子は拾ひ母は唄ひてさくら貝 清水武子 季おなじ波ふたたびは来ず桜貝 木内怜子 季桜貝二枚の羽を合せけり 阿波野青畝 季ともしびにうすみどりなる春蚊かな 山口青邨 季春の蚊を叩きて力あまりけり 長谷川秋子 季春蚊鳴く耳のうしろの暗きより 小林康治 季蜂の尻ふはふはと針をさめけり 川端茅舎 季蜂の仔を喰ふにんげんに生まれけり 渡辺鮎太 季蜂飼ひの素手もて巣箱運びたる 小松市子 季虻生る烈風はたと絶えし昼 米谷静二 季大空に唸れる虻を探しけり 松本たかし 季種馬の尾さばき虻の近寄れず 宋岳人 季紋白蝶電車ゆがんで見えにけり 多田睦子 季指の先より眠くなる蝶の昼 田口紅子 季初蝶の指さす方へ方へとぶ 後藤秋邑 季松蝉の遠きは遠く鳴き揃ふ 玉井北男 季こころ澄む日のまれにして春の蝉 桂信子 季春の蝉帯のゆるみに鳴きこもる 三好潤子 季家深くゐて花時の素顔かな 長谷川双魚 季花筏置きざりに川流れゆく きくちつねこ 季さきみちてさくらあをざめゐたるかな 野澤節子 季本丸に立てば二の丸花の中 上村占魚 季吹雪くため咲きたる桜かと思ふ 堀井英子 季ゆく水といふもいそがず初桜 山﨑千枝子 季花の闇ひらくに銀の鍵使ふ 鳥居真里子 季がうがうと枝垂桜に音ありぬ 渡辺恭子 季実家には眠りに戻る花の雨 大島民郎 季うす味は湯葉のみならず花月夜 笠間文子 季天鵞絨のごとき夜が来る沈丁花 戸川稲村 季沈丁に更けたる門をかたく閉づ 島村茂雄 季沈丁の坂開港のむかしより 宮津昭彦 季人の死は讃ふことのみ花こぶし 高瀬哲夫 季一弁のはらりと解けし辛夷かな 富安風生 季紅梅や病臥に果つる二十代 古賀まり子 季白梅や父に未完の日暮あり 櫂未知子 季百歳を越える酒蔵梅ひらく 手塚美佐 季椿落つ樹下に余白のまだありて 神蔵器 季落椿ふむ外はなき径かな 富安風生 季どの椿にも日のくれの風こもる 飴山實 季元日や一系の天子不二の山 内藤鳴雪 季四十五歳の夢をさまして初日の出 内藤鳴雪 季只たのむ湯婆一つの寒さかな 内藤鳴雪 季夏みかん酸っぱしいまさら純潔など 鈴木しづ子 季リラほつほつソフイに十日ほど逢はぬ 小池文子 季黄昏の長き野の家リラの花 鈴木麻璃子 季ぷつつりと切る髪リラの花匂ふ 川口文子 季白つつじこころのいたむことばかり 安住敦 季曲り来て不意の明るさ山つつじ 八田八重子 季妙見岳雲はれ躑躅咲きのぼる 水原秋桜子 季仏にはほとけの薇笑あしび咲く 飯野定子 季馬酔木咲く頃より疎遠はじまれり 伊藤淳子 季花ぶさの雨となりたる馬酔木かな 大谷碧雲居 季連翹のひかりに遠く喪服干す 鷲谷七菜子 季連翹の花なき枝も垂れにけり 大橋越央子 季一わたり揺れて連翹もとの黄に 浜口今夜 季一重こそよし山吹もまなぶたも 永島靖子 季池濁るほとり山吹あかりかな 阿部とみ子 季残月の白山吹をさびしめり 北珠江 季少年のまばたきぐせや小米花 堀尾敏子 季藤揺るるたえず翅音のつきまとひ 中路良一 季藤ゆたか幹の蛇身を隠しゐて 鍵和田秞子 季藤浪の紫に日のとどまれり 大野一有 季木蓮に漆のごとき夜空かな 三宅清三郎 季撃たれたるごと白木蓮の散りたるは 岩津厚子 季白木蓮の咲き初めし闇うつくしき 佐藤太望 季花こぼし花屋の朝の雪柳 菊池麻風 季雪やなぎ雪のかろさに咲き充てり 上村占魚 季だまされてをればたのしき木瓜の花 加藤楸邨 季降りつつむ雨の明るし更紗木瓜 水原秋桜子 季木瓜の朱の少しみだらに咲き満てり 竹中多恵子 季村ぢゆうが明るくなりぬ花林檎 橋本末子 季雨あとの月の出しるき花林檎 吉田敏夫 季娘よりきれいな母や花りんご 清水基吉 季安達太郎の雪もはなびら梨咲けり 堀口星眠 季青天や白き五弁の梨の花 原石鼎 季梨花月夜まよはずとどく汽笛あり 木附沢麦青 季花杏遠きまなこをもちつづけ 小林康治 季花杏夜も真白き伊豆へ来ぬ 福田蓼汀 季母死後の目に一杯や花杏 岸田稚魚 季手話の愛は胸に手を置く桃の花 鈴木鷹夫 季桃の花空の重たき日なりけり 鈴木真砂女 季桃咲いてさびしくなりぬ家の中 平川光子 季爪深く立てても女夏みかん 藤田津義子 季読みかけの書に夏蜜柑酸とばす 津田清子 季眉に力あつめて剥けり夏蜜柑 八木林之助 季ひこばえや死にかかはりし五十日 松阪沙智子 季蘖や親子の声を聞き違ふ 森充子 季ひこばえや鉄の打たるる匂ひして 清水文栄 季夕刊をとりて山椒の芽をとりて 高野冨士子 季そこまではなんにもなくて芽吹山 多田薙石 季ひた急ぐ犬に会ひけり木の芽道 中村草田男 季手のひらにいたゞく春の光可南 柳原極堂 季感無量まだ生きて居て子規祭る 柳原極堂 季化けて来し狸と秋を語りけ里 柳原極堂 季チューリップ喜びだけを持つてゐる 細見綾子 季チューリップ影もつくらず開きけり 長谷川かな女 季チューリップ花びら外れかけてをり 波多野爽波 季黄水仙空より船のうかみ出て 水沼三郎 季わがままのとほるさびしさ黄水仙 宮澤映子 季風垣にあがる怒濤や黄水仙 佐藤瑠璃 季
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