季語|鱧(はも)

三夏の季語 

祭鱧(まつりはも)鱧の皮(はものかわ)

鱧の俳句と季語ウナギ目ハモ科に分類される海水魚で、体調1~2メートル。日本では本州中部以南に見られ、白身の高級魚として、特に関西で珍重される。
口が目の後ろまで裂けた独特の風貌を持ち、「はも」の名は、そこから連想される「食む(はむ)」に由来しているという説がある。

日本では、鱧は縄文時代から食されてきたと考えられている。ただ、小骨が多く、食するには骨切りをする。骨切りをした鱧は湯引きして、梅肉や酢味噌で食べるのが一般的である。鱧を蒲鉾などに使った時には、残った皮を二杯酢で食したりするが、これを「鱧の皮」と言う。

鱧の旬は7月で、京都の祇園祭に重なるために、このころの鱧は「祭鱧」とも呼ばれる。また祇園祭は、客人を鱧料理でもてなすことから、「鱧祭り」の別名もある。
初夏の出始めの鱧は「水鱧」ともいう。

【鱧の俳句】

大粒の雨が来さうよ鱧の皮  草間時彦
夕風にととのふ鉦や祭鱧  桂信子

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季語|蜘蛛(くも)

三夏の季語 蜘蛛

女郎蜘蛛(じょろうぐも)

新形三十六怪撰源頼光土蜘蛛ヲ切ル図(国会図書館)節足動物門鋏角亜門クモガタ綱クモ目。6本脚の昆虫とは別のグループに分類され、8本の脚を持つ。また、腹部から出る糸で網を張って、昆虫などを捕食することで知られているが、網を張らずに生活する蜘蛛も多い。
蜘蛛の語源は、アシダカグモの漢名の「喜母(きも)」にあると考えられている。

ハエトリグモやアシダカグモなど、日本では約1300種の蜘蛛が知られているが、俳句では女郎蜘蛛がよく詠み込まれる。その体色から花魁と見なされた女郎蜘蛛は、直径1mくらいの網を張り、弱いながらも毒を持つ。雌は30㎜に達する大きな蜘蛛であるが、雄はその半分以下の大きさしかなく、しばしば雌の餌となる。谷崎潤一郎の小説「刺青」など、文学でもよく取り上げられる生物である。
なお、女郎蜘蛛は秋によく見られるが、俳句の世界では夏の季語となる。

ヨーロッパの伝説に登場する毒蜘蛛タランチュラなど、古来、その姿の異様さから恐れられてきた生物であり、現在でも害虫と見なされることが多い。しかし、本来は害虫を退治する益虫である。近年では、その強靭な糸が産業界に役立つのではないかとも言われている。
また、身近な生物であるために、「朝に蜘蛛を見ると縁起が良く、夜に蜘蛛を見ると縁起が悪い」という俗説も生まれた。文学では、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」が有名である。

【蜘蛛の俳句】

蜘蛛に生れ網をかけねばならぬかな  高浜虚子

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季語|雷(かみなり・らい・いなづま・いかづち)

三夏の季語 

雷雨(らいう)雷鳴(らいめい)遠雷(えんらい)はたた神(はたたがみ)

季語と俳句で雷(北野天神縁起)夏季には、地上が熱せられることで上昇気流が発生しやすく、それにともなって生じる積乱雲が電位差を生み、雲間あるいは地上との間で放電が起こる。この時に生じる雷鳴と稲妻を「雷」という。気象庁の定義では、「雷電がある状態。電光のみは含まない」とあり、「雷」という場合には必ず雷鳴を伴う。
江戸時代には夏のものとの認識は低かったようであるが、近代に入り、雷は夏季に多く生じることから夏の季語となる。けれども、年中発生することから、春雷寒雷といった季語もある。因みに稲妻は、稲に実りをもたらすものと考えられ、秋の季語となっている。
語源は、「神鳴り」であり、かつては神が鳴らしていると考えられていた。「いかづち」も「厳つ霊」が元になっている。「はたた神」というのは、「はためく神」といった意味である。
「地震、雷、火事、親父」と言われ、昔から恐れられてきた。

「遠雷」といった場合、稲光から遅れて到達する雷鳴を味わう傾向が強いが、この差は音速と光速の違いにより生じる。光って1秒後に雷鳴を聞いた場合、雷は340m離れたところで発生したことになる。

古事記では、母神である伊耶那美の死体に8柱の雷神が成ったとある。また、国譲りの時に活躍した建御雷(鹿島神宮の神)も雷神と考えられるなど、複数の雷神が登場する。
平安時代には、菅原道真公が藤原一族に復讐するために雷神になったという話が広がった。菅原道真公は「桑原」に土地を持っており、そこは雷が落ちなかったという話が伝わり、雷が鳴ると「くわばら、くわばら」と唱えるようになったという。
万葉集には「鳴る神」として登場し、

天雲に近く光りて鳴る神の 見れば畏し見ねば悲しも(作者不詳)

