くれなゐの色を見てゐる寒さかな 細見綾子 季
豆腐売けさの寒さをいひにけり 長谷川櫂 季
阿羅漢の笑ひすぎたる寒さかな 斎藤梅子 季
齢来て娶るや寒き夜の崖 佐藤鬼房 季
受験用写真の不思議な顔寒し 今井聖 季
玄関のくらささむさもそのままに 深見けん二 季
寒四郎目玉の動く木偶吊られ 後藤綾子 季
大寒の餓鬼のやうなる細喉 佐藤鬼房 季
文房具屋に昼を遊べり寒の入 岡本眸 季
寒波きぬ信濃へつゞく山河澄み 飯田蛇笏 季
鎌倉や氷つてゐたる金目鯛 岸本尚毅 季
凍るまで奥能登の滝海へ落つ 橋本美代子 季
凍つる夜のビルの壁画の未来都市 和田耕三郎 季
しばれると皆言ひ交はす夜空かな 櫂未知子 季
底冷えの島の枯井戸あれば覗き 伊藤通明 季
鯖の道冷たき手足もていそぐ 柿本多映 季
未婚にてふつとつめたき畳かな 正木ゆう子 季
大阪にすこしなじみて日短 深見けん二 季
短日の灯をともす間の筆を措く 後藤夜半 季
カステラのざらめ噛みあて日短し 高瀬哲夫 季
燈に遇ふは瀆るるごとし寒夜行く 津田清子 季
冬の夜や小鍋立して湖の魚 草間時彦 季
寒夜読むグリムの森のいや深く 上田日差子 季
年の夜の吾を消さんと硝子拭く 石田よし宏 季
文書いて徐日誰にも会ひたくなし 有働亨 季
除夜守る火紺地金泥なせりけり 加倉井秋を 季
海沿ひに虚子の伊予去る日脚伸ぶ 上崎暮潮 季
縞馬の縞のまちまち日脚伸ぶ 三浦みち子 季
日脚伸ぶ夕空紺をとりもどし 皆吉爽雨 季
詩人伝一夜いのちの冴えにけり 大串章 季
冴ゆるなり星の炎の見ゆるまで 宮津昭彦 季
冴ゆる夜の無韻につもる砂時計 徳田千鶴子 季
三寒と四温の間に雨一日 林十九楼 季
三寒に発ちて四温に戻る旅 稲畑汀子 季
納屋の軒縄の垂れゐる四温かな 棚山波朗 季
井戸水に杉の香まじる春隣 福田甲子雄 季
九十の端を忘れ春を待つ 阿部みどり女 季
玄関に縄跳びの縄春近し 皆川盤水 季
冬の日や臥して見あぐる琴の丈 野澤節子 季
大空の片隅にある冬日かな 高浜虚子 季
冬没日大きく虚子の墓にあり 石嶌岳 季
節分や昔の闇は深かりき 勝田みつ子 季
壬生を見て吉田へ詣る節分会 松崎鉄之介 季
節分の暮れて丹波の大江山 大井戸辿 季
寒晴やあはれ舞妓の背の高き 飯島晴子 季
冬晴れて那須野は雲の湧くところ 渡辺水巴 季
手の届く島へ渡舟や冬うらら 大木さつき 季
冬空や猫塀づたひどこへもゆける 波多野爽波 季
追悼号冬空色に刷り上る 奈良文夫 季
虫の眼の億とあつまり冬青空 高野ムツオ 季
冬の雲なほ捨てきれぬこころざし 鷲谷七菜子 季
寒雲の燃え尽しては峡を出づ 馬場移公子 季
一番と言はず一号木枯吹く 右城暮石 季
耳鳴りの果て木枯となりにけり 石嶌岳 季
凩一号ぶつかりあひて子等帰る 今瀬剛一 季
傾きてオリオンは夜の凧 正木浩一 季
寒すばる童話も言葉惜しみあり 中根美保 季
寒昴身のすきとほるほどひとり 椿文恵 季
寒星にまたたき倣ひ眼澄む 岡田貞峰 季
一寒星ゆらめき明日の弔辞書く 林十九楼 季
寒星のきらりきらりと剥落す 市川千晶 季
冬星を弾丸となし未成年 高野ムツオ 季
冬星の降るかな近江今津の灯 三浦亜紀子 季
冬銀河かくもしづかに子の宿る 仙田洋子 季
逢ひたさのつのりて銀河凍つるかな 藺草慶子 季
伊那谷の冬満月の白さかな 佐川広治 季
襖絵の山を開きて寒月夜 松本ヤチヨ 季
うちあげて津の町急ぐ冬の月 中村吉右衛門 季
初しぐれ野道はすぐに山の道 落合水尾 季
大原女の眉は山の香初しぐれ 渡辺恭子 季
しぐるると言ひて厠の灯を消せり 高瀬哲夫 季
白味噌の椀の洛中しぐれけり 大屋達治 季
曼陀羅の地獄極楽しぐれたり 細見綾子 季
朱唇仏湖北しぐれてゐたりけり 福島勲 季
時雨村大字時雨字日差 渡辺鮎太 季
伊吹いま時雨の東下りかな 上野一孝 季
雷つれて富士の時雨の大粒に 松崎鉄之介 季
救急車香ものこさずに北風を去る 宮津昭彦 季
北風に押しまくられてこれでも父 辻田克巳 季
北風のほかわれに蹤きくるもののなし 檜紀代 季
もがり笛風の又三郎やあーい 上田五千石 季
虎落笛いつの世よりの太き梁 廣瀬町子 季
虎落笛めつむりをればひと昔 櫛原希伊子 季
ふるさとの闇より来たる虎落笛 柴田佐知子 季
初雪にして一尺になることも 三村純也 季
初雪に日のゆきわたる雑木山 行方寅次郎 季
初雪に日のゆきわたる雑木山 行方寅次郎 季
初雪の頬寄せ合って不思議かな 佐怒賀正美 季
建前の木やりが呼びし初雪か 永井東門居 季
うしろより初雪降れり夜の町 前田普羅 季
雪の夜の短波放送より羽音 高野ムツオ 季
まだもののかたちに雪の積もりをり 片山由美子 季
長命寺裏の雪の日歩きけり 星野麥丘人 季
雪降るとラジオが告げてゐる酒場 清水哲男 季
雪霏ゝと舷梯のぼる眸ぬれたり 横山白虹 季
動くもの卑しく雪の関ヶ原 鈴木六林男 季
街に雪この純白のいづこより 橋本榮治 季
限りなく降る雪何をもたらすや 西東三鬼 季
深雪晴大きな枕干されけり 日原傳 季
埋めたての水子を掘りに雪をんな 木内彰志 季
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