刈萱の共乱れして枯れ急ぐ 牛島滕六 季
荻の風潮満ちてより静まりぬ 北野光 季
数珠玉の夕べかゞやき降り出す 吉田鶴生 季
会津女の言葉聞き分け懸煙草 京極杜藻 季
一としきり苛つ西日や掛莨 岩崎霞渓 季
吾亦紅さし出て花のつもりかな 小林一茶 季
萱の穂に夕日っふれては燃えにける 和田朴人 季
山里や草を刈らずて萱を刈る 佐藤紅緑 季
そこに咲く秋蘭猫のかへり見る 及川あまき 季
団洲の似顔愛づるや菊細工 正岡子規 季
妹が宿菊の枕をつくりけり 松瀬青々 季
賞多き菊花展にて疲れたり 右城暮石 季
残菊のはなればなれに日を得たり 池上浩山人 季
晩菊を咲かせ湖底に沈む家 斎藤忠正 季
しののめや雲見えなくに蓼の雨 与謝蕪村 季
秋茄子日ざしは道にあふれゐて 塩尻青笳 季
冬瓜の露をはじきて白さかな 榎本野影 季
月出でて明るくなりし瓢かな 山根茨雲洞 季
馬鹿晴れや不作陸穂が刈りはかどる 米田一穂 季
奥出羽のよき日の入りや稲の秋 名和三幹竹 季
早稲晴れの雪少しおく大嶺かな 石原舟月 季
奥能登や雲尻ひくゝ深田刈る 高井北杜 季
陸稲刈る音の激しや火山灰の中 中条明 季
山川の淋しき国や晩稲刈 村山古郷 季
稲扱機からから踏みて夕焼けぬ 佐坂鳴渦 季
とほき田の一脱穀音聞き病めり 河野緋佐子 季
籾すりや暮れて灯さぬ家の奥 籾山梓月 季
籾を干す庭の朝日に籾匂ふ 山田碧江 季
海かけて天むらさきや籾筵 中島斌雄 季
落ち穂拾ひ日あたる方へあゆみ行く 与謝蕪村 季
豊かなる年の落穂を祝ひけり 河東碧梧桐 季
秋草にまじりて高し花茗荷 前田普羅 季
秋茗荷ざくざく刻むいさぎよし 山口青邨 季
つぎつぎと茗荷の花の出て白き 高野素十 季
穂の出来ていよゝさみしき穭かな 原石鼎 季
甘藷配つ街裏大河流れたり 中島斌雄 季
ずゐき食ふのみ薩摩言葉に取巻かれ 本宮銑太郎 季
薯蕷掘つて入日に土の香の寒し 高田蝶衣 季
とろろ薯摺る音夫にきこえよと 山口波津女 季
ほころびの出来ゆく垣のむかごかな 阿波野青畝 季
落莫と零余子ころげぬ懐に 富永寒四郎 季
海女経て嫗まるきたち居で大豆干す 平井さち子 季
恵那山の晴れつつ晴れず小豆干す 木谷島夫 季
雲ひくく垂れていんげん実となりぬ 伊藤黄雀 季
故郷や道狭うして粟垂るゝ 正岡子規 季
藤豆は垂れ卓上にインキ壷 清水はじめ 季
なた豆の曲り下りて風が吹く 藤崎一籠 季
鉈豆の鋭きそりに澄む日かな 川端茅舎 季
南京豆しびりきらして夜毎むく 町田勝彦 季
なんばんの葉は時化空へ吹きしぼる 長谷川素逝 季
高粱熟るるけふの入日も車窓より 皆吉爽雨 季
空ふかみ野稗の垂穂くづるゝよ 小松崎爽青 季
むべの実のいろづく日向人の門 山田碧江 季
亀甲の粒ぎつしりと黒葡萄 川端茅舎 季
山ぶだう川へ下りゆく話声 斎藤優二郎 季
蘡薁のここだく踏まれ荼毘の径 飯田蛇笏 季
あまたるき口を開いて茘枝かな 皿井旭川 季
おだやかに戻る暑さや稲の花 木下夕爾 季
君か代や五尺の稻の花盛 正岡子規 季
稲の花吸はぬを蝶の艶かな 池西言水 季
いたゞきはまだ咲きやまず胡麻実る 森水仙 季
紫蘇の実の草にまぎるゝ狭庭かな 富安風生 季
末広に小束ねしたる生姜かな 倉田萩郎 季
薑や雨の音得し夕餉膳 磯部尺山子 季
つまみなや人それぞれの暮しむき 三宅応人 季
妻の病む戸を繰り木賊ひた青し 井上光樹 季
蓼科は秋の山なり木賊刈る 正木不如丘 季
水の面にとまれる蘆の穂絮かな 田中菊坡 季
枯れ果てしものの中なる藤袴 高浜虚子 季
藤袴とてそだて来し蕾もつ 山口青邨 季
真菰の穂水にひゞきて抜けにけり 山本京童 季
径ほとり高嶺いたゞき菌売る 佐藤浩悠 季
毒茸を手にし昼月真上なり 桑尾黒潮子 季
案内の宿に長居や菌狩 高浜虚子 季
茸狩の尾根みちへ出て戻るなり 高浜年尾 季
初茸や秋すさまじき浅茅原 籾山梓月 季
塗盆に千本しめじにぎはしや 島田的浦 季
ふなべりに得し菱の実を並べつゝ 星野立子 季
蓮の実飛ぶ己が作りし己が運 小坂順子 季
秋の芝学童同じ画をゑがく 木賀秋泉 季
七草に入らぬあはれや男郎花 正岡子規 季
暁やしらむといへば男郎花 松根東洋城 季
三冬や身に古る衣のひとかさね 西島麦南 季
冬浅し鳥居のかげを芝に踏む 永尾宋斤 季
冬めくや引き捨てて積む葡萄蔓 伊東月草 季
冬暁けの岩に對ひて人彳てり 石橋辰之助 季
箕こぼれを拾ひ残す鶏冬夕べ 高田蝶衣 季
蝶の来し附木干場や冬うらゝ 高山渓村 季
中庭に雨を集めて秋海棠 山口青邨 季
妹が庭や秋海棠とおしろいと 正岡子規 季
病める手の爪美しや秋海棠 杉田久女 季
断腸花泪なければ詩もなし 深谷雄大 季
秋海棠西瓜の色に咲きにけり 松尾芭蕉 季
凍傷になやみ学問怠れる 新田郊春 季
冬暖と海辺の友に書きおくる 大野林火 季
冬ぬくし時計とまらぬほどの地震 小野喃枝 季
冬至湯の煙あがるや家の内 前田普羅 季
海苔買ふや年内二十日あますのみ 田中午次郎 季
訪ひそびれしてゐしことも年の内 田崎文三 季
歳晩の月の明さを身にまとひ 中村汀女 季
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