俳句

季語|金亀虫(こがねむし)

三夏の季語 金亀虫

金亀子(こがねむし)ぶんぶん

金亀虫の俳句と季語コガネムシは黄金虫とも書き、鞘翅目コガネムシ科に属する甲虫である。同じコガネムシ科に属し、金属光沢のあるものに「カナブン」がいるが、一般に金亀虫と呼ばれているものとカナブンの生態は大きく異なる。金亀虫の頭部は丸っぽいが、カナブンの頭部は四角い。金亀虫の成虫は葉を食して生活しているが、カナブンは樹液をすする。金亀虫の幼虫は植物の根などを食す害虫であるが、カナブンは腐葉土を食して発酵させる益虫である。
俳諧歳時記栞草には「大和本草」の引用で、「五六月、草蔓に生ず。南人収て以粉に養ふ。婦人、白粉の器中に入おく。雄は緑色、光あり。雌は灰色、光なし。形状は飛蛾に似て長し。翼あり。額に両角ありて長し。六足あり。俗、玉虫といふ。」とある。

コガネムシと言えば、野口雨情作詞の童謡に「黄金虫は金持ちだ 金蔵建てた蔵建てた」と歌われるが、この童謡のコガネムシは、チャバネゴキブリのことではないかと言われている。

【金亀虫の俳句】

金亀虫擲つ闇の深さかな  高浜虚子

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季語|氷水(こおりみず・こおりすい)

三夏の季語 氷水

削氷(けずりひ)かき氷(かきごおり)夏氷(なつごおり)氷店(こおりみせ)

氷水の季語と俳句「氷水」と言えば、一般的には飲み水に氷を入れて冷たくしたものを言うが、俳句の世界では削氷に砂糖水やシロップをかけた食べ物のことを主に指す。
日本で最も古い記述は、「枕草子」にあると考えられており、「あてなるもの(上品なもの)」に「削り氷にあまずら入れて、あたらしきかなまりに入れたる」とある。当時の「氷水」は、高貴な者にだけ味わえる夏の楽しみで、氷室で夏まで保存されていた氷が提供された。
その、氷室の記述は日本書紀(仁徳紀)にも見られ、皇族である額田大中彦皇子が都祁(現在の奈良県)で狩りの最中に発見したことが記されている。
明治になった1869年には、横浜の馬車道に、日本で最初の氷水店がオープンした。1883年に東京製氷による人工氷の生産が始まると大衆的な飲食物となり、昭和初期に氷削機が普及し一般家庭にも広まった。
これら、氷水(かき氷)を食す文化は日本独特のものではなく、古代ローマや中国にも存在した。

「かき氷」の名前は、東京で「ぶっかきごおり」と呼ばれていたことに由来する。関西では「かちわり」と呼ばれ、現在でも甲子園名物として残る。かき氷を売っている店は氷旗を掲げていることが多いが、「波に千鳥」に氷の文字をあしらったデザインである。
戦前のかき氷は、砂糖をふりかけた「雪」、砂糖蜜をかけた「みぞれ」、小豆餡をのせた「金時」が定番だった。現在では、「氷蜜」と呼ばれるフルーツ味などのシロップをかけてつくるものが一般的である。

【氷水の俳句】

午下二時のしじまありけり氷水  松根東洋城

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季語|仏法僧(ぶっぽうそう)

三夏の季語 仏法僧

木葉木菟(このはづく)

仏法僧の俳句と季語鳥綱ブッポウソウ目ブッポウソウ科に分類されるブッポウソウは、夏鳥として東南アジアから飛来し、本州から九州で繁殖する。「森の宝石」とも呼ばれる美しさから、長らく「ブッポウソウ」と鳴くと信じられてきたが、1935年の日本放送協会名古屋中央放送局のラジオ取材で、「ブッポウソウ」と鳴くのはコノハズクであることが証明された。そのため、仏法僧には「姿の仏法僧」と呼ばれるブッポウソウと、「声の仏法僧」と呼ばれるコノハズクが存在する。
コノハズクは、フクロウ目フクロウ科に分類され、5月から6月にかけて、奥深い山中で夜間に鳴く。梟(フクロウ)は冬の季語になるが、こちらは青葉木菟とともに夏の季語となる梟である。

