季語|梟(ふくろう)

三冬の季語 

梟の俳句と季語「森の物知り博士」「森の哲学者」の呼称でも知られる猛禽類の一種で、フクロウ目フクロウ科フクロウ属に分類される。夜行性で、待ち伏せて狩りをする。
日本に生息するフクロウ科の鳥には、フクロウの他に、シマフクロウ、シロフクロウ、ワシミミズク、トラフズク、コノハズク、コミミズク、アオバズクなどがある。フクロウは留鳥であるが、コノハズク(木葉木菟)・アオバズク(青葉木菟)は渡り鳥であり、夏の季語となる。

飛翔時には羽音を立てることがないため、「森の忍者」と呼ばれることも。その風切羽の構造は、新幹線のパンタグラフなどに応用され、消音に役立てられている。
鳴き声は、「五郎助奉公」「ボロ着て奉公」と聞きなされる。

現在では「不苦労」「福老」の当字で、幸せを呼ぶ鳥と見なされているが、古代中国や西欧文化が伝わる近代までの日本では、母を食う鳥として「不孝鳥(不幸鳥)」とされた。
日本書紀(景行紀)には、敵対するものとして川上梟帥(かわかみのたける)などに「梟」の文字が当てられる。川上梟帥を討った日本童男は、日本武(やまとたける)の名が譲られた。ここに見るに、古代日本では、「梟」に、強くて悪いもののイメージがあったと考えられる。因みに古事記では、「タケル」に「建」の字が充てられる。
梟を詠んだ和歌として、夫木和歌抄に西行上人の

山ふかみけぢかき鳥の音はせで 物おそろしきふくろふのこゑ

が載る。
西欧でフクロウに対するイメージが良いのは、ギリシャ神話で、女神アテナの従者として描かれているためか。
長野には、「梟の染め物屋」という昔話があり、カラスを黒く染めたところ激怒され、カラスに追いかけまわされるようになったという。それ以降、森の奥で「糊付けほっほ」と鳴きながら営業をしているという。

フクロウの語源は、毛が膨れた鳥にあるとも、鳴き声からきたとも言われる。「梟」の文字が「木」の上に「鳥」を置いた形なのは、むかし、木の上に梟の死骸を置いて鳥除けにしたからとの説がある。「梟首」とはさらし首のことである。

【梟の俳句】

梟に奪はれさうな灯が一つ  藤本和子

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に

季語|水澄む(みずすむ)

三秋の季語 水澄む

水澄むの俳句と季語澄み渡った秋空を映し込む水面は、美しい。実際には、台風などで秋の水辺は濁ることが多いが、嵐は、夏場に腐敗した有機物を拡散し、流し去る役目も果たす。
海に関して言えば、秋になって海面付近の海水温が下がることで対流が起こり、海底の水と混ざり合う。これにより、陸地から流れ込んで水面付近に停留していた汚れが希釈され、洗い流されることが知られている。

なお、日本で一番透明度が高い湖は摩周湖。かつては世界一でもあった摩周湖は、当時の半分ほどの透明度に落ちてはいるが、現在でも約20mの透明度を誇り、日本一になっている。

【水澄むの俳句】

洞窟に湛え忘却の水澄めり  西東三鬼
水澄むやとんぼうの影ゆくばかり  星野立子

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に

季語|亀鳴く(かめなく)

三春の季語 亀鳴く

亀鳴くの俳句と季語亀には声帯がないため、鳴くことはない。ただし、擦過音と呼ばれる呼吸音に近いものが、「クー」などと聞こえることがある。また、「シュー」と威嚇音を立てることも知られている。
歌人・俳人の空想を揶揄する時に取り上げられることもあるが、虫の声にしろ、その鳴き声は声帯に因るものではない。ただ、亀の場合は単なる活動音であるため、「表現」する手段ではないところがポイントか。

「亀鳴く」が定着したのは、夫木集にある藤原為家の

川ごしのをちの田中の夕闇に 何ぞと聞けば亀ぞなくなる

の和歌に因る。
余談ではあるが、ウミガメは産卵する時に涙を流すことが知られている。

【亀鳴くの俳句】

亀鳴くと嘘をつきなる俳人よ  村上鬼城

▶ 俳句の季節「俳人は嘘つき?『亀鳴く』の事実」

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に

季語|黄水仙(きずいせん)

仲春の季語 黄水仙

黄水仙の俳句と季語ヒガンバナ科。南ヨーロッパ原産。江戸末期に渡来。
水仙は晩冬の季語であるのに対し、黄水仙は春の季語。

ギリシャ神話には、よく知られたナルキッソスの他に、黄水仙にまつわる物語もある。それによると、ベルセポネに恋をした冥界の主ハーデスがベルセポネを誘拐した時に、落ちた白いスイセンが黄水仙になったという。

▶ 関連季語 水仙(冬)

【黄水仙の俳句】

わがままのとほるさびしさ黄水仙  宮澤映子

▶ 春の季語になった花 見頃と名所

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に

季語|雉(きじ)

三春の季語 

雉子(きじ・きぎす)

