俳句

季語|煮酒(にざけ)

三夏の季語 煮酒

酒煮る(さけにる)

煮酒の俳句と季語日本酒の多くは、流通のために火入れして殺菌する。現在の日本酒は、年間を通じて仕込みを行う四季醸造が主流となりつつあるが、寒造りと呼ばれる仕込み方法では、冬場に仕込みを行う。あるいは春造りといって、立春を過ぎた頃に仕込み始めるものがある。そのような日本酒は夏場に火入れを行うが、そのことを「煮酒」と言って夏の季語となった。
俳諧歳時記栞草では四月項に分類され、「東医宝鑑」(李氏朝鮮時代の医書)の引用で「煮酒は、味ひ殊に佳也。夏月のむに宜し、云々」とあり、続けて「是本邦の煮酒に似たる名目を挙ぐる也。本邦にては、夏日、酒の気味を失はざる為に、煮酒の法を用ふ。京師にて是を酒煮と称し、此日酒肆、親き疎きをえらばず、価をとらず、恣に酒をのましむ。是を酒煮の祝といふとぞ」とある。

現在の日本酒の多くは、発酵を停止し品質を一定にする目的と、腐敗防止の目的で火入れが行われる。火入れの季節性は焼失しつつあるが、貯蔵前と出荷前の2度火入れが行われることが普通である。
ただ、火入れを全く行わない日本酒もあり、これを生酒という。また、貯蔵前に1度だけ火入れを行った日本酒を「生詰」、出荷前に1度だけ火入れを行った日本酒を「生貯蔵」という。
因みに、秋に出荷される「ひやおろし」は、冬にしぼった日本酒を火入れして貯蔵し、夏のあいだ熟成させてそのまま出荷するもの。現在の日本酒には「夏酒」と呼ばれるものもあるが、これは夏場に美味しく飲める日本酒のことで、はっきりとした定義はない。

【煮酒の俳句】

四ツ辻に残月かゝる煮酒哉  与謝蕪村

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季語|甘酒(あまざけ)

三夏の季語 甘酒

一夜酒(ひとよざけ)

甘酒の俳句と季語米こうじと米を原料とし、粥としたものに米こうじを入れて速醸させたものを一夜酒と呼んで、古くは、夏に清酒を造れない酒造の副業とした。俳諧歳時記栞草にも「一夜酒」で「六月」に分類されており、甘酒と同事とある。
甘酒には、酒粕を原料とするものもあり、こちらは、湯に酒粕を溶いて砂糖などの甘味を加えて作る。どちらもアルコールはほとんど含まれず、現代ではソフトドリンクに分類される飲料である。

「日本書紀」には、甘酒の起源とされる天甜酒の記述がある。それによると、神吾田鹿葦津姫(コノハナサクヤヒメ)が、皇祖神を生んだ後に、卜定田の稲をもって、醸したという。おそらく口噛み酒だっただろう。
延喜式の醴酒(こさけ・れいしゅ)も一夜酒と呼ばれることがあったが、こちらは酒で醸した酒であるため、アルコール度はかなり高く、現在でいう貴醸酒のようなものだったのだろう。これを六月朔日に奉納するという。
万葉集にある山上憶良の貧窮問答歌には「糟湯酒」が登場し、これは酒粕を溶いた甘酒のようなものだと考えられている。歌の中で憶良は、「寒さの中で塩をなめながら糟湯酒をすすり、咳をしながら鼻をすする」とあるので、風邪に効くとの認識が当時からあったものと考えられる。

江戸時代に、夏の栄養ドリンクとしての地位を築いたことが今につながり、俳句では夏の季語となっている。現代では雛祭りの「白酒」にイメージを重ねることも多いが、こちらは焼酎やみりんなどを用いて時間をかけて作るもので、アルコール分も9%ほどある。

【甘酒の俳句】

甘酒にいま存命の一本箸  伊丹三樹彦
一夜酒隣の子迄来たりけり  小林一茶

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季語|夕立(ゆうだち・ゆだち・よだち)

三夏の季語 夕立

驟雨(しゅうう)白雨(はくう・しらさめ・ゆうだち)

