いつからの一匹なるや水馬 右城暮石 季散歩圏伸ばして河鹿鳴くところ 右城暮石 季憂いあり新酒の酔に托すべく 夏目漱石 季蔵の戸にくくりし菊や新酒出づ 橋本鶏二 季旅人となりにけるより新酒かな 椎本才麿 季よく飲まば価はとらじ今年酒 炭太祇 季晩稲田に音のかそけき夜の雨 五十崎古郷 季穀象といふ虫をりて妻泣かす 山口波津女 季金魚夜を如何に過すや人は寝る 山口波津女 季死ぬ蝶は波にとまりぬ十三夜 永田耕衣 季白梅や天没地没虚空没 永田耕衣 季かたつむりつるめば肉の食い入るや 永田耕衣 季枯草の大孤独居士此処に居る 永田耕衣 季探梅のこころもとなき人数かな 後藤夜半 季探梅やみささぎどころたもとほり 阿波野青畝 季探梅や枝のさきなる梅の花 高野素十 季探梅の人が覗きて井は古りぬ 前田普羅 季梅を探りて病める老尼に二三言 高浜虚子 季香を探る梅に蔵見る軒端かな 松尾芭蕉 季探梅や遠き昔の汽車に乗り 山口誓子 季いつせいに柱の燃ゆる都かな 三橋敏雄 季かもめ来よ天金の書をひらくたび 三橋敏雄 季戦争と畳の上の団扇かな 三橋敏雄 季戦争が廊下の奥に立つてゐた 渡辺白泉 季銃後といふ不思議な町を丘で見た 渡辺白泉 季鶏たちにカンナは見えぬかもしれぬ 渡辺白泉 季街燈は夜霧にぬれるためにある 渡辺白泉 季玉音を理解せし者前に出よ 渡辺白泉 季檜葉の根に赤き日のさす冬至哉 渡辺白泉 季いなびかり生涯峡を出ず住むか 馬場移公子 季春眠の身の閂を皆外し 上野泰 季ふらここの宙を二つに割り遊ぶ 上野泰 季オルガンに繪硝子の夏日灯と紛ふ 殿村菟絲子 季鯛の骨たたみにひらふ夜寒かな 室生犀星 季夏の日の匹婦の腹に生まれけり 室生犀星 季かなかなや師弟の道も恋に似る 瀧春一 季あの世へも顔出しにゆく大昼寝 瀧春一 季鴨渡る明らかにまた明らかに 高野素十 季鴨の足は流れもあへぬもみぢかな 西山宗因 季打入りて先づあそぶなり池の鴨 立花北枝 季海くれて鴨の声ほのかに白し 松尾芭蕉 季明方や城をとりまく鴨の声 森川許六 季水底を見て来た顔の小鴨かな 内藤丈草 季升買て分別かはる月見かな 松尾芭蕉 季●泉の底に一本の匙夏了る 飯島晴子 季螢の夜老い放題に老いんとす 飯島晴子 季天網は冬の菫の匂かな 飯島晴子 季うすらひは深山へかへる花の如 藤田湘子 季筍や雨粒ひとつふたつ百 藤田湘子 季揚羽より速し吉野の女学生 藤田湘子 季天山の夕空も見ず鷹老いぬ 藤田湘子 季湯豆腐や死後に褒められようと思ふ 藤田湘子 季春昼の指とどまれば琴も止む 野澤節子 季木瓜咲くや漱石拙を守るべく 夏目漱石 季金魚玉とり落しなば鋪道の花 波多野爽波 季炬燵出て歩いてゆけば嵐山 波多野爽波 季骰子の一の目赤し春の山 波多野爽波 季鳥の巣に鳥が入つてゆくところ 波多野爽波 季あかあかと屏風の裾の忘れもの 波多野爽波 季天上もさびしからんに燕子花 鈴木六林男 季遺品あり岩波文庫「阿部一族」 鈴木六林男 季鵙の声かんにん袋破れたか 小林一茶 季森に来れば森に人あり小六月 徳田秋声 季美しき布団に病みて死ぬ気なく 森田愛子 季雪国の深き庇や寝待月 森田愛子 季このわたが好きで勝気で病身で 森田愛子 季化粧して病みこもりおり春の雪 森田愛子 季家々や菜の花いろの灯をともし 木下夕爾 季三田二丁目の秋ゆうぐれの赤電話 楠本憲吉 季大学も葵祭のきのふけふ 田中裕明 季今年竹指につめたし雲流る 田中裕明 季雪舟は多くのこらず秋蛍 田中裕明 季初雪の二十六萬色を知る 田中裕明 季小鳥来るここに静かな場所がある 田中裕明 季空へゆく階段のなし稲の花 田中裕明 季詩の神のやはらかな指秋の水 田中裕明 季糸瓜棚この世のことのよく見ゆる 田中裕明 季悉く全集にあり衣被 田中裕明 季月入るや人を探しに行くやうに 森賀まり 季籾殻のけぶり冷たき人のそば 森賀まり 季洗ひ鯉日は浅草へ廻りけり 増田龍雨 季流れゆく椿は曲り失せにけり 松本たかし 季暁の雨を日に吐く椿かな 小西来山 季ゆらぎ見ゆ百の椿が三百に 高浜虚子 季老いながら椿となつて踊りけり 三橋鷹女 季ぬくうてあるけば椿ぽたぽた 種田山頭火 季山椿小鳥が二つかくれたり 臼田亞浪 季網干場すたれてつもる落椿 水原秋桜子 季うらがへる亀思ふべし鳴けるなり 石川桂郎 季うつし世のものとしもなし冬桜 鈴木花蓑 季流し雛堰落つるとき立ちにけり 鈴木花蓑 季団栗の葎に落ちてくぐる音 鈴木花蓑 季囀のこぼれて水にうつりけり 鈴木花蓑 季薔薇色の暈して日あり浮氷 鈴木花蓑 季春風の日本に源氏物語 京極杞陽 季秋風の日本に平家物語 京極杞陽 季美しく木の芽の如くつつましく 京極杞陽 季詩の如くちらりと人の炉辺に泣く 京極杞陽 季妻いつもわれに幼し吹雪く夜も 京極杞陽 季わが知れる阿鼻叫喚や震災忌 京極杞陽 季
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