季語|夕立(ゆうだち・ゆだち・よだち)

三夏の季語 夕立

驟雨(しゅうう)白雨(はくう・しらさめ・ゆうだち)

夕立の季語(忠孝名誉奇人伝夕立や田をミめぐりの神ならば其角)夏の午後、強い日射により地面から上昇気流が生じ、積乱雲が生じて、時に雷・突風・雹を交えて、激しいにわか雨が降る。熱帯地方で発生するスコールと、同じようなものである。
梅雨明けから秋雨が降るまでの間の夕方の雨を、「夕立」と呼ぶことが普通であった。しかし、温暖化の影響からか、夕立の降る期間が長くなっているような印象を受ける。

「夕立つ」が名詞化して「夕立」になったとされ、夕方に風や雲が起こり立つことに誘発される雨である。
万葉集には、夕立の後の涼しさを歌った小鯛王の

夕立の雨うち降れば春日野の 尾花の末の白露思ほゆ

がある。また、新古今和歌集では、西行法師の

よられつる野もせの草のかげろひて すずしくくもる夕立の空

などが知られる。

夕立は涼を呼ぶとともに、降り始めに立ちのぼる香りにも趣きがある。この、雨の匂いの元は、雷によって発生するオゾンや、土壌微生物が産出する揮発物質だと言われている。近年では、「ペトリコール」という、石のエッセンスを意味する造語で呼ばれている。

【夕立の俳句】

夕立や田を見めぐりの神ならば  宝井其角
桑海や大夕立あとなほけぶる  高浜年尾

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季語|甲虫(かぶとむし)

三夏の季語 甲虫

兜虫(かぶとむし)

甲虫「こうちゅう」と読めば、ホタルやテントウムシをも含むコウチュウ目の昆虫であるが、俳句では、「甲虫」と書いて「かぶとむし」と読ませる。

一般にカブトムシと呼ばれる日本産のものは、コウチュウ目コガネムシ科カブトムシ亜科真性カブトムシ族のヤマトカブトムシである。沖縄に生息するヤンバルテナガコガネを除けば、日本最大の昆虫で、「昆虫の王様」とも呼ばれる。
成虫は6月から9月頃に見られ、夜間、クヌギやコナラなどの樹液に集まる。夏休みに行う昆虫採集では、最も人気の高い昆虫であり、夏の季語となる。走光性があり、街灯などにも飛来する。
カブトムシは鳴くと言われることもあるが、興奮した時に上翅と腹部をこすり合わせて出す、摩擦音である。
兜の前立てのような角をオスが持つことが、カブトムシの名前の由来である。この角を用いて、餌場や雌を求めて争う。因みに、兜の前立て自体は鍬形(くわがた)という。

江戸時代の「大和本草」に取り上げられるが、俳諧歳時記栞草に名は見られない。夜行性であるためか、江戸時代にはそれほど馴染みのある昆虫ではなかったと見られる。カブトムシが人気になったのは、懐中電灯が庶民のものとなり、昆虫の飼い方の教材が人気を集めた1960年代になってから。

【甲虫の俳句】

死してなほ兜のおもき兜虫  土生重次

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季語|蓮(はす)

晩夏の季語 

蓮の花(はすのはな)白蓮(はくれん・びゃくれん)紅蓮(ぐれん)はちす(はちす)

蓮の俳句と季語インド原産のハス科多年性水生植物。水芙蓉・水の花とも呼ぶハスの花を、「蓮華(れんげ)」とも言う。7月の誕生花で、インド・スリランカ・ベトナムでは国花になっている。
7月から8月にかけて咲く花の色は白から桃色で、朝に開花して昼には閉じる。

地下茎は「蓮根(れんこん)」で、「蓮根掘る(はすねほる)」が冬の季語になる。
花托がハチの巣に似ていることから古くは「はちす」と呼ばれており、「ハス」に転訛した。

インドでは太古から聖なる花と見なされ、ヒンドゥー教では梵天、つまり創造神・ブラフマーが座すとされる。また仏教では、仏の智慧や慈悲の象徴となっている。
日本には古くから渡来していたと考えられており、縄文から弥生時代にかけての遺跡から出てきた古代蓮が、現代に蘇っている。

維摩経に「泥中の蓮」があり、北宋時代の愛蓮説には「蓮は泥より出でて泥に染まらず」とある。また「一蓮托生」という言葉は、死後に同じ蓮花の上に生まれ変わるという意味の仏教用語であり、転じて、結果はどうあれ行動を共にすることをいう。
「蓮の糸(はちすのいと)」は極楽往生の縁を結ぶとされている。「紅蓮地獄」は、寒さのために皮膚が破れて紅色の蓮のようになるという地獄の名である。

