季語|寄居虫(やどかり・ごうな)

三春の季語 寄居虫

ごうな

季語 寄居虫 俳句エビやカニと同じ十脚目に属する。深海から、陸上に生息するするものもあるが、日本では、海岸で見られるホンヤドカリ・イソヨコバサミなどが一般的。
体のサイズに合った貝殻を探し当て、それを背負って生活する。成長するとともに、貝殻を変えていく。普通、引っ越しの時以外は、貝殻から離れることはない。
貝殻は、天敵から身を守るためのものであり、天敵を見つけると殻の中に逃げ込み、ハサミで殻の口に蓋をする。また、貝殻の内部は、削ったり浸食物質を分泌したりして、滑らかで広い空間に保たれている。
寄居虫の特徴として、体長の半分の長さにもなるペニスがある。ペニスが大きいほど、交尾の時に貝殻から離れなくてすみ、家を横取りされて天敵に襲われる危険性が低くなる。
文献上、平安時代以前から食用にされていたことが知られている。焼いたり刺身にしたり、塩辛にして食すが、現代では一般的ではない。

古くは「がうな」とされ、枕草子に、類焼にあった下男が「侍る所の焼けはべりにければ、がうなのやうに、人の家に尻をさし入れてのみさぶらふ」と、陳情にやってくる姿が描かれている。

【寄居虫の俳句】

おのが影引きずりて行く寄居虫かな  喜多和子

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季語|霞(かすみ)

三春の季語 

朝霞(あさがすみ)夕霞(ゆうがすみ)

季語と俳句で霞(国立国会図書館オンライン:江都名所かすみかせき)春になると、水蒸気などで遠くの景色が不明瞭になることが多い。「霞」は、気象観測において定義されていないために、気象用語ではない。夜の霞は「朧」という。
むかし霞と霧とに大きな区分はなかったが、古今集以降、春は「霞」、秋は「霧」と区別されるようになった。なお、「和名抄」に「霞は赤い雲気」とあり、夏の季語となる「朝焼け」「夕焼け」のことも、古くは中国に倣って「霞」の文字を用いた。「朝霞」「晩霞」の言葉もあるが、俳句では焼けの現象は指さない。
万葉集には、柿本人麻呂の歌で

ひさかたの天の香具山このゆふべ 霞たなびく春立つらしも

がある。

悩んだり、わだかまりがある状況を「霞」と表現することもある。浮世離れして清貧を貫くことを「霞を食う」と言ったり、一目散に走って姿を隠すことを「雲を霞」と言ったりもする。

【霞の俳句】

春なれや名もなき山の朝がすみ  松尾芭蕉

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季語|暖か(あたたか)

三春の季語 暖か

ぬくし

季語と俳句で暖か春は「暖か」、夏は「暑し」、秋は「冷やか」、冬は「寒し」。暑くも寒くもなく、ほどよい感じは、心に余裕を生む。金銭的に余裕があることも、「懐が暖かい」などと表現する。
万葉集に沙弥満誓の和歌で

しらぬひ筑紫の綿は身につけて いまだは著ねど暖かに見ゆ

とあるように、「暖か」は色にも現れる。

【暖かの俳句】

あたたかな雨が降るなり枯葎  正岡子規

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季語|春眠(しゅんみん)

三春の季語 春眠

春の眠り(はるのねむり)春眠し(はるねむし)春睡(しゅんすい)

季語 春眠春の夜の眠りは心地よい。ついつい貪ってしまうもの。
唐の詩人・孟浩然の「春曉」は、あまりに有名。

春眠不覺曉
處處聞啼鳥
夜來風雨聲
花落知多少

「春眠暁を覚えず」である。清少納言は対抗するかのように、「春はあけぼの」と語り始めるが…

【春眠の俳句】

春眠のこの家つつみし驟雨かな  星野立子

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季語|鞦韆(ぶらんこ・ふらここ・しゅうせん・ゆさわり)

三春の季語 鞦韆

ふらここぶらんこ

ぶらんこ・鞦韆「鞦韆」と言えば、現在では、座板をぶら下げた揺動系遊具であるが、古くは中国の宮女が使った性的な遊び道具であったとも言われる。唐代には、冬至から105日後に、女性が鞦韆を用いる宮中儀礼があり、玄宗皇帝はそれを仙人となり天に登ることに見立てて、「半仙戯」の名をつけた。
日本では、嵯峨天皇の漢詩に「鞦韆篇」があり、ここにも春に鞦韆を楽しむ女性の姿が歌われている。

