季語|雁渡し(かりわたし)

三秋の季語 雁渡し

雁渡し9月から10月頃に吹く北風で、この風に乗ってが渡ってくると言われる。もとは伊豆や伊勢の漁師の方言。

岸田稚魚の昭和26年の句集に「雁渡し」がある。

【雁渡しの俳句】

へつつひの火のたらたらと雁渡し  黛執

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季語|獺祭忌(だっさいき)

仲秋の季語 獺祭忌

子規忌(しきき)糸瓜忌(へちまき)

獺祭忌正岡子規の忌日の明治35年(1902年)9月19日。「獺祭書屋主人(だっさいしょおくしゅじん)」の別号を持つことから「獺祭忌」、絶筆三句と呼ばれる糸瓜を詠んだ俳句から「糸瓜忌」と呼ばれる。近代俳句ばかりでなく、近代文学に大きな足跡をのこした人物である。

ちなみに「獺祭」は「獺の祭(おそのまつり)」とも呼ばれる獲った魚を並べるカワウソの習慣で、中国の七十二候に「獺祭魚」があることから、春の季語とされる。

【獺祭忌の俳句】

感無量まだ生きて居て子規祭る  柳原極堂
老いて尚君を宗とす子規忌かな  高浜虚子

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季語|不知火(しらぬい・しらぬひ)

仲秋の季語 不知火

不知火旧暦7月の晦日に、八代海(不知火海)や有明海に現れる怪火で、千灯籠(せんとうろう)・竜灯(りゅうとう)とも呼ばれる。現代では、蜃気楼の一種だと考えられており、その正体は漁火だとされる。
日本書紀の景行天皇十八年五月壬辰の朔に、人の火ではないものに導かれて、八代県の岸に着くことができたという話が出る。このことにより、現在の熊本県を「火の国」と名付けたという。ただし、肥後の國風土記には、日本書紀と同じ説話に触れるも、さかのぼる崇神天皇の時代、空から火が降って山に燃え広がったことをもとに、「火の国」と名付けたという話がある。
「不知火」はいつから使い始められた言葉であるのかは分かっていないが、万葉集には既に、筑紫にかかる枕詞として三首に歌われている。内の二首の長歌には「しらぬひ筑紫の国」と歌われ、本来は肥後の海の怪火を指したものではないのかもしれない。三巻の「沙彌満誓、綿を詠める歌一首」では、

しらぬひ筑紫の綿は身につけて いまだ著ねど暖かに見ゆ

と歌われ、縫物との関連付けが見られる。

【不知火の俳句】

不知火でないかもしれぬ眠たくて  正木ゆう子

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季語|野菊(のぎく)

仲秋の季語 野菊

野菊(リュウノウギク)菊(キク科キク属イエギク)」といえば、中国伝来の栽培種で、野生のものはない。しかし、キク科の中にイエギクに似たものがあり、ヨメナ・リュウノウギク・シマカンギク・ノコンギク・シオンなどを、野生の菊の意で「野菊」と呼ぶ。自生種としては約350種、帰化植物としては150種があると言われている。コスモスヒマワリもキク科ではあるが、その形状の違いから、「野菊」と呼ぶことはない。

文学では、1906年1月に「ホトトギス」に発表された伊藤左千夫の小説「野菊の墓」が有名である。

【野菊の俳句】

名もしらぬ小草咲さく野菊かな  山口素堂

▶ 秋の季語になった花 見頃と名所

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季語|竜胆(りんどう・りゅうたん)

仲秋の季語 竜胆

濃竜胆(こりんどう)

竜胆リンドウ科リンドウ属の多年生植物の総称であり、エゾリンドウ・ミヤマリンドウなどがあるが、トウリンドウの変種リンドウを「竜胆」とすることが多い。本州から九州の山地に自生し、9月から10月頃の晴天時に花を開く。
葉の形が笹に似ているところから「笹竜胆」とも呼ばれ、家紋にも取り入れられている。
根は生薬のリュウタンとして胃薬になり、「竜胆」の名は、熊胆よりも苦いという意味でつけられた中国名で、「りんどう」は音読みの転訛。日本名としては「胃病み草(いやみぐさ)」がある。また「思い草」と呼ばれることもあるが、秋の季語となる南蛮煙管・女郎花・紫苑も同じ名で呼ばれることがあるので注意が必要である。

