喰積に眼を遊ばせてゐたるかな 松崎鉄之介 季喰積にあいその箸やすぐに置く 細川加賀 季杉箸ではさみし結昆布かな 松瀬青々 季二の重にへの字にはねて結昆布 藤田柊車 季ほぐれたる一つも結昆布かな 山崎ひさを 季子が次に箸だすものに結昆布 森澄雄 季巳の歳の巳年三人結び昆布 柴田一世 季数の子や一男一女大切に 安住敦 季数の子にいとけなき歯を鳴らしけり 田村木国 季歯ごたへも亦数の子の味とこそ 稲畑汀子 季今は亡き子よ嚙めば数の子音のして 加藤楸邨 季日本の家が寒くてごまめ曲る 辻田克巳 季ごまめ噛む歯のみ健やか幸とせむ 細川加賀 季どれもこれも目出度く曲るごまめかな 角川照子 季田作や河童に入歯なかるべし 秋元不死男 季草石蚕といふ夕あかりたまひけり 岡井省二 季をかしくてちよろぎと三度言ひてみし 大石悦子 季めでたさはちよろぎの紅の縒れかな 梅村すみを 季ちよろぎてふをかしきものを寿げり 千葉仁 季年酒酌む大人のうしろにて遊ぶ 野村慧二 季馬に逢ひ年酒の酔の発しけり 秋元不死男 季農よりも漁のさみしさや年の酒 友岡子郷 季頷きて年初の礼や病夫婦 石田あき子 季靴大き若き賀客の来てゐたり 能村登四郎 季ややありて女のこゑや門礼者 岸田稚魚 季わかくさのいろも添へたり切山椒 久保田万太郎 季いつまでも老いぬあはれや切山椒 石田波郷 季つまみたる切山椒のへの字かな 行方克巳 季かみしめて切山椒の香ぞあまき 星野立子 季年玉や水引かけて山の芋 村上鬼城 季子宝に恵まれお年玉地獄 村松ひろし 季一重瞼二重瞼へお年玉 大澤ひろし 季初暦柱の傷も古りにけり 杉浦小冬 季初暦静かならざる日もあらむ 山田みづえ 季初暦めくれば月日流れそむ 五十嵐播水 季幸せの待ち居る如く初暦 稲畑汀子 季初日記書きたきことは他にありて 富安風生 季初日記一齟齬すでにありにけり 安住敦 季初日記充たすもの何欠くるは何 野澤節子 季志すこし述べたり初日記 下村非文 季初電話声もうららに癒えたまふ 古賀まり子 季取りつぎて声のはなやぐ初電話 井上美子 季初電話兄出て子が出てやつと母 徳富喜代子 季子の臀の肥ゆるばかりの初湯かな 杉山岳陽 季初湯出て青年母の鏡台に 三橋鷹女 季初湯出しししむら湯気をはなちけり 飯田蛇笏 季初刷のはやとぢてあるホテルかな 山口波津女 季鉄瓶の湯気ゆらぐ影初刷に 永井東門居 季初刷に厨のものは湯気立つる 中村汀女 季初刷や富士を二つに折りたゝみ 石原透 季初写真妻子をつつむさまに立つ 久保田博 季割烹着脱がず仕舞ひの初写真 早瀬千鶴子 季あららぎに日のなごみゐる初写真 木村蕪城 季分校の子ども九人の初写真 樋笠文 季太鼓橋われらが占拠初写真 山口青邨 季初便り友垣古りて美しき 渡辺みかげ 季初便り兄の字劃の固さかな 小野満里子 季初便り皆生きてゐてくれしかな 石塚友二 季母となる日の間近きを初便り 谷本恵美子 季初だよりかなしきことをさりげなく 西山誠 季ねこに来る賀状や猫のくすしより 久保より江 季賀状完配井戸から生きた水を呑む 磯貝碧蹄館 季賀状うづたかしかのひとよりは来ず 桂信子 季嵩なして男ざかりの年賀状 大島民郎 季皆羽織ぬげば春着や並びけり 星野立子 季膝に来て模様に満ちて春着の子 中村草田男 季教へ子に逢へば春着の匂ふなり 森田峠 季春著着て十人並の娘かな 中村七三郎 季揃へ切るみつば俎始かな 伊谷のり子 季俎始鯛が睨を効かせけり 鈴木真砂女 季鶏鳴のおこる俎始かな 池田秀水 季子にまとひつかれ包丁始かな 西宮舞 季名所や絹商人のきそ始 正岡子規 季衿合はす指のしなやか着衣始 渡辺四日女 季ゆつたりと着替人形着衣始 松村竹炉 季物堅く祇園に住むや著衣始 小沢碧童 季掃ぞめの箒や土になれ初む 高浜虚子 季掃初や山茶花の紅散り混じり 上田佳久子 季掃初の箒目強く氏神へ 天野和風 季初箒南天の木の根元より 坂間晴子 季初髪の妻のなかなか帰り来ず 桑島啓司 季初髪の眉にほやかに富士額 高橋淡路女 季初髪に吉兆小判しだれけり 平原哲雄 季初髪を結うて厨に居るばかり 浜井那美 季切手売る初髪の紅一点嬢 秋元不死男 季見飽きたる顔がありけり初鏡 新倉一光 季空容れて旅の乙女の初鏡 大串章 季初鏡娘のあとに妻坐る 日野草城 季初鏡一畳で足る妻の城 土生重次 季縫初の更紗奏づるごときかな 石崎径子 季縫初や小指ではじく絹小町 佐々木知子 季小鋏の小鈴鳴らして縫はじめ 池谷市江 季怠れど針は器用や縫始 富安風生 季初針の紅糸で綴づ糠袋 宮川杵名男 季読初の相聞訛る東歌 秋元不死男 季読初や滲みし父の蔵書印 山田六甲 季読初の死を賭す愛の物語 楠本憲吉 季読初の膝打ちてまた頷きて 庄中健吉 季書初に日がさしさつと書きむすぶ 山口波津女 季書初の墨痕あざやかなりし反古 遠藤若狭男 季
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