「ぶらんこ」の語源には諸説あるが、揺れる様を表す擬態語の「ぶらん」に接尾語「こ」をつけたという説や、ポルトガル語でバランスを意味する「balanço」からきたという説などが有力。「balanço」は、ポルトガルで鞦韆の意味でも使われており「バランソ」と発音する。

北宋の蘇東坡「春夜」は、鞦韆を取り上げたものとして、最も有名。

春宵一刻値千金
花有清香月有陰
歌管楼台声細細
鞦韆院落夜沈沈

「一刻千金」のもとになった漢詩である。

【鞦韆の俳句】

鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし  三橋鷹女
鞦韆に腰かけて読む手紙かな  星野立子

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季語|シクラメン(しくらめん)

三春の季語 シクラメン

篝火花(かがりびばな)・豚の饅頭(ぶたのまんじゅう)

シクラメンの俳句と季語サクラソウ科シクラメン属の多年草。地中海地方が原産。春の季語になっているが、日本では、秋から春にかけて花が咲く。また、クリスマスに合わせて開花するように育てたりするため、どちらかといえば冬のイメージがある花である。
ソロモン王が、王冠にシクラメンをあしらったデザインを取り入れると、シクラメンは恥ずかしさのあまり下を向いたという。このことから、シクラメンの花言葉に「内気」「はにかみ」がある。また、色によっても花言葉は異なり、赤は「嫉妬」、白は「清純」、桃色は「はにかみ」などである。

受粉後に花茎が螺旋状に変化することから、ギリシア語で螺旋を指す「kiklos」 が語源となっている。また、日本では「篝火花」の名があるが、これは、植物学者・牧野富太郎が「篝火のようだ」と言った貴人の言を取り入れたものである。「豚の饅頭」の名は、豚が球根を掘って食べることからつけられた英名の直訳である。
「死」「苦」を連想し、見舞いに持参することは忌まれる。西洋では「アルプスのスミレ」などの呼称がある。

日本には明治初期に入ってきたが、本格的に広がっていったのは、大正時代の末。恵那市に住む伊藤孝重氏の尽力が大きい。その功績は、恵那市をシクラメンの一大産地と成した。
1975年のヒット曲「シクラメンのかほり」から、香りが良い花とのイメージが強いが、本来は無臭か微香性の花である。1996年になって、埼玉県がはじめて、本格的な芳香シクラメンの開発に成功している。

【シクラメンの俳句】

シクラメンをみなの恋の篝とも  小元洋子

▶ 春の季語になった花 見頃と名所

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季語|霾(つちふる)

三春の季語 

黄沙降る(こうさふる)

季語と俳句で霾アジア内陸部の砂漠などの乾燥地帯の砂塵が、強風で巻き上げられ飛来する。年中起り得る気象現象ではあるが、雪や氷が解け、偏西風が強くなる春、特に4月が最も多くなる。
黄砂の発生場所は、タクラマカン砂漠・ゴビ砂漠・黄土高原などで、そこで発生する砂塵嵐のことを中国語で沙塵暴と言い、特に大きなものは黒風暴という。
殷の時代に用いられた甲骨文字には既に「霾」が出現し、不吉な兆候ととらえられていた。杜甫の「鄭駙馬宅宴洞中」の一節「已入風磑霾雲端(すでに風磴に入りて雲端に霾る)」は、松尾芭蕉「おくのほそ道」の「尿前の関」に「雲端につちふる心地して、篠の中踏分踏分、水をわたり岩に蹶て、肌につめたき汗を流して、最上の庄に出づ」に取り入れられた。
日本の文献における初出は、「吾妻鏡」 文永3年2月1日(1266年3月16日)「晩に泥の混じる雨降る。希代の怪異なり」とされる。しかし、江戸時代以前はそれほど意識される気象現象ではなかったと見え、俳諧歳時記栞草にも「霾」や「黄沙」などの項目はない。

【霾の俳句】

黄沙降るはるかとなりし旅ひとつ  林十九楼

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季語|麗か(うららか)

三春の季語 麗か

麗(うらら)うらら

季語と俳句で麗か春の晴天は、長閑。俳諧歳時記栞草には「春色の百花咲乱れ、鳥獣山川までもいろめきて春をかざる意也」とある。
「麗か」は、「明るくほがらかな声の様」や「晴れ晴れとした気持ち」をも指す言葉である。瀧廉太郎の「花」は、「春のうららの隅田川」の歌い出し。これは、源氏物語「胡蝶」の