古事記(雄略記)には、赤猪子という美しい童女が結婚を約束されるが、すっかり忘れ去られていて、年老いてから再開する話が出てくる。そこで歌われる志都歌の最後に、蓮の花を、若い盛りの比喩に用いている。

日下江の入江の蓮 花蓮身の盛人 ともしきろかも

万葉集に蓮は4首出てくるが、長意吉麻呂は

蓮葉はかくこそあるもの意吉麻呂が 家なるものは芋の葉にあらし

と、蓮の葉に似ている芋の葉に絡めて、面白く歌い上げている。

「白蓮」は、白い蓮の花のことをいうが、白い木蓮のことも「白蓮」と呼び、こちらは春の季語になる。

【蓮の俳句】

うす縁や蓮に吹かれて夕茶漬  小林一茶
鯉飛びてあだに蓮ちる夕かな  勝見二柳

▶ 夏の季語になった花 見頃と名所

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季語|黴(かび)

仲夏の季語 

黴の顕微鏡写真(Aspergillus)菌糸からなる糸状菌(しじょうきん)。子実体をつくるものをキノコと言うが、コロニーを形成して目に見える形となったものをカビという。高温多湿化で生育するものが多いため、日本では梅雨時に黴が生えやすくなり、夏の季語となる。
顕微鏡で見ると、菌糸と呼ばれる糸状の細胞が観察できる。その菌糸は、胞子が発芽することによって形成される。有機物から栄養分を得ながら伸張し、単性生殖と有性生殖の両方を行うことが知られている。

数万にのぼる種類のカビが知られており、食品を腐らせたり、アレルギーなどの病気を誘発する悪い生物として認識されている。クロカビやアオカビが、生活する中で馴染み深いものであり、中には水虫の元になる白癬菌などもある。
しかし、コウジカビなど、食品の製造に欠かせない種類のカビや、ペニシリンなどの抗生物質を生み出す有益な種類のカビもある。日本では古くから、カビを利用した食品の製造が行われており、酒・醤油・漬物・納豆・鰹節などがそれにあたる。海外でも、チーズの製造などにカビを活用している。

語源は「醸す」にあると言われ、「醸ぶ(かぶ)」の転訛とされる。
慣用句に、時代遅れを表す「黴が生える」がある。

【黴の俳句】

黴の中言葉となればもう古し  加藤楸邨

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季語|蝉(せみ)

晩夏の季語 

油蝉(あぶらぜみ)初蝉(はつぜみ)蝉時雨(せみしぐれ)蝉の声(せみのこえ)

蝉の季語カメムシ目に属する。蝉は、夏の季語になるものと、春の季語、秋の季語になるものがあり、夏の蝉としてニイニイゼミ、アブラゼミ、クマゼミ、ミンミンゼミが親しまれている。因みに春の季語となるものにハルゼミ、秋の季語となるものに、ツクツクボウシ、ヒグラシがある。
「7日の命」とも言われ、短命の代名詞のような蝉の存在であるが、成虫でも1カ月ほど生き続ける。幼虫からの期間を入れると、10年以上生きる種類もあり、昆虫としては寿命は長い。
雌は枯木に産卵し、幼虫は地中で生活する。羽化は夜間に行われ、成虫となった後は樹液を吸って生活する。雄のみが、求愛のために鳴く。

夏の蝉の中で一番早く鳴きはじめるのは、体の小さなニイニイゼミで、6月末に出現する。鳴き声は、その名の通り「ニイニイ」と聞きなす。一日中鳴き、夜でも街灯の近くで鳴くことがある。
アブラゼミは、油紙に似た茶色い翅を特徴とする。7月頃に出現し、午後を中心に「ジーーー」と鳴いて、暑い夏をより暑く感じさせる。
クマゼミは、沖縄にのみ生息するヤエヤマクマゼミを除けば、国内最大の蝉で、午前中に「シャオシャオ」と鳴く。7月15日前後に発生し、1カ月ほど、騒音とも言われるほどの大きな声で集団合唱する。南方系の蝉で、近年では東京でもふつうに見られるようになったと話題になっている。
ミンミンゼミは、「ミンミン」という鳴き声が特徴で、7月頃に出現し、午前中を中心に鳴く。ただし、北海道では発生が早く、6月下旬には鳴き始める。西日本では山地、東日本では平地によく見られることが知られている。映画などで日本の夏が描かれる時に使われる音響は、大概ミンミンゼミの鳴き声である。

