季語|初鰹(はつがつお)

初夏の季語 初鰹

初松魚(はつがつお)

初鰹の俳句と季語(日本橋初鰹)フィリピン沖から三陸海岸沖辺りを周遊する鰹は、5月頃に黒潮に乗って房総沖に達する。75日寿命が延びるとし、「初物七十五日」と言って初物を食べる習慣があった江戸時代においても、初鰹は特に珍重された。
「女房子供を質に出してでも食え」とも言われ、高値を厭わない姿勢が「粋」とされた。「恥ずかしさ医者に鰹の値が知れる」という川柳もあるが、これは、安い鰹を食べて食中毒になることを揶揄するもの。
現在では鰹と言えば土佐だが、かつては鎌倉沖のものが珍重され、有名な「目には青葉~」の句にも、「かまくらにて」の前書がある。産地が西にずれたことで、初鰹の季節もひと月ほど早くなり、現在では4月頃には食卓に並んでいる。

徒然草119段に鰹についての言及があり、鎌倉の年寄に「この魚は自分たちが若かった頃は下等な魚だったのに、世も末になったので上流階級までがもてはやしている」と言わしめている。

▶ 関連季語 鰹(夏)

【初鰹の俳句】

目には青葉山ほととぎす初がつお  山口素堂

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季語|立夏(りっか)

初夏の季語 立夏

夏来る(なつきたる)夏に入る(なつにいる・げにいる)

立夏の俳句と季語二十四節気の第7で5月5日頃。この日から立秋の前日までが夏。立夏の期間の七十二候は、蛙が鳴き始めるとされる「蛙始鳴」、ミミズが地上に這出るとされる「蚯蚓出」、筍が生えて来るとされる「竹笋生」。
佐佐木信綱作詞の唱歌「夏は来ぬ」に、

卯の花の匂う垣根に 時鳥早も来鳴きて忍音もらす 夏は来ぬ
さみだれのそそぐ山田に 早乙女が裳裾ぬらして玉苗植うる 夏は来ぬ
橘の薫るのきばの窓近く 蛍飛びかいおこたり諌むる 夏は来ぬ
楝ちる川べの宿の門遠く 水鶏声して夕月すずしき 夏は来ぬ
五月闇蛍飛びかい水鶏鳴き 卯の花咲きて早苗植えわたす 夏は来ぬ

と歌われる。

▶ 関連季語 夏

【立夏の俳句】

藤垂れて立夏の急雨到りけり  臼田亞浪

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季語|鵯(ひよどり・ひえどり)

晩秋の季語 

鵯の俳句と季語(生写四十八鷹ひよどり南てん)スズメ目ヒヨドリ科ヒヨドリ属に分類される漂鳥であるが、留鳥として年中観測されるものもある。特に東京では、近年の温暖化の影響か、一年中生息している。雑食ではあるが、果実や花の蜜を啜っている様子がよく観察される。

ほぼ日本特有の鳥として知られているが、10月から11月にかけて、日本列島を北から南へ向かう大規模な渡りが観測される。海峡を集団で渡る様子は、しばしばメディアで取り上げられるが、躊躇うように何度も円を描いた後、決意したかのように海面すれすれを渡っていく様は壮観。これは、天敵であるハヤブサなどの攻撃を避けるためであると言われている。
源平合戦に一ノ谷の後山を鵯越と号し、今も神戸にその地名が残っているが、この場所は、本州と淡路島を結ぶ鵯の渡りのルート上にある。

その名の由来ともなった「ヒーヨ、ヒーヨ」という甲高い鳴き声が特徴であるが、意外に美しい声で囀ることもある。
人によく懐くため、平安時代には「鵯合わせ」という、優劣を競う大会があったと言われている。

【鵯の俳句】

ひよどりのこぼし去りぬる実のあかき  与謝蕪村

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季語|長閑(のどか)

三春の季語 長閑

駘蕩(たいとう)

長閑の俳句と季語春は、異動などで慌ただしい季節ではあるがまた、冬の厳しさも去り、穏やかでのんびりとした気持ちにもなる。「俳諧歳時記栞草」には、「春の日のユツタリと長く閑かなるを云」とある。
「のどか」の「のど」は、穏やかな様を表す古語で、「なだらか」に通じる。「か」は接尾語。
古今和歌集にある紀友則の

ひさかたの光のどけき春の日に 静心なく花の散るらむ

は、小倉百人一首33番。

「駘蕩」も、春の伸びやかさを表現するためによく使われる言葉であるが、中国南北朝時代の詩人・謝朓の「春物まさにに駘蕩たり」の句から広がったものだと言われており、温和なことを言う。

