俳句

季語|芭蕉(ばしょう)

初秋の季語 芭蕉

芭蕉の俳句と季語中国あるいは東南アジア原産のバショウ科の多年草で、英名は、シーボルトによりジャパニーズ・バナナと名付けられた。冬に葉を枯らすが、春には再び葉をつけ、稀に大きな黄色い花をつける。それは「芭蕉の花」として夏の季語となる。秋に実となるが、バナナに似た形状の、その実を食すことはない。
主に観賞用に植えられるが、琉球諸島では、葉鞘の繊維で芭蕉布が作られる。

渡来した時期は定かではないが、既に平安時代にはあったと見えて、紀乳母による「笹」「松」「枇杷」「芭蕉葉」を組み合わせた和歌が、古今和歌集に載る。

いささめに時まつまにぞ日は経ぬる 心ばせをば人に見えつつ

「芭蕉」はもともと漢名で、それを音読みしたものが「ばしょう」。和名類聚抄では、「苑(えん)」「甘蕉(かんしょう)」とも呼ばれていたとある。
葉が風で破れやすいために、「庭忌草(にわきぐさ)」とも呼ばれた。

江戸時代の俳諧師・松尾芭蕉は、天和2年(1682年)に「芭蕉」と号した。延宝8年(1680年)に江戸深川に居を移した時に、そこにあった芭蕉が立派なことから、弟子がその庵を「芭蕉庵」と呼んだことに因る。

▶ 関連季語 破芭蕉(秋)

【芭蕉の俳句】

この寺は庭一盃の芭蕉かな  松尾芭蕉

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季語|新涼(しんりょう)

初秋の季語 新涼

秋涼し(あきすずし)涼新た(りょうあらた)

新涼の俳句と季語凉しは夏の季語であるが、新涼は秋の季語となる。初秋のころの涼しさをいう。この頃、ひと雨ごとに涼しさを増す。
「新涼灯火」という言葉があるが、この頃、明かりの下で読書をするのに丁度よい。

【新涼の俳句】

秋涼し手毎にむけや瓜茄子  松尾芭蕉
新涼や起きてすぐ書く文一つ  星野立子
新涼や白きてのひらあしのうら  川端茅舍

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季語|鈴虫(すずむし)

初秋の季語 鈴虫

鈴虫の俳句と季語直翅目バッタ目コオロギ科の昆虫。松虫と鈴虫の名は、時代や地域によって錯綜している。一説には、日本で松虫と呼ぶものが中国で鈴虫と呼ばれており、平安時代には中国に倣っていたとも言われる。俳諧歳時記栞草の出た江戸時代中期には、今のように呼ばれていたが、「今俗に、リンリンと鳴くを鈴虫といふはわろし、これ松虫也といへり。鈴虫は、チンチロリと鳴をいふといへり」との記述も見える。
源氏物語第三十八帖「鈴虫」では、鈴虫と松虫に言及されており、

おほかたの秋をば憂しを知りにしを ふり捨てがたき鈴虫の声
心もて草のやどりをいとへども なほ鈴虫の声ぞふりせぬ

の歌も載る。ここでの鈴虫は「松虫」のことだと言われているが、松虫を「命のほどはかなき虫」とし、鈴虫を「心やすく、今めいたる」と表現しているところを見ると、通説に疑問を感じる。当時も、現在と同じ呼び方がされていたのではなかろうか。

成虫は8月中旬から9月にかけて出現し、オスの鳴き声は「リンリン」と聞きなし、文部省唱歌の「虫のこえ」にも歌われる。その鳴き声が鈴の音に似ていることから「鈴虫」と呼ばれている。

源氏物語にもあるように、古くから、鑑賞のために庭に放たれたり、籠で飼われたりしていた。
松虫はイネ科植物に産卵するのに対し、鈴虫は土の中に産卵する。そのため、飼育に植物を要する松虫よりも繁殖は簡単で、育てやすい。

【鈴虫の俳句】

鈴虫を塞ぎの虫と共に飼ふ  草間時彦

【鈴虫の鳴き声】
北海道にいるものは移入されたものであるが、日本全国に生息し、7月下旬から9月末まで鳴き声を聞くことが出来る。「鳴く虫の王」とも呼ばれ、オスのみが翅をこすり合わせて鳴く。(YouTube 動画)

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季語|松虫(まつむし)

初秋の季語 松虫

ちんちろりん青松虫(あおまつむし)

松虫の俳句と季語直翅目バッタ目コオロギ科の昆虫。松虫と鈴虫の名は、時代や地域によって錯綜している。
古今要覧稿には、西暦900年頃は今と同じ、それから100年後には入れ替わっていたと書かれている。古今要覧稿の書かれた江戸時代中期には、現在と同じように呼ばれていたが、俳諧歳時記栞草には「今俗に、リンリンと鳴くを鈴虫といふはわろし、これ松虫也といへり。鈴虫は、チンチロリと鳴をいふといへり」との記述も見える。
なお、万葉の昔には、松虫も鈴虫も「こおろぎ」と呼ばれていた。古今和歌集には「松虫」が出現するが、ここでの松虫は、今で言う鈴虫のことと考えられている。詠み人知らずの歌に

