三冬の季語 氷
結氷(けっぴょう)・厚氷(あつごおり)
気温が氷点下(通常気圧で摂氏0度)まで下がると、氷ができる。一年で最も気温が下がるのは寒の頃であり、その頃に目にすることが多いため、「氷」は晩冬の季語となる。なお、「初氷」も季語となり、こちらは初冬の季語となる。また、「薄氷」は初春の季語である。
「夏氷」の季語もあるが、こちらは涼をとるために食す氷のこと。単に「氷」と言った場合は、大地が生み出す冬の自然現象に因るものである。
「氷」の読みには「こほり」と「ひ」があるが、古くは、「こほり」は水面に生じたものを指し、「ひ」は塊りのものを主に指した。蝉の翅のように薄いものは「蝉氷(せみごおり)」、川底などに綿のようにできるものを「綿氷(わたごおり)」、氷面が鏡のようになったものを「氷面鏡(ひもかがみ)」と言ったりする。
俳諧歳時記栞草(1851年)には、寒さで氷が音を立てる「氷の声」、氷が水を覆う様をいう「氷の衣」、固く凍り付いた様をいう「氷のくさび」、池に花のようにできた「氷の花」が載る。
万葉集には大原櫻井真人の
佐保川に凍りわたれる薄ら氷の 薄き心を我が思はなくに
や、詠み人知らずの
春立てば消ゆる氷の残りなく 君が心は我に解けなむ
などがある。
「氷」が使われた慣用句には、「氷山の一角」などがある。
よく知られた諏訪湖の「御神渡り」は、湖面が氷結して膨張した折に、大音響とともに氷の亀裂が走る現象で、諏訪大社上社の男神が下社の女神のもとへ通った跡だと言われている。
上の画像は「新形三十六怪撰 やとるへき水も氷にとぢられて今宵の月は空にこそあり 宗祇」(月岡芳年:国立国会図書館オンライン)。氷っているために、本来あるべき水月がなく、月の実体を疑う歌である。
【氷の俳句】
蝶墜ちて大音響の結氷期 富澤赤黄男
悪女たらむ氷ことごとく割り歩む 山田みづえ