季語|藍の花(あいのはな)

仲秋の季語 藍の花

蓼藍の花(たであいのはな)

藍の花タデ科イヌタデ属アイは蓼藍(たであい)とも呼ばれ、藍染めに利用される。イヌタデによく似る一年生植物で、原産地は東南アジア。8月から10月頃に花が咲くが、藍染めのために、開花前から葉が摘み取られていく。これを「藍刈」と呼んで、夏の季語になる。開花後は、染料として採れる葉の量は減ってしまう。
染料の藍は発酵させてつくるために独特の堆肥臭があるが、藍の花自体には臭いはない。

藍は6世紀頃に中国から朝鮮を経て伝わり、既に奈良時代には藍染めが行われていた。江戸時代には阿波国が藍染めの一大産地となり、明治時代に来日したイギリス人化学者ウィリアム・アトキンソンによって、その色は「ジャパンブルー」と名付けられた。1880年頃に海外で安価なインディゴ染料が開発されるなどして、藍染め産業は衰退していった。
藍染めした布は、抗菌性や消臭性に優れ、虫食いを受けにくかったり耐火性が高まるなどの特性がある。また、藍で深く染めあげた色は「褐色(かちいろ)」と呼ばれ、「勝ち」に通じるために武士が重んじた。

藍を発酵させたときに水面に生じる泡も「あいのはな」と呼ぶが、こちらは「藍の華」と書く。
「藍」を使った慣用句として、弟子が師より優れていることをいう「青は藍より出でて藍より青し」「出藍の誉れ」がある。
万葉集には「山藍」の歌があるが、こちらはトウダイグサ科の多年草である。魏志倭人伝で魏王に献上されたとされる「絳箐の縑」は、山藍で染められたものだと考えられている。

【藍の花の俳句】

藍の花栞れば紅の失せにけり  坊城中子

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季語|蘆の花(あしのはな)

仲秋の季語 蘆の花

蘆の花イネ科ヨシ属ヨシの花のことで、「蘆」「葦」「芦」「葭」と書いて「よし」とも読むが、古名は「あし」。平安時代から、「悪し」につながることから「良し」に掛けて「よし」と呼ばれるようになったとされる。関西では、金銭を意味する「おあし」に通じるために、現在でも「あし」と呼ぶ。因みに、穂が出ていないものを「芦」、穂が出ているものを「葦」とする。

蘆は、全国の水辺に自生する多年草で、8月から10月頃に褐色を帯びた花を咲かせ、熟すと白い穂が出てのような佇まいになる。他の植物の成長を阻害する物質を出すため、大きな純群落となることが多い。

日本では、神話の時代から親しまれてきた植物であり、地上世界を葦原中国(あしはらのなかつくに)と呼び、古事記では天孫が治める国を「豊葦原の千秋長五百秋の水穂国(とよあしはらのちあきながいおあきのみずほのくに)」と呼んだ。また、国造りの際に最初に生まれた御子神・水蛭子を、葦船に入れて流したという記述もある。
万葉集には「あし」として51首が歌われ、志貴皇子には

葦辺行く鴨の羽交ひに霜降りて 寒き夕は大和し思ほゆ

がある。
世界的にも蘆は古くから親しまれてきた植物であり、旧約聖書には、迫害から逃れさせるために、生まれたばかりのモーセを葦船に乗せて流したという話がある。また、パスカルの「人間は考える葦である」という言葉はよく知られている。

【蘆の花の俳句】

柴又へ通ふ渡しや蘆の花  正岡子規

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季語|水引の花(みずひきのはな)

仲秋の季語 水引の花

水引草(みずひきぐさ)・水引(みずひき)・金線草(きんせんそう)

水引の花タデ科イヌタデ属ミズヒキは、日本全国の平地の路傍などに自生し、8月から10月頃の午前中に花を咲かせる。
花穂に小花がまばらにつくが、その小花が紅白であるために、祝儀袋の飾り紐に見立てて「水引」の名がついたとされる。しかし、俳諧歳時記栞草(1851年)には、「その茎、円くほそく、こより及び水引の如し、故に名づく」とある。
銀水引とよばれる白花の品種もある。金水引と呼ばれる黄花を咲かせるものは、バラ科の植物で別種である。
中国では「金線草」と書くことから、「きんせんそう」とも呼ばれる。

