季語|春塵(しゅんじん)

三春の季語 春塵

春の塵(はるのちり)春埃(はるぼこり)

季語と俳句で春塵穏やかなイメージが強い春ではあるが、実際には風が強い日が多く、埃っぽい日が多い。この、春にたつ埃を「春塵」と言う。春の季語である「」は、植物の成長や春雨などによる空気中の水分の上昇のために発生するとされることが多いが、この「春塵」も重要な発生要因となっている。

なお春塵は、冬場の乾燥と春の強風が2大発生要因である。
つまり、春になると南北の温度差から、強風が吹きやすくなる。冬場に乾燥していた地域では、その強風に伴って砂埃が舞い上がりやすい。また、偏西風が強くなる春には黄沙も飛来して、埃っぽくなるのである。

【春塵の俳句】

春塵やいつひろごりし生活の輪  久保田万太郎
縦のもの横に机上の春の塵  稲畑汀子

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季語|芹(せり)

三春の季語 

芹の水(せりのみず)水芹(みずぜり)根芹(ねぜり)

芹の季語と俳句春の七草の一つで、セリ科の多年草で、「白根草(しろねぐさ)」の別名も持つ。日本原産で湿地を好み、畦などに自生する芹を「山ぜり」「野ぜり」、水田で栽培されているものを「田ぜり」、畑で栽培されているものを「畑ぜり」という。強い芳香を持つ。8月頃に、白い小さな花をたくさんつける。
旬は1月から3月で、春の七草として七草粥に使われるほか、鍋や炒め物、和え物などにも用いられる緑黄色野菜である。
同じセリ科植物に日本三大有毒植物のドクゼリがあり、形状がよく似ているので注意が必要である。

「俳諧歳時記栞草」(1851年)では、正月兼三春物に分類し、「水旱及び赤白の二種有。水芹は水中に生じて根多く、旱芹は平地に生じて根少し。赤芹は味悪くして用ひず、白芹は味美にして常用す」とある。
古くから和歌にも詠まれ、万葉集には葛城王と薛妙観命婦の間に贈答歌がある。

あかねさす昼はたたびてぬばたまの 夜の暇に摘める芹こそ  葛城王
丈夫と思へるものを太刀佩きて かにはの田居に芹ぞ摘みける  薛妙観命婦

競り合うように群生して伸びることから、語源は「競り」にあると言われている。

【芹の俳句】

我がためか鶴はみのこす芹の飯  松尾芭蕉
我事と鯲のにげし根芹かな  内藤丈草

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季語|さより

三春の季語 さより

さよりの俳句と季語ダツ目サヨリ科に属する海水魚である。漢字では「鱵」「細魚」「針魚」「水針魚」「竹魚」などと書き、「長鰯(ながいわし)」ともいう。トビウオと近縁で、下顎が長く突き出しているのが特徴である。日本全国の沿岸の海面近くに、群れて生息している。
春から秋を中心に、年中水揚げされるが、産卵直前の3月から5月にかけて獲られるものが美味い。白身の高級魚である。

細いことを表す「狭(さ)」に、群れを表す「寄り」がくっついたものが語源になったとの説がある。
「さよりのように腹黒い」という言葉があるが、さよりの腹膜が黒いために、見かけによらず腹黒い人を指す。

【さよりの俳句】

夕風にそよりともせぬさよりかな  赤尾兜子

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季語|赤貝(あかがい)

三春の季語 赤貝

赤貝の俳句と季語フネガイ目フネガイ科に属するアカガイ。血液が赤く身が赤いことから、赤貝の名がついた。「蚶」とも書く。
浅海の砂泥に潜って生活しており、比較的簡単に採取できるため、潮干狩の盛んな春の季語となる。旬は、身が太くなる冬から春。夏の産卵期になると、貝毒を発生し、身がやせて不味くなる。

古語では蚶貝(きさがい)といい、古事記の「大国主の神」の項に出てくる。大火傷を負った大国主を、蚶貝比売(きさがいひめ)と蛤貝比売(うむがいひめ)が協力して治療している。
また、貝は女陰の隠語として用いられることがあり、成長に合わせて蜆⇒蛤⇒赤貝と呼ばれることがある。

【赤貝の俳句】

赤貝のひもに終りし夜の鮓  森澄雄

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季語|鳥貝(とりがい)

三春の季語 鳥貝

鳥貝の俳句と季語二枚貝綱マルスダレガイ目ザルガイ科に属し、日本では東北以南の内湾の泥地に生息している。雌雄同体で大きさは10センチほど。産卵期は春と秋、寿命は1年から2年である。
高級食材であり、オハグロと呼ばれる足の部分を主に食す。この足の部分が鳥の嘴に似ているために「鳥貝」となった。

春の季語に分類されるが、旬は4月から7月となる。現在では、冷凍ものが通年出回っている。また養殖も行われており、安定供給が可能となった。特に「丹後とり貝」はブランドとなっている。

【鳥貝の俳句】

鳥貝や風音遠き日暮来る  角川春樹

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季語|陽炎(かげろう・かげろふ・かぎろい・ようえん)

三春の季語 陽炎

かげろふ糸遊(いという・いとゆふ・いとゆう)

