季語|黄楊の花(つげのはな)

晩春の季語 黄楊の花

黄楊の花黄楊はツゲ科ツゲ属の常緑低木で、3月から4月頃に淡黄色の花弁のない小花をつける。日本の固有変種で、山形県から屋久島にかけて広く分布している。似た植物にイヌツゲがあるが、こちらはモチノキ科の別種である。イヌツゲに対して、黄楊のことを「ホンツゲ」ともいう。
「黄楊」の漢字は、黄色い花が咲く柳を表している。「つげ」の語源は、葉が次々につくところにあるとの説がある。「柘植」とも書く。

黄楊は、古来細工物の材木として珍重され、櫛などに仕立てられた。万葉集にも黄楊の櫛が歌われている。また、樹高が低く枝葉が密になるので、垣根によく用いられている。

【黄楊の花の俳句】

閑かさにひとりこぼれぬ黄楊の花  阿波野青畝

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季語|桜桃の花(おうとうのはな)

晩春の季語 桜桃の花

桜桃の花バラ科サクラ属の果樹である桜桃は、夏にはサクランボと呼ぶ実をつける。その木はチェリーとも呼ぶ。多くの種類があるが、サクランボを採る目的で植えられた木のほとんどは、西洋実桜(せいようみざくら)と呼ばれる、地中海沿岸を原産地とする品種からつくられたものである。日本へは、明治時代初期に導入された。
種類によって花期は異なるが、3月頃から花が見られる。主なものでは「暖地桜桃」が3月頃、「佐藤錦」が4月頃である。同時期に「山桜桃」も花をつけるが、こちらの実は「ユスラウメ」と呼ばれるため、俳句を詠む上では「桜桃の花」と「山桜桃の花」は分けるのが普通である。

【桜桃の花の俳句】

桜桃の花の静けき朝餉かな  川崎展宏

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季語|フリージア

晩春の季語 フリージア

フリージアアヤメ科フリージア属フリージアは南アフリカ原産で、2月から6月頃に黄・白・紫などの花をつける。原種は16種類あり、オランダを中心に品種改良がすすめられ、数百種の園芸品種がある。そのほとんどは芳香があり、「香雪蘭(こうせつらん)」とも呼ばれている。白と黄色以外のものはウィルスに弱いため、見かけることは少ない。
「フリージア」の名は、19世紀のデンマークの植物学者エクロンが、友人のドイツ人医師フレーゼに因んで名付けたもの。日本では「浅黄水仙(あさぎすいせん)」の別名もある。
日本には江戸時代末期に渡来したと見られている。

【フリージアの俳句】

フリージア受話器を置きし時匂ふ  西村和子

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季語|杉の花

晩春の季語 杉の花

杉の花ヒノキ科スギ亜科スギ属スギは、日本特産の雌雄同株の常緑針葉樹。本州から屋久島の山間部に自生あるいは植林され、2月から4月頃に開花し、花粉症のもととなるスギ花粉を飛散させる。「スギ」は、レバノンスギやヒマラヤスギにも使われるが、これらはマツ科に属し、当項の「杉」とは花期も異なる。
有名な杉のブランドとしては、吉野杉・北山杉・飫肥杉・屋久杉などがあり、著名な杉には屋久島の「縄文杉」・高知の「杉の大スギ」・岐阜の「石徹白の大杉」などがある。

緑色の雌花は枝先に1つづつ、黄色い雄花は枝先に多数花をつけ、雄花の花粉は風に乗って数十キロ飛散する。花粉症は世界的に様々な植物が引き起こす症状であるものの、日本特産である杉による花粉症は、日本特有の症状である。スギ花粉症が初めて報告されたのは1964年であり、以降多くの症例が確認され、国民病ともなっているが、戦火で焼けた山地への植林が影響しているとも言われている。

日本書紀の一書には、杉は素戔嗚(すさのお)の髯から生じたとされている。

【杉の花の俳句】

杉の花はるばる飛べり杉のため  山田みづえ

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季語|スイートピー

晩春の季語 スイートピー

花豌豆(はなえんどう)

スイートピーマメ科レンリソウ属スイートピーは、シチリア島原産の蔓性の一年草。「麝香豌豆(じゃこうえんどう)」「香豌豆(かおりえんどう)」「麝香連理草(じゃこうれんりんそう)」とも呼ばれ芳香を持つが、近年市場で見られるものは、品種改良で香りが弱くなったものが多い。
スイートピーは「sweet pea」と書き、「甘い豌豆」の意であるが、有毒植物で食すことはできない。ここにいう甘さとは、その香りのことである。
秋蒔きしたものは、4月から6月頃に花が咲く。ただ、よく目にするのは温室で切り花用に栽培されたもので、こちらは11月から4月頃によく見られる。

スイートピーは17世紀末にカトリック僧のフランシス・クパニによって、シチリア島で発見された。当初は小さな花を咲かせていたが、品種改良によって現在見られるような形に変化していった。日本には、江戸時代末期に渡来したと言われている。
1982年の松田聖子のヒット曲「赤いスイートピー」でも親しまれる花であるが、当時は鮮やかな赤い花色を持つ種はなかった。2002年に登場した「ビビアンレッド」という品種によって実現した。色鮮やかな切り花の中には、白い花に色のついた液を吸わせたものがあり、「染めスイートピー」と呼ばれる。