【水引の花の俳句】

壺にして水引直き花ならず  上田五千石

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季語|秋海棠(しゅうかいどう)

初秋の季語 秋海棠

断腸花(だんちょうか)・瓔珞草(ようらくそう)

秋海棠 シュウカイドウ科シュウカイドウ属シュウカイドウはベゴニアの一種で、8月から10月頃に花をつける。
雌雄異花同株で、雄花は上方に正面に向いて咲く。中央の黄色い雄蘂の左右に花弁を持ち、それより大きい上下の花弁のようなものは萼である。雌花は下方に下向きに咲き、花弁は1枚だけのものが多い。
江戸時代初期に園芸用に持ち込まれ、「大和本草」(貝原益軒1709年)に、「寛永年中、中華より初めて長崎に来る。それ以前は本邦になし。花の色海棠に似たり。故に名付く」とある。「しゅうかいどう」は、中国名「秋海棠」の音読みである。現在では半野生化している。

「断腸花」の語源説には、中国の昔話がある。好いた男との逢瀬が叶わなくなった美女が、断腸の思いに暮れて涙を流した。そこから生えてきた草を断腸花と呼ぶようになったという。
仏像の装飾具の瓔珞に似ていることから「瓔珞草」の別名もある。

【秋海棠の俳句】

秋海棠西瓜の色に咲きにけり  松尾芭蕉
病める手の爪美しや秋海棠  杉田久女

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季語|男郎花(おとこえし)

初秋の季語 男郎花

男郎花オミナエシ科オミナエシ属オトコエシは、女郎花に似ているが、花が白くて大きい。古い時代に中国から入ってきたと考えられ、北海道から奄美大島まで分布している。8月から10月頃に花をつける。
元は「おとこへし」と呼ばれ、「へし」には「圧す」が充てられていたと考えられる。また、「おとこめし」とも呼ばれ、白米を男が食べ、黄色い粟飯を女が食べたことから、それぞれの花色に合わせて「おとこめし」「おみなめし」と呼ばれ、そこから「おとこえし」「おみなえし」に転訛したとの説もある。
「敗醤(はいじょう)」とも呼ばれるが、これは、花が萎れると腐った醤油のような臭いを発するところからきている。女郎花も「敗醤」と呼ばれるが、本来は男郎花を指す。

【男郎花の俳句】

相逢うて相別るゝも男郎花  高浜虚子

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季語|藤袴(ふじばかま)

初秋の季語 藤袴

藤袴キク科ヒヨドリバナ属フジバカマは、中国原産の多年草で、関東以西の本州・四国・九州の草地などに自生している。8月から10月頃に花をつける。
現在では激減し、環境省レッドリストに載る。藤袴の名で市販されているもののほとんどは、サワフジバカマという品種である。

万葉集に載る山上憶良の和歌から、秋の七草の一つとなっている。花弁が袴のように見える藤色の花を咲かせることから、「藤袴」の名になったとされる。
また、「古今栄雅抄」(飛鳥井雅俊:室町時代後期)に載る話が名前の由来になっているという説もある。それによると、秋雨の中に藤色の袴をはいた少女がいて、泣いていた。誰も声をかけることができず、心配になって翌朝見に行くと、娘がいたところに藤色の花が咲いていた。以来それを「藤袴」と呼ぶようになったという。

伐りとって乾燥させると芳香がするため、中国では古くから芳香剤として利用された。そのため、良い香りの植物を表す「蘭」の字を用いたが、後にそれはシュンラン属に譲り、「蘭草」「香草」「香水蘭」などと書かれるようになった。日本でも允恭紀(日本書紀)では、「蘭」と表記されている。

【藤袴の俳句】

枯れ果てしものの中なる藤袴  高浜虚子

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季語|稲の花(いねのはな)

初秋の季語 稲の花

稲の花イネ科イネ属イネは、「」で三秋の季語になるが、「稲の花」だと初秋の季語。品種によってバラツキはあるが、8月頃に穂が出て花を咲かせる。花は頴花(えいか)と呼び、ひとつの穂に100個ほどついている。頴花の開花時間は午前中の10時頃から12時頃と短く、穂先から順に開花していき、ひとつの穂の開花期間は1週間ほどである。
風媒花ではあるが、栽培種ではほとんどが自家受粉する。受粉を確実にするため、開花期間に田圃に入ってはならない。