夕立の季語(忠孝名誉奇人伝夕立や田をミめぐりの神ならば其角)夏の午後、強い日射により地面から上昇気流が生じ、積乱雲が生じて、時に雷・突風・雹を交えて、激しいにわか雨が降る。熱帯地方で発生するスコールと、同じようなものである。
梅雨明けから秋雨が降るまでの間の夕方の雨を、「夕立」と呼ぶことが普通であった。しかし、温暖化の影響からか、夕立の降る期間が長くなっているような印象を受ける。

「夕立つ」が名詞化して「夕立」になったとされ、夕方に風や雲が起こり立つことに誘発される雨である。
万葉集には、夕立の後の涼しさを歌った小鯛王の

夕立の雨うち降れば春日野の 尾花の末の白露思ほゆ

がある。また、新古今和歌集では、西行法師の

よられつる野もせの草のかげろひて すずしくくもる夕立の空

などが知られる。

夕立は涼を呼ぶとともに、降り始めに立ちのぼる香りにも趣きがある。この、雨の匂いの元は、雷によって発生するオゾンや、土壌微生物が産出する揮発物質だと言われている。近年では、「ペトリコール」という、石のエッセンスを意味する造語で呼ばれている。

【夕立の俳句】

夕立や田を見めぐりの神ならば  宝井其角
桑海や大夕立あとなほけぶる  高浜年尾

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季語|甲虫(かぶとむし)

三夏の季語 甲虫

兜虫(かぶとむし)

甲虫「こうちゅう」と読めば、ホタルやテントウムシをも含むコウチュウ目の昆虫であるが、俳句では、「甲虫」と書いて「かぶとむし」と読ませる。

一般にカブトムシと呼ばれる日本産のものは、コウチュウ目コガネムシ科カブトムシ亜科真性カブトムシ族のヤマトカブトムシである。沖縄に生息するヤンバルテナガコガネを除けば、日本最大の昆虫で、「昆虫の王様」とも呼ばれる。
成虫は6月から9月頃に見られ、夜間、クヌギやコナラなどの樹液に集まる。夏休みに行う昆虫採集では、最も人気の高い昆虫であり、夏の季語となる。走光性があり、街灯などにも飛来する。
カブトムシは鳴くと言われることもあるが、興奮した時に上翅と腹部をこすり合わせて出す、摩擦音である。
兜の前立てのような角をオスが持つことが、カブトムシの名前の由来である。この角を用いて、餌場や雌を求めて争う。因みに、兜の前立て自体は鍬形(くわがた)という。

江戸時代の「大和本草」に取り上げられるが、俳諧歳時記栞草に名は見られない。夜行性であるためか、江戸時代にはそれほど馴染みのある昆虫ではなかったと見られる。カブトムシが人気になったのは、懐中電灯が庶民のものとなり、昆虫の飼い方の教材が人気を集めた1960年代になってから。

【甲虫の俳句】

死してなほ兜のおもき兜虫  土生重次

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季語|南風(なんぷう・はえ・みなみかぜ・みなみ・まぜ・まじ)

三夏の季語 南風

海南風(かいなんぷう)

南風の俳句と季語南風は夏の季語。夏に南風が吹くと、太平洋高気圧の影響で日本列島は晴れることが多い。

梅雨時の強い南風を荒南風(あらはえ)、梅雨時に黒雲の下を吹く南風を黒南風(くろはえ)、梅雨が明けた後の晴天下での南風を白南風(しろはえ・しらはえ)と言う。
台風の予兆として南風が吹くこともあり、漁師は南風を警戒する。「南風(まじ)が吹いたら魚は釣れない」などと言う。

気象学では、36方位を数字に置き換えて表現するが、南風には「18」が割り振られている。
JRには特急南風号があり、岡山と高知を結んでいる。

【南風の俳句】

恋過ぎて南風に浜雀乗る  秋元不死男
耳もとに波のわきたつ南風かな  久保田万太郎

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季語|蚊(か)

三夏の季語 

藪蚊(やぶか)蚊柱(かばしら)

