いつの世の誰のオルガン冬座敷 辻田克巳 季
山の日の深く入り来し冬座敷 稲畑汀子 季
日当りをまづほめ合ひて冬座敷 佐治英子 季
別々に山を見てゐる冬座敷 福田甲子雄 季
冬座敷くぬぎ林の中にあり 大峯あきら 季
ベル押せば深きに応へ冬館 長谷川浪々子 季
鳥影や遠き明治の冬館 角川源義 季
冬館静寂といふ音ありぬ 広田和子 季
兵糧のごとくに書あり冬籠 後藤比奈夫 季
待つものに郵便ばかり冬籠 宮部寸七翁 季
大阪の冬の灯ともる頃へ出る 後藤夜半 季
冬構青さの残る藁ありて 林志津 季
篁の鉾ゐならべり冬構 石田波郷 季
泣けば瞳に寒燈の矢の殺到す 有馬籌子 季
仏めく母におどろく寒燈下 大野林火 季
人影は見えずどんどと雪おろす 川崎展宏 季
雪卸し能登見ゆるまで上りけり 前田普羅 季
命綱つけ本堂の雪卸し 若井新一 季
逃げたがる枝を封じて雪囲ひ 村上沙央 季
雪吊のはじめの縄を飛ばしけり 大石悦子 季
雪吊の縄雪空を引き絞る 藤木倶子 季
雪吊りをされて身動きできぬ影 高崎武義 季
仕合せの時は気付かず隙間風 岩崎美代 季
灯を消してより明らかに隙間風 小出秋光 季
すきま風身に切り傷のあるごとし 八牧美喜子 季
障子しめ古典文学聴講す 大西喜美 季
日の温み障子いよいよましろなり 星野立子 季
白障子透かして母のいのち見ゆ 石寒太 季
日記買ふ癒ゆるなき身をはげまして 朝倉和江 季
実朝の歌ちらと見ゆ日記買ふ 山口青邨 季
来し方の美しければ日記買ふ 赤松蕙子 季
火の鳥の羽毛降りくる大焚火 上田五千石 季
隆々と一流木の焚火かな 秋元不死男 季
棟梁の手筈のひとつ夕焚火 大牧広 季
父母の炉に山河を越えて子等集ふ 野見山朱鳥 季
炉にかざす父のこの手に育てられ 木附沢麦青 季
山鳴りや炉端に七味唐辛子 菅原多つを 季
一粒の涙にさとき暖炉の火 檜紀代 季
暖房や生徒の眠り浅からず 村上沙央 季
欠航やストーブ赫き島の宿 山崎ひさを 季
炬燵寝といふ極楽にゐて淋し 菅野乃里 季
脚すこし弱くなりたる炬燵出す 柴田佐知子 季
横顔を炬燵にのせて日本の母 中村草田男 季
寂寞と湯婆に足をそろへけり 渡辺水巴 季
みたくなき夢ばかりみる湯婆かな 久保田万太郎 季
湯たんぽやもう寝返りもならぬ父 木田千女 季
こと切れし母の懐炉のまだぬくし 杉山瑞恵 季
晩成を期してもみたる懐炉かな 三田きえ子 季
懐炉抱き大福餅のごとくある 内田哀而 季
火事騒ぎありし下京通りけり 福井貞子 季
赤き火事哄笑せしが今日黒し 西東三鬼 季
火事を見し昂り妻に子に隠す 福永耕二 季
竹馬の土まだつかず匂ふなり 林翔 季
竹馬やいろはにほへとちりぢりに 久保田万太郎(道芝) 季●
竹馬の高き一人に従へる 鷹羽狩行 季
探梅の橋なくて引きかへしけり 秋篠光広 季
思はざる急流とあふ探梅行 能村登四郎 季
探梅の足手まとひといふがゐし 小井戸公梨 季
たちざまにぬくみはらへり狩の犬 原裕 季
猟の沼板の如くに轟けり 阿波野青畝 季
猟男のあと寒気と殺気ともに過ぐ 森澄雄 季
冬耕のつかず離れず山鴉 櫨木優子 季
冬耕の兄がうしろの山通る 飯田龍太 季
冬耕の日あたるたびにあらはるる 飴山實 季
顔見世や口上木偶の咳ばらひ 水原秋桜子 季
顔見世のほてりをさます高瀬川 伊藤稀代子 季
顔見世を出て川風の暮れてをり 稲畑汀子 季
漉き紙のほの暗き水かさねたり 矢島渚男 季
紙漉のこの婆死ねば一人減る 大野林火 季
廃屋と思ひしが紙漉く音す 今瀬剛一 季
まぼろしの夫の背めがけ雪礫 中嶋秀子 季
靴紐をむすぶ間も来る雪つぶて 中村汀女 季
雪合戦休みてわれ等通らしむ 山口波津女 季
もう誰もゐぬ校庭の雪達磨 立花文江 季
雪達磨目を喪ひて夜となる 角川源義 季
雪兎欲りし熱の子もう眠る 久保田月鈴子 季
スキー長し改札口をとほるとき 藤後左右 季
スキー列車に乗合せたるふしあはせ 松村武雄 季
スキー帽直し後続待ちにけり 辻美奈子 季
白息をしずかに流し鶏を飼う 宇多喜代子 季
白息をかけて遺愛の眼鏡拭く 角川照子 季
いたはりの目にて白息吐くばかり 大塚邑紅 季
息白く恐れげもなく答へたる 星野立子 季
大くさめして寺裏の道をゆく 山口いさを 季
咳こぼれいづこにこもる夜居の僧 筑紫磐井 季
信心の足らぬ水洟すすり上ぐ 伊藤白潮 季
温もるは汚るるに似て風邪ごもり 岡本眸 季
壁うつす鏡に風邪の身を入るる 桂信子 季
風邪の粥遠流のごとく啜りをり 藤木倶子 季
湯ざめして恋の焉りにゐるごとし 大石悦子 季
湯ざめして酒を垂らせる李白かな 小島健 季
湯ざめせぬために三面鏡たたむ 田辺レイ 季
木の葉髪はがねの音を立にけり 川崎展宏 季
ふたたびの恋燃ゆるなり木の葉髪 加藤三七子 季
捨つるため指にきりきり木の葉髪 稲垣きくの 季
ラグビーの敗者讃へて勝者去る 竹中弘明 季
ラグビーのジャケツちぎれて闘へる 山口誓子 季
ラガーらのもつれてゐしがほどけゆく 加藤三七子 季
ふところ手して薄情も情のうち 小宅容義 季
ふりかかる火の粉に解きし懐手 柴田佐知子 季
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