季語|蚊(か)

三夏の季語 

藪蚊(やぶか)蚊柱(かばしら)

蚊の季語(和田三造画)ハエと同じ双翅目に属し、2枚の翅を持つカ科の昆虫。最も普通に見られるアカイエカや、一般にヤブカと呼ばれるヒトスジシマカなど、日本では約100種が確認されている。
蚊の餌は植物の汁であり、血液ではない。卵をつくるための蛋白質を得るために、雌のみが吸血する。産卵は水系で行われ、幼虫は水生で、ボウフラと呼ばれる。オニボウフラと呼ばれる蛹も水中に見られ、餌はとらないものの、他の昆虫の蛹に比べて活発に動く。因みに「ぼうふら」も夏の季語。

蚊に刺されると、蚊の唾液が体内に入り込むことでアレルギー反応が起こり、かゆみを感じる。またその際に、伝染病にかかる可能性もあり、媒介する伝染病に、日本脳炎をはじめ、マラリアや黄熱病、デング熱などが知られている。

一般的には屋外で繁殖するために、蚊は、気温の上昇する夏季によく見られる。しかしチカイエカは、浄化槽などの屋内環境で発生するために年中見られ、温水の使用頻度が高くなる冬場に大発生することがある。
蚊の活動時間帯は種類により異なり、アカイエカは夜、ヒトスジシマカは昼に活動が活発になる。

蚊柱は、蚊の繁殖活動に伴う集団飛行であり、雄の集団に雌が入り込んできて交尾する。アカイエカなども蚊柱をつくるが、河畔などにふつうに見られる蚊柱は、同じ双翅目でもユスリカ科に属す、血を吸わない種類の蚊によるもの。

徒然草第十九段には、「六月の頃、あやしき家に夕顔の白く見えて、蚊遣火ふすぶるもあはれなり。」とある。万葉集には詠み人知らずで

あしひきの山田守る翁が置く蚊火の 下焦れのみ吾が恋ひ居らむ

がある。
「蚊」の文字は、人の肌に文するところから来ている。日本に伝来し、「蚊」は「ブンブン」といって飛び始めた。
「カ」の名は、「やかまし」からきたとか、遠方のものを指す「彼(か)」からきたとか、様々な説がある。

【蚊の俳句】

たたかれて昼の蚊をはく木魚かな  夏目漱石

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季語|ビール(びーる)

三夏の季語 ビール

麦酒(びーる・ばくしゅ)ビヤホール(びやほーる)

ビールの俳句と季語麦芽をビール酵母で発酵させたビール。上面発酵のエールと下面発酵のラガーに大別され、日本では、ラガーの一種「ピルスナー」が主流である。

ビールは古くから飲まれていたことが知られており、紀元前4000年には、シュメール人によって既に作られていた。11世紀ドイツでは、風味付けと発酵を安定させるためにホップが用いられるようになった。
日本でも江戸時代にはその存在が知られており、長崎の出島で醸造も行われていた。明治時代になると、日本人の手で盛んにつくられるようになり、1876年には官営ビール工場も設立された。現代でもサッポロビールとして、その血脈を受け継ぐ。
またキリンビールは、1870年に日本で初めて大衆向けビールを醸造販売した「スプリング・バレー・ブルワリー」が元となっている。
アサヒビールは、1889年に設立された大阪麦酒を前身とする。アサヒビールの大阪麦酒・サッポロビールの札幌麦酒・エビスビールの日本麦酒が合併して、1906年に「大日本麦酒」が設立された。1949年には、サッポロビールとアサヒビールに再分割され、エビスビールはサッポロビールが販売するようになった。

現在では、ビールに味わいを似せた「発泡酒」や「第三のビール」が販売されており、価格などのメリットから、ビールのシェアを奪っている。

1999年、地ビールの日選考委員会は「地ビールの日・ビールの日」を4月23日に定め、2000年から記念日となった。1516年のこの日は、粗悪品を駆逐するために、ドイツで「ビール」の定義付けがなされた日である。日本のビールの日は、ドイツの「ビールの日」から来ている。
ビールの日は春にあたるが、最も消費量が多くなるのが夏場であり、ビールは夏の季語となっている。

【ビールの俳句】

ビール酌む男ごころを灯に曝す  三橋鷹女

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季語|夏の山(なつのやま)

三夏の季語 夏の山

夏山(なつやま)夏嶺(かれい)夏嶽(なつだけ)青嶺(あおね)

夏山の季語夏山とは、高山というよりもむしろ、草木の青々と茂った山のことを言う。長期休暇における登山の対象となる山。
2016年には、8月11日を「山の日」として、国民の祝日に制定した。なお、富士山をはじめとして日本各地の山で、7月1日に山開きが執り行われるが、これは修験道の名残である。

