俳句

季語|狼(おおかみ)

三冬の季語 

季語と俳句の狼ネコ目イヌ科イヌ属。タイリクオオカミの亜種であり、ハイイロオオカミと同種のニホンオオカミは、本州・四国九州に棲んでいた。1905年に奈良県東吉野村で捕獲されたのを最後に、絶滅したと考えられている。また、北海道には毛並が茶色のエゾオオカミが生息していたが、これも1900年ごろに絶滅した。
イヌは、オオカミが飼い馴らされて家畜化したものと考えられている。西洋では牧畜が盛んだったこともあり、害獣との位置付けが強いが、農耕社会である日本では、害獣を駆逐する益獣としての位置付けから、神格化されることもあった。そのため、「おおかみ」の語源は「大神」であるとされる。
また、真神(まかみ)は狼を神格化した古語であり、万葉集には舎人娘子の和歌として、

大口の真神が原に降る雪は いたくな降りそ家もあらなくに

が載る。

日本神話における狼は、ヤマトタケルの項が印象的。景行天皇紀に、ヤマトタケルが信濃山中で迷った時に、白き狗が出てきて、美濃に導いたとある。この「白き狗」が狼のことで、ヤマトタケルにゆかりのある秩父の三峯神社は、狼を守護神としている。
欽明天皇紀には、秦大津父という臣を得た時の話が出て来る。秦大津父が伊勢からの帰りに、二匹の狼が取っ組み合いをしており、「貴き神にして、あらき行を楽む」とある。「もし猟士に逢はば、禽られむこと尤く速けむ」と言って、その取っ組み合いを押しとどめ、「ともに命全けてき」と解き放った。

西洋では、グリム童話の「赤ずきん」「狼と七匹の子山羊」、イソップ物語の「オオカミ少年」など、悪いイメージで語られる物語が多いが、古代ローマの建国神話には、建国者の育ての親だとも語られている。

【狼の俳句】

狼をのがれて淋し山の月  島田五空

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季語|ずわい蟹(ずわいがに)

三冬の季語 ずわい蟹

越前蟹(えちぜんがに)松葉蟹(まつばがに)

季語と俳句ずわい蟹十脚目(エビ目)ケセンガニ科の蟹。同じく冬の季語となる鱈場蟹(たらばがに)は、十脚目異尾下目(ヤドカリ下目)タラバガニ科に属し、正確には蟹ではなく、ヤドカリである。
ずわい蟹は、メスよりもオスの方が大きい。山陰以東の日本海が主な漁場で、福井県で水揚げされるオスは「越前蟹」、山陰地方で水揚げされるオスは「松葉蟹」と呼ばれる。

語源は、細い木の枝を指す古語「楚(すわえ)」にあり、それがが訛って「ずわい」になったとされる。鍋や刺し身など、冬の味覚として人気が高く、蟹味噌や卵巣も食す。
地方によって、漁期が異なり、山陰地方の松葉蟹は11月6日から3月20日。ただし、メスは11月6日から12月31日までと決められている。

なお、ずわい蟹の種類には、ここで説明したオピリオと呼ばれるズワイガニのほか、ロシアやカナダから輸入されるオオズワイガニ、日本海特有種で水っぽいとも言われるが甘さはズワイガニを上回るベニズワイガニがある。

【ずわい蟹の俳句】

ずわい蟹大手広げて届きけり  根本ゆきを

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季語|白菜(はくさい)

三冬の季語 白菜

季語と俳句の白菜アブラナ科アブラナ属の二年生植物。原産地は地中海沿岸。中国に伝わり、カブととツケナの交雑から、11世紀頃には結球白菜が生まれていたと言われている。因みに、欧州に残ったものからキャベツが生まれている。白菜の英名は「Chinese cabbage」で、中国のキャベツの意。
11月下旬から2月が旬で、鍋物には欠かせない食材であるが、普及したのは明治時代になってから。日清戦争・日露戦争で、中国野菜に触れたことが契機になったと言われている。
江戸時代には非結球種が渡来したが、交雑が起きて育種が難しく、定着しなかった。明治時代の終わりころから育種に成功するようになり、現在ではキャベツ・ダイコンに次ぐ生産量を誇る。

白菜から色々な加工食品も生まれているが、代表的なのは漬物とキムチ。ただ、朝鮮半島で白菜の栽培方法が確立されたのは、近代になってから。白菜キムチの歴史も、白菜の漬物同様、比較的新しい。

【白菜の俳句】

何のむなしさ白菜白く洗ひあげ  渡邊千枝子

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季語|寒波(かんぱ)

三冬の季語 寒波

季語と俳句寒波冬になると、シベリア大陸で発達した寒気団が、波のように押し寄せてくる。規模の大きいものは「大寒波」と言う。
気象庁の「気温に関する用語」では、「主として冬期に、広い地域に2~3日、またはそれ以上にわたって顕著な気温の低下をもたらすような寒気が到来すること」と記されている。