【長閑の俳句】

のどかさや障子あくれば野が見ゆる  正岡子規

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季語|梟(ふくろう)

三冬の季語 

梟の俳句と季語「森の物知り博士」「森の哲学者」の呼称でも知られる猛禽類の一種で、フクロウ目フクロウ科フクロウ属に分類される。夜行性で、待ち伏せて狩りをする。
日本に生息するフクロウ科の鳥には、フクロウの他に、シマフクロウ、シロフクロウ、ワシミミズク、トラフズク、コノハズク、コミミズク、アオバズクなどがある。フクロウは留鳥であるが、コノハズク(木葉木菟)・アオバズク(青葉木菟)は渡り鳥であり、夏の季語となる。

飛翔時には羽音を立てることがないため、「森の忍者」と呼ばれることも。その風切羽の構造は、新幹線のパンタグラフなどに応用され、消音に役立てられている。
鳴き声は、「五郎助奉公」「ボロ着て奉公」と聞きなされる。

現在では「不苦労」「福老」の当字で、幸せを呼ぶ鳥と見なされているが、古代中国や西欧文化が伝わる近代までの日本では、母を食う鳥として「不孝鳥(不幸鳥)」とされた。
日本書紀(景行紀)には、敵対するものとして川上梟帥(かわかみのたける)などに「梟」の文字が当てられる。川上梟帥を討った日本童男は、日本武(やまとたける)の名が譲られた。ここに見るに、古代日本では、「梟」に、強くて悪いもののイメージがあったと考えられる。因みに古事記では、「タケル」に「建」の字が充てられる。
梟を詠んだ和歌として、夫木和歌抄に西行上人の

山ふかみけぢかき鳥の音はせで 物おそろしきふくろふのこゑ

が載る。
西欧でフクロウに対するイメージが良いのは、ギリシャ神話で、女神アテナの従者として描かれているためか。
長野には、「梟の染め物屋」という昔話があり、カラスを黒く染めたところ激怒され、カラスに追いかけまわされるようになったという。それ以降、森の奥で「糊付けほっほ」と鳴きながら営業をしているという。

フクロウの語源は、毛が膨れた鳥にあるとも、鳴き声からきたとも言われる。「梟」の文字が「木」の上に「鳥」を置いた形なのは、むかし、木の上に梟の死骸を置いて鳥除けにしたからとの説がある。「梟首」とはさらし首のことである。

【梟の俳句】

梟に奪はれさうな灯が一つ  藤本和子

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季語|水澄む(みずすむ)

三秋の季語 水澄む

水澄むの俳句と季語澄み渡った秋空を映し込む水面は、美しい。実際には、台風などで秋の水辺は濁ることが多いが、嵐は、夏場に腐敗した有機物を拡散し、流し去る役目も果たす。
海に関して言えば、秋になって海面付近の海水温が下がることで対流が起こり、海底の水と混ざり合う。これにより、陸地から流れ込んで水面付近に停留していた汚れが希釈され、洗い流されることが知られている。

なお、日本で一番透明度が高い湖は摩周湖。かつては世界一でもあった摩周湖は、当時の半分ほどの透明度に落ちてはいるが、現在でも約20mの透明度を誇り、日本一になっている。

【水澄むの俳句】

洞窟に湛え忘却の水澄めり  西東三鬼
水澄むやとんぼうの影ゆくばかり  星野立子

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季語|亀鳴く(かめなく)

三春の季語 亀鳴く

亀鳴くの俳句と季語亀には声帯がないため、鳴くことはない。ただし、擦過音と呼ばれる呼吸音に近いものが、「クー」などと聞こえることがある。また、「シュー」と威嚇音を立てることも知られている。
歌人・俳人の空想を揶揄する時に取り上げられることもあるが、虫の声にしろ、その鳴き声は声帯に因るものではない。ただ、亀の場合は単なる活動音であるため、「表現」する手段ではないところがポイントか。

「亀鳴く」が定着したのは、夫木集にある藤原為家の

川ごしのをちの田中の夕闇に 何ぞと聞けば亀ぞなくなる

の和歌に因る。
余談ではあるが、ウミガメは産卵する時に涙を流すことが知られている。

【亀鳴くの俳句】

亀鳴くと嘘をつきなる俳人よ  村上鬼城

▶ 俳句の季節「俳人は嘘つき?『亀鳴く』の事実」

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季語|黄水仙(きずいせん)

仲春の季語 黄水仙

黄水仙の俳句と季語ヒガンバナ科。南ヨーロッパ原産。江戸末期に渡来。
水仙は晩冬の季語であるのに対し、黄水仙は春の季語。

ギリシャ神話には、よく知られたナルキッソスの他に、黄水仙にまつわる物語もある。それによると、ベルセポネに恋をした冥界の主ハーデスがベルセポネを誘拐した時に、落ちた白いスイセンが黄水仙になったという。

