姉棄てて弟泳ぐ土用波 坪内稔典 季夏白波つらねつらねて九十九里 山下知津子 季そらす背に夏の怒濤を聴きにけり 仙田洋子 季クレーンの恐竜めくや夏の海 森田純一郎 季ちからなや膝をかゝへて冬籠り 志太野坡 季しばらくは職なき衣更へにけり 鈴木真砂女 季更衣母に叱られたき日なり 藤木倶子 季深海の色を選びぬ更衣 柴田白葉女 季歳々に変はるをんなと夏ごろも 筑紫磐井 季いつまでを青年といふ夏衣 高橋悦男 季生き堪へて身に沁むばかり藍浴衣 橋本多佳子 季浴衣着て少女の乳房高からず 高浜虚子 季人酔うて浴衣いよいよ白妙に 日野草城 季白絣をとこざかりの父を知らず 青樹今日子 季白地着てこの郷愁の何処よりぞ 加藤楸邨 季白地着て問ひに応ふるこころなし ながさく清江 季白服を置くあけぼのの操舵室 岸原清行 季水着着て肘のほか掴む処なし 中根美保 季すれちがふ水着少女に樹の匂ひ 加藤楸邨 季父母に叱られさうな水着買ふ 後藤比奈夫 季逢ひに行く開襟の背に風溜めて 草間時彦 季夏休み犬のことばがわかりきぬ 平井照敏 季黒板にわが文字のこす夏休み 福永耕二 季ブラックバス釣る少年の夏休み 阪本萩生 季帰省子に父の医学の古びたり 五十嵐播水 季桑の葉の照るに堪へゆく帰省かな 水原秋桜子 季果樹の幹苔厚かりし帰省かな 中村草田男 季滴りを水の鎖と見てゐたり 上田日差子 季山中に暦日はなし滴れる 渡辺抱朴子 季つく息のわづかにおくれ滴れり 後藤夜半 季散り際は風もたのまずけしの花 宝井其角 季越後寺泊良寛のちまき食ぶ 村上冬燕 季粽解く楽しさ指の先までも 田村恵子 季くるくると粽を解くは結ふに似て 加藤三七子 季太郎より次郎たくまし柏餅 池田泰子 季過ぎし日のしんかんとあり麦藁帽 中山純子 季校門を出て校長のサングラス 小林呼渓 季心隠しおほせて淋しサングラス 西村和子 季強がりの淋しがりやのサングラス 金堂豊子 季別なひとみてゐる彼のサングラス 黛まどか 季校長の机の上の夏帽子 岩田由美 季夏帽子海を見にゆくつもりなり 石田郷子 季白靴に明月院の泥すこし 大屋達治 季白靴の汚れが見ゆる疲かな 青木月斗 季白靴に生家の土間の暗かりし 深江てる子 季客いとふ妻がそぶりのビールかな 久米三汀 季ビヤホール背後に人の増えきたり 八木林之助 季浅草の暮れかかりたるビールかな 石田郷子 季夏料理火の立つものの運ばれし 小原啄葉 季鮮やかな竹の切口夏料理 小野泠 季美しき緑走れり夏料理 星野立子 季雨ごもり筍飯を夜は炊けよ 水原秋桜子 季長崎も丸山にゐて豆御飯 有馬朗人 季豆飯の匂ひみなぎり来て炊くる 稲畑汀子 季梅干してきらきらきらと千曲川 森澄雄 季梅を干す真昼小さな母の音 飯田龍太 季動くたび干梅匂ふ夜の家 鈴木六林男 季一粒の真珠ころがる夏座敷 原裕 季潮騒やひとりに広き夏座敷 藤原照子 季風神の絵襖開く夏座敷 有馬朗人 季噴水の影ある白き椅子ひとつ 木下夕爾 季噴水の砕けて星に届かざる 五島高資 季噴水に光と風の集まれり 大橋敦子 季シャツ汚す土用鰻の飯こぼし 田口武司 季土用鰻食して明日は山へ行く 角川照子 季家長われ土用鰻の折提げて 山崎ひさを 季ところてん煙のごとく沈みをり 日野草城 季心太すすり頼りのなき話 星紫陽子 季父と子の夢食ひ違ふ心太 高橋悦男 季麦湯煮て母訪はぬ悔かさねをり 小林康治 季吾子の鼻大き麦湯のコップ透き 志城柏 季往診医喉を鳴らして麦茶飲む 芳賀昭子 季どちらかと云へば麦茶の有難く 稲畑汀子 季新茶汲みたやすく母を喜ばす 殿村菟絲子 季便りより先きに厚意の新茶着く 貞弘衛 季古茶をのむ人むつかしき好き嫌ひ 神吉拓郎 季氷水ぶりきの匙の曲りたる 水原春郎 季ソーダ水待たされてゐて疑はず 鈴木栄子 季サイダー売一日海に背をむけて 波止影夫 季ラムネ店なつかしきもの立ちて飲む 鷹羽狩行 季氷店一卓のみな喪服なる 岡本眸 季禅寺の前に一軒氷店 高浜虚子 季花氷立てゝ花嫁控への間 小川純子 季くれなゐをみどりを籠めて花氷 日野草城 季花びらのあたりが窪む花氷 斉藤敬子 季亡き人の香水使ふたびに減る 岩田由美 季香水の一滴づつにかくも減る 山口波津女 季香水をつけぬ誰にも逢はぬ日も 稲畑汀子 季花茣蓙や五十の膝を母の前 細川加賀 季花茣蓙の花に影なき暮色かな 嶋田麻紀 季旅人として花茣蓙の端に座す 福永耕二 季籐椅子の家族のごとく古びけり 加藤三七子 季籐椅子が廊下にありし国敗れ 川崎展宏 季いまもなほ父在るおもひ藤寝椅子 横原律子 季雨あしに土けぶり立つ葭簀かな 福永法弘 季篁の風入れて吊る青簾 藤木倶子 季あをすだれあさひゆふひにははのかげ すずき波浪 季絵すだれの魚泳がす風の出て 佐藤和枝 季日除して世情にうとく住みてをり 湯下量園 季客を待つ船の日覆はためける 森田峠 季
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