雉の俳句と季語キジ目キジ科キジ属に分類される鳥。日本固有の留鳥で、性質は勇敢、「焼け野のきぎす」の諺もあるように母性愛が強いため、戦後すぐに日本の国鳥に指定された。
日本では古くから親しまれてきた鳥で、万葉集には8首が載るほか、日本神話にも「鳴女(なきめ)」という名の雉子の話が登場する。それによると鳴女は、天孫降臨にさきがけて遣わされた天若日子が帰ってこないのを訝しみ、地上に遣わされた。しかし、その悪声が嫌悪されて、天若日子によって射殺される。この神話は、「雉子の頓使(ひたづかい)」といって、行ったきりの使いを表す諺になったという。
繁殖期の雄は攻撃的になり、翼を体に打ちつける「母衣打ち」などが見られる。また、この時に大声で「ケン」と鳴くが、これが雉の大きな特徴として認識され、「雉も鳴かずば撃たれまい」といった諺にもつながっている。
なお、「雉も鳴かずば撃たれまい」は、「長柄の人柱」という大阪の民話に由来し、

もの磐氏父は長柄の人柱 キジも鳴かずばうたれざらまし

という歌が伝わる。
現在最もよく親しまれている雉は、「桃太郎」の中に登場する家来だろう。家来として猿・犬・雉が選ばれたのは、裏鬼門に当たる申・戌・酉が対応していると言われている。この中で雉は、「勇気」の象徴である。

雉は、古くは「キギシ」と呼ばれ、「キギ」と聞きなした鳴声に、鳥の接尾語「シ」をくっつけたものが語源になっているとする説がある。

【雉の俳句】

父母のしきりに恋ひし雉子の声  松尾芭蕉

【雉のオスの鳴き声】
「母衣打ち」が見られ、「ケン、ケン」と鳴いている。(YouTube 動画)

【雉のメスの鳴き声】
鳴女の神話に悪声とあるが、メスの鳴き声は意外に可愛い。(YouTube 動画)

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に

季語|燕(つばめ・つばくら・つばくろ・つばくらめ)

仲春の季語 

燕来る(つばめくる)初燕(はつつばめ)飛燕(ひえん)

燕の俳句と季語(亥中之月雪)燕は、スズメ目ツバメ科ツバメ属に分類される。3月頃から南方より飛来し、4月頃に巣作りを始める。
ツバメは、前年と同じ巣に帰ってくる確率が高いことが分かっているが、必ずしも同じペアで育雛するとは限らない。5月頃から数回に渡って繁殖を行い、8月頃まで育雛が見られる。孵化から巣立ちまでに要する日数は、約20日。
七十二候には、玄鳥至(つばめきたる)と玄鳥去(つばめさる)があり、4月上旬と9月下旬に当たる。なお、南日本では越冬するものも存在し、「越冬燕」と呼ばれる。

日本では、稲の害虫を退治してくれるため、古くから大切にされてきた鳥で、家に巣をつくると縁起が良いと言われている。古くは、雁と入れ替わりに、常世からやってくると言われ、万葉集には大伴家持の歌が載る。

燕来る時になりぬと雁がねは 国おもひつつ雲隠り鳴く

繁殖期のオスのさえずりは、「土食て虫食て口渋い(つちくてむしくてくちしーぶい)」と聞きなす。「燕が低く飛ぶと雨が降る」とも言われるが、これは、雨が降る前に、餌である昆虫が低く飛ぶからである。
古くから親しまれてきた鳥だけに、文化面にも大きな影響を及ぼしている。そのひとつに、最上級の礼服である燕尾服があるが、勿論のこと、燕をまねてデザインされたものではない。裾の割れは、乗馬を考慮したものである。
また、年上の女に養われている若い男を指して「燕」というが、これは、平塚雷鳥と青年画家の恋に由来する。その画家・奥村博史は、別れを決し、「若い燕は池の平和のために飛び去って行く」と手紙を書いた。

燕は、古くは「ツバクラメ」といい、光沢があることをいう「ツバ」と黒いことを指す「クラ」に、鳥類の接尾語「メ」を加えた名前である。

【燕の俳句】

つばめつばめ泥が好きなる燕かな  細見綾子
今来たと顔を並べるつばめかな  小林一茶

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に

季語|苔の花(こけのはな)

仲夏の季語 苔の花

苔の花の俳句と季語維管束のない植物・蘚苔類(蘚類・苔類)のことを一般にコケと呼ぶが、鑑賞用に用いられるのは苔類。その苔類にもいろいろな種類があり、苔寺などでよく見られるのは、スギゴケ、ヒノキゴケ、シラガゴケ。
コケは、はじめて地上に上陸した植物。約5億年前に上陸したコケは、空中の酸素量の増加に寄与した。
コケは、薄暗い湿気の多い環境を好むと考えられているが、苔類は乾燥にも意外と強い。また、光合成を行うため、光を必要とする存在でもある。
「苔の花」と呼ばれるものは、苔類の胞子嚢である蒴のこと。春か秋に蒴が見られる種類が多いが、苔類が雨季に映えるために、夏の季語となる。
このところの苔ブームで、特に人気が高いのは「タマゴケ」の蒴で、その目玉おやじのような姿は、「たまちゃん」の名で親しまれている(画像参照)。

