カテゴリー: 仲夏
季語|藺の花(いのはな)
仲夏の季語 藺の花
燈心草の花(とうしんそうのはな)
畳表やゴザなどにするイグサ科イグサ属イグサは、「藺(い)」で三夏の季語となるが、その花は5月から9月頃に咲き、仲夏の季語となる。インド原産で、日本全国の湿地などに自生する。中世より水田で栽培されてきたものは栽培用の品種でコヒゲと呼ばれ、野生種よりも花が小さい。
花の形は特殊で、地下茎から花茎を1メートルほど真っすぐ伸ばし、先端に小さな花を横向きにつける。さらにそこから苞が花茎と同じ形で真っすぐ伸びるため、花は茎の途中に咲いているように見える。
かつては、瀬戸内沿岸でイグサ栽培が盛んだったが、現在では熊本県八代地方に産地が移っている。イグサは、花が咲くと伸長が止まってしまうので、畳表用などに栽培している水田では開花前に刈り取られることが多く、「藺の花」を見ることは少ない。
花茎の内部のスポンジ状の髄は、蝋燭の芯として使われたため、燈心草という名でも呼ばれ、「燈心草の花」は夏の季語である。
俳諧歳時記栞草(1851年)には「藺花(ゐのはな)」で夏之部四月に分類され、「虎鬚草(こしゅうそう)」の別名も載せている。
【藺の花の俳句】
藺の花や小田にもならぬ溜り水 正岡子規
季語|南瓜の花(かぼちゃのはな)
仲夏の季語 南瓜の花
アメリカ原産の、ウリ科カボチャ属に属する果菜の総称「南瓜」。中でも日本人に最も親しまれているのは、「栗かぼちゃ」とも呼ばれるセイヨウカボチャ。ニホンカボチャという種もあり、これは戦国時代に渡来した。
南瓜は、5月から8月頃に開花するように植えられることが多い。同じ株に雄花と雌花が混在しており、雌花は花の下に子房がついていることで見分けることができる。
花は食用にすることもある。
▶ 関連季語 南瓜(秋)
【南瓜の花の俳句】
石鎚も南瓜の花も大いなり 富安風生
季語|麒麟草(きりんそう)
季語|アマリリス(あまりりす)
仲夏の季語 アマリリス
ヒガンバナ科ヒッペアストラム属の植物の総称。多年草で、冬には枯れて地上部がなくなる。中南米原産で、4月から6月頃、百合に似た白・赤・ピンク・黄色などの花を咲かせる。
ただし本来のアマリリスは、南アフリカ原産のヒガンバナ科ホンアマリリス属の「ベラドンナ」である。ヒッペアストラム属のアマリリスは開花時に葉があるのに対し、ベラドンナは葉をつけない。こちらは初秋に花を咲かせるので、夏の季語となる「アマリリス」の範疇からは外れてしまう。
ヒッペアストラム属の「アマリリス」は、 江戸時代末期(天保年間)に3種が渡来しており、金山慈姑(きんさんじこ)・咬吧水仙(じゃがたらずいせん)・紅筋山慈姑(べにすじさんじこ)の名がついた。
アマリリスとは、ギリシャ神話に出てくる羊飼いの少女の名前で、少年アルテオの心を射止めるために、自らの血で咲かせた花を贈ったという。
1968年2月にNHK「みんなのうた」で紹介された楽曲に「アマリリス」があるが、これはフランス国王ルイ13世が作ったとされる楽曲「アマリリス」を元にしている。
【アマリリスの俳句】
病室の隅の未明やアマリリス 石田波郷
ウエートレス昼間は眠しアマリリス 日野草城
季語|椎の花(しいのはな)
季語|えごの花(えごのはな)
仲夏の季語 えごの花
ツツジ目エゴノキ科エゴノキ属エゴノキは日本原産で、全国の雑木林に自生していたり、庭木として植えられていたりする。
5月頃に、芳香のある白い花を下向きにたくさんつける。ピンク色の花をつける品種もある。花が散る時には、花びらを散らさずに、ひとつの花のまま回転しながら落花する。
