俳句

季語|杏の花(あんずのはな)

晩春の季語 杏の花

花杏(はなあんず・かきょう)花杏子(はなあんず)

杏の花バラ科サクラ属アンズは、中国原産の落葉小高木。桜よりやや早く、3月から4月頃に開花する。「杏」として夏の季語になる実は、生食したり、ジャムなどの加工食品にする。
日本では古くは「唐桃(からもも)」と呼ばれ、奈良時代に唐から渡来したと考えられている。漢名であった「杏子」の唐音「あんず」が、そのまま日本でも用いられたと言われている。俳諧歳時記栞草(1851年)では、春之部三月に「杏花(あんずのはな・からもも)」として立項されている。
英名ではアプリコットである。近世まではアルメニアが原産地であると考えられていたため、学名は「Prunus armeniaca」である。

実は、杏仁などと呼ばれる生薬になる。神仙伝(古代中国)に、廬山の董奉が、金を受け取る代わりに貧乏な患者に杏の木を植えさせたという話がある。見事な杏の林ができ、自ら董仙杏林(とうせんきょうりん)と号したところから、「杏林」は医者の美称ともなった。

【杏の花の俳句】

しをるるは何かあんずの花の色  松永貞徳

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季語|連翹(れんぎょう)

仲春の季語 連翹

連翹連翹は、モクセイ科レンギョウ属の半つる性植物の総称で、主に中国原産のレンギョウ、シナレンギョウ、朝鮮半島原産のチョウセンレンギョウを指す。これらの開花期は3月から4月頃。限られた地域でしか見られない日本原産種のヤマトレンギョウやショウドシマレンギョウは、開花時期が約1ヵ月遅れる。
レンギョウの花弁は丸みを帯び、シナレンギョウは細長い。チョウセンレンギョウは細長い花弁を持ち、枝が弓なりに垂れるところに特徴がある。これら3種の連翹は、耐寒耐暑性に優れ、大気汚染や病虫害にも強いことから、全国の公園などによく植えられている。
「連翹」は直立した茎に連なる実がなることを表したもので、もともと中国で巴草を指す漢字であったが、日本で誤用されて音読みで「れんぎょう」と呼ぶようになったとされる。俳諧歳時記栞草(1851年)には春之部二月に分類され、和名抄の引用で「和名以多知久佐(いたちぐさ)、一名以多知波世(いたちはぜ)」とある。
渡来時期は不明であるが、出雲国風土記(733年)の意宇郡・秋鹿郡に山野の草木として「連翹(いたちぐさ)」が記載されていることから、太古に遡るという説があるが、平安時代や江戸時代前期との説も存在する。

彫刻家で詩人の高村光太郎の命日は4月2日であるが、生前好んだ連翹の花が、棺の上に一枝置かれていたことから、「連翹忌」という。

【連翹の俳句】

連翹の枝の白さよ嫋さよ  山口青邨

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季語|山桜桃の花(ゆすらのはな)

晩春の季語 山桜桃の花

山桜桃の花「山桜桃の花」は、バラ科サクラ属ユスラウメの花で、3月から4月頃に咲く。中国原産で、江戸時代初期に渡来したと言われ、俳諧歳時記栞草(1851年)には「桜桃花(ゆすらのはな)」として春之部三月に分類されている。ただし、現代では「桜桃の花」というと、サクランボを指すことが普通である。
ユスラウメの花は、「ウメ」とはいうもののサクラに似ており、中国で生まれた「」の漢字は、もともとこのユスラウメに当てられたものだとされている。語源には、移植を楽しむ意のある朝鮮名「移徒楽(いさら)」からの転訛説や、と実のなる時期が重なり、木をゆすって収穫するために「ユスラウメ」の名がついたとの説などがある。

【山桜桃の花の俳句】

日あたりてぬくき素足やゆすら咲く  日野草城

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季語|銀杏の花(いちょうのはな・ぎんなんのはな・ぎんきょうのはな)

晩春の季語 銀杏の花

銀杏の花イチョウ科イチョウ属イチョウは、生きた化石とも言われる世界最古の樹木種で、中国原産の一種のみが知られている。ただ、変種としては94種がある。日本へは15世紀頃に渡来したとの説が有力である。
裸子植物で雌雄異株。4月から5月頃に開花するが、目立たない。雌花はむき出しの胚珠を2つつけ、雄花(画像)は房状になる。風媒花である。尾花にできた花粉は、風に乗って1キロメートル以上飛散する。雌花の先に付着した花粉は、約5カ月後に精子となり、卵まで移動して受精する。

中国語の「鴨脚」の発音をまねて、日本では「いちょう」と呼ぶようになったとする語源説がある。また、「一葉(いちよう)」が語源との説もある。

【銀杏の花の俳句】

銀杏の花や鎌倉右大臣  内藤鳴雪

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季語|黄楊の花(つげのはな)

晩春の季語 黄楊の花

黄楊の花黄楊はツゲ科ツゲ属の常緑低木で、3月から4月頃に淡黄色の花弁のない小花をつける。日本の固有変種で、山形県から屋久島にかけて広く分布している。似た植物にイヌツゲがあるが、こちらはモチノキ科の別種である。イヌツゲに対して、黄楊のことを「ホンツゲ」ともいう。
「黄楊」の漢字は、黄色い花が咲く柳を表している。「つげ」の語源は、葉が次々につくところにあるとの説がある。「柘植」とも書く。