日本において苔は、古くから悠久の時を刻むものとして親しまれており、万葉の時代から「苔生す」の表現がよく使われている。特に有名なのは、「君が代」のもととなった古今和歌集の詠み人知らずの歌

我君は千世に八千世にさゝれ石の 巌となりて苔のむすまで

であろう。

【苔の花の俳句】

苔咲くや親にわかれて二十年  村上鬼城

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に

季語|蜂(はち)

三春の季語 

蜜蜂(みつばち)熊蜂(くまばち・くまんばち)

蜂の俳句と季語昆虫綱ハチ目(膜翅目)に分類される昆虫の内、アリ以外のものをハチという。秋の蜂、冬の蜂の季語もあるが、蜂が最も目に留まるのは、花の蜜を求めて飛び回る春である。
ハチには多くの種類があり、種類によって生活様式が大きく異なる。一部のハチは、アリと同じように社会性を持ち、役割に応じた産み分けがなされ、女王蜂や働き蜂が存在する。
身近に存在するハチには社会性を持った種類が多く、肉食のスズメバチ、アシナガバチ、ハナバチと呼ばれるミツバチなどが挙げられる。これらの働き蜂はいずれもメスで、産卵管を変化させた毒針を持つ。
ハチは一度刺すと死ぬと思われており、「ハチの一刺し」という言葉もあるが、これが当てはまるのはミツバチだけである。ミツバチは、スズメバチから巣を守るため、襲われた時に集団で抵抗し、毒針を刺す。その時に抜けないように返しがついているため、人間に対して毒針を使用した時には、引き離す時に内臓が剥がれて死んでしまう。

イギリスには「はちみつの歴史は人類の歴史」という言葉があり、ミツバチと人間とは太古から密接な関係を持っていた。日本では日本書紀に養蜂の記載があり、皇極2年(643)に百済から導入しようとしたが失敗したとある。日本で養蜂が定着したのは、平安時代の頃ではないかと考えられている。
なお、ミツバチは非常に頭の良い昆虫で、働き蜂は、その年齢により、割り当てられる仕事が変わるという。また、角度計算を行いながら飛翔したり、ゼロの概念を理解していると言われている。

女王蜂と言えば、特権をもって頂点に立つもののように思われているが、現実には、繁殖能力を失うと同時に働きバチから捨てられる運命にある。働き蜂は、女王蜂の死期を感じ取ると同時に、新たな女王蜂を育成し始める。

【蜂の俳句】

藪の蜂来ん世も我にあやかるな  小林一茶
腹立てて水呑む蜂や手水鉢  炭太祇

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に

季語|土筆(つくし)

仲春の季語 土筆

つくづくし

土筆の季語と季語シダ植物門トクサ綱トクサ目トクサ科トクサ属の植物にスギナがあり、その胞子茎をツクシという。地下茎で繁茂し、根が深いことから「地獄草」の別名もある。ツクシは胞子を放出すると枯れ、緑色のスギナが繁茂する。スギナの名は、その栄養茎が杉に似ていることに因る。
茎に巻き付いている袴の部分でつながっているように見えることから、「継く子」が語源という説がある。さらに、胞子形成部が子供の頭のように見えることから、親しみを込めて「つくしんぼう」とも呼ぶ。その袴を取り、灰汁を抜いて、食用にする。

古くは大伴家持が歌ったとされる

片山のしづが畠に生ひにけり 杉菜まじりのつくづくしかな

があるものの、万葉集などに土筆の歌は見られず、存在感の割に露出度の低い植物であった。近代に入り、正岡子規らが取り上げ、生活に密着した素材として注目されている。「寒の土筆」として詠んだ川端茅舎の「白痴」の句は特に有名。

【土筆の俳句】

ままごとの飯もおさいも土筆かな  星野立子

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に

季語|辛夷(こぶし)

仲春の季語 辛夷

辛夷の俳句と季語モクレン目モクレン科モクレン属の落葉高木で、「田打ち桜」とも呼ばれる。日本原産。3月から5月に白い花をつける。果実の形状が握りこぶしのように凸凹していることが、コブシの名前の由来である。
同じモクレン属で花季も重なるハクモクレンと似ているが、コブシは花の付け根に葉が観察されるのに対し、ハクモクレンは花が散ってから葉が出る。

平安時代の「本草和名」には「やまあららぎ」の古名も見え、すでに薬効が知られていた。夫木和歌抄には藤原為家の

うち絶えて手を握りたるこぶしの木 心狭さをなげく頃かな

が載る。昭和52年には、千昌夫の演歌「北国の春」がヒットし、歌詞の中で使われた「辛夷」が郷愁を誘うものとなっている。

【辛夷の俳句】

咲く枝を折る手もにぎりこぶしかな  松江重頼

▶ 春の季語になった花 見頃と名所

季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に 季語検索を簡単に