地中から生じることから、中国では復活の象徴となっている。日本では短命の象徴として取り上げられ、抜け殻を「うつせみ」と呼ぶなど、もののあわれに結び付けられている。
万葉集の蝉の大半は秋の蝉であるだが、1首のみ大石蓑麻呂の歌として

石走る瀧もとどろに鳴く蝉の 声をし聞けば都し思ほゆ

が載る。ただし「うつせみ」の掲載は46首に上り、「現世」の意で用いられている。
セミの語源は中国語の「蝉(せん)」と言われているが、これはセミの鳴き声から来ている。

おくの細道」にある芭蕉の「閑かさや~」の蝉の句は、元禄2年5月27日(1689年7月13日)に、出羽国の立石寺で詠まれたもの。蝉の種類はニイニイゼミだと言われている。

【蝉の俳句】

閑かさや岩にしみ入る蝉の声  松尾芭蕉
せみなくやつくづく赤い風車  小林一茶

【アブラゼミの鳴き声】
褐色の翅をもつ油蝉は、北海道から九州までの人里から山地まで幅広く生息。サクラなどのバラ科樹木に多い。真夏の暑さを増幅させるように鳴く蝉である。(YouTube 動画)

【ニイニイゼミの鳴き声】
小型の蝉で、夏の季語となる蝉4種の中では、一番最初に鳴き始める。芭蕉の「閑かさや岩にしみ入る蝉の声」も、この蝉を詠んだものだと言われている。(YouTube 動画)

【クマゼミの鳴き声】
かつては西日本中心に生息していたが、温暖化とともに東日本にも進出していると言われるクマゼミ。7月中旬から1か月、サクラなどの木に止まり、午前中を中心に集団で大音響で鳴く。(YouTube 動画)

【ミンミンゼミの鳴き声】
蝉の声を代表するように「ミンミン」と鳴き、その鳴き声は夏の風物詩である。北海道から九州にかけて分布するが、東日本では平地部でも多く見られるのに対し、西日本では主に山間部に生息する。(YouTube 動画)

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季語|南風(なんぷう・はえ・みなみかぜ・みなみ・まぜ・まじ)

三夏の季語 南風

海南風(かいなんぷう)

南風の俳句と季語南風は夏の季語。夏に南風が吹くと、太平洋高気圧の影響で日本列島は晴れることが多い。

梅雨時の強い南風を荒南風(あらはえ)、梅雨時に黒雲の下を吹く南風を黒南風(くろはえ)、梅雨が明けた後の晴天下での南風を白南風(しろはえ・しらはえ)と言う。
台風の予兆として南風が吹くこともあり、漁師は南風を警戒する。「南風(まじ)が吹いたら魚は釣れない」などと言う。

気象学では、36方位を数字に置き換えて表現するが、南風には「18」が割り振られている。
JRには特急南風号があり、岡山と高知を結んでいる。

【南風の俳句】

恋過ぎて南風に浜雀乗る  秋元不死男
耳もとに波のわきたつ南風かな  久保田万太郎

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季語|蚊(か)

三夏の季語 

藪蚊(やぶか)蚊柱(かばしら)

蚊の季語(和田三造画)ハエと同じ双翅目に属し、2枚の翅を持つカ科の昆虫。最も普通に見られるアカイエカや、一般にヤブカと呼ばれるヒトスジシマカなど、日本では約100種が確認されている。
蚊の餌は植物の汁であり、血液ではない。卵をつくるための蛋白質を得るために、雌のみが吸血する。産卵は水系で行われ、幼虫は水生で、ボウフラと呼ばれる。オニボウフラと呼ばれる蛹も水中に見られ、餌はとらないものの、他の昆虫の蛹に比べて活発に動く。因みに「ぼうふら」も夏の季語。

蚊に刺されると、蚊の唾液が体内に入り込むことでアレルギー反応が起こり、かゆみを感じる。またその際に、伝染病にかかる可能性もあり、媒介する伝染病に、日本脳炎をはじめ、マラリアや黄熱病、デング熱などが知られている。

一般的には屋外で繁殖するために、蚊は、気温の上昇する夏季によく見られる。しかしチカイエカは、浄化槽などの屋内環境で発生するために年中見られ、温水の使用頻度が高くなる冬場に大発生することがある。
蚊の活動時間帯は種類により異なり、アカイエカは夜、ヒトスジシマカは昼に活動が活発になる。