陽炎の季語と俳句風が弱く日差しが強い日には、大地からの蒸気で、遠くのものが揺らいで見える。「陽炎」は、春に限られた現象ではないが、春の陽気を酌んで春の季語とする。また、「かぎろひの」は、「春」「あるかなきか」などに掛かる枕詞でもある。
古くは、揺れながら輝くもの全てを「かぎろひ」と表現しており、「輝く火(陽)」の意であった。「陽炎」はそれが限定的になったものである。そのため、カゲロウやトンボのような光を反射する羽を持った昆虫を、「かげろう」と言うこともある。
俳諧歳時記栞草では、「篗纑輪」(1753年千梅)の引用で、「陽炎」と「糸遊」を同じものだとしながらも、「春気、地より昇るを陽炎或はかげろふもゆる」「空にちらつき、又降るをいとゆふ」と言っている。
万葉集には、柿本人麻呂の和歌

東の野に炎の立つ見えて かへり見すれば月傾きぬ

があるが、この炎(かぎろひ)は、東の空が赤くなって明けていく様を言っている。万葉集ではこの他にも

今さらに雪降らめやもかぎろひの 燃ゆる春へとなりにしものを

とも歌われている。

陽炎は、直進する光線が、空気の密度が異なる場所で、密度のより高い方へ傾くために起こる現象である。この揺らぎを「シュリーレン現象」と呼ぶ。同じメカニズムで発生するものに「蜃気楼」があり、こちらも春の季語となっている。

【陽炎の俳句】

入かゝる日も糸ゆふの名残かな  松尾芭蕉
陽炎や昔し戀せし道の草  夏目成美

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季語|桜貝(さくらがい)

三春の季語 桜貝

桜貝の季語二枚貝綱ニッコウガイ科に「サクラガイ」という種がある。よく似た貝に「ベニガイ」「カバザクラ」「モモノハナガイ」などもあり、これら数センチの大きさのピンク色の二枚貝を総称して「桜貝」という。
日本各地の浅瀬の砂泥底に潜り込んで生活しており、貝殻は、風や波に運ばれて海岸に打ち上げられる。その貝殻を拾うと幸せになれると言われており、よく小瓶などに入れて御守にする。

「桜貝」は春特有のものというわけではなく、色を表す「桜」の名に因んで春の季語になっている。また、潮干狩シーズンである春に目にしやすいということもある。「花貝」「紅貝」などとも呼ばれ、古くから親しまれており、藤原定家(建保百首)に

伊勢の海たまよる浪に桜貝 かひあるうらの春の色哉

の和歌もある。
桜貝などの貝殻が砂浜に打ち上げられる名所を「日本三大小貝名所」として、鎌倉の由比ヶ浜・石川県の増穂浦海岸・和歌山県の和歌の浦が挙げられることがある。

【桜貝の俳句】

二三枚重ねてうすし桜貝  松本たかし
おなじ波ふたたびは来ず桜貝  木内怜子

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季語|春の山(はるのやま)

三春の季語 春の山

春山(はるやま・しゅんざん)春嶺(しゅんれい)

春の山の季語草木は芽吹き、小鳥はうたう。春になると、山に生気が満ちて賑やかになる。けれども、靄がかかって、冬場ほど明瞭な影を見せなくなるのも春の山である。
郭熙(北宋の山水画家)の「画品」に「春山淡冶而如笑 夏山蒼翠而欲滴 秋山明淨而如粧 冬山惨淡而如睡」とあり、夏の「山滴る」、秋の「山粧ふ」、冬の「山眠る」とともに、春は「山笑ふ」と表現する。
万葉集に、作者不詳の和歌で

春山の馬酔木の花の悪しからぬ 君にはしゑや寄そるともよし

がある。

【春の山の俳句】

小酒屋の出現したり春の山  小林一茶
赤い鳥青い鳥ゐる春の山  甲斐遊糸

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季語|摘草(つみくさ)

三春の季語 摘草

草摘む(くさつむ)蓬摘む(よもぎつむ)

摘草の季語春の行楽に草摘みがある。対象となるのは、土筆などの食用となるもの、紫雲英蒲公英などの花がある。食用となるものを摘む場合、「菜摘む」ともいう。
万葉集の冒頭に雄略天皇の歌で、

籠もよみ籠持ち 掘串もよみ掘串持ち この丘に菜摘ます子家告らせ 名告らさね そらみつ大和の国はおしなべてわれこそ居れ しきなべてわれこそ座せ われこそは告らめ 家をも名をも

があり、その他にも「菜摘」の歌は数首歌われており、春の行事であったことが伺える。
東洋学者の白川静は、草摘みは魂振りのためにする宗教的なものであったと指摘している。これは、七草粥を食することにもつながる。ただ、七草や若菜摘みは、「新春」が区分される現代では、新春の季語となる。

【摘草の俳句】

指先の傷やきのふの蓬摘み  能村登四郎

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季語|春の暮(はるのくれ)

三春の季語 春の暮

春の夕(はるのゆう・はるのゆうべ)春夕べ(はるゆうべ)

春の暮の俳句と季語古くは春の終わりの意味で用いたが、現在では春の夕方の意味で用いることが多い。混乱を避けるために、春の終わりには「暮の春」という季語もある。ただ、松尾芭蕉の「鐘撞かぬ里は何をか春の暮」は、新古今和歌集の能因法師の和歌

山里の春の夕ぐれ来てみれば 入相の鐘に花ぞ散りけり

を本歌取りしたもの。

【春の暮の俳句】

春の暮家路に遠き人ばかり  与謝蕪村
ふる雨のおのづから春の夕かな  久保田万太郎

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