【夏の山の俳句】

夏山に足駄を拝む首途哉  松尾芭蕉
大木を見てもどりけり夏の山  高桑闌更

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季語|蛇(へび・くちなわ・じゃ)

三夏の季語 

季語と蛇の俳句トカゲと同じ有鱗目に属す爬虫類で、ヘビ亜目に分類される。日本には36種類が生息し、ニホンマムシ・ヤマカガシ・ハブなどの毒蛇や、最大2メートルにもなるアオダイショウ、縦縞が特徴的なシマヘビなどがよく知られている。
蛇は、トカゲから進化したと考えられており、足の痕跡が見られるものもある。ヤコブソン器官という嗅覚を司る器官があり、そこに匂いの粒子を送りこむために、蛇は舌を出し入れする。

冬眠する蛇は、「蛇穴に入る」が秋の季語に、「蛇穴を出づ」が春の季語になっている。冬眠のタイミングは種類によって異なるが、マムシでは、11月頃から3月頃が冬眠期間である。

古事記には、「虵(へみ)」の記述が2か所にある。ひとつは、スサノオがオオクニヌシを蛇の室に入れて試練を与える箇所。もうひとつは、垂仁天皇が、首に錦色の蛇がまとわりつく夢を見たという箇所。これは、反逆の予知夢であった。
さらに日本神話をさかのぼれば、ヤマタノオロチが登場するが、「オロチ」とは大蛇のことである。垂仁記の「本牟智和気の御子」の項には、御子の結婚相手が「虵(をろち)」だったという話が出てくる。
日本書紀(崇神紀)には、奈良の大神神社の御祭神・大物主が小蛇であったことが記されている。それに驚いた妻の倭迹迹日百襲姫命(やまとととびももそひめのみこと)は、箸で陰を突いて死に、箸墓に葬られた。

世界を見ても、創世記のアダムとイブの話に見られるように、古くから重要な場面に登場し、「生と死の象徴」「豊穣の象徴」「神の使い」などとして扱われている。
「蛇」からくる慣用句なども多く「蛇に睨まれた蛙」「蛇行」「蛇足」などがある。

【蛇の俳句】

形而上学二匹の蛇が錆はじむ  鳴戸奈菜

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季語|蝸牛(かたつむり・かたつぶり・かぎゅう・でんでんむし)

三夏の季語 蝸牛

でで虫(ででむし)

蝸牛の俳句と季語陸に棲む巻貝の通称で、「マイマイ」などとも呼ぶ。殻のない種類は「ナメクジ」と呼ぶ。
日本では500以上に及ぶ種類の蝸牛が確認されており、その内で普通に見られるのはミスジマイマイなどである。植物を食して生活しているが、殻を形成するカルシウムを補給するために、湿ったコンクリートに集合する姿なども見られる。

殻の巻き方は遺伝子によって決まる。日本で見られる蝸牛の大部分は右巻き。
雌雄同体のものが大多数。生殖器に恋矢(れんし)と呼ばれるものを持つ種類は、交尾の際にこれを相手に突き刺す。突き刺された相手の寿命は縮む。

フランス料理に使われるエスカルゴは、リンゴマイマイ科に属する蝸牛の一種。日本にも、蝸牛を食べたり薬にしたりする文化があったが、広東住血線虫が寄生していたりなどして、人体に悪影響を及ぼす危険性もあるため、慎重を要する。

「かたつむり」の語源は、「笠」と、巻貝を意味する「つぶり」から来る「かさつぶり」との説がある。
寂蓮法師に

牛の子にふまるな庭のかたつぶり 角ありとても身をなたのみそ

との、過信を戒める歌がある。

【蝸牛の俳句】

足元へいつ来たりしよ蝸牛  小林一茶
かたつぶりけさとも同じあり所  黒柳召波

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季語|虹(にじ)

三夏の季語 

虹の俳句と季語太陽が低い位置にあるほど大きな虹がかかり、夕立の後に素晴らしい虹を見ることが多いために、夏の季語となっている。
1本の虹が見える時、日本では、外側から赤・橙・黄・緑・水・青・紫の7色が数え上げられる。アメリカでは、水色を除く6色を数える。

キリスト教では「神との契約」とされる虹。日本神話では、天地の初めに立った「天の浮橋」を虹と見る説もあり、虹は神々が降りてくる階段ともとらえられた。故に、中世には虹の立った場所に市を立てて商売をしたと言われる。
虹は、和洋を問わず縁起のいいものとされるが、霧の時などに見られる白虹は、日本では兵乱の兆しとされ、縁起が悪いとされた。

