季語|桃の花(もものはな)

晩春の季語 桃の花

白桃(はくとう)緋桃(ひとう)

季語と俳句の桃の花「桃」といえば実を指し、秋の季語となる。また、桃の実に「白桃」があり、秋の季語ともなるが、白い花を咲かせる種類があり、「白桃」で花を指して、春の季語ともなる。
別名に三千世草(みちよぐさ)・三千歳草(みちとせぐさ)など。

桃は、バラ科モモ属の落葉小高木であり、花季は3月中旬から4月上旬。七十二候の「桃始笑」の頃咲き始めるため、現在の桃の節句には、花を見ることはない。
中国原産で、古代中国で第一番目の地位を得ていた桃は、多くの漢詩にも詠み込まれている。その代表は、代表的な祝婚歌とされる「詩経」の「桃夭」であろう。

桃之夭夭 灼灼其華
之子于帰 宜其室家

桃之夭夭 有蕡其実
之子于帰 宜其家室

桃之夭夭 其葉蓁蓁
之子于帰 宜其家人

万葉集では、大伴家持の

春の園紅にほふ桃の花 下照る道に出で立つをとめ

がよく知られている。また作者不詳ではあるが、

桃染めの浅らの衣浅らかに 思ひて妹に逢はむものかも

は、桃の花の色を、浅はかな色であると言っている。

桃と桜は見分けにくいが、桃の花弁には切れ込みがなく、やや尖ったイメージがある。また、花と同時に葉もつける。

【桃の花の俳句】

此ごろは夜雨夜雨や桃のはな  久村暁台
烈風や月下にさはぐ緋桃あり  原石鼎

▶ 春の季語になった花 見頃と名所

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季語|猫の恋(ねこのこい)

仲春の季語 猫の恋

恋猫(こいねこ)うかれ猫(うかれねこ)猫の妻(ねこのつま)春の猫(はるのねこ)

季語と俳句で恋猫(竹久夢二)猫の繁殖期は1月頃から始まり、8月頃まで続く。2月から4月はピークとなり、「猫の恋」「恋猫」「猫さかる」「戯れ猫」「浮かれ猫」などは春の季語となる。
猫の発情はメスに起り、期間はわずかに1週間程度。発情期のメスは、甘えた声で鳴きついたりする。オスは、メスの発情に誘発されるように攻撃的になり、大きな声で鳴いたりする。
俳諧歳時記栞草には、正月の項に「猫の妻恋」「猫さかる」があり、「雑談抄」の引用で「此者陰獣也。然ば陽気に犯されて、交合を好む。是を猫の恋と云。」とある。猫の発情は、昼間時の長さが影響するという。

▶ 関連季語 子猫(春)
▶ 俳句になった生物(猫)

【猫の恋の俳句】

うらやましおもひ切時猫の戀  越智越人
声たてぬ時が別れぞ猫の恋  加賀千代女

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季語|蕨(わらび)

仲春の季語 

早蕨(さわらび)

蕨(わらび)コバノイシカグマ科のシダ植物。春に若芽を食用にする。アク抜きをせずに食べると中毒を起こすため、必ずアク抜きして調理する。根から取れるデンプンは、ワラビ粉になる。
芽を出したばかりの頃の、こぶしのように巻いた形の早蕨を、「蕨手」といい、このような形状の意匠のことをも指す。刀の柄や神輿などに見られる。
万葉集に、志貴皇子の和歌で

石走る垂水の上のさわらびの 萌え出づる春になりにけるかも

がある。ただし、万葉の時代の蕨はであったとの説もある。
「わらび」の語源には諸説あるが、藁から生じる火と見なした「藁火」が有力。

【蕨の俳句】

右ひだりしれぬ蕨の手先かな  杉木美津女

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季語|啓蟄(けいちつ)

仲春の季語 啓蟄

季語と俳句で啓蟄「啓」には開くという意味があり、「蟄」は、虫が土の中に籠っている様子を指す漢字。二十四節気のひとつで、冬眠していた虫たちが、穴から出て来る頃とされる。3月6日ごろ。
啓蟄には、松に巻き付けた菰を取り外す「菰はずし」が行われる。因みに春の季語に「蛇穴を出づ」という季語もあるが、蛇が冬眠から覚めるのが、啓蟄の頃である。

中国でも元は「啓蟄」と表記していたが、前漢の皇帝の名に「啓」の文字が入っていたために、中国では「驚蟄」と書く。

【啓蟄の俳句】

啓蟄の蚯蚓の紅のすきとほる  山口青邨

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季語|春の野(はるのの)

三春の季語 春の野

春野(はるの)