春の日のうららにさして行く舟は 棹の滴も花ぞちりける

を下地にしている。
長閑な曲調ではないが、「うらら」で始まる1973年の流行曲、山本リンダの「狙いうち」も印象的。

万葉集には大友家持の和歌で

うらうらに照れる春日にひばり上がり 心悲しもひとりし思へば

があり、「うらら」の原型を見ることができる。
「うらら」の語源は「ゆらゆら」にあるという説がある。

【麗かの俳句】

うらゝかや女つれだつ嵯峨御堂  正岡子規

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季語|鶯(うぐいす)

三春の季語 

初音(はつね)匂鳥(においどり)・春告鳥(はるつげどり)

季語と俳句の鶯(生写四十八鷹うぐひす白梅)スズメ目ウグイス科ウグイス属の、ほぼ全国に分布する留鳥。オリーブ色のその体色は、鶯色と言われる。オオルリ(夏の季語)・コマドリ(夏の季語)とともに、日本三鳴鳥のひとつ。
古くから日本人に親しまれてきた鳥で、初音・匂鳥・春告鳥(はるつげどり)・花見鳥(はなみどり)・歌詠鳥・経読鳥・人来鳥(ひとくどり)・百千鳥(ももちどり)・黄鳥(こうちょう)・金衣公子(きんいこうし)・報春鳥(ほうしゅんどり)・黄粉鳥(きなこどり)・春鳥(はるどり)・禁鳥(とどめどり)などの別名がある。
古今和歌集の仮名序にある「はなになくうぐひす みづにすむかはづのこゑをきけば いきとしいけるものいづれかうたをよまざりける」に因んで、「歌詠鳥(うたよみどり)」という。

さえずりは「ホーホケキョ」と聞きなし、これはオスの縄張り宣言である。「ケキョケキョケキョ」という谷渡りは、外敵への威嚇。「チャッチャッ」という地鳴きは、笹鳴きと言い、冬の季語になる。
2月初旬から囀りが始まることから、春告鳥の別名があり、気象庁が生物季節観測している。囀りのピークは初夏で、夏鶯の季語もある。
地域間で鳴き方に差異があり、かつて江戸のウグイスは訛っているとして、京都から鶯を取り寄せて鶯谷に放鳥したという。その結果、囀りが良くなったという。

花札の絵柄にもある「梅に鶯」は、取り合わせの良さをいう言葉ともなっており、50首以上で鶯が取り上げられる万葉集にも、小監阿氏奥嶋の和歌で

梅の花散らまく惜しみ我が園の 竹の林に鴬鳴くも

がある。
春告鳥を強調する和歌としては、古今和歌集の大江千里に

鶯の谷より出る声なくは 春くることを誰かしらまし

がある。
また、経読鳥(きょうよみどり)の別名の由来は、囀りを「法、法華経」あるいは「法聞けよ」と聞きなすことにあるが、蓮如上人に「このうぐひすは法ほきゝよとなくなり。されば鳥類だにも法をきけとなくに、まして人間にて聖人のお弟子なり。法をきかではあさましきぞ」の言葉がある。山家集にある西行の和歌にも

鶯の聲にさとりをうべきかは 聞く嬉しさもはかなかりけり

とある。

古くは鳴き声を「ウー、グイ」と聞きなし、鳥の接尾語「す」をつけて「うぐいす」の名前になったという。
「うぐいすの粉」として、江戸時代から美白剤として売られているものには、鶯の糞が使用されている。

【鶯の俳句】

臨終の庭に鶯鳴きにけり  青木月斗
鶯の身をさかさまに初音哉  宝井其角

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季語|木の芽(このめ・きのめ)

三春の季語 木の芽

木の芽風(このめかぜ)木の芽雨(このめあめ)

季語と俳句の木の芽俳句の世界では、春にもえ出る木の新芽のこと。料理界では、サンショウの若芽を「木の芽」と言い、晩春が旬。
古今和歌集に

霞たちこのめもはるの雪ふれば 花なきさとも花ぞちりける

の紀貫之の歌がある。

【木の芽の俳句】

木々おのおの名乗り出でたる木の芽かな  小林一茶
老木の芽をいそげるをあはれみぬ  富安風生

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