ちなみに「仏法僧」とは仏教における「仏・法・僧」の三宝のことで、聖徳太子の「十七条憲法」にも、「篤敬三宝 三宝者佛法僧也」とある。三宝に帰依し授戒することで、仏教徒となることができる。

【仏法僧の俳句】

杉くらし仏法僧を目のあたり  杉田久女

【仏法僧の鳴き声1】
声の仏法僧であるコノハズクの鳴き声。「ブッポウソウ」と聞きなす。1935年のブッポウソウを探り当てたラジオ放送には、荻原井泉水も立ち会っている。(YouTube 動画)

【仏法僧の鳴き声2】
こちらが本家仏法僧であるブッポウソウ。夜行性であるコノハズクとと違い、昼間に活動する。(YouTube 動画)

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季語|冷酒(れいしゅ・ひやざけ)

三夏の季語 冷酒

冷し酒(ひやしざけ)

冷酒冷やして飲む酒のことで、主に日本酒に関していう。近年、クリアな味わいの吟醸酒が人気になるとともに、冷やして日本酒を飲むことも珍しくなくなってきた。ただし「冷や」と言うと、普通は常温の日本酒を指し、「燗酒」と区分するために用いられる言葉である。「冷酒」とは別物で、夏の季語とはならない。

「冷酒」にも、その温度帯に応じて呼び名があり、15度くらいを「涼冷え(すずびえ)」、10度くらいを「花冷え」、5度くらいを「雪冷え」と呼ぶ。また、マイナス10度に過冷却した日本酒を、グラスに注ぐ衝撃で瞬間的にシャーベット状に凍らせる、「みぞれ酒」もある。氷を浮かべて飲むことも提案されており、酒造が近年力を入れている夏酒の楽しみ方にも幅が出てきた。

【冷酒の俳句】

一盞の冷酒に命あつきかな  角川源義

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季語|火取虫(ひとりむし)

三夏の季語 火取虫

火蛾(ひが・ほが・ひとりむし・かが)灯虫(ひむし)燈蛾(ひとりが・とうが)

火取虫の俳句と季語夏の夜、灯火に集まってくる昆虫の事を火取虫というが、特にのことをいう。俳諧歳時記栞草には、火蛾を「ひとりむし」と読ませ、六月に分類。「夏の夜、燈燭をみる時は、火を奪はんとほりするがごとく、数回りて終に燈油中に投て死す。故に愚人、色欲・貪欲の為に身命を抛つ、以て燈蛾に譬ふ。」とある。

虫が光に寄せられることを走光性というが、走行性の理由について明確に説明されたものはない。一般には、夜間の方向性をつかむために月あかりを利用していた虫が、人間の活動とともに灯火に集まるようになったと言われている。なお、昆虫に見える光は紫外線と近紫外線に限られており、光の波長を調整できるLEDを利用し、虫を呼びにくい灯火も開発されている。

【火取虫の俳句】

灯取虫這ひて書籍の文字乱れ  高浜虚子
灯虫さへすでに夜更のひそけさに  中村汀女

▶ 俳句の季節「蛾は美しい」

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季語|河鹿(かじか)

三夏の季語 河鹿

河鹿笛(かじかぶえ)

河鹿の季語と俳句「蛙」の仲間である河鹿は、アオガエル科カジカガエル属に分類され、夏の季語となる。本州から九州の渓流に棲み、4月から8月頃までの繁殖期、オスは美しい声で鳴く。そのため、美しい声で鳴く雄鹿に擬せられ、河の鹿の意の「河鹿」の名がついた。
山口県岩国市の錦川中流域と、岡山県真庭市の湯原地区に、カジカガエル生息地として国の天然記念物に指定された場所がある。

「蛙」は「かわず」とも読むが、古くは「かわず」と言えば河鹿のことを指した。万葉集には「かはづ」の和歌が20首が登場するが、ここに歌われるのは河鹿のことで、アマガエルとの混同が見られ始めたのは、平安時代になってからである。
俳諧歳時記栞草には秋八月の部に分類され、「夏の季より秋に至りて鳴」とある。万葉集に「かはづ」で歌われたものに