秋の野に人まつ虫の声すなり 我かと行きていざとぶらはむ

があり、「待つ」に掛けて歌われている。

成虫は8月中旬から11月下旬にかけて出現し、オスの鳴き声は「チンチロリン」と聞きなし、文部省唱歌の「虫のこえ」にも歌われる。
在来種の体色は茶色であるが、明治時代に中国から入ったと言われる外来種・アオマツムシは鮮やかな緑色をしている。近年急速に生息域を拡げており、街路樹などの中で鈴のような音色で鳴く。

「松虫」の名前は、鳴き声を、澄んだ松風に見立ててつけられたと考えられている。

中国では虫の声を聞く文化があり、日本においても平安時代頃から、籠に入れて鑑賞が行われていた。さらに江戸時代になると、人工繁殖させた虫を売り歩く「虫売り」も行われるようになった。

【松虫の俳句】

寺よぎる風のあはひのちんちろりん  中川宋淵

【松虫の鳴き声】
本州・四国・九州に分布し、8月中旬から11月にかけて鳴き声を聞くことが出来る。その鳴き声は、「チンチロリン」と聞きなす。(YouTube 動画)

【青松虫の鳴き声】
明治時代に中国から帰化した外来種と言われており、現在では本州、四国、九州に分布している。8月中旬から11月にかけて、街路樹などでよく鳴いている。松虫の鳴き声とは全く異なる。(YouTube 動画)

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季語|桃(もも)

初秋の季語 

白桃(はくとう)伯桃(はくとう)緋桃(ひとう)水蜜桃(すいみつとう)

桃の俳句と季語バラ科モモ属の桃は、7月から8月頃に実をつける。「桃の花」は春の季語であるが「桃」と言えば実を指して秋の季語となる。一般的に食せられる桃は水蜜種と呼ばれ、実の色に応じて、白桃と黄桃に分かれる。
原産地は黄河上流域であり、縄文時代前期に渡来していた痕跡がある。しかし、水蜜種が広がったのは明治時代になってから。その酸味ゆえにシロップ漬けなどにされていたものが、明治32年に岡山の大久保重五郎が新種の白桃を発見したことにより、日本独自の、甘くて大きな白桃が出現した。

日本人と桃との関係は古く、古事記の「黄泉の国」の項に、黄泉の国から逃げ帰る伊邪那岐(いざなき)が、黄泉比良坂の坂本の桃の子(実)を3つ取って、追っ手に投げつけて退散させたとある。その桃の子に意富加牟豆美の命(おほかむづみのみこと)と名付け、「葦原の中つ国(日本)に住む人々の苦境時には、私を助けたように助けてやって欲しい」と告げたとある。これは当時、薬として使用していたことを伺わせる記述でもある。
また、日本書紀には、伊弉諾(いざなき)が、追い来る雷に桃の実を投げて退散させ、「桃を用いて鬼を防ぐ」の元となったとある。これが「桃太郎」の話に繋がっていくが、そのモチーフになったのは、崇神紀に現われる吉備津彦であると考えられている。
桃に特別な力が備わっていると考えられてきた痕跡は、発掘資料からも分かる。邪馬台国の有力候補地であり、崇神天皇らが都を置いた場所付近に当たる纒向遺跡では、大量の桃の実が発掘されている。「ももしき」が大宮にかかる枕詞だったこともあり、邪気払いのために敷き詰められていた可能性もある。
中国では古くより、仙木・仙果と呼ばれ、邪気を祓い、不老長寿を与える植物として親しまれてきた。
万葉集に「桃」の歌は7首載るが、主に花を歌い、積極的にその実を食す習慣はなかったと見られる。ただ、詠み人知らずの歌の中に、恋の結実を祈って桃の実に掛けた歌が1首存在する。

はしきやし我家の毛桃本茂く 花のみ咲きてならずあらめやも

「もも」の語源は諸説あるが、「百(もも)」との関連が指摘される。つまり、多くの実をつけるから「もも」となった説である。漢字の「桃」も、木偏に「兆」となっており、「兆」は「きざし」、つまり事象の多様化を孕む文字である。

「桃」を用いた言葉は数多いが、理想郷を指す「桃源郷」、忍耐を説く「桃栗三年柿八年」、早口言葉の「すもももももももものうち」などがある。

【桃の俳句】

わがきぬにふしみの桃の雫せよ  松尾芭蕉
病間や桃食ひながら李画く  正岡子規

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季語|法師蝉(ほうしぜみ)

初秋の季語 法師蝉

つくつく法師(つくつくほうし・つくつくぼうし)

法師蝉の俳句と季語カメムシ目セミ科に属する蝉の一種で、8月から9月末まで、夕刻によく鳴く。その鳴き声は「ツクツクボーシ」と聞きなす。クマゼミやヒグラシが集団で同じメロディーを奏するのに対し、ツクツクボウシは単独でメロディーを奏でる。
秋の訪れを告げる蝉であるが、つくつくぼうしの島として知られる八丈島では、7月から鳴き始め、夏蝉として存在している。

