カテゴリー: 初春
季語|海苔(のり)
初春の季語 海苔
藻類を食用として加工した海苔は、古くは「紫菜」とか「神仙菜」と呼ばれていた。「のり」の語源は、滑った様を表す「ぬら」だと言われ、かつては、岩場などに繁殖した藻類のことを指していた。
その藻類で板海苔に適するのは、アマノリ類の岩海苔である。青のりなどのふりかけ海苔には、アオサも使用される。また、川海苔として食されるカワノリもあるが、これは夏から秋に採られるものである。
韓国の中世の文献にも「海苔」らしきものが記載されているが、現在の「韓国海苔」は、日韓併合期に日本の味付け海苔が伝わり、現地風にアレンジされたものだと言われている。
暖かい時期には糸状体の形で貝殻に住み着いていた海苔が、水温が下がる秋に殼胞子となって飛び出し、発芽して葉状体となる。この葉状体が海苔である。現在の海苔の養殖は、10月に海苔網を張り、秋から初春にかけて収穫される。
海苔は、常陸国風土記や出雲国風土記にも登場しており、大宝2年(702年)の大宝律令では、租税の対象として記載されている。江戸時代になると養殖も行われ、紙を漉く技術を応用して「浅草海苔」が生まれ、現在の板海苔が生まれた。
海苔の形態としては、上記の板海苔のほかに、生海苔、味付け海苔などがある。
品川沖は品川海苔の産地であり、画像のような錦絵も描かれている。これは、「江戸自慢三十六興」に描かれた「品川海苔」(歌川広重)である。現在の産地は有明海や瀬戸内海であり、佐賀県は全国一の生産量を誇る。
万葉集には「縄海苔」が出てくるが、細長い海藻である海素麺のこととも言われている。引っ張って採ることから「たぐり寄せる」の意を含み、作者不詳で
海原の沖つ縄海苔うち靡き 心もしのに思ほゆるかも
などの和歌がある。
季語|バレンタイン
初春の季語 バレンタイン
聖バレンタインデー・バレンタインの日ともいう、毎年2月14日に行われるカップルの愛の誓いの日。
士気を高揚させるために結婚を禁止した皇帝クラウディウス二世に背いて、陰で結婚式を取り仕切っていたバレンタインが処刑された日(西暦269年)である。かつてローマでは、この日を結婚の女神・ユーノーの祝日としており、見せしめのためにその日に処刑が行われたという。
2月14日から始まる異教の祭りをキリスト教的に受け入れるために、バレンタイン司教の殉教の故事を利用したとの説もある。
西欧では、様々な贈り物を恋人や親しい人に贈るが、チョコレートも贈るようになったのは、19世紀後半のイギリスだと言われている。日本のバレンタインデーの習慣は独特のものであり、宗教的要素は薄く、チョコレートの販売促進活動が実を結んだ行事と言える。
1936年には、神戸のモロゾフ製菓が「あなたのバレンタインにチョコレートを贈りましょう」との広告を出稿。1958年には、東京のメリーチョコレートカムパニーが仕掛け、男性から女性へ贈り物をする習慣がなかった当時の状況を鑑みて、「一年に一度、女性から愛を打ち明けていい日」というキャッチコピーをつけた。定着したのは1970年代後半で、チョコレートの売り上げが落ちる2月を乗り切るための好材料となった。
現在の日本では習慣化したものとなっており、愛の伴わない「義理チョコ」が多く出回るが、それを「本命チョコ」と信じるのは、男性の悲しい性である。
また、バレンタインデーのお返しに、男性から女性に贈り物をするホワイトデーが、3月14日に儲けられている。これは西洋には見られないもので、日本的な行事である。
【バレンタインの俳句】
バレンタインデー片割れの貝ばかり 辻田克巳
季語|片栗の花(かたくりのはな)
初春の季語 片栗の花
ユリ科カタクリ属に属する50年ほど生きる多年草で、万葉集に大伴家持が歌った
もののふの八十娘子らが汲み乱ふ 寺井の上の堅香子の花
の「堅香子(かたかご)」は片栗のことだと言われている。この「かたかご」が「かたかごゆり」となり、「かたくり」に転訛したと考えられている。
旧正月の頃に花をつけるため、初百合とも呼ばれる。ただし、山地では6月頃まで花は残っている。花は普通は紫であるが、シロバナカタクリと呼ばれる白色のものもある。ニリンソウなどとともに群生をつくり、「スプリング・エフェメラル(春の妖精)」と呼ばれている。
カタクリは、春先から初夏の2か月ほどしか地上に現れず、一年の大半を土中の鱗茎として休眠する。そのため、花を咲かせるための栄養を蓄積するまでに時間がかかり、種子の発芽から花を咲かせるまでに10年近くの歳月を要する。
良く知られている片栗粉は、もともとはこの片栗の鱗茎を日干して抽出したもので、滋養など様々な薬効が知られていた。しかし採れる量が少ないため、現在ではそのほとんどがジャガイモなどから精製されており、薬効も認められない。
【片栗の花の俳句】
日をかけて咲く片栗の蔭の花 馬場移公子