俳句

季語|蓼の花(たでのはな)

初秋の季語 蓼の花

蓼の穂(たでのほ)・穂蓼(ほたで)

蓼の花タデ科イヌタデ属の植物全般を一般的には「タデ」と呼ぶ。しかし、「蓼食う虫も好きずき」でいう蓼はヤナギタデのことであり、「蓼」で夏の季語となる。
通常は、7月から10月頃に咲くヤナギタデの花を「蓼の花」と呼んで秋の季語にする。よく見かけるイヌタデの花も「蓼の花」として差し支えないが、「赤まんま」と呼んで区別することが多い。
ヤナギタデは、日本全国の水田や湿地に生育し、葉が柳に似ることから名がついた。葉には強い辛みがあり、刺し身のつまにしたりする。

万葉集には「穂蓼」の和歌が2首あり、平群朝臣には

童ども草はな刈りそ八穂蓼を 穂積の朝臣が腋草を刈れ

がある。これは、穂積の朝臣の腋臭をからかった歌で、「八穂蓼を」は「穂積」に掛かる枕詞である。因みに「八穂蓼」はヤナギタデのことである。

【蓼の花の俳句】

二三日なまけごころや蓼の花  鈴木真砂女

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季語|煙草の花(たばこのはな)

三秋の季語 煙草の花

花煙草(はなたばこ)

煙草の花ナス科タバコ属タバコは南アメリカ原産で、栽培種は一年草として扱われるが、元は多年草である。7月から9月頃に花をつけるが、花が咲く前の6月から8月頃に、葉を利用するために収穫するため、花を見ることは稀である。
インディオによって栽培され用いられていた煙草が、1492年10月のコロンブスの上陸によって、はじめて西洋に知られるようになった。16世紀初めに、西インド諸島を制圧したスペイン人が、喫煙習慣をヨーロッパに持ち込んだ。日本へは、1543年の鉄砲の伝来とともにポルトガル人によって喫煙習慣が伝えられたとされるが、煙草の種子が伝わったのは1601年である。長崎県平戸市に「日本最初たばこ種子渡来之地」の碑がある。その後1605年に、長崎で初めて煙草が植えられた。
現在では健康に悪影響があるとされる煙草であるが、ヨーロッパに渡来した当初は万能薬と見る向きもあった。
「たばこ」の語源は、スペイン語やポルトガル語の「tabaco(tabacco)」で、インディオが用いた喫煙具のことだという説がある。

【煙草の花の俳句】

花たばこ空に明日あり便りまつ  角川源義

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季語|鬱金の花(うこんのはな)

初秋の季語 鬱金の花

鬱金の花ショウガ科ウコン属ウコンは、インド原産の多年草で7月から9月頃に花をつける。別名に「きぞめぐさ」がある。日本へは十六世紀に渡来した。
本来の「鬱金」は秋ウコンとか赤ウコンと呼ばれるもので、春ウコン(黄ウコン・姜黄)や夏ウコン(紫ウコン・白ウコン)は同属別種である。因みに中国では春ウコンを「鬱金」とし、日本で鬱金とするものは姜黄(きょうおう)と呼ぶ。
鬱金はターメリックの名でも知られる。根茎には、肝臓に良いとされるクルクミンが含まれ、生薬にしたり、スパイスや黄色い染料にしたりして用いる。

【鬱金の花の俳句】

時雨馳せうこんの花のさかりなる  大野林火

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季語|撫子(なでしこ)

初秋の季語 撫子

大和撫子(やまとなでしこ)

撫子ナデシコ科ナデシコ属の総称であるが、通常はカワラナデシコを「撫子」と呼ぶ。7月から10月頃に花をつけるカワラナデシコは、本州以西に自生し、「大和撫子」の異称もある。秋の七草の一つである。
盛夏の花が秋にも残ることから、古くは撫子を常夏と呼んだが、現在では、中国から渡来したセキチクの園芸品種「トコナツ」を「常夏」として、夏の季語とする。

万葉集には26首歌われ、山上憶良の和歌で七種の花として秋の七草に定着する。ただ、夏雑歌に分類されるものがあれば秋相聞に分類されるものもあり、古くから季節が曖昧にされる花であった。大伴家持は

我が宿のなでしこの花盛りなり 手折りて一目見せむ子もがも

など、12首の撫子の和歌を万葉集に載せている。なお、撫子の語源は「撫でし子」にあると言われ、和歌も「撫でし子」に掛けて愛おしい者を歌うことが多い。
源氏物語の第二十六帖「常夏」には、