などがある。また、「雷」を「かみ」と読ませる

伊香保嶺に雷な鳴りそね我が上には 故はなけども子らによりてぞ(作者不詳)

もある。

【雷の俳句】

遠雷のいとかすかなるたしかさよ  細見綾子
雷鳴の真只中で愛しあふ  仙田洋子

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季語|簾(すだれ)

三夏の季語 

葭簀(よしず)青簾(あおすだれ)日除(ひよけ)日覆(ひおおい・ひおい)

簾の俳句と季語暑さ除けで窓の外や軒先に用いる日除は、夏の風物詩である。
簾は、竹や葦などを編んだものを、吊り下げて用いる。青簾は、青竹を細く割って編まれた簾で、竹の香が立つ。葭簀は、葦を編んだものを軒先などに立て掛けて使用するもの。立簾とも言う。日覆や日除と言った場合には、布で作った覆いも含まれる。

簾の語源は、「簀垂れ」にある。中国では前漢時代に既に存在しており、中国から日本に伝わったと考えられている。
万葉集には額田王の和歌で、近江天皇を思ひてつくる歌として、

君待つとわが恋ひをればわが屋戸の 簾動かし秋の風吹く

がある。現在ではグリーンカーテンとして、植物を日除として使用することも多い。

【簾の俳句】

ほうほうと雨吹きこむや青簾  正岡子規

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季語|萍(うきくさ)

三夏の季語 

浮草(うきくさ)

萍(ウキクサ)池や水田などの水面を覆う水草で、根は水底に届かず、水面を漂う。別の呼び方に「根無草」もある。
近年大繁殖が問題となっている外来種「ホテイアオイ」なども「浮草」と呼ぶことがあるが、通常はウキクサ属に分類される「ウキクサ」をいう。5㎜ほどの小さな葉を、流れのない水面に浮かべ、夏に目立たない花をつける。「俳諧歳時記栞草」夏の部「五月」に「萍の花」があり、「白花あり」とあるが、ここにいう「萍」はスイレンの一種である「ヒツジグサ」のことだと考えられる。

万葉集のころは「浮きまなご」と呼ばれていたと考えられ、作者不詳の和歌に

解き衣の恋ひ乱れつつ浮きまなご 生きても我はあり渡るかも

がある。また、能因歌枕に「うきくさとはあだに浮きたることにたとふ」とあり、和歌の世界では「憂き」「浮く」に掛ける。古今和歌集には、壬生忠岑の和歌で

たぎつ瀬に根ざしとどめぬ浮草の 浮きたる恋も我はするかな

がある。

【萍の俳句】

雨ならず萍をさざめかすもの  富安風生

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季語|金亀虫(こがねむし)

三夏の季語 金亀虫

金亀子(こがねむし)ぶんぶん

金亀虫の俳句と季語コガネムシは黄金虫とも書き、鞘翅目コガネムシ科に属する甲虫である。同じコガネムシ科に属し、金属光沢のあるものに「カナブン」がいるが、一般に金亀虫と呼ばれているものとカナブンの生態は大きく異なる。金亀虫の頭部は丸っぽいが、カナブンの頭部は四角い。金亀虫の成虫は葉を食して生活しているが、カナブンは樹液をすする。金亀虫の幼虫は植物の根などを食す害虫であるが、カナブンは腐葉土を食して発酵させる益虫である。
俳諧歳時記栞草には「大和本草」の引用で、「五六月、草蔓に生ず。南人収て以粉に養ふ。婦人、白粉の器中に入おく。雄は緑色、光あり。雌は灰色、光なし。形状は飛蛾に似て長し。翼あり。額に両角ありて長し。六足あり。俗、玉虫といふ。」とある。

コガネムシと言えば、野口雨情作詞の童謡に「黄金虫は金持ちだ 金蔵建てた蔵建てた」と歌われるが、この童謡のコガネムシは、チャバネゴキブリのことではないかと言われている。

【金亀虫の俳句】

金亀虫擲つ闇の深さかな  高浜虚子

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季語|氷水(こおりみず・こおりすい)

三夏の季語 氷水

削氷(けずりひ)かき氷(かきごおり)夏氷(なつごおり)氷店(こおりみせ)

氷水の季語と俳句「氷水」と言えば、一般的には飲み水に氷を入れて冷たくしたものを言うが、俳句の世界では削氷に砂糖水やシロップをかけた食べ物のことを主に指す。
日本で最も古い記述は、「枕草子」にあると考えられており、「あてなるもの(上品なもの)」に「削り氷にあまずら入れて、あたらしきかなまりに入れたる」とある。当時の「氷水」は、高貴な者にだけ味わえる夏の楽しみで、氷室で夏まで保存されていた氷が提供された。
その、氷室の記述は日本書紀(仁徳紀)にも見られ、皇族である額田大中彦皇子が都祁(現在の奈良県)で狩りの最中に発見したことが記されている。
明治になった1869年には、横浜の馬車道に、日本で最初の氷水店がオープンした。1883年に東京製氷による人工氷の生産が始まると大衆的な飲食物となり、昭和初期に氷削機が普及し一般家庭にも広まった。
これら、氷水(かき氷)を食す文化は日本独特のものではなく、古代ローマや中国にも存在した。

