三夏の季語 夏花
仏教用語で陰暦4月16日から3ヵ月を「夏(げ)」と呼び、僧は外出せずに一所にこもって修行をする「夏安居(げあんご)」に入る。夏安居の間、仏前に供える花を「夏花(げばな)」という。
起源は、修験道の花供(はなく)にあるとも考えられ、山から花を折ってきて供えることは、山神を祀ることにも通じる。
陰暦5月13日。竹迷日(ちくめいじつ)ともいう。
「竹酔日」が定められた所以ははっきりしないが、移植の難しい竹が、この日に限っては竹が酒に酔っているために、移植が可能であるという中国の俗説から来ている。そのために、5月13日以外に移植をしても、「五月十三日」と書いた紙を、移植した竹に吊るしておいたりもする。
ここにいう「竹」は、本来「バンブー」を指すものだと考えられ、5月の移植が可能である。日本に見られる竹や笹は、通常は3月頃に移植を行う。よって、夏の季語となる「竹植う」や「竹植うる日」も、竹の移植そのものを指す言葉ではなく、時候を表す「竹酔日」の派生季語である。
アヤメ科アヤメ属。本州から九州の草地に自生する多年草で、扇状に広がった葉が檜扇に似ていることから「ひおうぎ」という。7月から8月に、赤い斑点があるオレンジ色の一日花を咲かせる。
初秋になる種子は、「射干玉」と書いて「ぬばたま」と読み、古事記や万葉集の時代から、「黒」や「夜」にかかる枕詞として登場する。しかし、植物そのものは歌われていない。また、一般に「ぬばたま」は季語として認識されていない。
俳諧歳時記栞草(1851年)に「射干(ひあふぎ・からすあふぎ)」は、夏之部六月に分類されている。
「射干」は漢名で、「やかん」ともいう。また、「射干」を「しゃが」と読ませることもあるが、この場合はアヤメ科の近縁種「シャガ」を指し、「著莪の花」で夏の季語になる。
梅雨時の暗い空に吹く湿った風を「黒南風」というが、それに対して、梅雨が明ける頃、あるいは梅雨明け後に吹く南風を「白南風」という。
黒南風が曇天の風であるのに対し、白南風は好天を予想させる風である。ただし、梅雨の最中に雨が小降りになって、明るくなってきた空から吹いてくる南風を「白南風」と呼ぶこともある。
「白ばえて」と動詞にして使うこともある。
▶ 関連季語 南風(夏)
梅雨初めの南風という説もあるが、概ね梅雨時の南風をいう。雲が低く垂れ込めた、暗い空から吹き寄せてくる湿った風である。「黒ばえて」と動詞にして使うこともある。
黒南風に対して、梅雨が明ける頃に吹く南風を「白南風」という。
俳諧歳時記栞草(1851年)では夏之部五月に「黒ばえ、白ばえ」があり、次のような解説がつく。
梅雨中の空合をいふ也。たとへば、かきくらして今も降やうなる空のうちに、又あかるくなるけしきを黒ばえといひ、又、小雨ふりながら折々はれんとするけしきあるを白ばえといふ。夕がたに暮かかる空の、ひとしきり晴てあかるくなるを夕ばえといふこころなるべし。
この「黒ばえ、白ばえ」というのは、風のことではなく、空の状態のことを指している。
▶ 関連季語 南風(夏)
夏至後の第三庚を初伏、第四庚を中伏、立秋後初めての庚を末伏と呼び、それを総称して「三伏」と言う。七月中旬から八月上旬に当たり、一年で最も暑いころである。
五行思想に基づくもので、金は火に伏せられること(火剋金)から、陽金である庚は、火性を当てられる夏には凶となる。つまり晩夏は、秋の金気が勢いを増しながらも、夏の火気におさえられて伏している状態であり、庚の日にはそれが特に強くなるとする。種蒔き、男女和合など、諸々の行いが慎まれてきた。
酷暑の頃を表す言葉として、手紙などで「三伏の候」「三伏の猛暑」などとして使われてきた。
三伏の琴きんきんと鳴らしけり 長谷川かな女
ミズキ科ミズキ属ヤマボウシ亜属の落葉高木「ハナミズキ」は、アメリカヤマボウシとも呼ぶ。北米原産で、日本に入ってきたのは明治時代以降である。
ミズキ科ミズキ属の落葉高木にクルマミズキ(車水木)があるが、本来「ミズキ」と言った場合にはこちらを指し、その花を「水木の花」と呼んで区別する。「花水木」が春の季語なのに対して、「水木の花」は夏の季語になる。
水木の花は、白色の小花が散房花序となり5月から6月に咲くのに対し、花水木は、4月下旬から5月上旬にかけて白やピンクの総苞の中心に目立たない花をつける。ただ、花のように見える総苞の華やかさゆえに、「ハナミズキ」の名を持つ。
大正4年(1915年)に、ワシントンD.C.に贈ったサクラの返礼として東京市に贈呈され、日比谷公園などに植えられたのが、日本における花水木の植栽の始まりである。現在では街路樹として植えられるなど、晩春の代表的な花のひとつとなっている。
歌手一青窈の2004年のヒット曲に「ハナミズキ」があり、結婚式の定番ソングとなっている。
一つづつ花の夜明けの花みづき 加藤楸邨
浜万年青(はまおもと)
ヒガンバナ科の常緑多年草で、関東から九州にかけての海岸に、7月から9月にかけて芳香のある白い花を咲かせる。浜芭蕉ともいう。
神道で神事に用いる木綿(ゆう)に似ていることから「浜木綿(はまゆう)」の名がついた。また、葉が万年青に似ることから、「浜万年青」とも呼ぶ。
海岸の砂地に育つが、海流によって種子が運ばれたためである。温暖な地域に育つ植物であり、主に黒潮に乗って分布域を広げてきた。
浜木綿は、古く万葉集にも取り上げられた植物で、柿本人麻呂には
み熊野の浦の浜木綿百重なす 心は思へど直に逢はぬかも
の和歌がある。俳諧歳時記栞草(1851年)には「浜木綿の花」が立項されているが、ここでは秋之部八月に分類されている。因みに、「浜木綿の実」は、秋の季語になる。
雲よりも白き帆船浜木綿咲く 小島花枝
バラ科バラ属の落葉低木で、日本では島根県を南限として、浜辺に分布する。地下茎をのばす匍匐性の植物で、5月から7月頃に芳香を持つ紅紫色の花をつける(白色のものもある)。枝には棘が密生する。
ハマナシとも呼び、「浜茄子」「浜梨」の字をあてることもある。果実が茄子、あるいは梨に似ているとして名がついた。「玫瑰」の字は漢名からきており、「まいかい」と読む。
花は「玫瑰(まいかい)」という名の生薬になり、血流を良くすると言われている。また、茶にしたり、ハマナス油として化粧品にもする。実になったものは、ローズヒップとして食用にする。
皇后雅子様のお印は、旅行で訪れた北海道での印象から玫瑰に決まったという。