与謝蕪村 ●
菜の花や月は東に日は西に 季●春の海ひねもすのたりのたりかな 季●夕立や草葉をつかむむら雀 季寒月や門なき寺の天高し 季草枯れて狐の飛脚通りけり 季化けそうな傘かす寺の時雨かな 季春水や四条五条の橋の下 季近道へ出てうれし野の躑躅かな 季夏川をこすうれしさよ手にぞうり 季水底の草にこがるるほたる哉 季朝顔や一輪深き淵の色 季白露や茨の刺に一つづつ 季月天心貧しき町を通りけり 季なかなかにひとりあればぞ月を友 季春雨やものがたりゆく蓑と傘 季みじか夜や毛虫の上に露の玉 季五月雨や大河を前に家二軒 季しら梅に明る夜ばかりとなりにけり 季近道へ出てうれし野の躑躅哉 季雨の日やまだきにくれてねむの花 季かへり花暁の月にちりつくす 季春の水山なき国を流れけり 季葉ざくらや南良に二日の泊り客 季牡丹散て打かさなりぬ二三片 季山鳥の枝踏かゆる夜長哉 季秋の灯やゆかしき奈良の道具市 季道のべや手よりこぼれて蕎麦の花 季籠城の汁も薪も木の葉かな 季冬の夜や古き仏を先づ焚かむ 季やなぎから日のくれかかる野道かな 季ひよどりのこぼし去りぬる実のあかき 季筍や甥の法師が寺とはん 季愁いつつ岡にのぼれば花いばら 季ところてん逆しまに銀河三千尺 季山々を低く覚ゆる青田かな 季ゆふだちや門脇どのゝ人だまり 季蜩のおどろき啼くや朝ぼらけ 季日を帯びて芙蓉かたぶく恨みかな 季朝霧や杭打音丁々たり 季霧晴れて高砂の町まのあたり 季旅人の火を打こぼす秋の露 季古御所や虫の飛びつく金屏風 季紀の路にもおりず夜を行く雁ひとつ 季枯れなんとせしをぶだうの盛りかな 季初氷何こぼしけん石の間 季四ツ辻に残月かゝる煮酒哉 季葱買て枯木の中を帰りけり 季狐火の燃えつくばかり枯尾花 季いざ一杯まだきににゆる玉子酒 季のうれんに東風吹いせの出店哉 季高麗船のよらで過行霞かな 季襟巻の浅黄に残る寒さかな 季遅き日のつもりて遠きむかし哉 季我も死して碑にほとりせむ枯尾花 季春やむかし頭巾下の鼎疵 季ほととぎす平安城をすちかひに 季飛かはすやたけごゝろや親雀 季日は日くれよ夜は夜明けよと啼く蛙 季春の暮家路に遠き人ばかり 季春惜しむ宿やあふみの置火燵 季いとはるゝ身を恨寝やくれの春 季あま酒の地獄もちかし箱根山 季思ふこといはぬさまなる海鼠かな 季鹿啼てはゝその木末あれにけり 季小鳥来る音うれしさよ板びさし 季おのが葉に月おぼろなり竹の春 季新米のまだ艸の実の匂ひ哉 季衛士の火もしらじら霜の夜明けかな 季草摺りの氷ふるふや歩わたり 季鴛や池におとなき樫の雨 季花ぐもり朧につづくゆふべかな 季海手より日は照りつけて山ざくら 季戸を叩く狸と秋を惜しみけり 季渡し呼草のあなたの扇哉 季秋のくれ仏に化る狸かな 季狐火や髑髏に雨のたまる夜に 季鶯の枝ふみはづすはつねかな 季鶏は羽にはつねをうつの宮柱 季古庭に鶯啼きぬ日もすがら 季蝸牛何おもふ角の長みじか 季不二ひとつうづみ残して若葉かな 季春風や堤長うして家遠し 季象の眼の笑いかけたり山桜 季夏河を越すうれしさよ手に草履 季帰る雁田毎の月の曇る夜に 季古寺やほうろく捨るせりの中 季石工の鑿ひやしたる清水かな 季学びする几の上の蚊遣かな 季祇園会や真葛が原の風かほる 季夕風や水青鷺の脛をうつ 季かはほりやむかひの女房こちを見る 季愁ひつつ岡にのぼれば花いばら 季相阿弥の宵寝起すや大文字 季負けまじき角力を寝ものがたりかな 季梅もどき折るや念珠をかけながら 季山は暮れ野は黄昏の薄哉 季しののめや雲見えなくに蓼の雨 季落ち穂拾ひ日あたる方へあゆみ行く 季河豚汁の我生きて見る寝覚かな 季池田から炭くれし春の寒さ哉 季
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