黄楊は、古来細工物の材木として珍重され、櫛などに仕立てられた。万葉集にも黄楊の櫛が歌われている。また、樹高が低く枝葉が密になるので、垣根によく用いられている。

【黄楊の花の俳句】

閑かさにひとりこぼれぬ黄楊の花  阿波野青畝

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季語|桜桃の花(おうとうのはな)

晩春の季語 桜桃の花

桜桃の花バラ科サクラ属の果樹である桜桃は、夏にはサクランボと呼ぶ実をつける。その木はチェリーとも呼ぶ。多くの種類があるが、サクランボを採る目的で植えられた木のほとんどは、西洋実桜(せいようみざくら)と呼ばれる、地中海沿岸を原産地とする品種からつくられたものである。日本へは、明治時代初期に導入された。
種類によって花期は異なるが、3月頃から花が見られる。主なものでは「暖地桜桃」が3月頃、「佐藤錦」が4月頃である。同時期に「山桜桃」も花をつけるが、こちらの実は「ユスラウメ」と呼ばれるため、俳句を詠む上では「桜桃の花」と「山桜桃の花」は分けるのが普通である。

【桜桃の花の俳句】

桜桃の花の静けき朝餉かな  川崎展宏

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季語|フリージア

晩春の季語 フリージア

フリージアアヤメ科フリージア属フリージアは南アフリカ原産で、2月から6月頃に黄・白・紫などの花をつける。原種は16種類あり、オランダを中心に品種改良がすすめられ、数百種の園芸品種がある。そのほとんどは芳香があり、「香雪蘭(こうせつらん)」とも呼ばれている。白と黄色以外のものはウィルスに弱いため、見かけることは少ない。
「フリージア」の名は、19世紀のデンマークの植物学者エクロンが、友人のドイツ人医師フレーゼに因んで名付けたもの。日本では「浅黄水仙(あさぎすいせん)」の別名もある。
日本には江戸時代末期に渡来したと見られている。

【フリージアの俳句】

フリージア受話器を置きし時匂ふ  西村和子

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季語|クロッカス

初春の季語 クロッカス

クロッカスアヤメ科クロッカス属の総称で、俳句の世界では「クロッカス」として春の季語、「サフラン」として秋の季語になる。つまり、クロッカスは秋に植えて2月から4月に花を咲かせる春咲き品種の「春咲サフラン」である。ただし、秋に咲く「サフラン」という品種がスパイスに用いられるのに対し、「春咲サフラン」は観賞用のみに栽培される。
原産地は地中海沿岸から小アジアで、明治時代初期に渡来した。
語源はギリシア神話にあり、ニンフに恋して死んだ美青年クロコスが花になったものとも、カウカソス山に縛られたプロメテウスの血から生じたとも言われている。バレンタインの頃に咲くため、イギリスでは「バレンタインの花」ともされている。

【クロッカスの俳句】

クロッカス光を貯めて咲けりけり  草間時彦

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季語|杉の花

晩春の季語 杉の花

杉の花ヒノキ科スギ亜科スギ属スギは、日本特産の雌雄同株の常緑針葉樹。本州から屋久島の山間部に自生あるいは植林され、2月から4月頃に開花し、花粉症のもととなるスギ花粉を飛散させる。「スギ」は、レバノンスギやヒマラヤスギにも使われるが、これらはマツ科に属し、当項の「杉」とは花期も異なる。
有名な杉のブランドとしては、吉野杉・北山杉・飫肥杉・屋久杉などがあり、著名な杉には屋久島の「縄文杉」・高知の「杉の大スギ」・岐阜の「石徹白の大杉」などがある。

緑色の雌花は枝先に1つづつ、黄色い雄花は枝先に多数花をつけ、雄花の花粉は風に乗って数十キロ飛散する。花粉症は世界的に様々な植物が引き起こす症状であるものの、日本特産である杉による花粉症は、日本特有の症状である。スギ花粉症が初めて報告されたのは1964年であり、以降多くの症例が確認され、国民病ともなっているが、戦火で焼けた山地への植林が影響しているとも言われている。

日本書紀の一書には、杉は素戔嗚(すさのお)の髯から生じたとされている。

【杉の花の俳句】

杉の花はるばる飛べり杉のため  山田みづえ

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季語|沈丁花(じんちょうげ)

三春の季語 沈丁花

沈丁(じんちょう)丁字(ちょうじ)

沈丁花ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属ジンチョウゲは、中国南部原産の常緑低木で、梔子金木犀とともに、日本の三大香木の一つに挙げられている。2月から4月頃に咲く花は、丁子と沈香に似た芳香を持つことから、「沈丁花」と名付けられた。中国では「瑞香(ずいこう)」という。
丁字や沈香と呼ばれることもあるが、「丁字」はフトモモ科フトモモ属、「沈香」はジンチョウゲ科ジンコウ属の植物を指すことが普通である。
雌雄異株で、日本で見られるもののほとんどは雄株である。花のように見えるのは萼で、花弁は持たない。

「尺素往来」(一条兼良15世紀末)に「沈丁華」とあり、室町時代までには中国から渡来していたと考えられている。現在では多くの栽培品種があり、庭木としてよく植えられている。
千利休の秘伝書とされる南方録に「花入れに入れざる花は沈丁花 太山しきみに鶏頭の花 女郎花 柘榴 河骨 金盞花 せんれい花をも嫌い事すれ」とあり、茶道では禁花の筆頭に挙げられる。その香りの強さのためである。

【沈丁花の俳句】

一歩ゆき一歩もどりて丁字の香  星野立子

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