松尾芭蕉 ●
物いへば唇寒し秋の風 季●行く春を近江の人と惜しみける 季 (猿蓑)●木曽の痩せもまだなほらぬに後の月 季嫁はつらき茄子枯るるや豆名月 季旅人と我名よばれん初しぐれ 季 (笈の小文)●朝顔は酒盛知らぬさかりかな 季蕎麦はまだ花でもてなす山路かな 季三尺の山も嵐の木の葉哉 季香を探る梅に蔵見る軒端かな 季海くれて鴨の声ほのかに白し 季升買て分別かはる月見かな 季●春立ちてまだ九日の野山かな 季酒のみに語らんかゝる瀧の花 季しばらくは瀧に籠るや夏の初め 季笠島はいづこ五月のぬかり道 季鷹一つ見つけてうれし伊良古崎 季 (笈の小文)面白うてやがて悲しき鵜舟かな 季真福田が袴よそふかつくづくし 季盃に泥な落しそむら燕 季父母のしきりに恋ひし雉子の声 季 (笈の小文)風薫る羽織は襟もつくろはず 季竹の子や幼き時の絵すさび 季卯花も母なき宿ぞ冷じき 季鰹売いかなる人を酔はすらん 季掬ぶよりはや歯にひゞく泉かな 季酔うて寝むなでしこ咲ける石の上 季清滝の水汲ませてやところてん 季降音や耳もすふ成梅の雨 季憂き人の旅にも習へ木曾の蠅 季我宿は蚊のちいさきを馳走かな 季 (泊船集)風の香も南に近し最上川 季はりぬきの猫もしる也今朝の秋 季道のべの木槿は馬に食はれけり 季霧しぐれ富士をみぬ日ぞ面白き 季蓬莱に聞ばや伊勢の初だより 季 (炭俵)●辛崎の松は花より朧にて 季 (野ざらし紀行)●この寺は庭一盃の芭蕉かな 季清滝や波に散り込む青松葉 季雲とへだつ友かや雁のいきわかれ 季病雁の夜寒に落ちて旅寝かな 季勝沼や馬子も葡萄を食ひながら 季ばせを葉の窓をさゝせぬ月夜哉 季芭蕉葉を柱にかけん庵の月 季星崎の闇を見よとや啼千鳥 季菊の花咲くや石屋の石の間 季●菊の後大根の外更になし 季鞍壺に小坊主乗るや大根引 季一里はみな花守の子孫かや 季●年くれぬ笠着て草鞋はきながら 季分別の底たゝきけり年の暮 季ぬす人にあふた夜もあり年の暮 季草の戸や日暮れてくれし菊の酒 季●世の中はさらに宗祇の宿りかな 季有難き姿拝まんかきつばた 季山は猫ねぶりていくや雪のひま 季白菊や目に立てて見る塵もなし 季鎖あけて月さし入よ浮み堂 季朝顔に我は飯食う男哉 季 (虚栗)●鶯や餅に糞する縁の先 季無き人の小袖も今や土用干 季春なれや名もなき山の朝がすみ 季 (野ざらし紀行)●風かをる越の白嶺を國の華 季●ほととぎす鳴く音や古き硯箱 季清瀧や波に塵なき夏の月 季白菊の目に立てて見る塵もなし 季海士の家は小海老にまじるいとど哉 季当帰より哀は塚のすみれ草 季此道に出て凉しさよ松の月 季●猫の恋止むとき閨の朧月 季咲く花にかき出す縁のかたぶきて 季咲く花に小さき門を出つ入りつ 季浅茅生におもしろげつく伏見脇 季腫ものに柳のさはるしなひ哉 季雪の日に兎の皮の髭つくれ 季鞍壺に小坊主のるや大根引 季くわんをんのいらか見やりつ花の雲 季 (末若葉)●梅白しきのふや鶴を盗まれし 季草臥れて宿借るころや藤の花 季樫の木の花にかまわぬ姿かな 季葛の葉の面見せけり今朝の霜 季秋の風伊勢の墓原猶すごし 季鎖あけて月さし入れよ浮御堂 季東西のあはれさひとつ秋の風 季鐘撞かぬ里は何をか春の暮 季秋に添うて行かばや末は小松川 季 (陸奥鵆)●粽結ふ片手にはさむ額髪 季紫陽花や帷子時の薄淺黄 季御命講や油のような酒五升 季猫の妻へついの崩れより通ひけり 季めづらしや山を出羽の初茄子 季先たのむ椎の木もあり夏木立 季夕晴や桜に涼む浪の花 季石山の石にたばしる霰かな 季びいと啼く尻声悲し夜の鹿 季●日にかかる雲やしばしの渡鳥 季行く秋のなほ頼もしや青蜜柑 季蓑虫の音を聞きに来よ草の庵 季菊の香や庭に切たる履の底 季ひよろひよろと猶露けしや女郎花 季硯かと拾ふやくぼき石の露 季
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