長閑(のどか)

三春の季語 長閑

駘蕩(たいとう)

季語春は、異動などで慌ただしい季節ではあるがまた、冬の厳しさも去り、穏やかでのんびりとした気持ちにもなる。「俳諧歳時記栞草」には、「春の日のユツタリと長く閑かなるを云」とある。
「のどか」の「のど」は、穏やかな様を表す古語で、「なだらか」に通じる。「か」は接尾語。
古今和歌集にある紀友則の

ひさかたの光のどけき春の日に 静心なく花の散るらむ

は、小倉百人一首33番。

「駘蕩」も、春の伸びやかさを表現するためによく使われる言葉であるが、中国南北朝時代の詩人・謝朓の「春物まさにに駘蕩たり」の句から広がったものだと言われており、温和なことを言う。

のどかさや障子あくれば野が見ゆる  正岡子規

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亀鳴く(かめなく)

三春の季語 亀鳴く

季語亀には声帯がないため、鳴くことはない。ただし、擦過音と呼ばれる呼吸音に近いものが、「クー」などと聞こえることがある。また、「シュー」と威嚇音を立てることも知られている。
歌人・俳人の空想を揶揄する時に取り上げられることもあるが、虫の声にしろ、その鳴き声は声帯に因るものではない。ただ、亀の場合は単なる活動音であるため、「表現」する手段ではないところがポイントか。

「亀鳴く」が定着したのは、夫木集にある藤原為家の

川ごしのをちの田中の夕闇に 何ぞと聞けば亀ぞなくなる

の和歌に因る。
余談ではあるが、ウミガメは産卵する時に涙を流すことが知られている。

亀鳴くと嘘をつきなる俳人よ  村上鬼城

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雉(きじ)

三春の季語 

雉子(きじ・きぎす)

季語キジ目キジ科キジ属に分類される鳥。日本固有の留鳥で、性質は勇敢、「焼け野のきぎす」の諺もあるように母性愛が強いため、戦後すぐに日本の国鳥に指定された。
日本では古くから親しまれてきた鳥で、万葉集には8首が載るほか、日本神話にも「鳴女(なきめ)」という名の雉子の話が登場する。それによると鳴女は、天孫降臨にさきがけて遣わされた天若日子が帰ってこないのを訝しみ、地上に遣わされた。しかし、その悪声が嫌悪されて、天若日子によって射殺される。この神話は、「雉子の頓使(ひたづかい)」といって、行ったきりの使いを表す諺になったという。
繁殖期の雄は攻撃的になり、翼を体に打ちつける「母衣打ち」などが見られる。また、この時に大声で「ケン」と鳴くが、これが雉の大きな特徴として認識され、「雉も鳴かずば撃たれまい」といった諺にもつながっている。
なお、「雉も鳴かずば撃たれまい」は、「長柄の人柱」という大阪の民話に由来し、

もの磐氏父は長柄の人柱 キジも鳴かずばうたれざらまし

という歌が伝わる。
現在最もよく親しまれている雉は、「桃太郎」の中に登場する家来だろう。家来として猿・犬・雉が選ばれたのは、裏鬼門に当たる申・戌・酉が対応していると言われている。この中で雉は、「勇気」の象徴である。

雉は、古くは「キギシ」と呼ばれ、「キギ」と聞きなした鳴声に、鳥の接尾語「シ」をくっつけたものが語源になっているとする説がある。

父母のしきりに恋ひし雉子の声  松尾芭蕉

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蜂(はち)

三春の季語 

蜜蜂(みつばち)熊蜂(くまばち・くまんばち)

季語昆虫綱ハチ目(膜翅目)に分類される昆虫の内、アリ以外のものをハチという。秋の蜂、冬の蜂の季語もあるが、蜂が最も目に留まるのは、花の蜜を求めて飛び回る春である。
ハチには多くの種類があり、種類によって生活様式が大きく異なる。一部のハチは、アリと同じように社会性を持ち、役割に応じた産み分けがなされ、女王蜂や働き蜂が存在する。
身近に存在するハチには社会性を持った種類が多く、肉食のスズメバチ、アシナガバチ、ハナバチと呼ばれるミツバチなどが挙げられる。これらの働き蜂はいずれもメスで、産卵管を変化させた毒針を持つ。
ハチは一度刺すと死ぬと思われており、「ハチの一刺し」という言葉もあるが、これが当てはまるのはミツバチだけである。ミツバチは、スズメバチから巣を守るため、襲われた時に集団で抵抗し、毒針を刺す。その時に抜けないように返しがついているため、人間に対して毒針を使用した時には、引き離す時に内臓が剥がれて死んでしまう。

