正岡子規 ●
涼しさや行燈うつる夜の山 季春の蚊や一つとまりし雛の顔 季あたたかき風がぐるぐる風車 季春風にこぼれて赤し歯磨粉 季死ぬものと誰も思はず花の春 季摘草や根岸を出でて田圃道 季散るものは散て気楽な卯月哉 季日暮里の岡長うして若葉哉 季朝寒やたのもとひゞく内玄関 季 (散策集)●君が墓筍のびて二三間 季雪の日や巨燵の上に眠る猫 季うさくさをうしろに捨てゝ夏の月 季おそろしや石垣崩す猫の恋 季ほうほうと雨吹きこむや青簾 季木隠れて目白の覗く雀かな 季誰やらが口まねすれば目白鳴く 季蜩や一日一日をなきへらす 季いがながら栗くれる人の誠かな 季紅葉より瀧ちる谷間谷間かな 季南天をこぼさぬ霜の静かさよ 季木槿咲て繪師の家問ふ三嶋前 季●咲満る花に淋しき曇り哉 季紫陽花や昨日の誠今日の嘘 季 (寒山落木)●早鮓や東海の背戸の蓼 季物書いた扇を人に見られけり 季狼の糞見て寒し白根越 季畑もあり百合など咲いて島ゆたか 季大仏の扉をのぞく鹿の子哉 季戸を叩く音は狸か薬喰 季手凍えてしばしば筆の落んとす 季柿くふや道灌山の婆が茶屋 季雪ふるよ障子の穴を見てあれば 季雪の家に寝て居ると思うばかりにて 季障子明けよ上野の雪を一目見ん 季通りぬけ通りぬけても紅葉哉 季名月や鰯もうかぶ海の上 季芭蕉忌や吾に派もなく伝もなし 季善く笑ふ夫婦ぐらしや冬籠 季年忘れ一斗の酒を尽しけり 季氷解けて水の流るゝ音すなり 季風吹て師走八日といふ日哉 季閏年や一日遅き花の春 季貧厨の光を生ず鱸かな 季ずんずんと夏を流すや最上川 季西行庵花も桜もなかりけり 季太刀魚の出刃庖丁にはてにけり 季夏草や君わけ行けば風薫る 季鹿を逐ふ夏野の夢路草茂る 季 (病牀六尺)読みさして月が出るなり須磨の巻 季東海道若葉の雨となりにけり 季土用東風船玄海にかかりけり 季四方から青みて夏の夜明哉 季舟に見える膳所の城下の幟かな 季添竹も折れて地に伏す瓜の花 季病閑に糸瓜の花の落つる昼 季栗飯や糸瓜の花の黄なるあり 季藺の花や小田にもならぬ溜り水 季折々は田螺にぎりつ田草取 季三尺の家に五尺の松魚哉 季二三町柿の花散る小道かな 季吾も亦愛す吾廬や棕櫚の花 季孑孑や松葉の沈む手水鉢 季むらむらと闇にみたるゝ李かな 季姫百合に軋飯こぼす垣根かな 季狂言の手つきでぬすむ真桑哉 季藻の花に鷺佇んで昼永し 季萱草や青田の畦の一ならび 季あまつさへ我家はもりぬ月の雨 季干瓜の塩の乾きや日照草 季寝所をかへたる蚊帳の別れかな 季あつき名や天竺牡丹日でり草 季日にさらす人の背中や秋の蠅 季おしろいは妹のものよ俗な花 季団洲の似顔愛づるや菊細工 季故郷や道狭うして粟垂るゝ 季君か代や五尺の稻の花盛 季七草に入らぬあはれや男郎花 季妹が庭や秋海棠とおしろいと 季柴又へ通ふ渡しや蘆の花 季氷伐る人かしがまし朝嵐 季手水鉢八手の花に位置をとる 季水入りの水をやりけり福寿草 季初曽我や團十菊五左團小團 季福藁に雀の下りる日和かな 季山梨の中に杏の花ざかり 季蚕豆も豌豆も咲くや庭畠 季海棠の寝顔に見ゆる笑くぼ哉 季朝凪や霞みて遠き島一つ 季夕凪や三日月見ゆる船の窓 季亀の子の盥這ひ出る日永哉 季簟五尺四方の世界哉 季不知火や嵐はれ行く海の果 季藻の花に鯰押へし夜振哉 季
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