ちりあくた流るるままに春の潮 久保より江 季春愁や櫛もせんなきおくれ髪 久保より江(より江句文集) 季●戀ひ負けて去りぎはの一目尾たれ猫 久保より江 季戀猫に淡き灯かげや月の窓 久保より江 季不器量の小ねこいとしや掌 久保より江 季花も待たで歸いそぐや雨の京 久保より江 季ままごとのむしろそのまま花の雨 久保より江 季こもりゐや花なき里に住み馴れて 久保より江 季この野道薊の外に花もなし 久保より江 季短夜や膝に重たき親子猫 久保より江 季紅の汗しとどなる踊りかな 久保より江 季籐椅子やあるじの留守の猫ぶとん 久保より江 季衣更へたもとに秘めし小句帳 久保より江 季ちいさなる女ばかりや衣更へ 久保より江 季湯上りの素顔よろしき浴衣かな 久保より江 季秋風にやりし子猫のたより聞く 久保より江 季さすらひの小唄もよしや秋の風 久保より江 季露の徑をゆづりおくれてあと戻り 久保より江 季別れ路やただ曼珠沙華咲くばかり 久保より江 季はつ雪やしまひ忘れし鉢のばら 久保より江 季戀猫の歸り来ぬ風邪の枕もと 久保より江 季烏猫こたつの上にあくびかな 久保より江 季枯菊になほ愛憎や紅と黄と 久保より江 季この月よをちかた人にまどかなれ 久保より江 季この寺は庭一盃の芭蕉かな 松尾芭蕉 季清滝や波に散り込む青松葉 松尾芭蕉 季雲とへだつ友かや雁のいきわかれ 松尾芭蕉 季病雁の夜寒に落ちて旅寝かな 松尾芭蕉 季雁は文字おほふや霧の韻塞 北村季吟 季妻が夢子が夢雁や渡しつつ 石塚友二 季山家集読終へて雁を聞にけり 室生犀星 季雁渡る菓子と煙草を買ひに出て 中村草田男 季紀の路にもおりず夜を行く雁ひとつ 与謝蕪村 季雁行のととのひし天の寒さかな 渡辺水巴 季旅人の雁をかぞへて日をかぞふ 山口青邨 季小波の如くに雁の遠くなる 阿部みどり女 季初雁の痩て餌をはむ磯田哉 高桑闌更 季羽音さへ聞えて寒し月の雁 松岡青蘿 季蔓もどき情はもつれやすき哉 高浜虚子 季●桑の実をつみゐてうたふこともなし 加藤楸邨 季ラグビーの巨躯いまもなほ息はずむ 山口誓子 季ちるさくら海あをければ海へちる 高屋窓秋 季ぬぐはゞや石のおましの苔の露 宗波(鹿島詣) 季膝折るやかしこまりなく鹿の声 河合曾良(鹿島詣) 季雫かと鳥もあやぶむ葡萄かな 加賀千代女 季枯れなんとせしをぶだうの盛りかな 与謝蕪村 季黒きまで紫深き葡萄かな 正岡子規 季山の日の中天に来し葡萄園 山口青邨 季勝沼や馬子も葡萄を食ひながら 松尾芭蕉 季鰯雲鯛も鮑も籠りけり 立花北枝 季鰯雲しづかに照りて家とほし 柴田白葉女 季鰯雲炎えのこるもの地の涯に 石原八束 季寺屋根の高き漁港や鰯雲 野村喜舟 季やまびこをつれてゆく屋根うろこ雲 飯田蛇笏 季鱗雲ことごとく紅とこから暮る 橋本多佳子 季絣着ていつまで老いん破芭蕉 原石鼎 季芭蕉破れ女出でゆく風の中 伊達幹生 季破芭蕉日月過ぎて何のこる 古賀まり子 季荒寺や芭蕉破れて猫もなし 正岡子規 季ばせを葉の窓をさゝせぬ月夜哉 松尾芭蕉 季したたかに雨だれ落つる芭蕉かな 内藤鳴雪 季芭蕉葉を柱にかけん庵の月 松尾芭蕉 季杉の実の葉よりも青し三輪の神 中井大夢 季杉の実や渓へ下りざる風蒼し 花田春兆 季山門の春の焚火のかぐはしく 山口青邨 季足元へいつ来たりしよ蝸牛 小林一茶 季城山の浮み上るや青嵐 正岡子規 季一番に乙鳥のくゞるちのわ哉 小林一茶 季●山茶花に雨待つこころ小柴垣 泉鏡花 季立冬の明治の声を録音され 長谷川かな女 季立冬の塵穴菊を捨てそめし 皆吉爽雨 季冬たつや此御神のことはしめ 立花北枝 季立冬やとも枯れしたる藪からし 臼田亞浪 季立冬や窓搏って透く鵯の羽根 石田波郷 季出羽人も知らぬ山見ゆ今朝の冬 河東碧梧桐 季冬来る平八郎の鯉の図に 久保田万太郎 季とする間に水にかくれつ初氷 炭太祇 季手へしたむ髪の油や初氷 炭太祇 季朽蓮や葉よりもうすき初氷 堀麦水 季鴨撃ちの通りしあとの初氷 長谷川かな女 季初氷何こぼしけん石の間 与謝蕪村 季烏賊の味忘れで帰る美保の関 高浜虚子 季●遊船を見るともなしによし戸越し 高浜虚子 季独り帰る道すがらの桐の花おち 河東碧梧桐 季秋風の急に寒しや分の茶屋 高浜虚子 季四ツ辻に残月かゝる煮酒哉 与謝蕪村 季冬の蜂おさへ掃きたる箒かな 高野素十 季冬の蜂脚長く垂れ陽に酔へり 内藤吐天 季冬蜂の尻てらてらと富士の裾 秋元不死男 季冬の蜂勢ひを玻璃にとりもどし 阿部みどり女 季野薊にぴしりぴしりと夕立来ぬ 内藤吐天 季あたたかな案山子を抱いて捨てにゆく 内藤吐天 季蕗のたうおもひおもひの夕汽笛 中村汀女 季●ふりわけて片荷は酒の小春かな 芥川龍之介 季神の井やあかねにけぶる冬木の芽 角川源義 季●秋風や白木の弓に弦張らん 向井去来 季春風や殿待うくる船かざり 炭太祇 季呼かへす鮒売見えぬあられかな 野沢凡兆 季下萌えぬ人間それに従ひぬ 星野立子 季アスファルトかがやき鯖の旬来る 岸本尚毅 季
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