エゴノキの別名には、チシャノキ・ロクロギ・セッケンノキ・ドクノミなどがある。花や果皮にはエゴサポニンという物質が含まれており、かつては石鹸の代わりとして利用することもあった。このことから、エゴの花を「セッケン花」「シャボン花」ともいう。
果実にえぐみがあることから「えご」と呼ばれるようになったとされる。英名は japanese Snowbell(ジャパニーズ スノーベル)である。
季語|著莪の花(しゃがのはな)
仲夏の季語 著莪の花
胡蝶花(こちょうか・しゃが)・射干(しゃが)・花著莪(はなしゃが)
アヤメ科アヤメ属シャガ。林縁部などの湿った場所に群生することが多く、4月から5月頃に花をつける。中国原産で、日本へは室町時代以前に渡来してきたと考えられている。種子をつくらないため、野生化しているものも、もとは人為的に持ち込まれたものが地下茎で広がったものである。
中国語では「蝴蝶花」と書き、日本では「胡蝶花」と書いて「しゃが」と読ませるが、春の季語となる「三色菫」も「胡蝶花」と書くことがあるので注意が必要である。
また、「射干」とも書くが、本来これはひおうぎのこと。「射干」の語感から「著莪」を指すようになったとも言われている。
ちなみに、俳諧歳時記栞草(1851年)では夏之部四月に「胡蝶花」があり、「しゃが」と読ませ、「烏扇、是今云、胡蝶花なり」とある。「烏扇」は「ひおうぎ」の古名ではあるが、「著莪」を指すこともあったと思われる。
【著莪の花の俳句】
かたまつて雨が降るなり著莪の花 清崎敏郎
季語|栴檀の花(せんだんのはな)
仲夏の季語 栴檀の花
樗の花(おうちのはな)・花樗(はなおうち)・楝の花(おうちのはな)
センダン科センダン属センダン。ヒマラヤ山麓原産の落葉高木で、伊豆以西に自生する。5月から6月にかけて、芳香のある淡紫色の小さな花を多数つける。
万葉集には「おうち」の古名で4首歌われている。山上憶良には次の和歌がある。
妹が見し楝の花は散りぬべし 我が泣く涙いまだ干なくに
また、枕草子37段には、下記のようにある。
木のさまにくげなれど、楝の花いとをかし。かれがれにさまことに咲きて、かならず五月五日にあふもをかし。
かつては端午の節句に花を錦の袋に入れて薬玉とし、無病息災を祈った。
「平家物語」に平宗盛・清宗親子が三条河原で生首をかけられた場面があり、罪人の首を架ける木として忌み嫌われたともいう。
材木としては反りやすいために使い勝手が悪く、木偏に悪と書いて「あての木」とも呼んだ。
大成する人物をいう諺「栴檀は双葉より芳し」の「栴檀」は、香木の「白檀」を指す。本来の「センダン」はこちらであり、サンスクリット語の「candana」が語源となっている。
季語となる「栴檀の花」の「センダン」は、樹皮を染色に使うと一気に千段染めることができるからという語源説や、実がたくさんつくことから「千珠(せんだま)」の意味を持つという説などがある。
季語|百日紅(さるすべり・ひゃくじつこう)
仲夏の季語 百日紅
猿滑(さるすべり)・紫薇(しび・さるすべり)
ミソハギ科サルスベリ属の落葉中高木サルスベリ。その花は、夏の季語となる。
中国南部原産で、日本へは1700年代以前に渡来してきたと考えられている。それ以前は、夏椿が「さるすべり」と呼ばれていた。
樹皮が滑らかで、猿も滑り落ちるほどだということで「さるすべり」と呼び、「猿滑」と書くこともある。また、花期が7月から10月と長く、その間、赤い一日花が次から次に咲くことから「ひゃくじつこう」とも呼ばれ、「百日紅」の字が当てられた。