春の野の季語と俳句雪が解けて、草花が芽吹く。春の野は賑やかで、変化が激しい。万葉集にも「春の野」は多く歌われ、山部赤人には

春の野にすみれ摘みにと来しわれそ 野をなつかしみ一夜寝にける

大伴家持には

春の野に霞たなびきうら悲し この夕かげに鶯鳴くも

がある。

【春の野の俳句】

春の野や何に人行き人帰る  正岡子規

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季語|山笑ふ(やまわらう)

三春の季語 山笑ふ

山笑ふ俳句郭煕(1023年?~1085年?)の画論「臥遊録」に、「春山淡冶にして笑うが如く、夏山蒼翠にして滴るが如く、秋山明浄にして粧うが如く、冬山惨淡として眠るが如く」とある。これをもとに、「山笑ふ」は春、「山滴る」は夏、「山粧ふ」は秋、「山眠る」は冬。
春の山は、花や木の芽がほころび、小鳥も囀る。山に入れば、相好を崩し、声をあげて笑っている様子を感じ取ることができる。

▶ 関連季語 春の山(春)

筆取てむかへば山の笑ひけり  大島蓼太

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季語|淡雪(あわゆき)

三春の季語 淡雪

淡雪の季語と俳句(国立国会図書館オンライン:つきの百姿しらしらとしらけたる夜の月かけに雪かきわけて梅の花折る公任)春に降る雪は、積ることなくすぐに解けてしまう。
「山の井」「俳諧御傘」などで、「沫雪(あわゆき)」は冬に分類されるが、「俳諧古今抄」に「今按ずるに 淡雪は冬に用ふべき所以なし 雪の斑なる形容は 初雪ともいひ 薄雪ともいはん 春の雪の平白ならんも 日影にちりて淡雪ならむも 寒気の淡和なるゆえなければ 淡雪は決して春と定むべし」。また、「芭蕉翁廿五箇条」の「二季に渡るものゝ事」に、「淡雪は春季もしかるべし 口伝 新古式法あり」。
このように、芭蕉のころまでは冬の事物との認識であったと考えられるが、万葉集には詠み人知らずで

梅が枝に鳴きて移ろふ鶯の 羽白袴にあわ雪ぞ降る

があり、古くは春の認識であったとも言われる。
因みに「淡雪」は儚い雪の意味で「あはゆき」、「沫雪」は泡のような雪の意味で「あわゆき」となる。

▶ 関連季語 春の雪(春)

【淡雪の俳句】

淡雪のつもるつもりや砂の上  久保田万太郎

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季語|遅日(ちじつ・おそきひ・おそひ)

三春の季語 遅日

暮遅し(くれおそし)暮かぬる(くれかぬる)夕永し(ゆうながし)

季語と遅日の俳句春は、日脚がのびて、暮れの遅さを実感するようになる。その春の一日のことを遅日と言い、なかなか沈まない太陽のこともまた遅日という。

【遅日の俳句】

遅き日のつもりて遠きむかし哉  与謝蕪村
黒板の遅日の文字の消し残し  中村汀女

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季語|下萌(したもえ)

初春の季語 下萌

草萌(くさもえ)草青む(くさあおむ)

季語と俳句で下萌早春、まだ枯草の残る土壌から、草の芽が伸びてくること。
新古今和歌集に、源国信の和歌で

春日野の下萌わたる草の上に つれなく見ゆる春の淡雪

がある。また「萌」は、万葉集の志貴皇子の和歌の中にも既に登場している。

石ばしる垂水の上の早蕨の 萌え出づる春になりにけるかも

近年では「萌」の文字に、疑似恋愛感情を読み取ることがある。本来は、下から上に向かう勢いを表現する、「燃える」に通じる言葉である。

【下萌の俳句】

まん丸に草青みけり堂の前  小林一茶
下萌に明さあるごと昼の月  原石鼎

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季語|余寒(よかん)

初春の季語 余寒

残る寒さ(のこるさむさ)寒残る(かんのこる)

余寒の季語と俳句立春後になお残る寒さ。残寒とも。関連季語に「冴返る」や「春寒」ある。
喪中などの理由で、年賀状を出せなかった場合、「寒中見舞い」や「余寒見舞い」で対応する。「余寒見舞い」を出す期間は、立春後、2月末まで。
古今和歌集・摂政太政大臣(藤原良経)の和歌に「家百首歌合に余寒の心を」として、

空はなほ霞みもやらず風さえて 雪げに曇る春の夜の月

がある。「なほ~さえて」で余寒を表す。

【余寒の俳句】

残り少なに余寒もものゝなつかしき  正岡子規
水に落し椿の氷る余寒かな  高井几董

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