カテゴリー: 季語
季語|鰤(ぶり)
三冬の季語 鰤
スズキ目アジ科に分類される回遊性の大型肉食魚。関東では、モジャコ⇒ワカシ⇒イナダ⇒ワラサ⇒ブリ、関西では、モジャコ⇒ワカナ⇒ツバス⇒ハマチ⇒メジロ⇒ブリと名前を変える出世魚で、80cm、あるいは6㎏以上のものをブリという。最大では、全長150cm40kgのものが知られている。因みに、ツバス・ハマチは夏の季語である。
鰤の旬は、近海に回遊する産卵期前の冬。12月初旬に初鰤が出回り始め、2月頃まで鰤漁が続く。この頃に鳴る雷は鰤起しと呼び、豊漁を呼ぶと言われている。
島根県・鳥取県での漁獲量が多いが、現在では漁獲量の3倍に上る量の養殖が行われている。
「鰤」は、師走に脂が乗って旨くなる魚であることを示す和製漢字である。「ブリ」の発音は、脂が多い魚であるため、「アブラ」が転訛したものだと言われている。
【鰤の俳句】
いのちかけて待ちゐし鰤や鰤来る 上村占魚
季語|鰤起し(ぶりおこし)
季語|白鳥(はくちょう)
晩冬の季語 白鳥
白鳥は、カモ科に属する。日本で見られるオオハクチョウやコハクチョウは、シベリアやオホーツク海沿岸で繁殖し、日本などで越冬する。コハクチョウの方が、オオハクチョウよりも列島を南下する傾向がある。公園の池で飼われている白鳥は、ヨーロッパに分布するコブハクチョウが持ち込まれたものである。
飛来地は、北海道から島根県にまで広がり、青森県の「小湊のハクチョウおよびその渡来地」は国の特別天然記念物になっている。また、新潟県の瓢湖は、白鳥の飛来によりラムサール条約に登録されている。10月から3月頃まで、その姿を見る事ができる。
古くは鵠(たづ・くぐい)と呼ばれ、古事記の垂仁天皇「本牟智和気の御子」の項に出てくる。本牟智和気は、ものを言わない御子であったが、鵠を見て初めて言葉を発したという。
また、倭建の命は亡くなった後に八尋白智鳥(やひろしろちとり)になって飛び立ったといわれ、その舞い降りた河内の国に、「白鳥の御陵」がつくられた。日本書紀では、その倭建の命の御子であった仲哀天皇が、陵の池に放つ白鳥を全国に求めた。その時、「白鳥なりといふとも、焼かば黒鳥になるべし」と言って白鳥を掠め取った蘆髪蒲見別王を、誅殺している。
万葉集には「しらとり」として2首が載るが、いずれも現代でいう白鳥を指したものではないようだ。
白鳥の飛羽山松の待ちつつぞ 我が恋ひわたるこの月ごろを 笠女郎
白鳥の鷺坂山の松蔭に 宿りて行かな夜も更けゆくを 柿本人麻呂
バレエにおいては、「白鳥の湖」がよく知られている。悪魔に白鳥にされてしまったオデットと、彼女に恋した王子の悲恋の物語である。
童話では、アンデルセンの「みにくいアヒルの子」がよく知られている。
因みに、不倫の恋を成就させようとゼウスが姿を変えたという「はくちょう座」は、夏の星座である。
【白鳥の俳句】
白鳥の音なく降りし水輪かな 上村占魚
季語|風邪(かぜ)
三冬の季語 風邪
風邪籠(かぜごもり)・感冒(かんぼう)・風邪心地(かぜごこち)
呼吸器系の感染症による体調不良を言い、「風邪」という病名はない。原因となるウイルスの種類は、数百にのぼると言われており、細分化することが難しく、的確な治療方法も確立されてはいない。
主な症状は、くしゃみ・咳・咽頭痛・鼻水・頭痛であり、発熱を伴う。重症化しやすいインフルエンザやコロナは、風邪として扱わないことが普通である。
通常の風邪は軽症で終わることが多いが、「風邪は万病の元」と言われるように、快癒させる薬もないために素人療法が大きな病気を招くこともある。
古くから知られる民間療法は、主に、風邪に対抗する体力をつけるためのものであり、食物を用いるものが多い。主なものは、卵酒・生姜湯・葛湯などである。
【風邪の俳句】
戀猫の歸り来ぬ風邪の枕もと 久保より江
季語|竈猫(かまどねこ)
三冬の季語 竈猫
炬燵猫(こたつねこ)・かじけ猫(かじけねこ)・へつつひ猫(へっついねこ)
寒さに弱い猫は、冬場、暖かいところへ移動して丸まり、惰眠をむさぼっていることがよくある。竈があった昔は、火を落としたその竈の中に丸まり、灰だらけになったりしたものだ。それを「灰猫」とも呼んだ。「へっつい猫」ともいうが、「へっつい」は、落語の「へっつい幽霊」「へっつい盗人」で知られる「竈」のことである。
竈が少なくなった現代では、炬燵の中に入り込む姿がよく観察され、「炬燵猫」と呼ばれる。近年では、「炬燵猫」というテレビアニメも放映されている。
なお、「竈猫」は比較的新しい季語であり、富安風生の1934年の俳句「何もかも知つてをるなり竈猫」が高浜虚子に認められたことで、季語の地位を確立した。