冬期に偏西風の蛇行が大きくなると、シベリア高気圧とアリューシャン低気圧の発達により、西高東低の気圧配置が強まる。この時に、北西風を伴い、強い寒波がやってくる。日本海側では雪、太平洋側では乾燥する。
クリスマス時期の寒波は、「クリスマス寒波」という。

【寒波の俳句】

寒波来こゑを失くして息を吐く  岸田稚魚

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季語|枯木(かれき)

三冬の季語 枯木

枯木立(かれこだち)枯木山(かれきやま)

季語と俳句で枯木俳句の世界では、立ち枯れした木のことではなく、冬になって葉を落とした木のことを言う。
「こぼく」と言えば、立ち枯れの木のことを指し、「無心」をも指す。また「枯木(こぼく)花開く」という言葉があり、衰えゆくものが再び脚光を浴びることをいう。

【枯木の俳句】

橋かけてさびしさ通ふ枯木山  岡本眸

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季語|都鳥(みやこどり)

三冬の季語 都鳥

百合鷗(ゆりかもめ)

季語と俳句都鳥チドリ目ミヤコドリ科に分類される鳥類の一種にミヤコドリがあるが、古来、和歌などで詠まれる都鳥はチドリ目カモメ科カモメ属に分類されるユリカモメ(百合鷗)のことだと言われている。日本には冬鳥として、ユーラシア大陸北部からやってくる。

百合鷗のことを都鳥と称するようになったのは、伊勢物語の第九段「東下り」の件に因るとされる。

「なほ行き行きて、武蔵野の国と下つ総の国との中に、いと大きなる河あり。それをすみだ河といふ。その河のほとりにむれゐて思ひやれば、限りなく遠くも来にけるかなとわびあへるに、渡守、はや舟に乗れ、日も暮れぬ、といふに、乗りてわたらむとするに、皆人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。さる折しも、白き鳥の嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、水のうへに遊びつゝ魚をくふ。京には見えぬ鳥なれば、皆人見しらず。渡守に問ひければ、これなむ都鳥といふをきゝて、

名にし負はゞいざことゝはむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと

とよめりければ、舟こぞりて泣きにけり。」

とある。
京都で百合鷗が見られるようになったのは最近のことであり、上記のような「白き鳥の嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、水のうへに遊びつゝ魚をくふ」という描写から、伊勢物語の都鳥は百合鷗で間違いないと考えられている。
なお、伊勢物語中の「名にし負はゞ~」の和歌は、在原業平の歌として古今和歌集に載るもの。在原業平が東下りしたかどうかは諸説あるが、浅草の「言問橋」の名は、この和歌が由来となっている。また、東京はこの物語をもとにして、1965年に都鳥(とちょう)を「ゆりかもめ」とした。

ただし、伊勢物語より100年ほど前の万葉集にも「都鳥」の和歌が一首あり、大伴家持は

舟競ふ堀江の川の水際に 来居つつ鳴くは都鳥かも

と歌っている。この鳥が何を指すかは分かっていない。

都鳥の語源は、その名の通り「都」に結びつけるものもあるが、伊勢物語の記述を引けば不自然となる。「ミャー」と鳴く鳥という説や、「雅なる」鳥との説もある。

【都鳥の俳句】

頭上過ぐ嘴脚紅き都鳥  松本たかし

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季語|大根(だいこん・だいこ・おおね)

三冬の季語 大根

大根引(だいこんひき・だいこひき)

季語と俳句(浪花自慢名物尽天満大根)アブラナ科ダイコン属の越年草で、原産地は中東とされる。食用とする根は年中収穫されるが、最も収穫が多いのは冬で、冬の季語となっている。ただし、「すずしろ」は大根の古名であり、こちらは春の七草として新春の季語に分類される。
日本で栽培されるもののほとんどは青首大根であるが、その他にも、練馬大根に代表される白首大根、蕎麦の薬味に使われる辛味大根、世界一の大きさを誇る桜島大根などがある。
根は野菜の代表種でもあり、生食されたり加熱調理したり、様々なかたちで食されるが、その葉もまた食用にされる。「大根葉」という季語は現在のところ見当たらないが、虚子に「流れ行く大根の葉の早さかな」という句があるように、「大根」に付随する形で、概して冬を表す。

日本人と大根とのつきあいは古く、仁徳天皇陵から大根の種子が発見されている。古事記ではその仁徳天皇記に、「志都歌の歌ひ返し」という一連の歌があり、仁徳天皇が嫉妬する皇后に向けて歌った2歌の中に「おほね」として出て来る。どちらも「つぎねふ山代女の木钁持ち打ちし大根」の歌い出しで詠まれ、はじめの歌は大根を女性の白い腕に見立てている。
このように古くは、その根の大きさから「おほね(おおね)」と言っていたが、室町時代あたりより「だいこん」と呼ぶようになった。
俳諧歳時記栞草に「大根」の項目はないが、「大根引(だいこひく)」は掲載されている。貞享式の引用で「大根引、此詞は冬の当用なり。大根(だいこ)と略して音語によむべし。京家のおほね引に効ふべからず」とある。

