正岡子規 ●
柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺 季●鶏頭の十四五本もありぬべし 季 (新聞日本)●さらさらと竹に音あり夜の雪 季をととひのへちまの水も取らざりき 季 (新聞日本)●雪残る頂一つ国境 季島々に灯をともしけり春の海 季 (俳句稿)●あたたかな雨が降るなり枯葎 季いくたびも雪の深さをたずねけり 季●帰り咲く八重の桜や法隆寺 季木の影や我影動く冬の月 季寒けれど富士見る旅は羨まし 季杉の雪一町奥に仁王門 季南天に雪吹きつけて雀鳴く 季筍や目黒の美人ありやなし 季春立つや昼の灯くらき山社 季薄月夜花くちなしの匂いけり 季夏の夜のあけ残りけり吾妻橋 季夕立にうたるる鯉のかしらかな 季赤とんぼ筑波に雲もなかりけり 季 (新聞日本)●秋の空露をためたる青さかな 季春や昔十五万石の城下哉 季 (寒山落木)●年玉を並べて置くや枕もと 季 (墨汁一滴)草の花つれなきものに思ひけり 季 (病牀六尺)若鮎の二手になりて上りけり 季俎板に鱗ちりしく桜鯛 季獺の祭も過ぎぬ朧月 季川せみのねらひ誤る濁かな 季元日の人通りとはなりにけり 季名所や絹商人のきそ始 季痩馬を飾り立てたる初荷かな 季藍刈やこゝも故郷に似たる哉 季葉桜や昔の人と立咄 季長き夜や障子の外をともし行く 季行く秋の我に神無し仏無し 季夏木立故郷近くなりにけり 季ほろほろといろりの木の葉燃て無し 季松山や秋より高き天主閣 季 (寒山落木)●雪女旅人雪に埋もれけり 季かきよせて又蟷螂の草移り 季万両にゆすらの花の白き散る 季紅梅に中日過し彼岸哉 季花籠に皆蕾なる辛夷かな 季のどかさや障子あくれば野が見ゆる 季国なまり故郷千里の風かをる 季ほろほろと手をこぼれたるいちごかな 季うすうすと窓に日のさす五月かな 季出流れの晩茶も八十八夜かな 季花桐の琴星を待てば下駄屋かな 季夕風や白薔薇の花皆動く 季道ふさぐ竹のたわみや五月雨 季鳴きやめて飛ぶ時蝉の見ゆるなり 季蓮の花咲くや淋しき停車場 季家毎に凌霄咲ける温泉かな 季両国の花火聞ゆる月夜かな 季糸瓜咲て痰のつまりし仏かな 季 (新聞日本)●痰一斗糸瓜の水も間にあはず 季 (新聞日本)●中天に並ぶ巌あり霧の奥 季稲つけて馬が行くなり稲の中 季病間や桃食ひながら李画く 季こほろぎや犬を埋めし庭の隅 季黒きまで紫深き葡萄かな 季荒寺や芭蕉破れて猫もなし 季城山の浮み上るや青嵐 季春風やまりを投げたき草の原 季●草化して胡蝶になるか豆の花 季横須賀や只帆檣の冬木立 季 (寒山落木)●子を負うて大根干し居る女かな 季雑閙や熊手押あふ酉の市 季 (俳句稿)●世の中も淋しくなりぬ三の酉 季お宮迄行かで歸りぬ酉の市 季吉原を始めて見るや酉の市 季お酉樣の熊手飾るや招き猫 季酉の市小き熊手をねぎりけり 季傾城に約束のあり酉の市 季縁喜取る早出の人や酉の市 季女つれし書生も出たり酉の市 季子をつれし裏店者や酉の市 季夕餉すみて根岸を出るや酉の市 季駄菓子売る茶店の門の柿青し 季晩鐘や寺の熟柿の落つる音 季渋柿やあら壁つづく奈良の町 季渋柿や古寺多き奈良の町 季柿落ちて犬吠ゆる奈良の横町かな 季もののふの河豚にくはるる悲しさよ 季雪解や竹はね返る日の表 季大砲のどろどろと鳴る木の芽かな 季うらゝかや女つれだつ嵯峨御堂 季残り少なに余寒もものゝなつかしき 季春の雪霏々として又降つて来る 季家ありや牛引帰る春の山 季春の野や何に人行き人帰る 季穴を出て古石垣の蛇細し 季牛行くや毘沙門阪の秋の暮 季 (寒山落木)●秋の城山は赤松ばかり哉 季社壇百級秋の空へと登る人 季狸死に狐留守なり秋の風 季春や昔古白といへる男あり 季下町は雨になりけり春の雷 季亭ところどころ渓に橋あるもみじかな 季夏山を廊下づたひの温泉かな 季
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