▶ 関連季語 蝉(夏)

【法師蝉の俳句】

身にちかくあまりにちかくつくつくぼうし  種田山頭火
今尽きる秋をつくづくほふしかな  小林一茶

【ツクツクボウシの鳴き声】
北海道から鹿児島までの各地に生息し、8月から9月にかけて、街中でも鳴き声を聞くことが出来る。その鳴き声は「ツクツクボーシ」と聞きなす。(YouTube 動画)

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季語|ばった

初秋の季語 ばった

はたはたきちきち

ばったの俳句と季語直翅目バッタ亜目に属する昆虫の総称で、ショウリョウバッタ・トノサマバッタ・オンブバッタ・イナゴなどが含まれる。後脚が大きく発達していて、人が近づけば、その脚を使ってジャンプして逃げる。成虫はさらに、翅を伸ばして長距離移動を行うものが多い。ただし、オンブバッタなどは、飛ばない。

「きちきち」「はたはた」と呼ぶバッタはショウリョウバッタのことで、オスが飛ぶ時に出す音から命名された。「はたはた」は「ばたばた」に転訛し「ばった」となったと考えられ、ゆえに本種が「ばった」の代表である。
ショウリョウバッタを漢字で書くと「精霊蝗虫」となり、旧盆の精霊船に似ることから命名された。
ショウリョウバッタを小型にしたようなオンブバッタは、大きなメスの上に小さなオスが負んぶされているような姿が、しばしば観察される。これは交尾に到る行動であるが、オンブバッタは、交尾時以外でもオスがメスの背中に乗り続ける状態が観察できる。

因みに「ばったもん」という言葉があるが、隠語に投げ売りを意味する「ばった」という言葉があり、「ばったばった」と投げ売りされる様子から出てきた言葉と言われる。昆虫の「ばった」とは関係がない。
「はたはた」とした場合、冬の季語に「鱩(はたはた)」というスズキ目に属する魚もある。

【ばったの俳句】

はたはたや退路絶たれて道初まる  中村草田男

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季語|馬追(うまおい)

初秋の季語 馬追

すいつちよすいと

馬追の俳句と季語バッタ目キリギリス科に属し、林内で見られるハヤシノウマオイと、畑や草原に生息するハタケノウマオイがいる。7月から9月頃に成虫が見られる。
夜間に鳴くオスの鳴き声は、「スイッチョン」と聞きなす。ハタケノウマオイの方が、やや忙しなく鳴く。
馬追とは、馬子を指す言葉でもある。その鳴き声が、馬子の声に似ていることから、「馬追」と名付けられた。

【馬追の俳句】

ふるさとや馬追鳴ける風の中  水原秋桜子
放ちたるすいとが庭で鳴きにけり  邊見京子

【ハヤシノウマオイの鳴き声】
本州から九州の下草の多い林内で生活する。成虫は8月から11月にかけて見られる。(YouTube 動画)

【ハタケノウマオイの鳴き声】
本州から九州の畑や川端の草の中で生活する。成虫は8月から11月にかけて見られる。(YouTube 動画)

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季語|揚花火(あげはなび)

初秋の季語 揚花火

揚花火の俳句と季語「打ち上げ花火」の略。現代では夏の風物詩として定着しているが、盆の鎮魂や秋祭りの奉納として打ち上げられ、秋の季語として扱う場合もある。俳諧歳時記栞草では秋之部に分類され、和漢三才図絵の引用で「熢燧(のろし)に代ふべきもの」としている。

▶ 関連季語 花火(夏)

【揚花火の俳句】

揚花火二階灯してすぐ消して  長谷川かな女

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季語|木槿(むくげ)

初秋の季語 木槿

白木槿(しろむくげ)底紅(そこべに)

木槿の俳句と季語アオイ科フヨウ属の落葉低木。別名に「ハチス」。原産地は中国。韓国では国花となっている。韓国名の「無窮花(ムグンファ)」が転訛して、「むくげ」になったとの語源説がある。
7月から10月頃に花をつける。芙蓉と似ているが、芙蓉の雌蕊は上に向いて曲がるのに対し、槿は雌しべの先が真っすぐに伸びる。ハイビスカスも近縁種である。

白居易の「放言」

泰山不要欺毫末 顔子無心羨老彭
松樹千年終是朽 槿花一日自為栄
何須戀世常憂死 亦莫嫌身漫厭生
生去死来都是幻 幻人哀楽繋何情

から、朝咲いて夕方には萎む一日花と認識されている。これにより「槿花一日の栄」「槿花一朝の夢」という、人の世の儚さを指す言葉が生まれた。実際に、木槿の花の寿命は短いが、2日以上咲くものもある。
日本には平安時代に渡来したとの説があるが、万葉集に詠み人知らずで、

こい転び恋ひは死ぬともいちしろく 色には出でじ朝顔が花

の歌が載る。ここでいう朝顔が、木槿であるとも言われる。

【木槿の俳句】

道のべの木槿は馬に食はれけり  松尾芭蕉

▶ 秋の季語になった花 見頃と名所

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