秋雨の途切れ途切れに一と日かな 岩田由美 季秋霖に濡れて文字なき手紙かな 折笠美秋 季舟板でつくる小家や鰯雲 佐怒賀正美 季安房に津のつく駅いくつ鰯雲 大屋達治 季山国の天に波音いわし雲 渡辺恭子 季まぐはひや露びつしりと家囲む 糸大八 季露の中日当りそめし藁屋かな 轡田進 季露けしや妻が着てゐる母のもの 細川加賀 季霧黄なる市に動くや影法師 夏目漱石 季落葉松は霧を淋しと立ち揃ふ 富安風生 季鐘ついて十万億土霧うごく 福永法弘 季国引の出雲の空のいなつるび 深谷雄大 季梳く髪の絡みからみて稲びかり 鷲谷七菜子 季役者絵のすなはち寄り目いなびかり 斎藤梅子 季芋嵐縁側すこし濡れてをり 武藤尚樹 季吹き渡る葛の嵐の山幾重 松本たかし 季彼も亦無名期ながし黍嵐 能村登四郎 季日陰ればたちまち遠き花野かな 相馬遷子 季一水のまぎれず響き花野かな 岡田日郎 季先頭は誰とも知れず花野径 高浜礼子 季肩ならべあひ秋嶺を讃へあふ 和田耕三郎 季つまづきし石の響や秋の山 吉川英治 季寂莫と滝かけて山粧へり 永作火童 季仰むけに流れて秋の大河かな 平井照敏 季稔田や窓に湯治の裸見え 辻桃子 季秋の荒田の石ひとまとめふたまとめ 三橋敏雄 季万葉の秋の田の歌恋のうた 筑紫磐井 季穭田の枯れに入りつつあるところ 石田勝彦 季いちまいの刈田となりてただ日なた 長谷川素逝 季木曾谷の刈田をわたるひざしかな 加藤楸邨 季初潮や人は人産む月あかり 中西夕紀 季かはらけのこころに与謝は秋の海 鈴木太郎 季足跡を消したがりては秋の波 黛まどか 季幾重にも水の流れて秋の川 吉原一暁 季流れよる枕わびしや秋出水 武原はん 季蟷螂の如き裸婦見て二科を出づ 山口青邨 季点呼して学生の入る美術展 椙本千代 季院展の古径の画へと急ぎける 高浜虚子 季運動会少女の腿の百聖し 秋元不死男 季運動会午後へ白線引き直す 西村和子 季運動会庭の平を天に向け 山口誓子 季にはとりのほつつき歩く盆休み 藤井亘 季恪勤の父おくり出す盆休み 高橋悦男 季竹林の奥あかるくて盆休 古賀まり子 季水澄むや物皆古き法隆寺 岸本尚毅 季水澄むと寺の大きな木魚かな 早川志津子 季水澄みて金閣の金さしにけり 阿波野青畝 季銭洗ひ弁財天の水も秋 佐藤和枝 季火美し酒美しやあたためむ 山口青邨 季酒を温めて中堅社員たり 後藤比奈夫 季老兄にあるは菊酒ぬくめ酒 きくちつねこ 季岩塩のくれなゐを舐め古酒を舐め 日原傳 季とつくんのあととくとくと今年酒 鷹羽狩行 季ふるさとは遠きほどよし濁り酒 林翔 季灯に遠き席から埋まり夜学生 今瀬剛一 季夜学の灯消して俄にひとりなる 松倉久悟 季女教師の声ひびける夜学かな 加藤一蝶 季家中の頃合を見て夜食出す 成田清子 季所望して小さきむすび夜食とる 星野立子 季和尚とて生ま身夜食のつまみ食ひ 服部海童 季新米の袋の口をのぞきけり 綾部仁喜 季新米といふよろこびのかすかなり 飯田龍太 季担がれて袋くびれし今年米 高木すみれ 季むらさきや黄色や山の茸飯 滝沢伊代次 季亡き母の分のみ残り茸飯 古賀まり子 季ほんたうは松茸御飯炊いてをり 筑紫磐井 季栗飯を長く噛みゐて睡くなる 皆川白陀 季栗飯を子が食ひ散らす散らさせよ 石川桂郎 季産土神に栗飯供へありにけり 渡辺大年 季野の香りこぼし栗飯炊きあがる 山田紀子 季枝豆を真青に茹でて一人とは 梶山千鶴子 季枝豆や詩酒生涯は我になし 木下夕爾 季青茹での枝豆かへらざる齢 榎本冬一郎 季大寒の一戸もかくれなき故郷 飯田龍太 季新蕎麦や一雨ありし山のいろ 庄嶋里子 季新蕎麦と言はせて褒める江戸の粋 筑紫磐井 季新蕎麦や改築をして古暖簾 高橋悦男 季新蕎麦を打つ全身を弾ませて 上村元一 季六兵衛の皿に盛られて衣被 青柳照葉 季衣被つるりと秋田美人かな 遠藤若狭男 季衣被しばらく湯気をあげにけり 八木林之助 季ばさと落ちはらはらと降り松手入 片山由美子 季家康の城を遠目に松手入 角川春樹 季書斎より一こゑかけし松手入 小原啄葉 季まつくらな海がうしろに切子かな 草間時彦 季書きあげて膝を崩せば火の恋し 酒井絹代 季歩みとどめればたちまち火の恋し 檜紀代 季川の字に寝し子の嫁ぎ火の恋し 藤崎直秀 季灯籠にしばらくのこる匂ひかな 大野林火 季盆燈籠ともす一事に生き残る 角川照子 季五十八階全階の秋灯 辻桃子 季秋燈下文殊の知恵にひとり欠け 岬雪夫 季秋の灯の琅玕は色深めたり 藤木倶子 季秋団扇たまたまあれば使ひけり 成瀬櫻桃子 季秋扇しばらく使ひたたみけり 小林康治 季オペラ座の序曲始まる秋扇 赤尾恵以 季マンションの二枚の障子貼りにけり 山崎ひさを 季使ふ部屋使はざる部屋障子貼る 大橋敦子 季縦・横にかさばる障子洗ふ役 筑紫磐井 季風音に急かされてゐる冬支度 石丸泰子 季
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