俳句になった生物 ⇒ 猫
【竈猫の俳句】
何もかも知つてをるなり竈猫 富安風生
薄目あけ人嫌ひなり炬燵猫 松本たかし
季語|火事(かじ)
三冬の季語 火事
乾燥する日が多い冬。暖を取るのに火を使うことも多く、冬は火事が発生しやすい。
「火事と喧嘩は江戸の華」と言われるが、俳諧歳時記栞草に「火事」の項目はない。「火事」が季語になったのは、「ホトトギス」が勃興した近代のことである。
因みに、江戸三大大火(明暦の大火・明和の大火・文化の大火)は、いずれも春に発生している。このうち明暦の大火は「振袖火事」とも呼ばれ、病に散った少女の振袖を供養した時に、火が燃え広がったと語られている。それから数十年後に発生した天和の大火は「お七火事」と呼ばれ、八百屋お七の恋に起因する放火が原因だと言われている。
【火事の俳句】
赤き火事哄笑せしが今日黒し 西東三鬼
寄生木や静かに移る火事の雲 水原秋桜子
季語|霜(しも)
三冬の季語 霜
朝霜(あさじも・あさしも)・霜の花(しものはな)・大霜(おおしも)・強霜(つよしも)・霜解(しもどけ)・霜の声(しものこえ)
物体の表面の温度が霜点より下がった時、空気中の昇華した水蒸気が、物体表面で結晶となったものを「霜」という。つまり、物体の表面に空気中の水蒸気が凍り付いたもので、地中の水分が凍った霜柱とは異なる。放射冷却現象の発生する晴れた寒い夜にできやすいが、昼間でも生じることがある。
平年の初霜の観測は、北海道では10月中、その他の地域は11月中が多いが、東京では12月20日となっている。二十四節気には霜の降り始める時期を指す「霜降」があり、10月23日頃となる。終霜は、北海道で5月、北日本で4月、その他の地域では3月、東京は2月20日となっている。
万葉集にも多く詠みこまれており、仁徳天皇の皇后・磐姫皇后は
ありつつも君をば待たむうち靡く 我が黒髪に霜の置くまでに
と歌っている。枕草子には、
冬はつとめて。雪の降りたるは言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでもいと寒きに、火など急ぎおこして、炭持て渡るも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりてわろし。
とある。
【霜の俳句】
両袖に泣子やかこふ閨のしも 久村暁台
南天をこぼさぬ霜の静かさよ 正岡子規
季語|濁り酒(にごりざけ)
仲秋の季語 濁り酒
濁酒(だくしゅ・にごりざけ)・どぶろく・どびろく
米と米麹と水を原料として発酵させて醪となるが、これを濾過していない酒を「どぶろく」と言う。酒税法では「その他の醸造酒」に分類される。なお、濁りを残して絞られた「濁り酒」の多くは、「清酒」に分類される。
「どぶろく」は、未発酵の米が含まれるために甘味を有している。自家醸造が比較的容易であるため、年中作られていた。ただし、日本酒の醸造年度が10月1日から始まるように、日本酒の兄弟のような存在である「どぶろく」の醸造もまた、秋が起点となる。
11月23日の新嘗祭では、白酒と黒酒が供されるが、白酒は白濁した濁酒である。
今では酒税法により、免許なしでの醸造が厳しく禁じられているが、自家醸造自由化運動などを経て、免許なしでも醸造できる「どぶろく特区」が、地域振興のために誕生している。
「どぶろく」の語源は、醪の混ざった状態の「濁醪(だくろう)」の転訛だと言われている。俳諧歳時記栞草には、「大和本草」の引用で「酴醿花の条下に云、本邦のは白花、千葉菊の如し。依て筑紫にて菊いばらといふ。中華には黄色なる者ありと、農政全書に記せり。故に黄色の醁(のごりざけ)を酴醿醁(どびろく)といふ。」とある。「どぶろく」は「溷六」とも書くが、これは泥酔した者を指す言葉でもある。
【濁り酒の俳句】
どぶろくにゑうて身を投ぐ大地あり 森川暁水
山里や杉の葉釣りてにごり酒 小林一茶
季語|新米(しんまい)
晩秋の季語 新米
地域や品種によって新米の出回る時期には違いがあり、九州など7月ごろから出回るところもあるが、概ね10月頃に店頭に並ぶ。JAS法では、収穫年の年末までに精白や袋詰めがされた米を、「新米」という。
俳諧歳時記栞草では、新米は秋之部九月に分類される。
新人のことを「新米」と呼ぶが、新しい前掛けをして店頭に立っていた新人を「新前掛け」と呼び、それが「新前(しんまえ)」「しんまい」に転訛し、「新米」の文字があてられたという説がある。
食糧管理法における「新米」は、11月1日から翌年の10月31日までに収穫された米を言い、収穫した翌年の10月31日を過ぎると「古米」になる。
【新米の俳句】
新米のまだ艸の実の匂ひ哉 与謝蕪村