【稲の花の俳句】

おだやかに戻る暑さや稲の花  木下夕爾

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季語|鳥兜(とりかぶと)

仲秋の季語 鳥兜

鳥頭(とりかぶと)

鳥兜キンポウゲ科トリカブト属の植物の総称で、ヤマトリカブト・ホソバトリカブトなど、日本には約30種が自生している。栽培種もあり、平地から高山まで比較的普通に見られる植物で、葉はヨモギとよく間違えられる。7月から10月頃に花をつける。
全草に毒性アルカロイド(アコニチン等)を含み、ドクウツギやドクゼリとともに、日本三大有毒植物の一つに数え上げられる。トリカブトに含まれるアコニチンの致死量は約5gであるが、葉を数グラム食べるだけで数十分で全身が痺れ、呼吸不全になって死亡することもあるという。解毒剤はないため、中毒時は胃洗浄を行う。
毒性は強いが漢方として利用することがあり、根を烏頭(うず)とか附子(ぶし)と呼んで生薬にし、鎮痛などに用いる。ちなみに、醜い者を「ブス」と呼ぶことがあるが、附子中毒で顔がゆがんだ状態を言ったものだとする説がある。
語源は、花の形が舞楽などで用いられる鳥兜に似ているところにある。

【鳥兜の俳句】

今生は病む生なりき鳥頭  石田波郷

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季語|茗荷の花(みょうがのはな)

初秋の季語 茗荷の花

秋茗荷(あきみょうが)

茗荷の花ショウガ科ショウガ属ミョウガは、花および若芽が食用となり、一般的には花穂を単に「茗荷」と呼ぶ。この「茗荷」は、蕾の塊のようなものである。因みに花穂が開花する前のものは「茗荷の子」と呼んで夏の季語になる。
茗荷の花の季節は7月から10月で、植え付ける時期によって、夏茗荷と呼ばれるものと秋茗荷と呼ばれるものに分かれる。秋茗荷の方が赤っぽくなり、一般的には美味いと言われる。

東アジア原産で、日本へはかなり古い時代に中国から渡来したと考えられている。魏志倭人伝に蘘荷(じょうか)として出ており、日本では古くから栽培も行われていたと考えられているが、現在のところ食用で栽培されているのは日本だけである。
釈迦の弟子に、自分の名前すら忘れてしまう者がおり、釈迦は名を書いた旗を荷わせたという。その者の死後、墓から生えてきた草に「名荷」と名付けたという。根拠はないが、「食べると物忘れがひどくなる」と言われている。
武士は「冥加」に掛けて、茗荷紋を使用したという。

【茗荷の花の俳句】

つぎつぎと茗荷の花の出て白き  高野素十

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季語|蓼の花(たでのはな)

初秋の季語 蓼の花

蓼の穂(たでのほ)・穂蓼(ほたで)

蓼の花タデ科イヌタデ属の植物全般を一般的には「タデ」と呼ぶ。しかし、「蓼食う虫も好きずき」でいう蓼はヤナギタデのことであり、「蓼」で夏の季語となる。
通常は、7月から10月頃に咲くヤナギタデの花を「蓼の花」と呼んで秋の季語にする。よく見かけるイヌタデの花も「蓼の花」として差し支えないが、「赤まんま」と呼んで区別することが多い。
ヤナギタデは、日本全国の水田や湿地に生育し、葉が柳に似ることから名がついた。葉には強い辛みがあり、刺し身のつまにしたりする。

万葉集には「穂蓼」の和歌が2首あり、平群朝臣には

童ども草はな刈りそ八穂蓼を 穂積の朝臣が腋草を刈れ

がある。これは、穂積の朝臣の腋臭をからかった歌で、「八穂蓼を」は「穂積」に掛かる枕詞である。因みに「八穂蓼」はヤナギタデのことである。

【蓼の花の俳句】

二三日なまけごころや蓼の花  鈴木真砂女

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