「かき氷」の名前は、東京で「ぶっかきごおり」と呼ばれていたことに由来する。関西では「かちわり」と呼ばれ、現在でも甲子園名物として残る。かき氷を売っている店は氷旗を掲げていることが多いが、「波に千鳥」に氷の文字をあしらったデザインである。
戦前のかき氷は、砂糖をふりかけた「雪」、砂糖蜜をかけた「みぞれ」、小豆餡をのせた「金時」が定番だった。現在では、「氷蜜」と呼ばれるフルーツ味などのシロップをかけてつくるものが一般的である。

【氷水の俳句】

午下二時のしじまありけり氷水  松根東洋城

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季語|仏法僧(ぶっぽうそう)

三夏の季語 仏法僧

木葉木菟(このはづく)

仏法僧の俳句と季語鳥綱ブッポウソウ目ブッポウソウ科に分類されるブッポウソウは、夏鳥として東南アジアから飛来し、本州から九州で繁殖する。「森の宝石」とも呼ばれる美しさから、長らく「ブッポウソウ」と鳴くと信じられてきたが、1935年の日本放送協会名古屋中央放送局のラジオ取材で、「ブッポウソウ」と鳴くのはコノハズクであることが証明された。そのため、仏法僧には「姿の仏法僧」と呼ばれるブッポウソウと、「声の仏法僧」と呼ばれるコノハズクが存在する。
コノハズクは、フクロウ目フクロウ科に分類され、5月から6月にかけて、奥深い山中で夜間に鳴く。梟(フクロウ)は冬の季語になるが、こちらは青葉木菟とともに夏の季語となる梟である。

ちなみに「仏法僧」とは仏教における「仏・法・僧」の三宝のことで、聖徳太子の「十七条憲法」にも、「篤敬三宝 三宝者佛法僧也」とある。三宝に帰依し授戒することで、仏教徒となることができる。

【仏法僧の俳句】

杉くらし仏法僧を目のあたり  杉田久女

【仏法僧の鳴き声1】
声の仏法僧であるコノハズクの鳴き声。「ブッポウソウ」と聞きなす。1935年のブッポウソウを探り当てたラジオ放送には、荻原井泉水も立ち会っている。(YouTube 動画)

【仏法僧の鳴き声2】
こちらが本家仏法僧であるブッポウソウ。夜行性であるコノハズクとと違い、昼間に活動する。(YouTube 動画)

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季語|冷酒(れいしゅ・ひやざけ)

三夏の季語 冷酒

冷し酒(ひやしざけ)

冷酒冷やして飲む酒のことで、主に日本酒に関していう。近年、クリアな味わいの吟醸酒が人気になるとともに、冷やして日本酒を飲むことも珍しくなくなってきた。ただし「冷や」と言うと、普通は常温の日本酒を指し、「燗酒」と区分するために用いられる言葉である。「冷酒」とは別物で、夏の季語とはならない。

「冷酒」にも、その温度帯に応じて呼び名があり、15度くらいを「涼冷え(すずびえ)」、10度くらいを「花冷え」、5度くらいを「雪冷え」と呼ぶ。また、マイナス10度に過冷却した日本酒を、グラスに注ぐ衝撃で瞬間的にシャーベット状に凍らせる、「みぞれ酒」もある。氷を浮かべて飲むことも提案されており、酒造が近年力を入れている夏酒の楽しみ方にも幅が出てきた。

【冷酒の俳句】

一盞の冷酒に命あつきかな  角川源義

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季語|火取虫(ひとりむし)

三夏の季語 火取虫

火蛾(ひが・ほが・ひとりむし・かが)灯虫(ひむし)燈蛾(ひとりが・とうが)

火取虫の俳句と季語夏の夜、灯火に集まってくる昆虫の事を火取虫というが、特にのことをいう。俳諧歳時記栞草には、火蛾を「ひとりむし」と読ませ、六月に分類。「夏の夜、燈燭をみる時は、火を奪はんとほりするがごとく、数回りて終に燈油中に投て死す。故に愚人、色欲・貪欲の為に身命を抛つ、以て燈蛾に譬ふ。」とある。

虫が光に寄せられることを走光性というが、走行性の理由について明確に説明されたものはない。一般には、夜間の方向性をつかむために月あかりを利用していた虫が、人間の活動とともに灯火に集まるようになったと言われている。なお、昆虫に見える光は紫外線と近紫外線に限られており、光の波長を調整できるLEDを利用し、虫を呼びにくい灯火も開発されている。

【火取虫の俳句】

灯取虫這ひて書籍の文字乱れ  高浜虚子
灯虫さへすでに夜更のひそけさに  中村汀女

▶ 俳句の季節「蛾は美しい」

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