蚊の季語(和田三造画)ハエと同じ双翅目に属し、2枚の翅を持つカ科の昆虫。最も普通に見られるアカイエカや、一般にヤブカと呼ばれるヒトスジシマカなど、日本では約100種が確認されている。
蚊の餌は植物の汁であり、血液ではない。卵をつくるための蛋白質を得るために、雌のみが吸血する。産卵は水系で行われ、幼虫は水生で、ボウフラと呼ばれる。オニボウフラと呼ばれる蛹も水中に見られ、餌はとらないものの、他の昆虫の蛹に比べて活発に動く。因みに「ぼうふら」も夏の季語。

蚊に刺されると、蚊の唾液が体内に入り込むことでアレルギー反応が起こり、かゆみを感じる。またその際に、伝染病にかかる可能性もあり、媒介する伝染病に、日本脳炎をはじめ、マラリアや黄熱病、デング熱などが知られている。

一般的には屋外で繁殖するために、蚊は、気温の上昇する夏季によく見られる。しかしチカイエカは、浄化槽などの屋内環境で発生するために年中見られ、温水の使用頻度が高くなる冬場に大発生することがある。
蚊の活動時間帯は種類により異なり、アカイエカは夜、ヒトスジシマカは昼に活動が活発になる。

蚊柱は、蚊の繁殖活動に伴う集団飛行であり、雄の集団に雌が入り込んできて交尾する。アカイエカなども蚊柱をつくるが、河畔などにふつうに見られる蚊柱は、同じ双翅目でもユスリカ科に属す、血を吸わない種類の蚊によるもの。

徒然草第十九段には、「六月の頃、あやしき家に夕顔の白く見えて、蚊遣火ふすぶるもあはれなり。」とある。万葉集には詠み人知らずで

あしひきの山田守る翁が置く蚊火の 下焦れのみ吾が恋ひ居らむ

がある。
「蚊」の文字は、人の肌に文するところから来ている。日本に伝来し、「蚊」は「ブンブン」といって飛び始めた。
「カ」の名は、「やかまし」からきたとか、遠方のものを指す「彼(か)」からきたとか、様々な説がある。

【蚊の俳句】

たたかれて昼の蚊をはく木魚かな  夏目漱石

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季語|ビール(びーる)

三夏の季語 ビール

麦酒(びーる・ばくしゅ)ビヤホール(びやほーる)

ビールの俳句と季語麦芽をビール酵母で発酵させたビール。上面発酵のエールと下面発酵のラガーに大別され、日本では、ラガーの一種「ピルスナー」が主流である。

ビールは古くから飲まれていたことが知られており、紀元前4000年には、シュメール人によって既に作られていた。11世紀ドイツでは、風味付けと発酵を安定させるためにホップが用いられるようになった。
日本でも江戸時代にはその存在が知られており、長崎の出島で醸造も行われていた。明治時代になると、日本人の手で盛んにつくられるようになり、1876年には官営ビール工場も設立された。現代でもサッポロビールとして、その血脈を受け継ぐ。
またキリンビールは、1870年に日本で初めて大衆向けビールを醸造販売した「スプリング・バレー・ブルワリー」が元となっている。
アサヒビールは、1889年に設立された大阪麦酒を前身とする。アサヒビールの大阪麦酒・サッポロビールの札幌麦酒・エビスビールの日本麦酒が合併して、1906年に「大日本麦酒」が設立された。1949年には、サッポロビールとアサヒビールに再分割され、エビスビールはサッポロビールが販売するようになった。

現在では、ビールに味わいを似せた「発泡酒」や「第三のビール」が販売されており、価格などのメリットから、ビールのシェアを奪っている。

1999年、地ビールの日選考委員会は「地ビールの日・ビールの日」を4月23日に定め、2000年から記念日となった。1516年のこの日は、粗悪品を駆逐するために、ドイツで「ビール」の定義付けがなされた日である。日本のビールの日は、ドイツの「ビールの日」から来ている。
ビールの日は春にあたるが、最も消費量が多くなるのが夏場であり、ビールは夏の季語となっている。

【ビールの俳句】

ビール酌む男ごころを灯に曝す  三橋鷹女

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季語|夏の山(なつのやま)

三夏の季語 夏の山

夏山(なつやま)夏嶺(かれい)夏嶽(なつだけ)青嶺(あおね)