蚊柱は、蚊の繁殖活動に伴う集団飛行であり、雄の集団に雌が入り込んできて交尾する。アカイエカなども蚊柱をつくるが、河畔などにふつうに見られる蚊柱は、同じ双翅目でもユスリカ科に属す、血を吸わない種類の蚊によるもの。

徒然草第十九段には、「六月の頃、あやしき家に夕顔の白く見えて、蚊遣火ふすぶるもあはれなり。」とある。万葉集には詠み人知らずで

あしひきの山田守る翁が置く蚊火の 下焦れのみ吾が恋ひ居らむ

がある。
「蚊」の文字は、人の肌に文するところから来ている。日本に伝来し、「蚊」は「ブンブン」といって飛び始めた。
「カ」の名は、「やかまし」からきたとか、遠方のものを指す「彼(か)」からきたとか、様々な説がある。

【蚊の俳句】

たたかれて昼の蚊をはく木魚かな  夏目漱石

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季語|ビール(びーる)

三夏の季語 ビール

麦酒(びーる・ばくしゅ)ビヤホール(びやほーる)

ビールの俳句と季語麦芽をビール酵母で発酵させたビール。上面発酵のエールと下面発酵のラガーに大別され、日本では、ラガーの一種「ピルスナー」が主流である。

ビールは古くから飲まれていたことが知られており、紀元前4000年には、シュメール人によって既に作られていた。11世紀ドイツでは、風味付けと発酵を安定させるためにホップが用いられるようになった。
日本でも江戸時代にはその存在が知られており、長崎の出島で醸造も行われていた。明治時代になると、日本人の手で盛んにつくられるようになり、1876年には官営ビール工場も設立された。現代でもサッポロビールとして、その血脈を受け継ぐ。
またキリンビールは、1870年に日本で初めて大衆向けビールを醸造販売した「スプリング・バレー・ブルワリー」が元となっている。
アサヒビールは、1889年に設立された大阪麦酒を前身とする。アサヒビールの大阪麦酒・サッポロビールの札幌麦酒・エビスビールの日本麦酒が合併して、1906年に「大日本麦酒」が設立された。1949年には、サッポロビールとアサヒビールに再分割され、エビスビールはサッポロビールが販売するようになった。

現在では、ビールに味わいを似せた「発泡酒」や「第三のビール」が販売されており、価格などのメリットから、ビールのシェアを奪っている。

1999年、地ビールの日選考委員会は「地ビールの日・ビールの日」を4月23日に定め、2000年から記念日となった。1516年のこの日は、粗悪品を駆逐するために、ドイツで「ビール」の定義付けがなされた日である。日本のビールの日は、ドイツの「ビールの日」から来ている。
ビールの日は春にあたるが、最も消費量が多くなるのが夏場であり、ビールは夏の季語となっている。

【ビールの俳句】

ビール酌む男ごころを灯に曝す  三橋鷹女

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季語|夏の山(なつのやま)

三夏の季語 夏の山

夏山(なつやま)夏嶺(かれい)夏嶽(なつだけ)青嶺(あおね)

夏山の季語夏山とは、高山というよりもむしろ、草木の青々と茂った山のことを言う。長期休暇における登山の対象となる山。
2016年には、8月11日を「山の日」として、国民の祝日に制定した。なお、富士山をはじめとして日本各地の山で、7月1日に山開きが執り行われるが、これは修験道の名残である。

【夏の山の俳句】

夏山に足駄を拝む首途哉  松尾芭蕉
大木を見てもどりけり夏の山  高桑闌更

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季語|青田(あおた)

晩夏の季語 青田

青田風(あおたかぜ)青田道(あおたみち)

青田の俳句と季語まだ稲の実っていない、7月下旬ごろの青々とした田のことをいう。稲を植え付ける前は「黒田」、雪が積もった冬の田は「白田」という。

俳諧歳時記栞草に、杜甫の「六月青稲多 千畦碧泉乱」を引用して、「風景見るべし」とある。

稲の収穫前に先買いすること、転じて企業が卒業前の学生を採用することを「青田買い」と言う。また、建築工事が完了していない内に建築物の販売などをすることを「青田売り」と言う。

【青田の俳句】

山々を低く覚ゆる青田かな  与謝蕪村
一点の偽りもなく青田あり  山口誓子

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