大根は、ジアスターゼを多く含み、消化を助ける効果がある。そのため食当たりすることがないので、何をやっても当たらない役者を「大根役者」と呼ぶ。
また上記のように、すらりとした女性の美しい腕を大根に喩えていた時代もあるようだが、現在では「大根足」のような使い方をする。

【大根の俳句】

大根引き大根で道を教えけり  小林一茶
引きすすむ大根の葉のあらしかな  加舎白雄

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季語|海鼠(なまこ・かいそ・こ)

三冬の季語 海鼠

季語と俳句海鼠ウニ、ヒトデなどが属する棘皮動物門。その内のナマコ綱に属する。中でも、食用になるのはシカクナマコ科のマナマコなど約30種類。
目・耳・鼻や心臓もなく、前端の口と後端の肛門を結ぶ消化器が、主たる器官である。海底に堆積した有機物を食べながら生活し、攻撃を受けると消化器を放出するものもあるが、数カ月で再生する(マナマコにこの機能はない)。なお、雌雄異体で、生殖器はある。

食用とされるマナマコの旬は初冬。比較的低温を好み、水温が25℃以上となると「夏眠」する。
マナマコは体色から三種に大別され、外洋性のアカコ、内海性のアオコ、さらに色素が濃くなったクロコがある。食用としては、中国でクロコが海のダイヤとも称され、最も高価。アオコが最も安価で、通常はアカコの半値以下で取引される。
ナマコを生食するのは、ほぼ日本に限られ、食用として珍重する中国においても生食はしない。また日本では、内臓を塩蔵したものを「このわた」と言い、ウニ・からすみと並ぶ日本三大珍味に数え上げる。
ナマコは、滋養強壮薬・皮膚病薬としての漢方薬としても知られており、中国では海の人参という意味の「海参」の名で呼ばれる。

海鼠は、古くは「こ」と呼ばれている。古事記の「猨女の君」の項に、魚を集めて「天つ神の御子に仕えまつるか」と聞いたところ、海鼠(こ)だけが何も言わなかったため、天の宇受売(あめのうずめ)が紐小刀で口を裂いたとある。なお、この説話には「速贄(はやにえ)」の表現があり、少なくとも古事記が編纂された奈良時代のはじめには、海鼠が食用にされていたことが伺える。
ナマコの語源は、触ると小さく固まることから、「凝(こる)」にあるとされ、それに「生」がついたもの。俳諧歳時記栞草では、「生海鼠」と書いて「なまこ」と読ませている。

【海鼠の俳句】

生きながら一つに冰る海鼠哉  松尾芭蕉
憂きことを海月に語る海鼠かな  黒柳召波

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季語|室咲(むろざき)

三冬の季語 室咲

室の花(むろのはな)

季語と俳句の室咲温室の中ならば、冬に春の花を咲かせることもできる。俳諧歳時記栞草には、11月条に「室咲の梅」があり、「室の内、或は土蔵の内に炉火を儲け、これを暖むる時は、其火気に感じて忽ち開く、これを室咲の梅といふ」とある。これを「室の梅」ともいう。
現代ではこれらを「温室植物」と呼ぶこともあり、洋蘭がその代表種である。(*『温室植物』はまた、花を温室のように葉で囲った形状を持つ高山植物の一種のことをも指す。)

【室咲の俳句】

室咲や父が遺愛の虫眼鏡  林徹

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季語|焼藷(やきいも)

三冬の季語 焼藷

焼芋(やきいも)

季語と俳句と焼藷寒くなると、サツマイモを熱した焼藷がよく売れる。
サツマイモは、1705年に、琉球から薩摩に伝わった。1719年の朝鮮通信使の「海遊録」に、京都郊外における焼藷(蒸し芋)売買の情景記録があり、この頃に焼藷は生まれたと考えられている。
江戸に焼藷屋が現れたのは、1793年のこと。「江戸繁盛記」(1831年)では煨薯と書かれ、「江戸の婦人、皆、阿薩(おさつ)と曰う」との記述があるように、羞恥心から隠語が使われがちであった。また、店では「八里半」と表記し、その理由を「栗の字、九里と訓ず。乃ちその味、栗と相似て、然も較々少し下るを以っての故に、これを名づくるのみ」としている。
また、「十三里」という表現もあるが、これは「栗(九里)より(四里)美味い」の意味が込められており、産地であった川越(江戸から十三里離れている)のことをも指す。

戦後、リヤカーなどの移動式の石焼き芋屋が繁盛したが、外食産業の発展やコンビニの登場で、現在ではその数も少なくなった。しかし今でも焼藷文化は絶えることなく、コンビニでは人気商品ともなっている。また、「いーしやぁーきいもー、おいもー」の声や、芋焼の笛の音を街角で聞くことがある。
石焼芋に使用されるサツマイモの種類は、「鳴門金時」「紅あずま」「ベニオトメ」などで、ねっとりとした食感に焼き上がる。

【焼藷の俳句】

焼藷屋むかしの汽車の笛鳴らす  三河まさる

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