三春の季語 鮠
コイ科の淡水魚の内、中型で細長い体型を持つものの総称で、ウグイやオイカワ・カワムツなどを指す。柳の葉に似ていることから、柳鮠とも呼ぶ。晩春に繁殖期を迎える。
食材として利用されることは少ないが、中部地方などでは郷土料理となっているところもある。旬は冬から春にかけてである。
干潮時に遠浅の砂浜で貝などを採取すること。アサリやハマグリが主な対象となる。「汐干」は干潮を指す言葉であるが、「潮干狩」のことをも指す。
水が温み始める春から夏にかけてがシーズンであるが、旧暦三月の大潮は、干潟が広くなるため、広範囲に潮干狩りを楽しむことができる。沖縄では旧暦3月3日を浜降り(はまうり)と呼び、主に女性が御馳走を持って浜辺に降り、潮干狩などを楽しむ。蛇(アカマタ)の子を身ごもった娘が、3月3日に海の砂を踏んで下ろして事なきを得た「アカマタ聟入」という昔話が由来となっている。
俳諧歳時記栞草(1851年)では、「潮干(しほひ)」として春之部三月に分類し、三月三日の住吉の祭について触れてある。
茶摘女(ちゃつみめ)・茶摘歌(ちゃつみうた)・茶山(ちゃやま)・一番茶(いちばんちゃ)・茶摘時(ちゃつみどき)
茶は4月上旬から新芽を出す。その年の最初の新芽を摘み取ったものが一番茶と呼ばれ、それ以降、摘み取った順番に応じて二番茶、三番茶となる。
一番茶は4月下旬から5月上旬、二番茶は一番茶収穫後50日くらい経過したものである。立春を起算日として88日目となる「八十八夜」は「新茶の日」となっているが、この日に摘まれた茶は縁起物となる。
因みに、俳句では「一番茶」「茶山」は茶摘みを指すことが多い。「新茶」とすれば、その年最初に摘み取った茶そのものを指し、市場に流通し始める夏の季語となる。
「夏も近づく」の歌い出しで知られる「茶摘み」は文部省唱歌となっており、明治時代から歌われている。
ウコギ科タラノキ属の多年草。日本原産で、山野に自生するほか栽培もされている。若葉や茎は、山菜として食される。野生種のものを「山独活」と呼ぶこともある。
茎が中空であるところに、「うど」の語源があると言われている。「独活の大木」という諺は、樹木のように成長するものの、茎が中空で使い物にならないところからきている。
「独活」と呼べば、主に山菜となる若葉などを指し、春の季語となるが、夏には「独活の花」、秋には「独活の実」が季語となる。また、早く芽吹くものは「寒独活」として冬の季語にもなる。
アブラナ科ワサビ属ワサビは、日本原産の植物で水がきれいな渓流や湿地に生育する。強い刺激性のある根茎や葉が、薬味や調味料となる。
育てる場所によって、水栽培で育てられる水山葵(谷山葵・沢山葵)と、畑で育てられる畑山葵(陸山葵)がある。水山葵は根茎が肥大するが、畑山葵は肥大があまりないために、葉山葵として収穫される。水栽培では、年間の水温差が少ないほど収量が増えるため、水が流れやすい斜面での生産となる。
伊豆や安曇野は有名な産地となっており、静岡市葵区の佛谷山の野生種を、江戸時代の初めに近くの湧水源に植え変えたことが、山葵栽培の始まりだとされる。日本では古くから食されており、飛鳥時代の木簡にもその名が見られる。
収穫は年中可能であるが、6月から7月がピークとなる。俳諧歳時記栞草(1851年)では春之部に分類されている。「和漢三才図会」の引用で、「二月種を下して、三四月苗を生ず」とある。
銭葵の葉に似ていることから山葵(やまあおい)の名がつけられ、沢に生えていることから沢葵とも呼ばれた。この「さわあおい」が短縮され「さわひ」となり、転訛して「わさび」になったとの語源説がある。
スズメ目ホオジロ科ホオジロ属ホオジロ。東アジアに広く分布し、日本では北海道から屋久島まで見られ、北海道では夏鳥として、本州以南では留鳥として見られる。平地や丘陵地で観察され、小さな群れで行動する雑食性の鳥である。
4月から7月が繁殖期となり、晩春にオスはよく囀る。地鳴きは「チチッ チチッ」といったものであるが、その囀りは「一筆啓上仕候(いっぴつけいじょうつかまつりそうろう)」「源平つつじ白つつじ」などと聞きなす。
「ほおじろ」の名は、頬が白いところからきている。「鵐」とも書き、「しとど」ともいう。日本書紀天武天皇9年の3月10日に摂津国から白巫鳥が貢れているが、「巫鳥」に「芝苔苔(しとと)」の音が当てられており、アオジかホオジロが白化したものではないかと言われている。
お玉杓子(おたまじゃくし)・蛙子(かえるご)・蛙の子(かえるのこ)
蛙の幼生の総称。水田や池などの淡水域に年中見られるものではあるが、稲作との関係で春に目にすることが多い。
親であるカエルは肺呼吸をするが、オタマジャクシは鰓呼吸をする。孵化したばかりのものは胴部と尾部のみで構成されているが、やがて後肢が出て、遅れて前肢が出る。最後に尾が胴部に吸収されて、成体となる。種類によってはオタマジャクシの形で数年を過ごすものもあるが、ニホンアマガエルのオタマジャクシ期間は約1カ月であり、藻類などを食べて生活している。
「蝌蚪」は中国名に由来しており、「お玉杓子」は多賀大社の「お多賀杓子」に形が似ているところからきた呼び名だと考えられている。
童謡に「お玉じゃくしは蛙の子」がある。また、音符をオタマジャクシと呼ぶなど、日本人にとって蛙の子は身近なものである。
ナス科クコ属の落葉低木。東アジア原産で、全国の日当たりのよい土手などの平地に自生する。
夏から秋にかけて紫色の花をつけ、秋に採れる実は枸杞酒やドライフルーツなどになる。枸杞が春の季語になるのは、若芽を摘んで和え物やお浸しなどにして食すからである。
紙鳶(いか・いかのぼり・しえん)・凧揚げ(たこあげ)・凧合戦(たこがっせん)・連凧(れんだこ)・奴凧(やっこだこ)・カイト(かいと)
凧揚げは正月の風物詩となっている地方が多いが、端午の節句の行事となっているところもある。長崎のハタ揚げなど、春の行事として定着している地方も多い。なお、正月の凧は武者凧などとして、新春の季語に分類される。
中国で軍事目的に利用されていたものが伝わり、「和名類聚抄」(931年~938年)には「紙鳶」「紙老鳶(しろうし)」として登場するが、春の季語となったのは、「はなひ草」(立圃1636年)あたりからだと考えられている。
江戸時代には大凧合戦が日本各地で行われるようになり、喧嘩や農作物被害なども増え、禁止令が出ることがあった。明暦元年(1655年)の禁止令では、それまで「いか」と呼んでいたものを「たこ」と呼びかえて抵抗したという話も伝わる。