表種であるヒトリガなどがある。

夜間に活動すると思われがちであるが、種によってその生態は様々であり、日中飛行するものもある。幼虫が毒針毛を持つチャドクガなどの種類もあるが、成虫では毒を持たない。ただし、幼虫時代の毒針毛が体表に付着していることもあり、アレルギー反応を起こすことがある。
「ガ」の名が定着したのは室町時代頃だとの説があり、万葉集などでは「蛾」と書いて「ひむし」と読ませる。「火虫」である。

【蛾の俳句】

うらがへし又うらがへし大蛾掃く  前田普羅

▶ 俳句の季節「蛾は美しい」

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季語|常夏(とこなつ)

三夏の季語 常夏

常夏今日では、セキチクを改良した園芸種であるナデシコ科ナデシコ属トコナツを指すことが多い。江戸時代に開発され、多くの品種があり、年中咲かせることができる。
かつては、撫子のことを「常夏」と呼び、俳諧歳時記栞草(1851年)では夏之部に分類し、撫子の条に記されている。源氏物語第26帖は「常夏」であるが、これは、光源氏が玉鬘を常夏(撫子)に擬えて歌った和歌

なでしこのとこなつかしき色を見ば もとの垣根を人や尋ねむ

に因る。

【常夏の俳句】

常夏に切り割る川原川原かな  小林一茶

▶ 俳句の季節「大和撫子の季節」

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季語|雛芥子(ひなげし)

三夏の季語 雛芥子

雛罌粟(ひなげし)虞美人草(ぐびじんそう)ポピー(ぽぴー)

雛芥子の季語と俳句 ケシ科ケシ属ヒナゲシ。4月から7月頃に花が咲く。ヨーロッパ原産で、フランスやポーランドでは国花ともなっている。
初夏の季語になる「芥子の花」で知られる「芥子」は麻薬の原料となるため栽培が禁止されているが、「雛芥子」は栽培が許されている。芥子に比べると華奢で、花が小さいことから「雛芥子」と名付けられた。
また、「四面楚歌」が生まれた故事において、項羽の愛人であった虞は自害したが、その血が「虞美人草」になったという伝説があり、「虞美人草」とも呼ぶ。
フランス語では「コクリコ」と言う。英語では、麻薬となる芥子は「オピウムポピー」と言うが、雛芥子は「シャーレイポピー」と言う。単に「ポピー」と呼ぶ場合、大概は「雛芥子」を指す。
俳諧歳時記栞草(1851年)には、「虞美人草」として秋之部八月に分類されている。ここにおける「虞美人草」は、「紅蕉」を指すものか「雛芥子」を指すものか定かではない。「是は四五月花をひらく者也」と説明されている箇所があり、これを見れば夏(旧暦4月5月)に咲く「雛芥子」であるが、何故か秋に分類されている。

よく栽培されているのはアイスランドポピーで、黄・橙・白の花をつける。1759年に北極探検隊によってシベリアで発見された種で、シベリアヒナゲシとも呼ぶ。
近年では4月から5月頃になると、道端などに橙色の花を咲かせる「長実雛罌粟(ながみひなげし)」をよく見かけるようになった。1961年に東京都で初めて確認されてから、全国に爆発的に広がっていき、生態系への影響が懸念されている。

夏目漱石の小説に「虞美人草」(1907年)がある。

【雛芥子の俳句】

陽に倦みて雛罌粟いよよくれなゐに  木下夕爾

▶ 夏の季語になった花 見頃と名所

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