なでしこのとこなつかしき色を見ば もとの垣根を人や尋ねむ

の和歌があり、ここから巻名が取られている。

俳諧歳時記栞草(1851年)では、「瞿麦(なでしこ)」として夏之部五月に分類され、「草花譜」の引用で「単弁なるものを石竹(せきちく)と名づく。千弁なるものを洛陽花(らくやうくわ)と名づく…」とある。また、「剪紅紗(のうぜん)に似たるものを瞿麦とし、切又なきものを石竹とす…」ともある。石竹は中国由来のセキチクのことで、現代でも夏の季語として扱われるが、この当時、「撫子」との明確な区分はなされていない。江戸時代にもナデシコの夏秋問題は論議されてきたが、書物により見解は異なり、定位置を得ることはなかった。
近代に入っても、俳諧歳時記(新潮社1951年)など「撫子」を夏に分類する歳時記は残るが、江戸時代に開発されたトコナツが園芸ブームの煽りを受けて「常夏」として定着したことから、秋の七草に数え上げられる「撫子」は秋の季語にほぼ定着している。

【撫子の俳句】

かさねとは八重撫子の名成べし  河合曾良
露の世や露のなでしこ小なでしこ  小林一茶

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▶ 俳句の季節「大和撫子の季節」

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季語|鳳仙花(ほうせんか)

初秋の季語 鳳仙花

爪紅(つまくれない・つまぐれ・つまべに・つまくれ)

鳳仙花ツリフネソウ科ツリフネソウ属ホウセンカは、東南アジア原産の一年草。6月から9月頃、赤を中心に白やピンクなどの花を咲かせ、二週間くらいたって実が熟すと、触るだけで種が弾けて飛び散る。
女児が爪を染めて遊んだため、「爪紅」とも呼ばれる。沖縄民謡の「てんさぐの花」は鳳仙花のことであり、一番の歌詞は「てんさぐぬ花やちみさちにすみち親ぬゆうしぐとぅやちむにすうみり」であるが、「鳳仙花は爪先に染めて親の教訓は心に染みる」という意味である。

中国で、この花を鳳凰に見立てたため「鳳仙花」の名がつき、日本ではそれを音読みする。室町時代後期の「仙伝抄」に載ることから、16世紀以前に渡来してきたものと考えられている。

【鳳仙花の俳句】

暴れ空の暮れゐて赤し鳳仙花  富田木歩

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季語|このしろ

初秋の季語 このしろ

このしろの俳句と季語ニシン目ニシン科 コノシロ属コノシロ。東北以南の内湾などに、群れで定住しており、汽水域にも進入する。寿命は約3年で、成長とともに名前が変わる出世魚であり、「シンコ」⇒「コハダ」⇒「ナカズミ」⇒「コノシロ」となる。
光ものの代表として酢締めにすることが多く、秋祭で広くふるまわれることから、「このしろ」には「鰶」の字が当てられる。また、冬場に脂が乗って旨くなることから「鮗」の国字も用いられる。ただし、骨が邪魔になるため、あまり大きいものは好まれず、「新子(しんこ)」「小鰭(こはだ)」で目にすることが多い。

古くは「ツナシ」と呼んでおり、万葉集では大伴家持の長歌に「都奈之」として登場する。
「このしろ」の名が定着したのは戦国時代であり、大量に獲れたために、飯の代わりという意から「飯代魚(このしろ)」と呼ばれた。武士は、腹開きにすることから「腹切魚」と呼び、「この城」に通じることからも、食べるのを避けた。
また、焼くと人体が焦げるような匂いがすると言われ、子の身代わりであるとの信仰が生まれ、そこから「子の代」と呼ばれるようになったという説もある。

【このしろの俳句】

鍛治の火に鰶焼くと見て過ぎつ  山口誓子

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季語|女郎花(おみなえし)

初秋の季語 女郎花

をみなめし

女郎花の俳句と季語(十二月ノ内葉月つき見) マツムシソウ目オミナエシ科オミナエシ属の多年生植物。沖縄以外の日本全土に分布し、日当たりの良い草地に自生している。8月から10月にかけて、数ミリの黄色い合弁花を多数つけるところから、「粟花(あわばな)」とも呼ばれる。秋の七草に数え上げられる。
姿が似ている植物に、白い花を咲かせる男郎花(おとこえし)があり、これに対応させて「女郎花」と呼ばれるようになったとされる。古くは万葉集にも歌われ、14首が知られる。中臣女郎が

をみなへし佐紀沢に生ふる花かつみ かつても知らぬ恋もするかも

と歌ったのをはじめ、「佐紀」に掛かる枕詞となる。
俳諧歳時記栞草(1851年)には秋之部七月に「女郎花(をみなへし)・荼花(をとこへし)」として立項されており、「此花を女子の艶姿にたとへて読こと、歌・俳諧ともに同じ」とある。

根は生薬となり「敗醤根」と呼ばれる。花が萎れると腐った醤油のような臭いを発するところから「敗醤(はいじょう)」とも呼ばれるが、これは本来は「男郎花」の呼び名であった。

【女郎花の俳句】

我ものに手折れば淋し女郎花  大島蓼太
女の香放ちてその名をみなへし  稲垣きくの

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季語|轡虫(くつわむし)