▶ 関連季語 水仙(冬)

【黄水仙の俳句】

わがままのとほるさびしさ黄水仙  宮澤映子

▶ 春の季語になった花 見頃と名所

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季語|雉(きじ)

三春の季語 

雉子(きじ・きぎす)

雉の俳句と季語キジ目キジ科キジ属に分類される鳥。日本固有の留鳥で、性質は勇敢、「焼け野のきぎす」の諺もあるように母性愛が強いため、戦後すぐに日本の国鳥に指定された。
日本では古くから親しまれてきた鳥で、万葉集には8首が載るほか、日本神話にも「鳴女(なきめ)」という名の雉子の話が登場する。それによると鳴女は、天孫降臨にさきがけて遣わされた天若日子が帰ってこないのを訝しみ、地上に遣わされた。しかし、その悪声が嫌悪されて、天若日子によって射殺される。この神話は、「雉子の頓使(ひたづかい)」といって、行ったきりの使いを表す諺になったという。
繁殖期の雄は攻撃的になり、翼を体に打ちつける「母衣打ち」などが見られる。また、この時に大声で「ケン」と鳴くが、これが雉の大きな特徴として認識され、「雉も鳴かずば撃たれまい」といった諺にもつながっている。
なお、「雉も鳴かずば撃たれまい」は、「長柄の人柱」という大阪の民話に由来し、

もの磐氏父は長柄の人柱 キジも鳴かずばうたれざらまし

という歌が伝わる。
現在最もよく親しまれている雉は、「桃太郎」の中に登場する家来だろう。家来として猿・犬・雉が選ばれたのは、裏鬼門に当たる申・戌・酉が対応していると言われている。この中で雉は、「勇気」の象徴である。

雉は、古くは「キギシ」と呼ばれ、「キギ」と聞きなした鳴声に、鳥の接尾語「シ」をくっつけたものが語源になっているとする説がある。

【雉の俳句】

父母のしきりに恋ひし雉子の声  松尾芭蕉

【雉のオスの鳴き声】
「母衣打ち」が見られ、「ケン、ケン」と鳴いている。(YouTube 動画)

【雉のメスの鳴き声】
鳴女の神話に悪声とあるが、メスの鳴き声は意外に可愛い。(YouTube 動画)

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季語|燕(つばめ・つばくら・つばくろ・つばくらめ)

仲春の季語 

燕来る(つばめくる)初燕(はつつばめ)飛燕(ひえん)

燕の俳句と季語(亥中之月雪)燕は、スズメ目ツバメ科ツバメ属に分類される。3月頃から南方より飛来し、4月頃に巣作りを始める。
ツバメは、前年と同じ巣に帰ってくる確率が高いことが分かっているが、必ずしも同じペアで育雛するとは限らない。5月頃から数回に渡って繁殖を行い、8月頃まで育雛が見られる。孵化から巣立ちまでに要する日数は、約20日。
七十二候には、玄鳥至(つばめきたる)と玄鳥去(つばめさる)があり、4月上旬と9月下旬に当たる。なお、南日本では越冬するものも存在し、「越冬燕」と呼ばれる。

日本では、稲の害虫を退治してくれるため、古くから大切にされてきた鳥で、家に巣をつくると縁起が良いと言われている。古くは、雁と入れ替わりに、常世からやってくると言われ、万葉集には大伴家持の歌が載る。

燕来る時になりぬと雁がねは 国おもひつつ雲隠り鳴く

繁殖期のオスのさえずりは、「土食て虫食て口渋い(つちくてむしくてくちしーぶい)」と聞きなす。「燕が低く飛ぶと雨が降る」とも言われるが、これは、雨が降る前に、餌である昆虫が低く飛ぶからである。
古くから親しまれてきた鳥だけに、文化面にも大きな影響を及ぼしている。そのひとつに、最上級の礼服である燕尾服があるが、勿論のこと、燕をまねてデザインされたものではない。裾の割れは、乗馬を考慮したものである。
また、年上の女に養われている若い男を指して「燕」というが、これは、平塚雷鳥と青年画家の恋に由来する。その画家・奥村博史は、別れを決し、「若い燕は池の平和のために飛び去って行く」と手紙を書いた。

燕は、古くは「ツバクラメ」といい、光沢があることをいう「ツバ」と黒いことを指す「クラ」に、鳥類の接尾語「メ」を加えた名前である。

【燕の俳句】

つばめつばめ泥が好きなる燕かな  細見綾子
今来たと顔を並べるつばめかな  小林一茶

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