神奈備の山下響み行く水に かはづ鳴くなり秋と言はむとや

があるように、河鹿は、秋の季語である「鹿」に比せられたがゆえに、古くは秋を想起させるものであった。

因みに「鰍」と書いて「かじか」と読ませる魚が存在し、秋の季語となる。古くは鳴く魚だと信じられ、俳諧歳時記栞草にも「水底にありて鳴魚なり」とあるが、鳴くことはない。生息域が重なる河鹿との混同から名付けられたという。

【河鹿の俳句】

耿々と河鹿の笛に渓の天  秋元不死男

【河鹿の鳴き声】
オスは約4センチ、メスは約6センチ。渓流の岩場での保護色となる、灰から茶の体色を持つ。特に5月から6月にかけて、夜間を中心によく鳴く。(YouTube 動画)

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季語|雨蛙(あまがえる・あまかわず)

三夏の季語 雨蛙

青蛙(あおがえる)枝蛙(えだかわず)

雨蛙の季語と俳句「蛙」とすれば春の季語になるが、「雨蛙」は夏の季語である。俳諧歳時記栞草では四月に分類されており、「枝蛙」「土鴨(どあう)」の名も出てくる。

雨蛙とは、ニホンアマガエルのことを指し、モリアオガエルを指す「青蛙」とは別種である。しかし、両種はよく似ている。やや小型で、目から耳にかけて黒い帯模様があるのが、ニホンアマガエルである。
両種ともに樹上で生活することから、「枝蛙」の異名を持つ。特にモリアオガエルは、木の枝に泡で包まれた卵塊を産みつけるという特色がある。
鳴くのは繁殖活動の一環であり、オスのみが合唱する。ただニホンアマガエルは、「雨蛙」の名の通り、雨が降りそうになると繁殖期でなくても鳴く。これを「雨鳴き」「レインコール」という。

【雨蛙の俳句】

雨蛙芭蕉にのりてそよぎけり  宝井其角
枝蛙泣くせはしさに踏みまよふ  水原秋桜子

【雨蛙の鳴き声】
ニホンアマガエルは、北海道から九州に生息している。3月頃に冬眠から覚めたニホンアマガエルは、暖かくなると水田や池などで繁殖活動をする。繁殖活動は8月頃まで続く。通常は緑色だが、土や枯葉が多い場所では茶色になる。(YouTube 動画)

【青蛙の鳴き声】
モリアオガエルは、日本の固有種で本州と佐渡島に分布。通常は森の中に棲んでいるが、繁殖期である4月から7月には、池や沼に現れる。水面にせり出した木の枝に産み付けられた卵塊でオタマジャクシとなり、雨の日に水面に落ちる。(YouTube 動画)

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季語|ソーダ水(そーだすい)

三夏の季語 ソーダ水

サイダー(さいだー)ラムネ(らむね)

ソーダ水の俳句と季語炭酸ガスを含む水のことを炭酸水、あるいはソーダ水という。これを清涼飲料水として味付けしたものは炭酸飲料とも呼ばれ、その涼感から夏の季語となる。元は重曹とレモン果汁のクエン酸が化学反応して生まれたもので、ナトリウム化合物を指す「ソーダ」と呼ばれる。
「サイダー」は、リンゴ酒を指す英語である。リンゴ風味の炭酸飲料にも使われるようになり、現在では無色透明の炭酸飲料の総称として用いられている。
「ラムネ」は、レモネードが転訛したもので、「玉詰びん(ラムネ瓶)」という容器に入れられたものである。現在では、内容物にサイダーとの違いはなく、玉詰びんに入っているかどうかでサイダーとラムネに分かれる。玉詰びんのラムネ玉は、炭酸の圧力によって内容物を密封する。

日本に炭酸飲料がもたらされたのは幕末で、1865年には長崎で「ポン水」と呼ばれるラムネの生産が外国人の手によって行われていた。1868年にはノース&レー商会により、横浜でサイダーの生産も行われた。これは、パイナップルとリンゴの味をつけた「シャンペン・サイダー」だったが、後に横浜に開業した金線サイダーがリンゴ味だけにしたため、「サイダー」となった。