【竜胆の俳句】

濃竜胆ひたせる渓に櫛梳り  杉田久女

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季語|紫苑(しおん)

仲秋の季語 紫苑

鬼の醜草(おにのしこぐさ)・十五夜草(じゅうごやそう)・しおに

紫苑キク科シオン属シオンは、シベリアなどの北東アジア原産の多年草。日本では阿蘇山などに自生するが、平安時代以前に薬用として中国から持ち込まれたものが野生化したとも言われている。平安時代からは、観賞用に庭にもよく植えられており、9月から10月頃に花が咲く。
中国では「紫菀」と書く。紫の庭園というような意味になる。「思草(おもいぐさ)」の別名もあるが、南蛮煙管・女郎花・竜胆(いずれも秋の季語になる)も「思草」と呼ばれることがあるので、注意が必要である。

万葉集には大伴家持の和歌で

わすれ草わがした紐につけたれど 鬼のしこ草ことにしありけり

がある。ここでは「鬼のしこ草」を「しこのしこくさ」と読ませる。役立たずの厭わしい草という意味になり、雑草の意で用いられており、紫苑のことではないという説がある。
「俊頼髄脳」(平安時代後期)に、「忘草」と呼ばれる萱草と対比させて、「忘れぬ草」として出てくる。それによると、親を亡くした兄弟がいて、兄は親への思いを断ち切るために墓に萱草を植え、弟は親への思いを忘れないために紫苑を植えた。ある日、弟の前に墓守の鬼が出て、弟を憐れんで予知能力を授けた。故に予知夢を招くことから、紫苑は、嬉しいことがある人は植えて愛でるとよいが、嘆くことがある人は植えてはいけないと言われている。因みに鬼の醜草の語源はここにあり、「鬼の教えより」という意味で「鬼の師子草」となり、「しおに」と呼ばれるようになったという。

【紫苑の俳句】

紫苑にはいつも風あり遠く見て  山口青邨

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季語|藍の花(あいのはな)

仲秋の季語 藍の花

蓼藍の花(たであいのはな)

藍の花タデ科イヌタデ属アイは蓼藍(たであい)とも呼ばれ、藍染めに利用される。イヌタデによく似る一年生植物で、原産地は東南アジア。8月から10月頃に花が咲くが、藍染めのために、開花前から葉が摘み取られていく。これを「藍刈」と呼んで、夏の季語になる。開花後は、染料として採れる葉の量は減ってしまう。
染料の藍は発酵させてつくるために独特の堆肥臭があるが、藍の花自体には臭いはない。

藍は6世紀頃に中国から朝鮮を経て伝わり、既に奈良時代には藍染めが行われていた。江戸時代には阿波国が藍染めの一大産地となり、明治時代に来日したイギリス人化学者ウィリアム・アトキンソンによって、その色は「ジャパンブルー」と名付けられた。1880年頃に海外で安価なインディゴ染料が開発されるなどして、藍染め産業は衰退していった。
藍染めした布は、抗菌性や消臭性に優れ、虫食いを受けにくかったり耐火性が高まるなどの特性がある。また、藍で深く染めあげた色は「褐色(かちいろ)」と呼ばれ、「勝ち」に通じるために武士が重んじた。

藍を発酵させたときに水面に生じる泡も「あいのはな」と呼ぶが、こちらは「藍の華」と書く。
「藍」を使った慣用句として、弟子が師より優れていることをいう「青は藍より出でて藍より青し」「出藍の誉れ」がある。
万葉集には「山藍」の歌があるが、こちらはトウダイグサ科の多年草である。魏志倭人伝で魏王に献上されたとされる「絳箐の縑」は、山藍で染められたものだと考えられている。