【スイートピーの俳句】

スイートピー蔓のばしたる置時計  長谷川かな女

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季語|サイネリア

晩春の季語 サイネリア

蕗菊(ふきぎく)・富貴菊(ふうきぎく)

サイネリアサイネリアは、キク科ペリカルリス属のシネラリアのこと。シネラリアでは「死」を連想させるため、「サイネリア」の名で流通している。
1月から4月頃、紫・白・赤・ピンクなどの花を咲かせる一年草である。カナリア諸島の原種を交配させ、18世紀頃にヨーロッパで生まれた園芸種である。日本には明治時代に渡来した。
葉が蕗に似ていることから、「蕗菊」とも呼ばれる。「サイネリア」は英語名で、葉の綿毛の「灰色」に由来する名前である。

【サイネリアの俳句】

サイネリア咲くかしら咲くかしら水をやる  正木ゆう子

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季語|金盞花(きんせんか)

晩春の季語 金盞花

金盞花キク科キンセンカ属キンセンカは、地中海沿岸原産の一日花で、12月から5月頃に花が見られる。「常春花」「長春花」「ときしらず」と呼ばれたり、冬咲の「冬しらず」と呼ばれるものもあり、花期は長いが、花の最盛期である晩春の季語となる。
江戸時代に中国から渡来したと言われているが、室町時代にはすでに入ってきており、「長春花」と呼ばれていたという説がある。また、江戸時代に入ってきたのは花が大きい「唐金盞花」と呼ばれるもので、「本金盞花」と呼ばれる小型のものが、それ以前からあったという説もある。
「金盞花」は中国でつけられた名前で、語源は、その花色と形にあり、「金色の盃」という意味。

イギリスでは聖母マリアの祝日を祝う花として「マリーゴールド」と呼ばれていたが、メキシコ原産のマンジュギク属の花が入ってきた時に、その名を譲り、「ポット・マリーゴールド」と呼ばれるようになった。「鉢植えのマリーゴールド」という意味である。

【金盞花の俳句】

金盞花あまりし命何なさむ  角川源義

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季語|三色菫(さんしきすみれ)

晩春の季語 三色菫

パンジー

三色菫スミレ科スミレ属サンシキスミレはヨーロッパ原産の野生植物であるが、他のスミレ属の植物と交配させた園芸種が、パンジーと呼ばれて日本でも親しまれている。なお、花径4センチメートル以下の小さなものは、ビオラと呼んで区別することがある。パンジーには多くの種類があり、10月から5月くらいまで、カラフルな花を観察することができる。
パンジーの本格的な品種開発が行われ始めたのは1813年で、日本へは江戸時代末期の1864年に渡来したと言われている。

パンジーの語源は、フランス語の「パンセ(思想)」にあり、その花を、物思いに耽る人の顔と見る。それは、自由思想のシンボルであった。海外では、勇気がない男性を侮辱する時に「pansy」を用い、ヒモを意味する「ponce」の語源ともなっている。

日本では「三色菫」とも呼ばれるカラフルな花を特徴とするパンジーであるが、JIS慣用色名における「パンジー」はRGBでは#40317Eの、紫系統の色になる。

【三色菫の俳句】

野路来れば三色菫作る家  松本たかし

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季語|花水木(はなみずき)

晩春の季語 花水木

花水木の俳句と季語ミズキ科ミズキ属ヤマボウシ亜属の落葉高木「ハナミズキ」は、アメリカヤマボウシとも呼ぶ。北米原産で、日本に入ってきたのは明治時代以降である。
ミズキ科ミズキ属の落葉高木にクルマミズキ(車水木)があるが、本来「ミズキ」と言った場合にはこちらを指し、その花を「水木の花」と呼んで区別する。「花水木」が春の季語なのに対して、「水木の花」は夏の季語になる。

水木の花は、白色の小花が散房花序となり5月から6月に咲くのに対し、花水木は、4月下旬から5月上旬にかけて白やピンクの総苞の中心に目立たない花をつける。ただ、花のように見える総苞の華やかさゆえに、「ハナミズキ」の名を持つ。
大正4年(1915年)に、ワシントンD.C.に贈ったサクラの返礼として東京市に贈呈され、日比谷公園などに植えられたのが、日本における花水木の植栽の始まりである。現在では街路樹として植えられるなど、晩春の代表的な花のひとつとなっている。

歌手一青窈の2004年のヒット曲に「ハナミズキ」があり、結婚式の定番ソングとなっている。

【花水木の俳句】

一つづつ花の夜明けの花みづき  加藤楸邨

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季語|残花(ざんか)

晩春の季語 残花

残る花(のこるはな)

残花の俳句と季語名残の花とも言い、咲き残った桜の花を指す。「余花」とすると、夏の季語となる。

▶ 関連季語 桜(春)

【残花の俳句】

降り足りて三日月寒き残花かな  金尾梅の門
上人に一人の客や残る花  高野素十

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