イギリスには「はちみつの歴史は人類の歴史」という言葉があり、ミツバチと人間とは太古から密接な関係を持っていた。日本では日本書紀に養蜂の記載があり、皇極2年(643)に百済から導入しようとしたが失敗したとある。日本で養蜂が定着したのは、平安時代の頃ではないかと考えられている。
なお、ミツバチは非常に頭の良い昆虫で、働き蜂は、その年齢により、割り当てられる仕事が変わるという。また、角度計算を行いながら飛翔したり、ゼロの概念を理解していると言われている。

女王蜂と言えば、特権をもって頂点に立つもののように思われているが、現実には、繁殖能力を失うと同時に働きバチから捨てられる運命にある。働き蜂は、女王蜂の死期を感じ取ると同時に、新たな女王蜂を育成し始める。

藪の蜂来ん世も我にあやかるな  小林一茶
腹立てて水呑む蜂や手水鉢  炭太祇

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春時雨(はるしぐれ)

三春の季語 春時雨

春の驟雨(はるのしゅうう)

季語「時雨」は冬を告げる雨であるが、春のにわか雨には明るさもある。

▶ 時雨(冬)

いくたびも秋篠寺の春時雨  星野立子

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春の昼(はるのひる)

三春の季語 春の昼

春昼(しゅんちゅう)

季語春の昼中は、あたたかな優しさに満ちているが…

▶ 関連季語 春

白虹の現れ消えぬ春の昼  松本たかし

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落椿(おちつばき)

三春の季語 落椿

季語散り落ちた椿の花。

▶ 関連季語 椿(春)

落椿ふむ外はなき径かな  富安風生

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椿(つばき)

三春の季語 椿

山茶(さんちゃ)・山椿(やまつばき)

季語ツバキ科ツバキ属の常緑樹で、冬から春に花をつける。普通に見られるヤブツバキは、日本原産。同じツバキ属の山茶花は花びらがひとつひとつ散っていくのに対し、椿は花ごと落花するため、病床では厭われる。首が落ちるような落花の様を武士が嫌っていたというのは俗説で、武士は、その潔さを愛でた。江戸時代には特に二代将軍徳川秀忠が好んだことから、ユキツバキなどと掛け合わせる品種改良が盛んに行われ、花だけでなく葉や枝も観賞対象とした。
椿の木をヨーロッパに持ち帰った宣教師カメルに因み、西洋では「カメリア」の名で知られている。1848年には、フランスのアレクサンドル・デュマ・フィスが小説「椿姫」を書き上げ、現在まで世界各地で舞台公演・映画化が行われている。

椿の種子から採取する椿油は燃料油にするなど、様々な用途があるが、特に整髪料としては有名で高価。縁結びに御利益があると言われる島根県の八重垣神社は、夫婦椿こと「連理の椿」があることでも知られているが、資生堂の花椿マークは、この八重垣神社にある椿をモチーフにしている。なお、八重垣神社の御祭神は、ヤマタノオロチ伝説で知られる素盞嗚尊(スサノオノミコト)と櫛稲田姫(クシナダヒメ)である。和歌のはじめとされる「八雲立つ出雲八重垣妻込みに八重垣造る其の八重垣を」に因む神社である。
椿には神霊が宿るという伝承があり、椿の古木は化けると言われている。また、人魚の肉を食べて800歳まで若さを保ったとされる八百比丘尼は、椿の花を持って全国行脚したとされる。
万葉集には椿の歌が9首あり、坂門人足は

巨勢山のつらつら椿つらつらに 見つつ思はな巨勢の春野を

と歌った。この歌をはじめとして、万葉集には、列をなした椿をつらつら見る「列々椿」の歌が2首ある。

「つばき」の語源は、光沢のある葉を成す木のことを指した艶葉樹(つやばき)とされる。なお、「椿」の字を当てるのは日本独自のものであり、中国では「海石榴」である。中国で「椿」は、チャンチンというセンダン科の植物のことである。

赤い椿白い椿と落ちにけり  河東碧梧桐

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春の夜(はるのよ)

三春の季語 

春の闇(はるのやみ)

季語気持ちが高揚してくる春の夜ではあるが、小倉百人一首にも載る周防内侍の

春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立む名こそをしけれ

のように、はかない夢に結び付けられることがしばしばある。

▶ 関連季語 春

春の夜は桜に明けてしまひけり  松尾芭蕉
をみなとはかかるものかも春の闇  日野草城

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春(はる)

三春の季語 

春の日(はるのひ)・東帝(とうてい)・青帝(せいてい)

季語太陽暦では3月から5月まで、陰暦では1月から3月までを春という。二十四節気では、立春から立夏の前日まで。語源は、田畑を「墾る(はる)」からきているという説がある。古今和歌集の紀友則の歌、

ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ

は、百人一首33番。

発句也松尾桃青宿の春  松尾芭蕉
春や昔十五万石の城下哉  正岡子規

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