夏山の季語夏山とは、高山というよりもむしろ、草木の青々と茂った山のことを言う。長期休暇における登山の対象となる山。
2016年には、8月11日を「山の日」として、国民の祝日に制定した。なお、富士山をはじめとして日本各地の山で、7月1日に山開きが執り行われるが、これは修験道の名残である。

【夏の山の俳句】

夏山に足駄を拝む首途哉  松尾芭蕉
大木を見てもどりけり夏の山  高桑闌更

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季語|蛇(へび・くちなわ・じゃ)

三夏の季語 

季語と蛇の俳句トカゲと同じ有鱗目に属す爬虫類で、ヘビ亜目に分類される。日本には36種類が生息し、ニホンマムシ・ヤマカガシ・ハブなどの毒蛇や、最大2メートルにもなるアオダイショウ、縦縞が特徴的なシマヘビなどがよく知られている。
蛇は、トカゲから進化したと考えられており、足の痕跡が見られるものもある。ヤコブソン器官という嗅覚を司る器官があり、そこに匂いの粒子を送りこむために、蛇は舌を出し入れする。

冬眠する蛇は、「蛇穴に入る」が秋の季語に、「蛇穴を出づ」が春の季語になっている。冬眠のタイミングは種類によって異なるが、マムシでは、11月頃から3月頃が冬眠期間である。

古事記には、「虵(へみ)」の記述が2か所にある。ひとつは、スサノオがオオクニヌシを蛇の室に入れて試練を与える箇所。もうひとつは、垂仁天皇が、首に錦色の蛇がまとわりつく夢を見たという箇所。これは、反逆の予知夢であった。
さらに日本神話をさかのぼれば、ヤマタノオロチが登場するが、「オロチ」とは大蛇のことである。垂仁記の「本牟智和気の御子」の項には、御子の結婚相手が「虵(をろち)」だったという話が出てくる。
日本書紀(崇神紀)には、奈良の大神神社の御祭神・大物主が小蛇であったことが記されている。それに驚いた妻の倭迹迹日百襲姫命(やまとととびももそひめのみこと)は、箸で陰を突いて死に、箸墓に葬られた。

世界を見ても、創世記のアダムとイブの話に見られるように、古くから重要な場面に登場し、「生と死の象徴」「豊穣の象徴」「神の使い」などとして扱われている。
「蛇」からくる慣用句なども多く「蛇に睨まれた蛙」「蛇行」「蛇足」などがある。

【蛇の俳句】

形而上学二匹の蛇が錆はじむ  鳴戸奈菜

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季語|蝸牛(かたつむり・かたつぶり・かぎゅう・でんでんむし)

三夏の季語 蝸牛

でで虫(ででむし)

蝸牛の俳句と季語陸に棲む巻貝の通称で、「マイマイ」などとも呼ぶ。殻のない種類は「ナメクジ」と呼ぶ。
日本では500以上に及ぶ種類の蝸牛が確認されており、その内で普通に見られるのはミスジマイマイなどである。植物を食して生活しているが、殻を形成するカルシウムを補給するために、湿ったコンクリートに集合する姿なども見られる。

殻の巻き方は遺伝子によって決まる。日本で見られる蝸牛の大部分は右巻き。
雌雄同体のものが大多数。生殖器に恋矢(れんし)と呼ばれるものを持つ種類は、交尾の際にこれを相手に突き刺す。突き刺された相手の寿命は縮む。

フランス料理に使われるエスカルゴは、リンゴマイマイ科に属する蝸牛の一種。日本にも、蝸牛を食べたり薬にしたりする文化があったが、広東住血線虫が寄生していたりなどして、人体に悪影響を及ぼす危険性もあるため、慎重を要する。

「かたつむり」の語源は、「笠」と、巻貝を意味する「つぶり」から来る「かさつぶり」との説がある。
寂蓮法師に

牛の子にふまるな庭のかたつぶり 角ありとても身をなたのみそ

との、過信を戒める歌がある。

【蝸牛の俳句】

足元へいつ来たりしよ蝸牛  小林一茶
かたつぶりけさとも同じあり所  黒柳召波

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