晩春の季語 八重桜
「八重桜」は、八重咲きになる桜の総称で、通常の桜は5弁なのに対し、6枚以上の花弁をつける。また、咲き方にも呼称があり、15枚までのものを半八重咲、5枚の花と半八重咲が混合しているものを一重八重咲、20枚から70枚の花弁で咲くものを八重咲、100枚以上のものを菊咲と呼ぶ。
品種としては、ヤエベニシダレ(八重紅枝垂)、カンザン(関山)、イチヨウ(一葉)などがある。ソメイヨシノよりも開花期が2週間ほど遅い。
徒然草には
八重桜は奈良の都にのみありけるを、この比ぞ世に多くなり侍るなる。吉野の花、左近の桜、皆一重にてこそあれ。八重桜は異様の物なり。いとかちたくねぢけたり。植ゑずともありなん。遅桜、又すさまじ。虫のつきたるもむつかし。
とある。伊勢大輔の和歌
いにしへの奈良の都の八重桜 けふ九重ににほひぬるかな
は、小倉百人一首61番。平安時代の女房の装束では、五衣に桜色を用いることを「八重桜」と呼んだ。
2013年には、NHK大河ドラマで新島八重を取り上げた物語が「八重の桜」として放映され、人気を呼んだ。
▶ 関連季語 桜(春)

現代では「灌仏会」と呼ぶことが多いが、4月8日の釈迦の誕生日に、宗派を問わず仏寺で行われる法会を「仏生会」という。本来は旧暦4月8日の祭りであるが、日本では新暦4月8日に祝うところが多い。明治の改暦後に新暦で祝うようになって、桜の季節と重なるようになったために「花祭」と呼ばれるようになった。
山に咲く桜を総称して山桜とも呼ぶが、バラ科サクラ属の落葉高木に「ヤマザクラ」という品種があり、古来より日本の山野に自生して親しまれてきた。20mを超える高木になり、「狩宿の下馬ザクラ」は樹齢800年を超える長寿を誇る。
桜の開花期間に降る雨のことを「花の雨」という。桜の花の散りしきる様を雨に見立てて「花の雨」ということもあるが、こちらは「花吹雪」という方が一般的。
花見に行く時に着る晴れ着を「花衣」という。古くは、表が白で裏が紫の桜襲(さくらがさね)という色合いの衣を「花衣」と言い、春に着用した。
桜が咲くころに寒さがもどること、その寒さをいう。「暑さ寒さも彼岸まで」とはいうが、桜の咲くころは天気が変わりやすく、雪桜となることさえもある。
桜の花の咲くころは、季節の変わり目で、天気が変わりやすい。俳諧歳時記栞草に「陸放翁天彭牡丹紀」の引用で、「半晴半陰謂之花曇、養花天同之。」とあるように、雨の降りそうな曇り空のことではなく、霞みがかった空のことをいう。また、ここで「養花天は花曇に同じ」とあるが、漢文に「微雨養花天」などとして登場するように、「養花天」は、やや湿り気を帯びた雰囲気をまとっている。
春のおわり頃を指す季語で、春の夕方を指す場合には
「惜しむ」を持つ季語に暮の「年惜しむ」、秋の「秋惜しむ」があるが、過行く春を惜しむ時には、これらに見られる侘しさよりも、悲しみの方に重点が移る。
養分が筍にまわる晩春、竹の葉は活力を失くして黄変する。これを、春にもかかわらず「竹の秋」という。