初秋の季語 轡虫

がちやがちや

轡虫の俳句と季語直翅目バッタ目キリギリス科の昆虫。別名に管巻(くだまき)。本州から九州に生息する、国内最大種のバッタ。夜行性で、葛の葉を好んで食す。
雄は、7月下旬から10月にかけて「ガチャガチャ」と鳴く。馬のくつわの音に似た鳴き声を持つことから、「くつわむし」という。またそれを「ガチャガチャ」と聞きなして、「がちやがちや」ともいう。

【轡虫の俳句】

森を出て会ふ灯はまぶしくつわ虫  石田波郷

【轡虫の鳴き声】
本州・四国・九州に分布し、7月下旬から10月にかけて鳴き声を聞くことが出来る。その鳴き声は、「がちゃがちゃ」と聞きなす。(YouTube 動画)

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季語|桔梗(ききょう)

初秋の季語 桔梗

桔梗の俳句と季語(東京広尾原桔梗)キキョウ科の多年生草本植物で、日本全土に自生するが、自生株は絶滅危惧種に指定されている。秋の七草のひとつ。
6月中旬から9月にかけて花をつけ、その花は「桔梗」で秋の季語となる。花は青紫のものが普通であるが、白や桃色のものもある。つぼみが風船のように見えるため、イギリスでは「balloon flower」と呼ばれる。
根にはサポニンが多く含まれ生薬となり、鎮咳・去痰・排膿作用がある。

古くから和歌に歌われてきた花であり、万葉集にも5首あるが、いずれも「あさがお」として載る。これは、作者不詳で載る

朝顔は朝露負ひて咲くといへど 夕影にこそ咲きまさりけり

に歌われるように、朝だけでなく夕方にも咲いていること、現代に言う「朝顔」が、奈良時代末期に渡来したものと考えられていることからの通説である。
「ききょう」の名は、薬草としての漢名である「桔梗(きちこう)」からの転化である。
桔梗の花をモチーフにした「桔梗紋」は、明智光秀が用いていたことで有名である。安倍晴明が使用した五芒星は、桔梗印と呼ぶ。

【桔梗の俳句】

かたまりて咲きて桔梗の淋しさよ  久保田万太郎

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季語|きりぎりす

初秋の季語 きりぎりす

螽斯(きりぎりす・しゅうし)ぎす

きりぎりすの俳句と季語バッタ目キリギリス科キリギリス属に分類される昆虫。本州から九州に分布し、主に東日本に生息するヒガシキリギリスと、西日本に生息するニシキリギリスに分かれる。春に孵化した幼虫は、花粉などを食して成長するが、大きくなると昆虫などを捕食するようになる。
晩夏から初秋にかけての昼間、オスは草むらで前翅をこすり合わせて鳴く。その鳴き声は「チョンギス」と聞きなし、そこから「ぎす」とも呼ばれ、キリギリスの語源になったと言われている。
しかし、江戸時代まではコオロギとの混同が度々発生。新古今集に載る後京極摂政前太政大臣の歌

きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに 衣かたしきひとりかも寝む

は、コオロギの事を歌っているというのが通説になっており、江戸時代の俳諧歳時記栞草の「蟋蟀」の項でもこれを「きりぎりす」と読ませ、コオロギの説明がなされている。有名な芭蕉句「むざんやな甲の下のきりぎりす」も、コオロギの事だと考えられている。

古くは、その鳴き声が機織機の音に似ていることから、「機織(はたおり)」と呼ばれており、拾遺和歌集の紀貫之に

秋くれば機織る虫のあるなべに 唐錦にも見ゆる野辺かな

の和歌もある。
俳諧歳時記栞草には「絡線虫(はたおり」とあり、七月に分類。「六月の内より鳴初て、七月中ごろまで、野叢の中、昼盛に鳴く。其声ギイゝスといふが如し。一二声の内にチョンと舌打す。俗、是を蛩(きりぎりす)と云て、小籠に入て市に売て小児の翫(もてあそび)とす。その形いなごに似て大なり、是はたおり也。ギイゝといふは機躡(まねき)の音、チョンは筬(おさ)打音なり。又ギスともいへり。」とある。

平安時代の「堤中納言物語」の中の「虫めづる姫君」は、昆虫を飼う風変わりな姫君を描いた短編であるが、その中に「はたおりめ(きりぎりす)」の小袿を着ているとある。
世界的には、イソップの物語の「アリとキリギリス」が知られており、この物語のように、きりぎりすは冬になる前に死滅する。

▶ 関連季語 蟋蟀(秋)

【きりぎりすの俳句】

むざんやな甲の下のきりぎりす  松尾芭蕉

【きりぎりすの鳴き声】
バッタ目キリギリス科キリギリス属。オスのみが前翅をこすり合わせて鳴く。チョンギスと聞きなす。(YouTube 動画)

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