【ソーダ水の俳句】

ソーダ水方程式を濡らしけり  小川軽舟

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季語|海月(くらげ・かいげつ)

三夏の季語 海月

水母(くらげ・すいぼ)

海月の俳句と季語刺胞動物門に属し、ヒドロ虫綱・十文字クラゲ綱・箱虫綱・鉢虫綱に分かれる。淡水や海水中に生息し、浮遊生活をする。
ゼラチン質の体を持ち、傘の下面の中心部に口があり、動物性の餌を採る。多くの種類では傘の縁に触手がある。従来、肛門はないと考えられてきたが、近年、それを覆す研究結果が発表されている。
多くのクラゲでは、雌雄異体である。幼生はポリプとなり、そこから出芽してエフィラというプランクトンになる。ポリプは、無性生殖によって増殖するため、クラゲには無性世代、有性世代が存在する。

「くらげ」の語源は、目がないように見えることから「暗気」に由来するという説がある。「海月」「水月」と書くのは、水に浮んだ傘が、水中の月のように見えるからである。中国では、クラゲのことを「水母」と書く。
古事記に既に現れ、「天地のはじめ」で国の形がまだ定まっていない時に、「国わかく、浮かべる脂の如くして水母なす漂へる時に、葦牙のごと萌えあがる物によりて成りませる神の名は、ウマシアシカビヒコヂの神」とある。

俳諧歳時記栞草には、六月項に「海月取(くらげとる)」がある。「滑稽雑談」の引用で、「泥海に生ず、故に備前・筑前等より、多く此月取て、檞の葉を多く割て、海月の肉を包み、塩を用ひず、只葉を以て淹蔵する也」とある。
古来、骨のないものの代表として挙げられるクラゲは、「枕草子」にも出てくる。珍しい骨を手に入れた自慢する藤原隆家に対して、清少納言が海月の骨だと言って返すものである。あり得ない物事のたとえとして、「クラゲの骨」という語にもなっている。

盆過ぎの海ではクラゲに刺されると言い、盆過ぎにはクラゲが多く出現すると言われている。この盆過ぎに出現するクラゲは、主にアンドンクラゲである。
近年では、大きなエチゼンクラゲが漁業などに影響を及ぼしているとの報道も増えたが、肥料や飼料、食用にするなど有効利用する方法も考えられている。元々日本と中国には、食用にする文化もある。
1984年にアメリカのモントレー湾水族館がクラゲの展示を目玉にしたことから、日本でも水族館におけるクラゲの展示は人気を集めている。特に、山形県の加茂水族館のクラゲは、廃業の危機を救ったとしてテレビにも紹介され、ギネスに認定された世界一のクラゲ水族館としての魅力とも相まって有名である。

【海月の俳句】

水母また骨を探してただよへり  岩淵喜代子

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季語|蛞蝓(なめくじ・なめくじら・なめくじり)

三夏の季語 蛞蝓

なめくぢらなめくじり

蛞蝓陸に生息する巻貝(軟体動物門腹足綱)のうち、殻が退化しているものの総称で、殻を持つ種類はカタツムリである。
元はカタツムリのように殻を持っていたが、それを失う方向へと進化した結果、ナメクジとなった。このような貝殻の消失はウミウシなどにも起こっており、「ナメクジ化」と呼ばれる。

日本には、在来種のナメクジ科のナメクジや大型のヤマナメクジ、ヨーロッパからの外来種であるチャコウラナメクジなどが生息している。一年をとおして見られる生物であるが、湿気を好むために、梅雨時に特に目につくため、夏の季語となる。
交尾をして増殖するが、メスでもオスでもあり、卵子と精子を両方持つ雌雄同体である。
落葉を主食とするが、農作物にも被害を与えるために害虫とされる。またその見た目や、這ったあとに残る粘液から、不快害虫としての側面も持つ。そのようなナメクジを溶かすといって塩を振りかけることがあるが、浸透圧によって水分が抜け、小さくなるだけである。
ナメクジの語源は、その作物を食す姿から、「舐める」と、えぐることを指す「くじる」にあると考えられている。

【蛞蝓の俳句】

なめくぢり這ひて光るや古具足  服部嵐雪

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