【藍の花の俳句】

藍の花栞れば紅の失せにけり  坊城中子

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季語|蘆の花(あしのはな)

仲秋の季語 蘆の花

蘆の花イネ科ヨシ属ヨシの花のことで、「蘆」「葦」「芦」「葭」と書いて「よし」とも読むが、古名は「あし」。平安時代から、「悪し」につながることから「良し」に掛けて「よし」と呼ばれるようになったとされる。関西では、金銭を意味する「おあし」に通じるために、現在でも「あし」と呼ぶ。因みに、穂が出ていないものを「芦」、穂が出ているものを「葦」とする。

蘆は、全国の水辺に自生する多年草で、8月から10月頃に褐色を帯びた花を咲かせ、熟すと白い穂が出てのような佇まいになる。他の植物の成長を阻害する物質を出すため、大きな純群落となることが多い。

日本では、神話の時代から親しまれてきた植物であり、地上世界を葦原中国(あしはらのなかつくに)と呼び、古事記では天孫が治める国を「豊葦原の千秋長五百秋の水穂国(とよあしはらのちあきながいおあきのみずほのくに)」と呼んだ。また、国造りの際に最初に生まれた御子神・水蛭子を、葦船に入れて流したという記述もある。
万葉集には「あし」として51首が歌われ、志貴皇子には

葦辺行く鴨の羽交ひに霜降りて 寒き夕は大和し思ほゆ

がある。
世界的にも蘆は古くから親しまれてきた植物であり、旧約聖書には、迫害から逃れさせるために、生まれたばかりのモーセを葦船に乗せて流したという話がある。また、パスカルの「人間は考える葦である」という言葉はよく知られている。

【蘆の花の俳句】

柴又へ通ふ渡しや蘆の花  正岡子規

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季語|水引の花(みずひきのはな)

仲秋の季語 水引の花

水引草(みずひきぐさ)・水引(みずひき)・金線草(きんせんそう)

水引の花タデ科イヌタデ属ミズヒキは、日本全国の平地の路傍などに自生し、8月から10月頃の午前中に花を咲かせる。
花穂に小花がまばらにつくが、その小花が紅白であるために、祝儀袋の飾り紐に見立てて「水引」の名がついたとされる。しかし、俳諧歳時記栞草(1851年)には、「その茎、円くほそく、こより及び水引の如し、故に名づく」とある。
銀水引とよばれる白花の品種もある。金水引と呼ばれる黄花を咲かせるものは、バラ科の植物で別種である。
中国では「金線草」と書くことから、「きんせんそう」とも呼ばれる。

【水引の花の俳句】

壺にして水引直き花ならず  上田五千石

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季語|鳥兜(とりかぶと)

仲秋の季語 鳥兜

鳥頭(とりかぶと)

鳥兜キンポウゲ科トリカブト属の植物の総称で、ヤマトリカブト・ホソバトリカブトなど、日本には約30種が自生している。栽培種もあり、平地から高山まで比較的普通に見られる植物で、葉はヨモギとよく間違えられる。7月から10月頃に花をつける。
全草に毒性アルカロイド(アコニチン等)を含み、ドクウツギやドクゼリとともに、日本三大有毒植物の一つに数え上げられる。トリカブトに含まれるアコニチンの致死量は約5gであるが、葉を数グラム食べるだけで数十分で全身が痺れ、呼吸不全になって死亡することもあるという。解毒剤はないため、中毒時は胃洗浄を行う。
毒性は強いが漢方として利用することがあり、根を烏頭(うず)とか附子(ぶし)と呼んで生薬にし、鎮痛などに用いる。ちなみに、醜い者を「ブス」と呼ぶことがあるが、附子中毒で顔がゆがんだ状態を言ったものだとする説がある。
語源は、花の形が舞楽などで用いられる鳥兜に似ているところにある。

【鳥兜の俳句】

今生は病む生なりき鳥頭  石田波郷

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