万葉集には、詠み人知らずで一首だけ虹の歌があり、原文では「努自(のじ)」と表現されている。

伊香保ろのやさかのゐでに立つ虹の 現はろまでもさ寝をさ寝てば

世界各地に、虹を巨大な蛇と見なす伝承があり、古代中国では虹蜺と言った。虹蜺は二重虹で、内側の主虹は虹(こう)という名の雄、外側の副虹は蜺(げい)という名の雌である。
「にじ」の語源は、海蛇などの蛇を指す「なぎ」にあると考えられている。

【虹の俳句】

寵愛の鳥を殺めし虹の中  寺井谷子

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季語|水馬(あめんぼ・すいば・みずすまし)

三夏の季語 水馬

あめんぼう水すまし(みずすまし)

水馬の俳句と季語カメムシの仲間、半翅目に属す。足先の毛が水を撥くことで、水面に浮かぶことができる。
水蜘蛛・川蜘蛛とも呼ぶ。日本には25種ほどが生息しており、最大のオオアメンボの体長は30mmに迫る。普通に「アメンボ」と言った場合、アメンボ亜科のナミアメンボを指す。これは体長約15mm。

雨後の水たまりによく見られることから、語源は「雨坊」と考えられがちであるが、臭腺から発する飴のような臭いからきた「飴坊」にあると言われる。漢字表記においても「雨坊」は見えないが、「飴坊」「飴棒」は存在する。
古くはミズスマシと呼んだ可能性もあり、ミズスマシと呼ぶ地方が現在も残っている。現代の分類上、ミズスマシと言えば、水面を滑るように泳ぐミズスマシ科の甲虫である。

俳諧歳時記栞草」夏の部に「水馬虫(すゐばむし)」として載っており、漢名は「水黽(すゐばう)」。「今、江戸の方言にアメンボウといふ」とある。

【水馬の俳句】

いつからの一匹なるや水馬  右城暮石

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季語|蠅(はえ)

三夏の季語 

金蠅(きんばえ)青蠅(あおばえ)

蠅の俳句と季語蚊などと同じ双翅目に属す。膜翅目に属する蜂が4枚の翅を持っているのに対し、蠅の翅は2枚。蠅の仲間にもたくさんの種類があり、イエバエ科・クロバエ科・ニクバエ科・ショウジョウバエ科などに分かれている。
ゴキブリとともに、衛生害虫の代表。しかし、チーズバエのようにチーズの発酵に利用したりなど、益虫となっているものもある。

春の蠅・秋の蠅・冬の蠅と、季節ごとに季語になっているが、単に「蠅」と言えば夏。因みに、蠅の幼虫である蛆も夏の季語になっている。

古事記に既に「蠅」が現われるが、スサノオの悪態を描写する項で、邪神の騒々しさを表す言葉として「狭蠅(さばえ)」が出てくるのが初出。その後、天の岩戸の項で、災いを誘発する様を「狭蠅なす」と表現している。日本書紀では「五月蠅」と表記する。
尚、「五月蠅なす」は「騒ぐ」「荒ぶる」にかかる枕詞になっている。
蠅を「はい」とも読むが、語源説のひとつに、蠅の手をする姿を「拝」と見たというものもある。

【蠅の俳句】

やれ打つな蠅が手をすり足をする  小林一茶

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季語|夏草(なつくさ)

三夏の季語 夏草

青草(あおくさ)

季語夏に繁茂する草。日射しの強い日中は、叢の中が高温多湿になって、息が詰まるほどの熱気を発する。これを「草いきれ」と言い、夏の季語となっている。
夏の草として代表的なものは、クズ・メヒシバ・オヒシバ・ブタクサなどである。

古くは、「草」と言えば夏のイメージが強かったようで、古今和歌集仮名序にも「秋萩夏草を見て妻を恋ひ」とある。
古事記(允恭記)では、悲恋の物語で知られる「木梨の軽の太子」の項で、自分との仲を問われて、伊予の湯に島流しにあった軽の太子に向けて、衣通の王(軽の大郎女)が歌う。

夏草のあひねの浜の蠣貝に 足踏ますな明かしてとほれ

この歌の後に恋人を追い、心中したとか。

松尾芭蕉の「夏草や」の句は、旧暦5月13日に平泉で詠まれたもので、毛越寺境内の句碑に真蹟のものがある。

【夏草の俳句】

夏草や兵どもが夢のあと  松尾芭蕉

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季語|夏風邪(なつかぜ)

三夏の季語 夏風邪

夏風邪夏は、夏風邪ウイルスの感染によって体調を崩すことも多い。冬の風邪とは違うウィルスなどによって引き起こされ、長引くことが多い。手足口病やプール熱が、その代表的なもの。

古くから「夏風邪は馬鹿がひく」と言われているが、感染しないわけではない。夏場の不摂生が原因になることからきた慣用句だと言われている。

【夏風邪の俳句】

眠たさの涙一滴夏の風邪  野澤節子

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